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シーズン1
19.陽だまりと囁き、そして甘い囚われ
とある昼下がり――
暖かな陽射しが窓から差し込み、白いカーテンがそよ風に揺れていた。外では小鳥がさえずり、平和な午後の空気が漂う中、部屋のテーブルには色とりどりの封筒が山積みになっている。招待状の金箔やエンボス加工が光を反射し、いかにも上流貴族らしい煌びやかさを放っていた。
「あーー、もう!どうしてこんなにパーティーが多いのかしら。」
メイシールはテーブルに肘をつき、頬杖をついたまま封筒の山を睨んでいた。その小さな唇が不満げに尖り、眉間には可愛らしい皺が寄っている。その様子を後ろから見ていたユリドレは、ふっと小さく笑みを漏らした。
(上位貴族どもが、メイシールが断れないと思っているようだな。小賢しい。)
ユリは心の中で冷たく吐き捨てながらも、表情には一切出さない。その代わりに、まるで何も考えていないかのような穏やかな微笑みを浮かべていた。
「ユリも真剣に考えてください!」
メイシールがユリを振り返り、小さな手で招待状を指差す。真剣そのものの表情だが、その幼い顔立ちがむしろ彼女の真剣さを和らげてしまっている。
「考えていますよ。全てお断りしましょう。メイの体が心配ですから。」
ユリは何の迷いもなくそう答える。その顔にはいつものキラキラスマイルが輝き、まるですべての問題が解決したかのような自信に満ちている。
「ですが…。」
メイシールが言い淀むと、ユリは微笑みを深め、いつもの柔らかな声で言葉を続けた。
「続きはベッドの上で聞きたいです。どうせやることもありませんし(メイが書類を全て片付けたので)、足も完治した事ですし、一戦どうですか?」
「な、な、なんですか!その一杯いかが?みたいなノリ…。」
メイシールは顔を赤くしながら、目を逸らすようにして口ごもる。しかし、彼女の反応を見たユリは余裕の表情を浮かべたままだ。
「面食いな自分が憎い。いえ、ユリに誘惑されて落ちない女性はこの世にいないでしょうね。」
諦めにも似た溜息をつき、メイシールは目を閉じた。それを肯定の合図だと受け取ったユリは、瞬時に彼女を抱き上げる。
「では、決まりですね。」
ユリの声は柔らかいが、その瞳には微かな炎が宿っている。
――
彼はメイシールを運ぶと、丁寧にドアを閉め、外に控えていた使用人たちに短く命じた。
「全員、下がれ。誰も近づくな。」
その言葉に逆らう者などいない。執事やメイドたちは速やかにその場を離れ、廊下は静寂に包まれた。
ユリはベッドのそばでメイシールをそっと下ろし、そのまま彼女を見つめる。瞳の奥には優しさと情熱が入り混じり、今にも溢れ出しそうだった。
「メイ…。」
彼の低く甘い声が部屋に響くと、メイシールは思わず目を伏せる。ユリがそっと手を伸ばし、彼女の頬に触れる。その手のひらは大きくて温かく、メイシールの体から緊張が抜けていくのが分かった。
その瞬間、カーテンの隙間から一筋の光が差し込み、二人の影を壁に映し出す。ユリが彼女をベッドにそっと横たえると、シーツがかすかに音を立てた。その音が静かな昼下がりの空気に溶け込み、部屋全体に甘い緊張感を漂わせる。
衣擦れの音が微かに響き、メイシールの息遣いが僅かに乱れる。ユリの顔は穏やかな笑みを浮かべているものの、その目にはどこか抑えきれない衝動が見え隠れしている。
「昼間なのに…こんな…。」
メイシールの小さな声が漏れると、ユリは微笑みながら彼女の髪を指先で梳き、額にそっと唇を押し当てた。その影はカーテン越しの光に揺れ、まるで二人だけの世界を包み込んでいるかのようだった。
――だが、その外では。
廊下の影に、一人の男がひっそりと佇んでいた。王宮から派遣されたスパイの騎士である彼は、窓側の外に設置した魔法の目を通じて、部屋の中を監視していた。
彼は口元を歪め、手元の魔法具に映る部屋の様子を観察しながら、内心でぼやき始める。
(おいおいおい、まだ明るいうちから今日もおっぱじめやがった。妊婦相手にイカレてやがる。)
魔法の目が映し出すのは、静かな昼下がりの部屋の中、揺れるカーテンの隙間に映る二人の影だった。シーツがわずかに揺れ、重なる影が壁に映し出される。部屋の中から微かな衣擦れの音と、時折漏れる低い囁き声が響く。その雰囲気に、スパイの騎士は思わず眉をしかめた。
(これじゃ監視っていうより、ただの覗きじゃねぇか。俺、こんな仕事するために騎士になったんじゃないんだけどな…。でも、あの公爵の情報は重要だからな。)
騎士は監視を続けながら、少しだけ映像をズームしてみる。そこには、ユリドレがそっとメイシールの髪を撫で、額に唇を押し当てる様子が映っていた。その動きはとても優雅で穏やかだが、その背景に漂う情熱的な雰囲気は隠しきれない。
(まったく。公爵がこうして甘々に溶けるなんて、外の仏頂面とは大違いだな。これが愛の力ってやつか?いや、違う。これはただの暴力的なデレだ。)
部屋の中では、さらに影が動きを増していた。メイシールがわずかにユリドレの胸を押そうとしているような仕草の影が映り、そのあとまた引き寄せられる。スパイの騎士は呆れたようにため息をつく。
(あの調子じゃ、ほっといても流れちまうんじゃねぇか?しかし、あの嬢ちゃん。18歳とは思えないオーラに淑女としての完璧な所作。それから知能を持ち合わせている。)
彼の魔法の目が捉えたのは、メイシールがユリドレに何かを囁いている様子だった。その声は聞こえないが、その動きから察するに、何か反論しているようだった。ユリドレはそんな彼女を優しく押し倒し、さらに影が揺れる。
(ただの使い捨てにされるには勿体ないぜ。パーティー作戦が上手くいかなかったら、俺が腹でも殴って、堕胎させて捨てられたところを拾ってやるか。)
その不穏な考えが浮かぶたびに、騎士の心には妙な矛盾が渦巻いた。彼は彼女に同情しているのか、それともただの職務として見ているのか、自分でもわからない感情を抱えていた。
「……さてと。」
しばらく監視を続けたが、特に怪しい動きもなかったことから、騎士は魔法具を閉じ、監視を切り上げることにした。
(こんなものずっと見てたら、俺の精神が先にやられるわ。公爵も公爵夫人も、どうかしてるぜ…。)
最後にもう一度、部屋の窓に目を向ける。夕陽が差し込む中、二人の影が重なり合っている様子が見えた。
「……ま、これも愛の形ってやつかねぇ。」
苦笑いを浮かべながら、スパイの騎士はその場を後にした。
甘い時間が過ぎた部屋には、微かな静寂と穏やかな温もりが漂っていた。広々としたその空間は、ユリドレの独占欲をそのまま形にしたかのようだった。ベッド、執務用デスク、浴室、トイレまでが一部屋に集約され、まさに「全てが完結する部屋」だ。目に映るどの家具も上質で、使い勝手が計算され尽くしている。だが、その便利さが時折「閉じ込められた」という感覚を抱かせることもある。
今、ユリドレは大きなソファーに座り、その隣に私は座っていた。彼の腕は私の腰に回されている。その一方で、私を逃がすまいという意思が伝わってくるようでもあった。
ユリドレは私の髪を指先で弄びながら、時折耳にそっと唇を寄せたりしている。その瞳は柔らかく、どこか満足げな光を宿していた。
「良い汗をかきましたね。」
彼が笑みを浮かべながらそう言った。その声にはどこか余裕があり、リラックスした雰囲気が漂っている。
「そうですね。」
私はぼんやりと答えた。実際、考えなければならないことが多く、彼の好き放題にされるがままになってしまっていた。頭の片隅では、執務用の書類や今後の予定がちらついていたが、彼の温もりに包まれていると、その思考さえどこか霞んでいく。
部屋の隅では、使用人たちが3人掛かりでベッドのシーツを交換している。淡々とした手つきではあるが、その動きにはほんの少しの疲れが見えた。彼らはこれが日常であることに慣れているのかもしれない。
「まだ愛されたりないようですね。」
ユリドレが口元に柔らかな笑みを浮かべながら、わざとらしく低い声でそう囁いた。その瞬間、使用人たちの動きがピタリと止まる。背筋を伸ばし、互いに目線を交わしているが、口を挟むことなど当然できるはずもない。
(またシーツを替えることになったら困る、という顔ね…。)
私は内心苦笑いしつつも、彼らの心情を察することができた。何度も経験しているであろうこのシチュエーションに、さすがに彼らも神経を使っているのだろう。
「いえ、もう少しだけ休ませてください。」
私は慌ててユリドレに訴えた。その言葉に、彼はしばらく私を見つめた後、視線を使用人たちに向けた。彼らの表情にはわずかに安堵の色が浮かんでいる。
「問題ない。一緒に湯浴みをする予定だ。」
ユリドレがさらりと言い放つ。その言葉に、使用人たちが一斉にホッとしたような空気を漂わせた。彼らの肩がわずかに落ちるのが見える。
だが、心を乱されたのは私だった。
「えぇ!?」
思わず声を上げてしまい、顔が熱くなるのを感じた。湯浴みを「一緒に」と言われた瞬間、全身に走る羞恥心を隠しきれない。
(ほんとに一緒に入る気!?どうかしてるわ…。)
ユリドレはその反応を楽しむかのように、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。その瞳には、私の困惑をもっと見ていたいという意地悪な輝きが宿っている。
「メイ、顔が真っ赤ですよ。」
「当たり前です!」
彼の言葉に反論するが、腕に力が込められ、抱き寄せられる。耳元で小さく囁く声がさらに私を追い詰める。
「大丈夫です。俺が全部洗って差し上げますから。」
その囁きに、私は思わず目を見開いた。彼の余裕たっぷりの態度に、抵抗する気力さえ奪われそうになる。
(…やれやれ。どうしてこうなるのかしら。)
使用人たちが慎重に部屋を後にする中、ユリドレは私の頬にそっと口づけを落とし、そのまま私をさらに深く抱き寄せてきた。やがて、彼の視線が浴室の方へと向けられたのを察して、私は小さくため息をついた。
暖かな陽射しが窓から差し込み、白いカーテンがそよ風に揺れていた。外では小鳥がさえずり、平和な午後の空気が漂う中、部屋のテーブルには色とりどりの封筒が山積みになっている。招待状の金箔やエンボス加工が光を反射し、いかにも上流貴族らしい煌びやかさを放っていた。
「あーー、もう!どうしてこんなにパーティーが多いのかしら。」
メイシールはテーブルに肘をつき、頬杖をついたまま封筒の山を睨んでいた。その小さな唇が不満げに尖り、眉間には可愛らしい皺が寄っている。その様子を後ろから見ていたユリドレは、ふっと小さく笑みを漏らした。
(上位貴族どもが、メイシールが断れないと思っているようだな。小賢しい。)
ユリは心の中で冷たく吐き捨てながらも、表情には一切出さない。その代わりに、まるで何も考えていないかのような穏やかな微笑みを浮かべていた。
「ユリも真剣に考えてください!」
メイシールがユリを振り返り、小さな手で招待状を指差す。真剣そのものの表情だが、その幼い顔立ちがむしろ彼女の真剣さを和らげてしまっている。
「考えていますよ。全てお断りしましょう。メイの体が心配ですから。」
ユリは何の迷いもなくそう答える。その顔にはいつものキラキラスマイルが輝き、まるですべての問題が解決したかのような自信に満ちている。
「ですが…。」
メイシールが言い淀むと、ユリは微笑みを深め、いつもの柔らかな声で言葉を続けた。
「続きはベッドの上で聞きたいです。どうせやることもありませんし(メイが書類を全て片付けたので)、足も完治した事ですし、一戦どうですか?」
「な、な、なんですか!その一杯いかが?みたいなノリ…。」
メイシールは顔を赤くしながら、目を逸らすようにして口ごもる。しかし、彼女の反応を見たユリは余裕の表情を浮かべたままだ。
「面食いな自分が憎い。いえ、ユリに誘惑されて落ちない女性はこの世にいないでしょうね。」
諦めにも似た溜息をつき、メイシールは目を閉じた。それを肯定の合図だと受け取ったユリは、瞬時に彼女を抱き上げる。
「では、決まりですね。」
ユリの声は柔らかいが、その瞳には微かな炎が宿っている。
――
彼はメイシールを運ぶと、丁寧にドアを閉め、外に控えていた使用人たちに短く命じた。
「全員、下がれ。誰も近づくな。」
その言葉に逆らう者などいない。執事やメイドたちは速やかにその場を離れ、廊下は静寂に包まれた。
ユリはベッドのそばでメイシールをそっと下ろし、そのまま彼女を見つめる。瞳の奥には優しさと情熱が入り混じり、今にも溢れ出しそうだった。
「メイ…。」
彼の低く甘い声が部屋に響くと、メイシールは思わず目を伏せる。ユリがそっと手を伸ばし、彼女の頬に触れる。その手のひらは大きくて温かく、メイシールの体から緊張が抜けていくのが分かった。
その瞬間、カーテンの隙間から一筋の光が差し込み、二人の影を壁に映し出す。ユリが彼女をベッドにそっと横たえると、シーツがかすかに音を立てた。その音が静かな昼下がりの空気に溶け込み、部屋全体に甘い緊張感を漂わせる。
衣擦れの音が微かに響き、メイシールの息遣いが僅かに乱れる。ユリの顔は穏やかな笑みを浮かべているものの、その目にはどこか抑えきれない衝動が見え隠れしている。
「昼間なのに…こんな…。」
メイシールの小さな声が漏れると、ユリは微笑みながら彼女の髪を指先で梳き、額にそっと唇を押し当てた。その影はカーテン越しの光に揺れ、まるで二人だけの世界を包み込んでいるかのようだった。
――だが、その外では。
廊下の影に、一人の男がひっそりと佇んでいた。王宮から派遣されたスパイの騎士である彼は、窓側の外に設置した魔法の目を通じて、部屋の中を監視していた。
彼は口元を歪め、手元の魔法具に映る部屋の様子を観察しながら、内心でぼやき始める。
(おいおいおい、まだ明るいうちから今日もおっぱじめやがった。妊婦相手にイカレてやがる。)
魔法の目が映し出すのは、静かな昼下がりの部屋の中、揺れるカーテンの隙間に映る二人の影だった。シーツがわずかに揺れ、重なる影が壁に映し出される。部屋の中から微かな衣擦れの音と、時折漏れる低い囁き声が響く。その雰囲気に、スパイの騎士は思わず眉をしかめた。
(これじゃ監視っていうより、ただの覗きじゃねぇか。俺、こんな仕事するために騎士になったんじゃないんだけどな…。でも、あの公爵の情報は重要だからな。)
騎士は監視を続けながら、少しだけ映像をズームしてみる。そこには、ユリドレがそっとメイシールの髪を撫で、額に唇を押し当てる様子が映っていた。その動きはとても優雅で穏やかだが、その背景に漂う情熱的な雰囲気は隠しきれない。
(まったく。公爵がこうして甘々に溶けるなんて、外の仏頂面とは大違いだな。これが愛の力ってやつか?いや、違う。これはただの暴力的なデレだ。)
部屋の中では、さらに影が動きを増していた。メイシールがわずかにユリドレの胸を押そうとしているような仕草の影が映り、そのあとまた引き寄せられる。スパイの騎士は呆れたようにため息をつく。
(あの調子じゃ、ほっといても流れちまうんじゃねぇか?しかし、あの嬢ちゃん。18歳とは思えないオーラに淑女としての完璧な所作。それから知能を持ち合わせている。)
彼の魔法の目が捉えたのは、メイシールがユリドレに何かを囁いている様子だった。その声は聞こえないが、その動きから察するに、何か反論しているようだった。ユリドレはそんな彼女を優しく押し倒し、さらに影が揺れる。
(ただの使い捨てにされるには勿体ないぜ。パーティー作戦が上手くいかなかったら、俺が腹でも殴って、堕胎させて捨てられたところを拾ってやるか。)
その不穏な考えが浮かぶたびに、騎士の心には妙な矛盾が渦巻いた。彼は彼女に同情しているのか、それともただの職務として見ているのか、自分でもわからない感情を抱えていた。
「……さてと。」
しばらく監視を続けたが、特に怪しい動きもなかったことから、騎士は魔法具を閉じ、監視を切り上げることにした。
(こんなものずっと見てたら、俺の精神が先にやられるわ。公爵も公爵夫人も、どうかしてるぜ…。)
最後にもう一度、部屋の窓に目を向ける。夕陽が差し込む中、二人の影が重なり合っている様子が見えた。
「……ま、これも愛の形ってやつかねぇ。」
苦笑いを浮かべながら、スパイの騎士はその場を後にした。
甘い時間が過ぎた部屋には、微かな静寂と穏やかな温もりが漂っていた。広々としたその空間は、ユリドレの独占欲をそのまま形にしたかのようだった。ベッド、執務用デスク、浴室、トイレまでが一部屋に集約され、まさに「全てが完結する部屋」だ。目に映るどの家具も上質で、使い勝手が計算され尽くしている。だが、その便利さが時折「閉じ込められた」という感覚を抱かせることもある。
今、ユリドレは大きなソファーに座り、その隣に私は座っていた。彼の腕は私の腰に回されている。その一方で、私を逃がすまいという意思が伝わってくるようでもあった。
ユリドレは私の髪を指先で弄びながら、時折耳にそっと唇を寄せたりしている。その瞳は柔らかく、どこか満足げな光を宿していた。
「良い汗をかきましたね。」
彼が笑みを浮かべながらそう言った。その声にはどこか余裕があり、リラックスした雰囲気が漂っている。
「そうですね。」
私はぼんやりと答えた。実際、考えなければならないことが多く、彼の好き放題にされるがままになってしまっていた。頭の片隅では、執務用の書類や今後の予定がちらついていたが、彼の温もりに包まれていると、その思考さえどこか霞んでいく。
部屋の隅では、使用人たちが3人掛かりでベッドのシーツを交換している。淡々とした手つきではあるが、その動きにはほんの少しの疲れが見えた。彼らはこれが日常であることに慣れているのかもしれない。
「まだ愛されたりないようですね。」
ユリドレが口元に柔らかな笑みを浮かべながら、わざとらしく低い声でそう囁いた。その瞬間、使用人たちの動きがピタリと止まる。背筋を伸ばし、互いに目線を交わしているが、口を挟むことなど当然できるはずもない。
(またシーツを替えることになったら困る、という顔ね…。)
私は内心苦笑いしつつも、彼らの心情を察することができた。何度も経験しているであろうこのシチュエーションに、さすがに彼らも神経を使っているのだろう。
「いえ、もう少しだけ休ませてください。」
私は慌ててユリドレに訴えた。その言葉に、彼はしばらく私を見つめた後、視線を使用人たちに向けた。彼らの表情にはわずかに安堵の色が浮かんでいる。
「問題ない。一緒に湯浴みをする予定だ。」
ユリドレがさらりと言い放つ。その言葉に、使用人たちが一斉にホッとしたような空気を漂わせた。彼らの肩がわずかに落ちるのが見える。
だが、心を乱されたのは私だった。
「えぇ!?」
思わず声を上げてしまい、顔が熱くなるのを感じた。湯浴みを「一緒に」と言われた瞬間、全身に走る羞恥心を隠しきれない。
(ほんとに一緒に入る気!?どうかしてるわ…。)
ユリドレはその反応を楽しむかのように、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。その瞳には、私の困惑をもっと見ていたいという意地悪な輝きが宿っている。
「メイ、顔が真っ赤ですよ。」
「当たり前です!」
彼の言葉に反論するが、腕に力が込められ、抱き寄せられる。耳元で小さく囁く声がさらに私を追い詰める。
「大丈夫です。俺が全部洗って差し上げますから。」
その囁きに、私は思わず目を見開いた。彼の余裕たっぷりの態度に、抵抗する気力さえ奪われそうになる。
(…やれやれ。どうしてこうなるのかしら。)
使用人たちが慎重に部屋を後にする中、ユリドレは私の頬にそっと口づけを落とし、そのまま私をさらに深く抱き寄せてきた。やがて、彼の視線が浴室の方へと向けられたのを察して、私は小さくため息をついた。
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