最強の剣聖を祖父にもつ孫が最強の魔法士だった件。

松川よづく

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1.学園入学編

器を超えた力

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『あ゛~』となんとも不気味な呻き声があの少年から微かに聞こえる。

試験官は彼を殺してはいない、それはつまり生きているということ。では何故彼からゾンビのような禍々しさを感じるのだろうか。

「…こ、こないでぇっ!!!」

トボトボとゆっくりと歩む彼の目の前にいるのは、腰を抜かしへたり込みながら涙目になっている少女。

「あ゛ぁ゛…」

「まずいっ!」

彼はゆっくりと剣を振り上げた。このままいけばおそらくあの少女はタダですまない。

僕は自身の持つ全ての力を足に集中させ、蹴り上げる。
僕が生み出した瞬間全加速によって一瞬にして彼の元へと到達した。そして剣を涙目になる少女を守るように突き出す。

「あ゛ぅ…」

振り下ろすのが遅かったお陰か、なんとか少女を守ることに成功する。
しかし安堵も束の間、徐々に僕の剣が小刻みに震えながら徐々に落ちていく。
なぜなら彼の剣はあの速度から考えられないほどとてつもなく重かったからだ。

「…クッ、おい、しっかりしろっ!!」

焦点が定まっていない彼を我に返らせようと呼びかけるが、彼からの応答は気味の悪い呻き声。
そして徐々に前のめりになり、それに比例するかのように剣の重圧が増していく。

「くっ、このままだと、まずいな…」

ここで剣を納めるわけにはいかない。納めた瞬間後ろにいる少女に危険が及んでしまう。
それがネックとなり解決方法が見当たらない。このままいけば圧されてしまう可能性が……


「《ロック・スティール》!!」


どこからともなく発せられたその言葉がここら一帯に響き渡れた途端、彼の足元の直径5mほどの光り輝く茶色の魔法陣が浮かび上がる。

その魔法陣は薄く白く光り輝くと、そこから尖り尖った岩が下から上へと出現し、彼の全身を覆うように囲みガシィィン、と鳴り響きかせながら岩と岩を密着させ、用が済んだとばかりに魔法陣が跡形もなく霧散した。


「…す…すごい…。」


これが魔法。あらゆる現象を言葉一つで顕現させられる謂わば神の力。
その超越した力を目の前で見せられれば、もはや弱点などないのでは?と疑ってしまう。

「…ふぅ、なんとか間に合ったかも、です。」

「 ? 」

前に突き出していた手をゆっくりと引っ込めながら一息つき安堵の表情を浮かべている女の子。
おそらくこの岩を形成したのはこの子なのだろう。…ん?そういえば何処かでみたような……、

「あの!」
「ひゃいっ!?」

やばい、どうやら僕が突然大声を漏らしたもんだから彼女がびっくりさせてしまったようだ。

「この魔法を放ったのはあなたですか?」
「は、ははははははははいっ!」

目をグルグルと回しながらあたふたする魔法士の女の子。
ここはなんとか彼女の動揺を納めなければならない。このままいくと多分僕と彼女との会話が一向に進まない気がする。うん、絶対そうだ。

「突然話しかけてなんですがそこまで緊張されなくてもいいですよ」
「そ、そうかも…です。」

彼女は何回か深呼吸するとようやく落ち着いたようだ。

「あの時は本当に助かりました。あのままいけばおそらく僕はやられていたかもしれません」
「い、いえ、そんな滅相もないかも…です。」

暴走した彼を閉じ込めた巨大な岩の集合体は今もなお崩れることなくがっしりと固まっている。
解決したかのように思われるこの状況、だが僕は気を休めることができなかった。
なぜならこれは彼を動けなくしただけで倒したわけではない。もしこの岩が崩れることになれば───


………ピキィッ


「今の音は…」


悪い予感がする。もしかしたら何か異変が生じたのだろうか。不安が増幅していく中、ついにその悪い予感が的中した。

「わわわわわわわわっ、ど、ど、どうしましょうぅ…」

巨大な岩の片鱗に亀裂が入る。そしてズズズズズと地響きを鳴らしながら岩が崩れていく。

「やはり元を断ち切らなければこの事態を収束できなさそうかな」

「はい、それにこの状況はまずいかも…です。」

隣にいた魔法士の女の子は先ほどとは別人のように真顔になり、崩れていく岩を見詰めながら何かを悟った。

崩れ終わったその岩の場所にいたのは黒く禍々しいオーラを放つ彼であった。
燃え揺らぐそのオーラは一瞬巨大化すると瞬く間に消え失せた。


「こんな時に悪いけど君の名前を僕は知らない、だから教えてくれる?」
「ふぇっ!?あ、は、はいっ。ハルと、いうかも…です。」

「じゃあハル!」
「ひゃいっ!?」
「僕は接近戦に持ち込むからミルカは僕を上手く支援してくれ」
「分かりました」


この短時間で分かったことだが、ハルと会話する時ハルはいつもおどおどしている。けれど大事な場面に直面すればこんなかっこいい表情になる。
なんていうか、直感だけどハルとは仲良くなれそうだ。


猫背の体制で呻き続ける彼。きっと彼は悪夢に苛まれている。
であれば僕が出来ることはただ一つ、その虚妄にまみれた悪夢から目覚めさせることだ!


「…剣聖…キルメル・ホロリアの名の下に…最強の能力を授かりて…無敵…神如く力よ…今ここに乗り移りたまえ…」

瞳を閉じ、剣の断片をすーっと撫でるように優しく触れながら僕は自分に言い聞かせる・・・・・・

これは魔法ではない、ただの自己暗示だ。
僕の根本を変える、つまり無意識下の意識をおじいちゃんの意識に変換することで最強の剣聖と同じ強さを一瞬の時間扱えるというもの。

今の僕の器では15分が限界、それ以上無理をすれば脳がオーバーヒートを起こしもう二度と意識が戻らないだろう。

そして時間切れの後に身体を引き裂くような激しい痛みが全身に廻る。
つまり15分内に彼を倒せなければ終わり。そんな危険な技を僕はここで使わなければならない。

なぜなら僕の本能が言っているのだ、今の彼は人間の領域を外れていると。
あの時よりも強くなっているならば今の僕では太刀打ちできない可能性がある。
それならばこちらも一時的・・・に強くなるしかない。

「これをするのは6年ぶりだし、少しくらい手加減してくれないかな…なんてねっ!」

おそらく人が成しえる最速のスピードで彼の間合いに入る。
どれだけ人の道に外れていようとも体技のみで形成された神速ともいえるこの速度を対応出来るはずがない。

「はぁぁぁぁぁぁぁあっっっ!」

横一閃に繰り出された剣が彼の身体を裂いた……はずだったのだが、その剣は止まっていた。

「…一体…これは…どういう…」

振り切る直前で剣は空中に止まっている。いや、厳密には止まっているではなく防がれた・・・・

「なるほど…君は盾を作ったんだね?」
「あ゛ぁ゛、」

「君は空気を極限まで圧縮し、一つの謂わば盾を作ることで僕の攻撃を防いだ」

彼は応えない。だからと言って僕の考えはおそらく間違っていないだろう。
魔法は極めれば発現言語を述べなくても発動させることはできるとおじいちゃんが言っていた。

念力か何かで止められるほど剣聖の剣は甘くない、となると止めるではなく防がなければならない。
だが盾を作るには時間がかかる。そうなれば一番簡単なのはそこら中に存在する気体だ。

「でもタネが分かったとしても攻略法が見当たらないね。さて、これからどうしようか…」

「…《ウォーター・エンチャント・ターゲット・ソード》…」

僕の剣が蒼くほんのりと光ると止まっていた剣が動き始め、彼の胸部に切り込みを入れた。

「ハルには本当に助けてもらってばかりだねっ!」

「あ゛ぁ゛!!!!」

今のは今までの呻き声ではない、痛みから来る悲鳴だ。
そして追い討ちをかけるように僕は剣を振り下ろす。

「ハルの補助が無ければ僕は制限時間を縮めてまでも無理をしていたかもしれない。不常識に対抗するには常識ではなく同じく不常識、ならば人間の限界を極めた剣の頂の力であれば君を打ち倒すこともできる!」

真っ正面に斬り裂こうとすれば先程と同じことの繰り返しだ。
ならば空気を圧縮させる前に剣を振ればダメージは必ず通る。


「は、速すぎてもう残像も何も見えない。肌からひしひしと感じる余波も尋常ではありません。あの子が本当に私と同じ子供なのか疑うかも…です。」

ハルはあまりに次元の違う戦闘に驚愕を通り越して呆れていた。

ハルが呆れるほどに圧倒しているこの状況、だが僕は一つの不安を抱えていた。

「おかしい…」

連撃をした時から僕の中に違和感が宿っている。それは自身ではなく彼に対して、だ。

彼は何も発することなく空気を圧縮し盾にできるほどの魔法士であるはずなのに先ほどから魔法を使ってこない。
作戦…とかではないはずだ。今の彼に理性など残っていない。ではなぜ?

「君がなぜ魔法を使わないのかは分からないけど、このチャンスを僕は全力で利用させてもらうよ!」

今最大の力を剣に込める。それは制限時間を凝縮させるほどの力。
それが為す意味は人類を超えた一撃だということ。

「チェックメイ───!?」

一撃を放つ瞬間、彼の体内から収まったはずの邪悪なオーラを解放される。その尋常じゃないオーラが僕の視界を妨げる。

だが僕は御構い無しに剣を振り下ろす。しかし何かを斬った手応えがなかった。

そしてオーラが徐々に収まった後、既にそこに彼の姿はなく、周りを見渡しても彼の姿は見当たらなかった。

「逃げられましたね」

離れていたはずのハルがいつの間にか僕の隣に居た。悔しそうな表情で、消える前の彼の場所を眺めながら呟いた。

「そう…だね。彼を助けてあげられなかったのは残念だけど、いつかきっとまた会えるさ。その時こそ彼を救わないとね」
「はい、そうかも…です。って、違います!」
「ええっ!?」

どうしたのだろう、突然喚くように声を荒げるハル。
ハルは口を尖らせ、少し不機嫌気味のようだ。

「まっ、まだ私、あなたの名前、知らないかも…です。」
「あぁ、確かに言ってなかったね。僕の名前はミルミ。ミルミ・ホロリアだよ」

「ミルミ・ホロリア……って、ホホホホロリアっ!?!?!?」

この反応は初めて話した時と同じだな。
ホラリアの名前を出すのはあまり良くないけど、ハルに隠し事したくなくて正直に言っちゃったけど逆効果?だったかな。

「と、ととととと、いうことはははは、剣聖様のごごごごこ子息様であれせせせせせせっ……」

「確かにそうだけど、ハルには畏まらずホラリア家関係なく一友達として接してほしいな」
「わ、分かった…かも…です。」
「ふう、これで元通りだね。これからもよろしく」
「よ、よろしくかも…です。」

それにしても彼はどうやってこの場から消えたのだろう。さっぱり分からない。

僕は魔法に関しては疎いからおそらく魔法を使ったんだと思うけれど、逃げられたことに関して実は僕も少し悔しかったりする。
まあハルには言わないけれど。

「それにしてもまだ入学もしてないのにこんなに体力を使うなんて…なんというかこれから先の学院生活が不安になって来たよ」
「ミルミなら大丈夫かも…です。」

ミルカは優しい表情で微笑みながら相槌を打つ。

「はぁ、これからはあまり騒動に巻き込まれないようにしないと僕の身がもたなっ!?」

「ミルミ!!どどどどどっ、どうしたんですか!!」

突然身体がいうことを聞かなくなり、砂埃を起こしながら勢いよく地面に倒れる。

「あぁ、そうだった。使うの久々すぎて忘れてた…」
「ミルミっ!!」

そして瞬く間に全身に激痛が走り、身体が悲鳴をあげ、意識が徐々に遠のいていく。

「やばっ…」

薄っすらと徐々にぼやけていくその視界に映ったのはミルカの必死に呼びかける声と絶望したかのような表情。

そして僕の頬にハルの涙の雫がした垂れ落ちる。

僕は抵抗出来ぬままゆっくりと意識を手放した。
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