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1.学園入学編
弱き者の覚醒
しおりを挟む「何か用か?」
「試験官、あなたは少しやり過ぎです!」
「君には関係のないことだ」
突き放すかのような言葉を平然と言ってのける試験官。
彼には罪悪感というものがないのだろうか。手の平を剣で刺された少年はいつの間にか悲鳴をあげず沈黙している。
ここに来るには相当な覚悟があっただろう。そして彼の剣は磨きに磨かれていた。それはつまり今後の人生を試験官に潰されたかもしれないのだ。
にも関わらず一言も口を開いていない。それはある種の不気味さを醸し出していた。
「これ以上そのままにしておけば剣を振るう以前に右手としての機能が失われかねません!いい加減剣を引き抜いたらどうですか!」
「駄目だ。これは罰である。古くから守られてきた規則を破ったものへと見せしめだ」
「まだ破ったわけではありません!」
「だがこいつは破ろうとした。その事実だけでも万死に値するものだ」
試験官はようやく剣を引き抜く。引き抜くと同時に再度手から血が噴き出した。
中々の黒い光景に入学希望者の中に青ざめた表情をする者もいた。
試験官は少年の剣を捨てるかのようにその場に落とす。
「それと、君は戦いに勝ったのだろう?」
「…はい、」
「であればいちいち弱者に情を写すのはよろしくないな」
「弱者に情を移す?違います。僕はただ彼を救いたいだけです!試験官は怖くないのですか!彼の人生を奪ったかもしれないのですよ!」
試験官は、ふむ、と手を顎に当て考える素振りを見せると、ゴミを見るかのような目で倒れ伏している少年に視線を向けた。
「生憎私はそういう経験がないものでね、大切な何かを失う運命を辿った者の気持ちは分かりかねるよ」
「そんな事は聞いてません!僕は自分の手で人生の支えとなるものを潰して何も感じないのかと聞いているんです!」
あの少年にとっては剣がもう一人の自分だったかもしれない。
だから負けたのが悔しくて悔しくてたまらなくて、理由をこじつけてまでももう一度戦いたかったのだと僕はそう思う。
だからこそ、同じ剣の道を歩む僕はここで引くわけにはいかない。
「私は君の話に興味がない。これ以上用がなければ帰らせてもらう」
「待ってくださいっ!!」
試験官はめんどくさそうに顔を歪ませながらこちらを振り向く。
「…これ以上言ってもあなたにとっては無駄な時間。では最後に一つ、僕の些細な願いを聞いてはいただきませんか?」
「……聞こう。」
試験官はここで断っても僕が引かないことを察したのか、渋々といった感じで頷いた。
「僕は彼に向けたあなたの謝罪を求めます!」
「ほぅ?それはなかなか面白い冗談だな」
僕は試験官の反応に苛立ちを覚え、声を荒げた。
「…なるほど、どうやらあなたはまだ分かっていないようですね…あなたは他人の人生を───」
「壊した…と?」
「……」
分かっていたのか?理解しておきながら彼の手に剣を刺したとでもいうのか、だとしたらこの人は狂っている。
「勘違いされては困る、私が行ったことはただの駆除に過ぎない。この世界に弱者は必要ない、私は出しゃばる虫を駆除したまでだよ」
「あなたは人をなんだと思っているのですか!」
「なんとも思ってないね…」
「……」
その瞳に宿るのは悲哀。
ここまでの意思の無い声は初めてだ。そう思わせるほどに試験官に感情と呼べるものが無かった。
「私は人間の価値にしか興味がない…」
「どういう…意味ですか…?」
「この世界に最も不必要なのは弱者だ。この世界が不必要と判断した者を放置したところでなにも生まれないし何も生まない。無価値な者が無くなり価値あるものが生き残るそれのどこが間違っていると?」
「間違っていないと思っている所が間違っているんですよ。知ってますか?あなたの思想は歪みきっています!」
おそらく今ここで僕が何を言おうと試験官の心は動かせない。
いや、元々僕に試験官の心を動かせるほどの力はない。なんせ先ほどまで名も知らない人赤の他人だったのだから。
それでも、試験官が彼に詫びるまで僕は粘らなければ何もできなかった僕は彼に報いることもできない。
「別に私は私の考えが正解だとは思っていない、私は神ではないからね。だが間違ってはいない。大体答えのない問題に正解を求める方が間違っていると思うが、」
「だからこそあなたは歪んだのですよ」
「君は私の何を知っている…」
試験官の声のトーンが突然低くなる。
会話を聞いていた入学希望者たちも試験官の異変を感じ取る。
それが僕が初めて見た試験官の感情溢れた姿だった。
「私が弱き者に頭を下げろだと?ふざけるなっ!!」
「……」
「お前はこいつのことを考えろと言ったが、お前は私のことを一度でも考えたのか?」
「…それは…」
確かに僕は試験官のことを何一つ知らない、それもそのはずだ。
僕に会ったばかりの人間の過去を除き見れるほどの力や能力を持っているわけでもない。
だけど僕は試験官の過去に何があろうと知ったこっちゃない。
そんな事今はどうでもいいのだ。
僕にとって今重要なのは彼を救うことそれのみだ。
周りにいる入学希望者たちが行く末を見守る中、試験官は言葉を重ねた。
「何も知らない分際で、私を語ろうなど思い上がりにもほどがある───」
………バシュッッッッッ、、、
「…えっ、」
その瞬間、僕は何が起きているのか分からなかった。
まるで時が止まったかのような感覚、それはつまり思考が追いつかないこと。
衝撃的過ぎて足が竦み動けない。血しぶきが顔に何滴か飛び散り付いた。
顔中から鉄の匂いがする。鼻血を出した時の匂いとほぼ同じ、そう、それはつまり人間の血。
「きゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃぁぁぁあ!!!!!」
試験官が抵抗することなく勢いよく倒れる。
そして試験官が倒れることになった元凶であるその人物は、真っ赤な血で全身を覆い、彷徨うように不自然な動きで倒れ伏す試験官を見下ろしていた。
「…コロス…」
その手には剣で突き刺されたはずの傷が塞がっており、片手剣を当たり前に右手で持っている。
そこに居たのは試験官に向かって容赦無く剣を振るう倒れていたはずの少年であった。
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