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夢の中で、ユリエラは突然生まれたばかりの赤子の姿を目にしました。近くには若いメルドロイド公爵が立っており、その赤子がおそらくネロフライトであることを彼女は理解しました。

「これは夢…?」とユリエラが呟くと、隣に立っていたキルエルが静かに答えました。「残念じゃが、過去にあった事実じゃ。」

彼女はその光景に戸惑いを感じました。同時に、隣にキルエルがいることに気付き、言いたいことが溢れてきました。

「キル、私っ!!」

ユリエラがキルエルへの思いを口にしようとした瞬間、キルエルは静かに微笑みながら人差し指をユリエラの口に当て、次第に姿を薄れさせて消えていきました。

ユリエラはキルエルが消え去ると同時に、その場に座り込んでしまいました。目の前には、急速に成長するネロフライトの姿が映し出されていました。ネロフライトが成長するにつれて、彼の父親である公爵は彼を厳しく育てていく様子が映像のように現れました。そして、ネロを溺愛しすぎるあまり、母親が行き過ぎた教育を施していく過程が、とてつもない速度で流れていきました。

公爵から酷い虐待を受けたネロは部屋でひとり寂しく涙を流していました。その時、幼いユリエラが突然現れ、オカリナを演奏し始めました。美しい音色が部屋に広がり、ネロの心を温かく包み込みました。ユリエラの演奏に心が打たれ、ネロは涙を拭いながら彼女を見上げました。そして、彼女の優しい音楽に癒され、やがて泣き止んで、彼女と笑顔で会話しました。

「酷い傷だね、見て、私も傷だらけ!一緒だね!」

幼いユリエラは、メイド達によって傷つけられた傷を指しながら、ネロに微笑みかけました。

「一緒…だね。」

その時、ネロの心には深い安らぎと幸せが満ちていました。

しかし、その光景は他のメイドに発見され、ユリエラは怒られながら連れ去られました。ネロは彼女と再び会いたいと願いましたが、メイドたちは彼女を軟禁し、彼との接触を断固として阻止しました。ネロは彼女のことを忘れることができず、彼女を思う日々が続きました。

ユリエラはその様子を目撃し、ネロが自分に接近してきた本当の理由を理解しました。同時に、物語の中のユリエラがネロに発見されるのも納得できました。なぜなら、ネロはずっとユリエラを求めていたからです。

ネロのメーベルが楽器である理由は、幼い日にユリエラが演奏したオカリナの印象が深く残っていたからかもしれません。ネロはその美しい音楽に魅了され、それが彼の心に深く刻まれたのでしょう。そのため、彼のメーベルが楽器として具現化されたのかもしれません。

しかし、現実は如月夏樹がユリエラに憑依したことで歪んでしまいました。少し成長したユリエラはネロのことを知ることなく、別の道を歩んでいました。ネロはあの時の思い出をずっと胸に抱いて過ごしてきたのです。彼はユリエラに思い出してほしくて必死になっていただけだったのです。

そして、ユリエラを賊に襲わせる作戦は公爵の発案でした。それを執事がネロに少し脅かすだけですよと嘘をついて、ユリエラを町へ連れ出したのでした。ネロはいつも真剣にユリエラと向き合っていました。ただ少し、自分の魅了の力でユリエラを魅了できればいいのとは思っていたようです。

ユリエラの去った後に、公爵領の魔物問題がキルエルによって、いとも簡単に解決され、公爵はは自身の無力さや辺境伯にしてやられた嫉妬で、狂ったようにお酒に溺れるようになりました。この状況により、ネロは公爵の厳しい言葉や行動にさらされ、辛い日々を送ることになりました。

公爵夫人は息子を守るため、彼を魔法学校へ送り込むことを決断しました。彼女はネロに新しい環境での成長と学びを与えることで、彼を公爵の厳しい影響から守ろうとしたのです。ネロが魔法学校に入学してきた真の理由は、彼の家族が彼を守るためにした決断の結果だった。

ユリエラが目を覚ますと、朝の陽光が優しく窓から差し込んでいました。その時、耳に違和感を感じました。彼女は今まで耳に穴を開けることを恐れており、それがメーベルを身につける障害となっていました。しかし、目覚めた瞬間に気付いたことがありました。寝ている間に耳に穴を開けられ、そして素のメーベルが差し込まれているのです。ユリエラは、あれが夢ではなかったと確信しました。素のメーベルが小さく、紛失することを心配していたのもありますが、キルエルによってピアスを開けられ、彼女は喜びに満ちた気持ちに包まれました。自分の心に眠っていたキルエルへの感情にも気づき、同時にネロへの不安も解消されていくのを感じました。

「キル…。」

ユリエラは、ノエル・クラリアスに絶対に会わなければならないと確信しました。キルエルが自ら口にした孫のノエル。彼に会うことで、キルエルに関するさらなる情報を得ることができるのではないかと彼女は考えました。

一方で、パピルスは、機嫌が良さそうなキルエルを呆れた表情で見つめていました。

パピルスは、キルエルとユリエラが素直に互いの気持ちを伝え合い、心を通わせることができればいいのにと思っていました。彼が不思議に思っていたのは、なぜ両想いなのにユリエラから距離を取るような態度をクラリアス辺境伯がとるのかでした。

「あの、辺境伯。何故、ユリエラから距離をとってしまわれるのですか?」
「ん?ワシには妻がおったし、息子も孫もおるんじゃぞ。歳じゃって…いや、歳の事はお前さんには通用せんな。今はまだ、幼ないゆえに助けたワシを特別に思うておるだけじゃ。じきに真実の愛に気付くはずじゃ。」

パピルスはキルエルの気持ちを聞いて、心の中で〝これは当分この仕事から解放されそうにないな。〟と確信しました。

ユリエラがご機嫌そうに鼻歌を歌いながらドアを開く音が聞こえ、その瞬間、キルエルの姿が透明になりました。それでも、パピルスの目にはしっかりとキルエルの姿が確認できます。パピルスは小さな溜息をつき、自分も部屋から出ました。

そして、学校に着いたユリエラは、早速ネロに話しかけました。

「おはよう。ネロ。」
「おはようユリエラ。」

ネロはユリエラの態度が昨日と違うことに気づき、少し動揺します。

「何かあった?」
「うん。ネロにどうしても伝えないといけない事があるの。」
「僕に?」
「あのね…少し長い話になるんだけど…。」

ユリエラはネロに向かって、全てを正直に話しました。彼が幼い頃に出会っていたユリエラがいなくなってしまったこと。そして、もともとのユリエラの魂の行方がわからないが、彼女の体には如月夏樹が憑依してしまっていること。如月夏樹であるユリエラはおそらく自分が死んだという記憶がないため、11歳の幼い子が30歳の自分の体に入り込んでいる可能性があること。とにかく、ユリエラは自分が転生者と呼ばれる身分になったことをネロに伝えました。

ユリエラが話をするにつれ、ネロの顔には寂しさが浮かび、次第に暗くなっていきました。

「そうか。僕は…間に合わなかったんだね。」
「間に合わなかった?」
「公爵家の蔵書の中に転生者について書かれた異国出版の本があるんだ。そこに、憑依する対象が絶命した時、憑依転生が起こる確率が高いと記されていたんだ。つまり、君が目を覚ました時点で本来のユリエラは亡くなっているんだよ。」

ユリエラはその話を聞いて、なんとなく納得しました。最初に公爵家の汚れた部屋で目を覚ました時、体中が痛み、極度の疲労感に襲われていたことを思い出しました。

授業が始まると、ネロは机に肘をつきながら、何かをぼんやりと考えているようでした。彼の視線は遠くを見つめており、まるで深い思索に浸っているかのようでした。周囲の騒音や教師の話し声が耳に入っても、ネロはその場にいるかのようには見えませんでした。
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