最強の剣聖を祖父にもつ孫が最強の魔法士だった件。

松川よづく

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1.学園入学編

許されない再戦の願い

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「そこまで!これにて入学試験は終了する。勝った方は学院に残り、負けた方は今すぐにここから出ていくように」

壮絶な入学試験の終了の合図が試験官の男によって宣言された。

その瞬間少しばかりの疲労と虚無感が湧き上がる。だが疲労感とは別に空しさというか寂しい感情が少なからず芽生えていた。

それほど長くはなかったが、あの白髪の少年との戦いは僕にとっては濃厚な時間であった。
それからというもの僕の頭の中はあの戦いが何度も何度もフラッシュバックしていた。

おそらくもっと剣を合わせてみたいのだろう。
だがそれは叶うことのない願い。
頭で分かっていても心がもう一度戦いたいと訴えかけてくる。

「もっと別のやり方がなかったのかな…」

筆記や課題などの試験であればもう一度あの白髪の少年と戦えたかもしれない。
だけどせっかく入学できる権利を得たのだ。それを私利私欲のために明け渡すわけにはいかない。これは決して僕だけの問題ではないからだ。

僕は仕方ないと心の中で言い訳する。


そして試験官が辺りを見渡した後、クルリと身体を反転させ歩き出した。
これからどうすればと思っていた矢先、一人の呼び止める声がここ一帯に轟く。


「待ちやがれっ!!」


周りの視線がその少年一点に集まる。
試験官はピタリと足を止め、再び僕らに向き直ると声の持ち主である一人の少年に近寄った。

「もう一回やらせろ!」
「却下する」

一瞬の返し。まさに即答。
だがその回答に納得のいかなかった少年は問い詰めるようにもう一度試験官に詰め寄る。

「何故だ!!!!」

「これは規則だ。入学希望者、ましてや敗北した一弱者に貸す耳などこちらには持ち合わせていない」
「違う!違う違う違う!!」

少年は大きく首を横に振る。
その場にいた入学希望者たちは彼の自己中心的な行動に鋭い視線を向けていた。

それもそうだ、もう一度やり直したい。それは敗北してしまった入学希望者全員が思っていることだ。
そして再戦することは禁止。それがルールだと、規則だから仕方がないと、皆受け止め誰もが諦めているのだ。

だがそのルールを破り、試験官に再戦を求む者を誰が良い目で見るであろうか。

「こいつはきっとズルをしたんだ!じゃなけゃ、じゃなけゃ剣士ランク《上級》であるこの俺が負けるはずがない!」
「ほおぅ?」

指を指されたのは青髪ショートのメガネをかけた少女。その清楚な見た目からはズルをしそうな感じはしない。
本人もまさか巻き込まれるとは思っていなかったのか、『ひゃいっ!?』と可愛げな悲鳴を漏らしていた。

そこからも少年は懲りることなく『こいつはズルをしたんだ!』と何回も連呼し詰め寄り試験官に訴える。

「なるほど、分かった」
「……!?」

少年は目を見開くと、ニヤリと不気味な笑みで口元を吊り上げた。

「ふはははっ、そうだぁ、そうだよ!!俺が負けるはずない、有り得ないんだよぉ!!」

僕はそれを聞いて少し不快になった。
〝ズル〟確かにそれは卑怯なことかもしれない。だけど不正をしているわけではない。

ズルと不正は違う。
それ以前にズルも実力の一つだと思う。それにズルをされてもそれを上回る力をつければいい話だ。

彼は自身の力不足を無意識に理解している。
だけど認めたくなくて再戦などと馬鹿げたことを試験官に申し込んだのだ。


「では今すぐに帰宅の手配をしてやろう」
「はぁ?俺が求めてんのはこの卑怯者ともう一度戦わせろと言ってんだ!さっきてめぇも認めただろうが!」
「お前は一体何を言っている」
「あぁ?」

「別に俺は再戦することを容認していない。お前が勝手に都合のいいように解釈しただけだ」
「なんだとてめぇ…」

「言葉遣いに気をつけろ。大体お前の発言にはどこにも根拠がない」
「あっそぉ、証拠があればいいんだな?」
「あくまであればの話だが」
「だったらあるぜ?」
「それは一体なんだ?」

「俺自身だ!!!」

試験官は一瞬瞳を閉じると、首を小さく横に振る。

「却下だ。話にならん」
「ふざけんなぁ!!俺はあいつがズルをするところをこの身をもって体験してんだよ!見たんだよ!これは立派な証言だろうが!!」
「馬鹿かお前は」

試験官は呆れたように吐息を漏らす。
その吐息を聞いた途端少年は一層顔を険しくし、歯軋りする。

「それ以前に根拠があろうがなかろうが再戦は出来ない」
「てめぇが言ったんだろうが!」
「言ってみただけだ」

誰かはわからないがどこからか、ぷすっ、とくすくすと笑い声が聞こえた。
少年もその声が耳に入ったのか、僕たちをギロリと睨む。

「それに容認すれば今まで守られてきた規則が崩れかねない。ここにいる学院関係者にお前みたいなバカな要請を聞くものなどいない」
「てめぇ、ふざけんじゃねぇぞ!!!」

「別にふざけていない。それと忠告しておくが、少しお前は自身の力を過信している節がある」
「はいはいなるほどねぇ、分かったよっ。どうしてもできないって言うんだったら……」
「何をする気だ」

「てめぇごとヤっちまえば万事解決でもなんでもするんじゃねぇのかっ!!!」
「…はぁ、なんと愚かな」

少年はまるで何もかもをどうでもいいといわんばかりの獰猛さで狂ったように片手剣を手に取り試験官に突進していく。

だがその攻撃は当たることなく弾き返され、試験官の膝が吸い込まれるように少年の腹に入る。
その衝撃に少年は少量の血を口から吐き散らせ悶絶する。

「…クソ…がぁ…まだ…終わっちゃあ…いねぇぞ…」
「諦めたまえ。お前の奮戦しようとするその心は賞賛に値するが今となってはその行いもただの悪足掻きでしかない」

少年は未だに試験官を睨み続け、剣を手に取ろうとするが、とどめを刺すかのように試験官はがら空きとなった少年の背中を肘で思いっきりブツけた。

「諦めろと言ったはずだ。いいか?お前が頭の中で抱く幻想を具現化させるには己の力で切り開かなければならない。だが今ここでお前にそれが出来るほどの力が無かったことが証明された。つまりお前には何かを成せる力などこれっぽっちもなかったわけだ」
「なん…だとっ、」

「まだ続ける気か?入学試験で負け、がむしゃらに戦いに挑んだがそれも負けて、私に八つ当たりしてきやがった分際でまだ楯突く気か?」
「………」
「はあ、お前みたいな才能の無い奴らを相手するこっちの身にもなって欲しいくらいだ」
「…てめぇ、絶対許さねぇ…」
「そうか、お前はまだ反抗する気なのか。であれば仕方があるまい。強行手段といこう」

試験官は少年の剣を拾い上げると、その剣先を真下に向け一直線に振り下ろした。
その剣先は少年の利き腕である右手を貫通する。
その瞬間そこから大量の血が噴き出す。

「ギャぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」

少年は強烈な痛みのあまり血を吐くような悲鳴をあげる。
その現場を見ていた入学希望者たちも、予想外の展開に動揺が隠せない。

試験官は心がないかのようにその悲鳴を聞いても一向に剣を引き抜こうとしない。

「おそらくもう剣を振るうことは叶わなくなった。これで分かっただろ、反抗すればどうなるか。まだ俺に楯突く気があれば今以上の処罰をお前に与えなければならない」

「待ってくださいっ!」

僕は見るに耐えず割り込むように声を出した。
ここにいた全員の視線が僕に集まる。

試験官を止めに入ったのは決して正義感だけで声をあげたわけではない。これ以上続けば…と、本能的に危険を感じたからだ。

あの時、僕の本能が恐怖・・を感じたのか、心と身体が身震いした。
それは恐らくあの少年からくるもの。

そして憎しみに満ちる少年を視野に入れながら、ハイライトのない試験官を止めるべく僕は迫り来る謎の恐怖を感じながら輪に入った。
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