6 / 23
5
しおりを挟む「誰か来ても絶対にドアを開けるなよ。俺が帰る時は先に連絡するから」
玄関に入ると、まるで七匹の子ヤギのお母さんのように私へ言い聞かせる成瀬君。
注意してくれてるのに髪の濡れた成瀬君を見ていたら、水も滴るいい男とは正にこのことだなぁ、と不謹慎にも考えてしまった。
「それじゃ桜井、また明日」
「え? 濡れたまま行くの? 風邪ひくよ」
「まあ、大丈夫だろ」
私に背を向けて、成瀬君がドアに手を伸ばす。
ダメだよ、風邪ひいて火曜日のプレゼン失敗したらどうするの?
成瀬君は努力する姿を人に見せないけれど、私は日々の進捗状況を知っているからこのプレゼンのために成瀬君が陰でどれだけ頑張ってきたのか分かっている。
私が風邪をひかせて、成瀬君の努力を無にするわけにはいかない。
「大丈夫じゃないよ」
成瀬君の手首を掴んで引き止める。
こちらを見た成瀬君が、一瞬目を見開いた。
「あ……」
口元を手で押さえ、みるみるうちに顔が真っ赤になっていく成瀬君。
ブンッと音が聞こえそうな勢いで私から顔をそむけた。
「っ、とりあえず、桜井の着替えを用意しないとだな」
玄関に靴を脱ぎ散らかしたまま家にあがった成瀬君は、急いだ様子で廊下を走っていく。
なぜ、とりあえず私の着替え??
目線を下げて、先ほど成瀬君の視線が向けられた辺りを見た。
雨に濡れたシャツがぺっとりと胸にくっついている。
ひぁ、下着が透けてる!?
バスタオルを手にして戻ってきた成瀬君が、私の肩からそれをかけてくれた。
ふかふかなバスタオルからは、なんだか石鹸のようないい匂いがしてくる。
「風呂入れたから、お湯が溜まるまでもう少し待ってて」
リビングに案内され成瀬君が淹れてくれたミルクティーを飲んでいると、お風呂の準備が整ったことを知らせる電子音が流れた。
「これ、着替えに使って」
成瀬君が私にTシャツとハーフパンツを渡してくれる。
下着はもちろん無かった。
でもいま穿いているパンツは、雨が滲みて濡れてしまっている。
うーん……下着を何もつけずに着てしまってもいいのかな?
濡れたパンツを穿くわけにもいかないし……。
ごめんね成瀬君。洗濯してきれいにしてから返すから直に穿くね。
「リビング出て廊下のつきあたり、右側のドアが風呂だから」
「あ、成瀬君、お風呂お先にどうぞ」
「いや、先に桜井だろ。髪も濡れてるし」
成瀬君に髪を一房すくわれて、お風呂に入る前なのに身体から湯気が出そうになった。
「いやいやいやいや、成瀬君からどうぞ」
「それなら……」
成瀬君が悪戯っ子のような表情をして、私の顔を覗き込んだ。
「一緒に入るか、桜井?」
これ以上開かないくらい目を見開いてしまう。
まるで全身が沸騰したみたいに熱くなった。
顔はおそらく完熟トマトのように真っ赤だったに違いない。
「ヤベ、かわ……」
口元を手で押さえた成瀬君が、もう一方の手で私の肩を軽く押した。
「一緒に入るなんて冗談だよ。ほら、これ以上セクハラされたくなかったら早く入ってこい」
もうッ、揶揄わないでよ、成瀬君!
「ふわぁぁ、きもちいい……」
湯船に入るのなんて久しぶり。
しかもジャグジー付きなんて。
バスルームも広いし、なんて優雅なバスタイム。
ああ、気持ちいい、極楽…………
――あれ?
気がついたら、裸にTシャツ一枚でベッドにいた。
33
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました
藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。
そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。
ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。
その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。
仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。
会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。
これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
再会した御曹司は 最愛の秘書を独占溺愛する
猫とろ
恋愛
あらすじ
青樹紗凪(あおきさな)二十五歳。大手美容院『akai』クリニックの秘書という仕事にやりがいを感じていたが、赤井社長から大人の関係を求められて紗凪は断る。
しかしあらぬ噂を立てられ『akai』を退社。
次の仕事を探すものの、うまく行かず悩む日々。
そんなとき。知り合いのお爺さんから秘書の仕事を紹介され、二つ返事で飛びつく紗凪。
その仕事場なんと大手老舗化粧品会社『キセイ堂』 しかもかつて紗凪の同級生で、罰ゲームで告白してきた黄瀬薫(きせかおる)がいた。
しかも黄瀬薫は若き社長になっており、その黄瀬社長の秘書に紗凪は再就職することになった。
お互いの過去は触れず、ビジネスライクに勤める紗凪だが、黄瀬社長は紗凪を忘れてないようで!?
社長×秘書×お仕事も頑張る✨
溺愛じれじれ物語りです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる