私との子を授かれば殿下は側室を持てるので妊娠したフリをしたら、溺愛されていたことを知りました

弓はあと

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ラブコメ短編バージョン(※長編版とは展開が異なります)

褒める



「タジェロンなのか……?」

 殿下……?

「タジェロンは優秀な男だ。口は悪いが性格は良いし。ミーネはタジェロンのどんなところが、素晴らしいと思う?」

 タジェロン様の、素晴らしいところ……?

 普段はすごく毒舌なタジェロン様。
 だけど小さなことによく気がついて、人の長所を褒めることもできる方。
 そのギャップが良いと言っているご令嬢もたくさんいた。

 私も一度だけ勉強を教えてもらった時、答えに至るまでの過程もよく見てくれて、正解した場合だけではなく着眼点とかも褒めていただいて嬉しかったのを憶えている。

 教会や孤児院への寄付を募る慈善事業のために私がクッキーを焼く時も、毎回味の感想を述べてくれて美味しいと褒めてくださるし。

「観察眼が鋭く、人のことをよく見て褒めることができるところでしょうか」
「俺も、ミーネの事はよく見ているよ」
「殿下は私の性格をよく褒めてくださいますね」

 ありがとうミーネはやさしいね、と私が殿下のために何かをするといつも褒めてくださるので、嬉しいです。

「それだけでは足りなかったのか? 人のことをよく見て……か。ミーネは外見を褒められても、嬉しかったりするのだろうか?」

 大好きな殿下に言っていただけるのなら、たとえお世辞であっても……

「可愛いとか言われたりしたら、もちろん嬉しいです」
「そう、か……」

 シュル、と小さな音がした。
 ハラリと何かが落ちた気配がする。

「え……?」

 嫌な予感がして下を見た。
 先ほどまで身につけていたはずの服が、腰のところでただの布になっているのは、なぜ?
 信じられないことに、胸が空気に晒されている。

「ゃ!?」

 慌てて背中を丸め、自分の身体を抱きしめるように腕をまわして胸を隠す。

 今夜私が身につけている閨の服は、一枚の大きな布を身体に巻きつけて肩のところで結んだもの。

 殿下と結婚してから、夜のために用意される服は実用性よりも脱ぎ易さが優先されている気がする。
 だから朝起きると、いつの間にか乱れてしまっていることも。
 けれど今は、そういった不可抗力で起きた事では無い。

 殿下に、脱がされた……!?

 良かった、殿下がうしろにいて。
 胸は、見られずに済んだはず。
 夫婦だから胸を見せるのは普通かもしれないけれど、やっぱり恥ずかしい。

 そう思っていたら、つ――っと背骨をなぞられた。

「ひぁっ」

 ゾクリと身体が震え、胸の前で腕をクロスさせたまま、丸めていた背中をグッと反らしてしまう。

 ふ、と殿下が小さく笑った。

「可愛い。ミーネがこんなに敏感だなんて知らなかった」
「殿、下……?」

 私が想定していた可愛いとは、なんだか違う気がする。
 恥ずかしくて、顔が、熱い。

「ミーネは背中も、透きとおるような白い肌で、綺麗だ」

 や、背中なんて褒めないで、殿下。
 殿下に見られていると思うと、恥ずかしくてたまらない。

 ふわりとうしろから殿下に抱きしめられた。

「可愛い。ミーネの肩は俺と違って華奢で、強く掴んだら壊れてしまいそうだな。儚げで可愛い」

 殿下に可愛いと言われるたびに、身体の温度が上がっていく気がするのは気のせい?

「耳朶にある小さな薄いホクロ。控えめでなんて可愛いんだ」

 殿下、褒めるポイントが、ずれてますっ
 しかもどれだけ近くで、私の耳を見ているのですか!?

「可愛い、ミーネのすべてが可愛い」

 耳元で、甘い声で囁かないでっっ
 くすぐ、ったくて……も、ぅ……

「殿下、うしろから抱きしめるのは、やめてください……」

 近すぎて、ドキドキしすぎて、心臓がつらいから。

「そうか……すまなかった」
「ひゃ!?」

 クルリと身体が反転して、ポスッと背中に柔らかい感触。
 お尻をついて転んだような姿勢に驚いて、思わずベッドに両手をついてしまった。
 すると私の手にすぐに重ねられた殿下の手。

 先ほどまで本を読む時に使っていた、クッションを背にしている。
 そして正面に、殿下。

 殿下……?

 殿下と視線が合わない。
 私の目よりも下の方に向けられた殿下の視線。
 まるで珍しい蝶を見つけた少年のように、殿下の瞳が大きく開かれ輝いているような。
 ゴクリ、と殿下の喉が鳴った。
 
 殿、下……?

「ミーネ、きれいな胸だ……」

 むむむむむね!?

 咄嗟に手で隠そうとしたけれど、重ねられた殿下の手にぎゅっと力が入って動けない。

「殿下っ、胸なんて、褒めないでください!」
「タジェロンにも褒められ、愛でられているんだろう?」
「タジェロン様に、胸なんて見せたことありませんっ!」

 ようやく殿下と視線が合う。
 熱があるような潤んだ瞳。頬も少し赤い。

「タジェロンでも、無い? では誰なんだ、ミーネ……」

 そう呟いた殿下は、私の胸にゆっくりと顔をうずめていった。





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