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49 王弟トビアス
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「ダミアン。ちょうどいいところに戻ってきたな。アデノフォラ家の件、婚約差し止めの連絡が宰相からあったぞ。お前もこれで安心できるな」
アレクサンダーの言葉に叔父と呼ばれた男が眉をひそめた。
「アレク……お前ひょっとして」
視線がリリーとアレクサンダーの間を行き来し口を開きかけ、結局何も言わずに再び閉じた。
「何でしょうか叔父上?何をそんな変な顔をしていらっしゃるのですか?」
「いや……なんでもない」
『女性に疎いのは実の父上ゆずりか……』
「お父上……」
ぽろりとこぼれたリリーのつぶやきに王太子アレクサンダーが怪訝な顔をした。おのれの失態にひゅんと喉の奥が締まるような違和感でリリーは息をとめた。
「叔父上だ。父上ではない。なんだダミアンひょっとして叔父上にお目にかかるのは初めてだったか?」
何も気づいていないアレクサンダーの言葉にリリーは安堵しながらちらりと男性を見る。
「え、はい。申し訳ございません」
「いいんだいいんだ。アレクサンダーの叔父、現王リューサンダーの弟トビアスだ。王の相談役として補佐をしている。エールスト公爵だ」
トビアスは恐縮するリリーに向かって軽く微笑むと片目をつむってみせた。そっと資料を腕に戻される。
(トビアス様は私のことをご存知なんだ)
最初の衝立の後ろでの仕事の際も宰相が手を回していたのだ、その後リリーがここで働くことになったのをエールスト公爵は知っていたのだろう。
(つまり、王太子様の恋心を探るためという私の任務もご存知なのだわ)
「叔父上を存じ上げないとは……君は社交界には出てなかったのかい?」
アレクサンダーは呆れ半分叔父に対する申し訳無さ半分といった表情でダミアンを軽く睨みつけた。
「申し訳ございません。田舎領地のため機会がなく」
「アレクそういうことを言うものではない。アレクと違って枯れた独身男の私など社交界では壁の花ならぬ枯れ草だからな」
「叔父上。ご令嬢方の誘いを毎回気づかぬふりでいらっしゃるの、私達見ておりますから。気の毒なご令嬢方に毎回声をかける私の友人たちの身にもなってください。彼らはいつも叔父上と比べられてかないません」
アレクの言葉に後ろで仕事をしている同僚たちが何人か苦笑いをする。どうやら皆思い当たる節があるらしい。令嬢たちにしてみれば王弟を狙っていたのに代わりに若いだけの男がよってきて迷惑がられたというところだろう。
リリーは同僚たちを気の毒な目で眺めた。王太子の側近とは言え爵位のない三男以降は社交界では辛い立場であるということは同じらしい。
「そうかい?皆令嬢方に声をかけるきっかけが出来て喜んでいるとばかり思っていたよ」
「どうして叔父上はいつも……いえ、結構です。で、今日のご要件は一体何事ですか?」
「宰相からここにいるダミアンがなかなか良い働きをしたと聞いたのでお前とも詳しい話をな。お前の小部屋を使えるか?」
「もちろんです。奥へどうぞ」
部屋の奥へ向かおうと一歩進んだ王弟トビアスがリリーを振り返った。
「君はしばらく一人で出歩かないように」
「叔父上。どういうことでしょう?」
アレクサンダーがリリーに目を向けた。
「先程影から彼の様子を伺っているものが居てね。恋敵に恨まれているのかもしれないな」
そう軽く告げたトビアスの瞳がまったく笑っていないことでリリーはなぜ彼がわざわざ一緒に歩いてくれたのか理由を知った。
(アルフォンスの嫌がらせかしら……)
やはりリリーが真っ先に疑うのは元婚約者であるアルフォンスなのであった。
アレクサンダーの言葉に叔父と呼ばれた男が眉をひそめた。
「アレク……お前ひょっとして」
視線がリリーとアレクサンダーの間を行き来し口を開きかけ、結局何も言わずに再び閉じた。
「何でしょうか叔父上?何をそんな変な顔をしていらっしゃるのですか?」
「いや……なんでもない」
『女性に疎いのは実の父上ゆずりか……』
「お父上……」
ぽろりとこぼれたリリーのつぶやきに王太子アレクサンダーが怪訝な顔をした。おのれの失態にひゅんと喉の奥が締まるような違和感でリリーは息をとめた。
「叔父上だ。父上ではない。なんだダミアンひょっとして叔父上にお目にかかるのは初めてだったか?」
何も気づいていないアレクサンダーの言葉にリリーは安堵しながらちらりと男性を見る。
「え、はい。申し訳ございません」
「いいんだいいんだ。アレクサンダーの叔父、現王リューサンダーの弟トビアスだ。王の相談役として補佐をしている。エールスト公爵だ」
トビアスは恐縮するリリーに向かって軽く微笑むと片目をつむってみせた。そっと資料を腕に戻される。
(トビアス様は私のことをご存知なんだ)
最初の衝立の後ろでの仕事の際も宰相が手を回していたのだ、その後リリーがここで働くことになったのをエールスト公爵は知っていたのだろう。
(つまり、王太子様の恋心を探るためという私の任務もご存知なのだわ)
「叔父上を存じ上げないとは……君は社交界には出てなかったのかい?」
アレクサンダーは呆れ半分叔父に対する申し訳無さ半分といった表情でダミアンを軽く睨みつけた。
「申し訳ございません。田舎領地のため機会がなく」
「アレクそういうことを言うものではない。アレクと違って枯れた独身男の私など社交界では壁の花ならぬ枯れ草だからな」
「叔父上。ご令嬢方の誘いを毎回気づかぬふりでいらっしゃるの、私達見ておりますから。気の毒なご令嬢方に毎回声をかける私の友人たちの身にもなってください。彼らはいつも叔父上と比べられてかないません」
アレクの言葉に後ろで仕事をしている同僚たちが何人か苦笑いをする。どうやら皆思い当たる節があるらしい。令嬢たちにしてみれば王弟を狙っていたのに代わりに若いだけの男がよってきて迷惑がられたというところだろう。
リリーは同僚たちを気の毒な目で眺めた。王太子の側近とは言え爵位のない三男以降は社交界では辛い立場であるということは同じらしい。
「そうかい?皆令嬢方に声をかけるきっかけが出来て喜んでいるとばかり思っていたよ」
「どうして叔父上はいつも……いえ、結構です。で、今日のご要件は一体何事ですか?」
「宰相からここにいるダミアンがなかなか良い働きをしたと聞いたのでお前とも詳しい話をな。お前の小部屋を使えるか?」
「もちろんです。奥へどうぞ」
部屋の奥へ向かおうと一歩進んだ王弟トビアスがリリーを振り返った。
「君はしばらく一人で出歩かないように」
「叔父上。どういうことでしょう?」
アレクサンダーがリリーに目を向けた。
「先程影から彼の様子を伺っているものが居てね。恋敵に恨まれているのかもしれないな」
そう軽く告げたトビアスの瞳がまったく笑っていないことでリリーはなぜ彼がわざわざ一緒に歩いてくれたのか理由を知った。
(アルフォンスの嫌がらせかしら……)
やはりリリーが真っ先に疑うのは元婚約者であるアルフォンスなのであった。
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