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1.学園入学編
剣聖の孫
しおりを挟む……成人の儀
それは大人になるための儀式ではなく、自分自身に才能があるかどうかを確認する行事である。
確認する才能は二つ。
……剣士の才能。
……魔法士の才能。
この二つの能力の才能を成人の儀によって確かめるのだ。
才能にもランクがあり、《下級》、《中級》、《上級》、《 極 》、その中でも最高のランクが《幻級》というものだ。
歴史上、剣士か魔法士のどちらかが幻級であった人物は二人しかいない。
───【剣聖】『キルメル・ホロリア』
その強さはまさにバケモノ。少し剣を下に降ろすだけで大地が割れたらしい。
剣の道を目指す者なら誰もが憧れ誰もが目標とする人物だ。
───【賢者】『ミッシェル・アルメスト』
その容姿は世界一の美女とされており、強さも剣聖と互角以上なのではないかと云われた伝説の魔法士。
今現在も健在しており、その妖艶な美貌は昔と変わらないといわれている。
そして僕、『ミルミ・ホロリア』は今日をもって14歳となる。つまり成人の儀を受ける年齢となったわけだ。
待ちに待った成人の儀までの時間が刻々と迫っている。
楽しみすぎで心が高鳴り早鐘を打っているのが手を添えただけでもわかる。それほどまでにワクワクしているのだ。
だけど少し不安もある。
その不安はもし剣士の才能が《下級》だったらとその想像からくるものだ。
【剣聖】を祖父にもつホロリア家の長男としてここはなんとしてでも剣士の才能を《中級》以上は持っておきたい。
「まあ、下級だったとしても努力でなんとかするしかない…かな」
そう、いままでそうやってあらゆる試練を乗り越えて来たのだ。
ホロリア家は生粋の剣士家系であり、それは古から何一つ変わっていない。
あまり周りからは認知されていなかったみたいだが、剣聖を輩出したときにホロリア家は手のひら返しかのように周りから注目を浴びた。
別に注目を浴びたくなかったわけじゃない、逆に剣聖に感謝しているくらいだ。
そんな英雄の血族ホロリア家であったが、剣聖の息子、つまり僕のお父さんはそのおかげで地獄のような人生を送ることになってしまった。
その原因は〝周りからの期待〟であった。
英雄の息子とあらば世間からはあらゆる期待をされ、剣聖の後継者などと有望視していたらしい。
しかし残酷なことに父さんは剣士の才能がなかった。
最初こそ希望や尊敬の眼差しを向けられていたものの後々明かされたその実力に誰もが失望や軽蔑をした。
そして味方であるはずの剣聖は匿うことなくより地獄のような訓練を追加した。
父さんは何度も死にかけ何度も泣きじゃくったらしい。
もう可哀想なんてもんじゃない。
〝英雄〟その言葉は決して誰もが幸せになるものではない。
その後、父さんは僕が産まれた数年後に死んだ。
剣聖は父さんが死んだと聞いたときに初めて後悔したらしい。
だけどもう遅い、父さんは死んでしまった。
剣聖はその後表舞台から引退し、静かに暮らすといい一部の人間だけに自身の居場所を教えて、消息を絶った。
父さんを殺した剣聖を僕は恨んではいない。なぜなら剣聖と触れ合い剣を教えてもらったからだ。
父さんの話を聞いたとき、僕は確かに剣聖を恨んだ。
面会が決まってからは殺してやろうとも思った。
だけど実際会ってみると聞いた話と全然違った。
とても優しくていい人だった。
おそらく父さんを死に至らしめた罪悪感からあの優しさが出ているのだろう。
そこから僕は剣聖を好きになり、一緒に出かけたり、一緒に話したり、剣を教わったりもした。
剣も地獄のような教えではなく優しく教えてくれた。
最後には気にせず伸び伸びと剣を知ればいいと言ってくれた。
その言葉は過去の過ちをもう一度繰り返させないために言ったのだろう。
剣聖のお陰か周りからの重圧は一切なく、剣聖から剣を教わってからずっと剣が好きだ。
僕に剣を教えてくれた剣聖には感謝をしている。
だって、こんなに楽しくてワクワクで上達すればするほど嬉しくなっちゃうような最高の自分を知れたのだから。
「これから成人の儀に行ってくるよ。もしかしたら僕には剣の才能がないかも知れない。だけど今までのおじいちゃんが与えてくれた力と根性でなんとしてでも乗り越えてみせるよ」
窓の向こうには雲ひとつない晴天で、曇りのない太陽が青い空を綺麗に照らしていた。
「ちゃんと見守っててね、おじいちゃん。」
胸に手を当てながら誰もいないその静かな部屋でポツリと独り言を呟いた。
☆
「ミルミ?準備はいい?」
「はい、母さん」
肩まですらりと伸びた黒髪と、整いに整った顔が心配したその不安な表情すら綺麗に見え、なぜかわからないけどお高い金色のドレスを着ている。
「あなたが成人の儀を受ける歳になったと思うとママ寂しいわぁ」
母さんはハンカチの端を涙袋に当てながらシクシクと悲しそうに寂しい寂しいと連呼している。
「母さん別に泣くことでもなんでもないと思うんだけど……」
「もうっ!そんなこと言ったらダメなんですぅ!!雰囲気があるでしょ?雰囲気がっ!はぁ、ママ悲しいわ。ミルミが空気の読めない子に育ったと思うと…」
「なんか怒るところがおかしいというか、なんで怒られているのかがわからないというか…」
母さんは頬を膨らまして、むーっ、と怒り顔(?)をする。
というかもし母親でなかったら好きになっていたかも知れないほどに可愛い。
「まぁいいわっ、とにかく早く行きましょ!」
「いやぁ、母さんが…」
「なぁにぃ?」
「ナンデモアリマセン」
表情は笑っているのに目が全く笑ってない。
それから僕は母さんと一緒に成人の儀が行われる場所まで引きずられるように移動した。
☆
そこは小さな部屋。
少し薄暗く、悶々と靡くロウソクの火が何十本といたるところに置いてある。
そして真ん中には水晶が小さな座布団の上に置かれており、その透き通るような透明はその奥の扉までも見えるほどに透き通っている。
「ようこそおいでくださいました。ミルミ様、スグハ様」
部屋の端にいたローブを羽織った中年の男性がこちらに歩み寄り挨拶をしてくる。
それに僕と母さんは軽く会釈する。
おそらくというか僕と母さんとこの男の人しかいないためわかるが、この人は鑑定士なのだろう。
鑑定士は水晶に映し出された細かな変動を読み取り、相手側の才能ランクを見る役職だ。
そしてあまり数は多くなく、平民であれば呼べないところもあるのだそうだ。
「ではミルミ様、こちらに…」
僕は鑑定士に手招きされると、水晶の前に凛と立つ。
「それではミルミ様、手のひらを水晶にかざしてください」
「わかりました」
僕は言われた通りに水晶に自分の手をかざす。
それと同時に鑑定士が黙りになり、それから数分経つと───
「なっ!?こ、これは……」
「どうしたのですかっ!!」
母さんが割り込むように声を荒げる。
おそらく鑑定士の異変に焦ったのだろう。
この鑑定士は僕たちの家事情を知っている。つまりこの反応からするに悪い結果が生まれた可能性が高い。
同じことを母さんも思ったのか、心配して鑑定士に声を荒げたのだろう。
「た、大変申し上げにくいのですが…」
鑑定士は驚きに目を見開き少し震えている。
「構いません、結果がどうであれそれが真実ですし、どんなに悪い結果でも僕たちはあなたに対して何もしませんから。心配せずありのままおっしゃってください」
安心させるように呼びかけたのだが鑑定士は未だ震えている。
どういうことなのだろうか、僕はてっきり悪い結果が出てお咎めがあるかも知れないと怯えていたと思っていたのだが、違うのか?
「大丈夫ですよ、この子も覚悟してここに来ました。だからこそ嘘偽りなく遠慮なく言っていただいて構いません」
母さんは鑑定士の目を見据えるようにし、鑑定士の答えを言うように促した。
「ミ、ミルミ様の剣士の才能は《 極 》であります」
「そ、それは本当ですか!?」
「……はい」
それを耳に入れた途端母さんが勢いよく抱きつく。
「やったよっ、母さん」
「ほんっとうに良かったっ!もう、あなたにまであの道に行かせるわけにはいかなかったけれどこれで安心ねっ!」
母さんは少し涙ぐみながら良かった良かったと抱きつき腕を強める。
多分あの道とは父さんのことなのだろう。俺にも同じような道を歩ませたくなくて、心配してくれてたんだ。
ここまで思ってくれる人が身近にいるなんて本当に僕は恵まれているなぁ。
「そ、そして魔法士の才能なんですが…」
「?」
どうしたのだろう、鑑定士は未だビクビクと身体を震わせている。
すでに剣士の《 極 》を伝えたのだからもう大丈夫なはずなのだが……
「ミ、ミルミ様の魔法士の才能は《幻級》でございます!!!」
「「────!?」」
そしてこの結果により僕の人生の歯車が誰も知らぬ間にゆっくりと動き出したのだった。
そこにあるのは幸せか地獄か、はたまた別の何かか。だがそれは未だ誰も分からない。
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