囚われの公爵と自由を求める花~マザコン公爵は改心して妻を溺愛する~

無月公主

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27.パパと呼ばれる重み

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昼下がり、サクレティアはいつものように執務机に向かって書類の山を片付けていた。そこへ、王宮からの使者が入室し、パーティーの招待状を手渡された。封筒を開けて目を通すと、彼女はすぐにクレノースの方を振り返り、ソファーに座ってキースをあやしている彼に声をかけた。

「クレノ、王宮からパーティーの招待状が届いたわよ!」

すると、クレノースはキースを見つめながら、ややのんびりした口調で答えた。「あぁ……もうそんなシーズンですか。」

その一言にサクレティアは一瞬固まり、驚きながらペンを置いてクレノースに向き直った。「えっ?パーティーシーズンって、そんなの早く教えてよ!どうして今まで黙ってたの!?」

焦りと不安が一気に込み上げたサクレティアの様子に、クレノースは一気に血の気が引いたかのように顔を真っ赤にして、ソファーから飛び上がるように立ち上がった。「す、すみません!お許しください、サクレティア様!」と大慌てで謝る。

「ちょっと待って、クレノ!もう少し冷静に!」

クレノースは焦ったまま必死に言い訳をし始めた。「その……マダムティーホップが専属でついておりますので、余裕を持っておりました……パーティー準備に問題はないかと……」

「えっ、そりゃ助かるけど、だからってもう少し早く言ってよ!」と、サクレティアは呆れたようにため息をつきながらクレノースを見た。

「本当にすみません、サクレティア様……!」と、クレノースはさらに深々と頭を下げ、ひたすら謝罪するばかりだった。

サクレティアは、そんな彼を見て苦笑しながら「もう、クレノ、謝りすぎよ」と軽く笑いかけたその瞬間――

「パパ!」と、突然キースの小さな声が響いた。

サクレティアは一瞬、自分の耳を疑った。「え?今、何て……?」彼女は驚きで言葉を失い、キースを見つめた。

「パパ!パパ!」キースが何度も繰り返し、嬉しそうに笑顔を浮かべていた。

サクレティアとクレノースは互いに顔を見合わせ、驚きの表情を隠せない。「キースが……『パパ』を覚えたんだ……」と、サクレティアは感動で胸がいっぱいになり、ソファーに座ってキースをぎゅっと抱きしめた。

一方、クレノースはその場で呆然と床に座り込み、ただキースを見つめていた。涙が彼の頬を伝って落ち、彼は何も言えないままその場に座り続けた。

「ク、クレノ?大丈夫?」サクレティアは心配そうに彼に声をかけたが、クレノースはそのまま涙を流し続け、愛おしそうにキースを見つめていた。

「……パパって……」クレノースは震える声でようやく口を開き、「キースが……僕のことを……パパと呼んだ……」と、感激に満ちた瞳でキースを見つめていた。


サクレティアは、クレノースの涙を拭う姿を見ながら、優しく微笑んで彼の手を握りしめた。

「クレノ、あなたがそんな風に感情に振り回されていたら、キースも同じようになっちゃうわよ。しっかりとお父さんらしく、堂々としてなきゃ。それに、キースはあなたを見て育つんだから、もっと自信を持って。」

その言葉に、クレノースはハッとし、涙を拭きながら深く頷いた。「……サクレティア様、ありがとうございます。僕、しっかりします……キースのために。」


サクレティアは少し悪戯っぽい笑みを浮かべながら、クレノースに向かって言った。

「じゃあ、私のことを愛称で呼べる? ほら、クレノも少しはリラックスしないとね。」

クレノースは一瞬驚いた表情を浮かべ、次に困惑しつつも真剣な顔つきで考え込んだ。そして、少し緊張しながら、決意を固めたように頷き、ぎこちなく口を開いた。

「……っ!……わかりました。サク……。」

その言葉に、サクレティアは思わず笑いを堪え、クレノースの真面目さに対して愛おしさを感じていた。

その夜、自室に戻ったサクレティアは、椅子にぼんやりと座っているクレノースの姿を見つけた。彼の髪はまだ濡れていて、ナイトローブを羽織ったまま、まるで何かを深く考え込んでいるかのようだった。

「クレノ?」とサクレティアは声をかけた。

クレノースはハッとして振り向き、「…!!サクレティア様…。」と再び崇拝のモードに戻ってしまった。

サクレティアは軽くため息をついて笑いながら、「昼間は普通にサクって呼んでくれたのに。」と指摘した。

クレノースは目を伏せて言った。「二人っきりの間はお許しください。」

サクレティアは首を傾げながらクレノースの髪をタオルで拭いてあげた。「それでどうしたの?ぼーっとしちゃって。髪の毛ちゃんと乾かさないと風邪引くわよ。」

彼は大人しく拭かれていたが、その様子がいつもと違い、サクレティアはふと何かがおかしいと気づいた。「何か悩んでるの?」

クレノースは少し間を置いてから、低い声で語り始めた。「……今日、初めてキースに『パパ』と呼ばれて……あらためて、自分が父親になったんだと実感しました。それが少し怖くて……」

サクレティアは彼の言葉に耳を傾けながら、タオルを握る手を止めた。

「僕は……皆が狂っていると口を揃えている母親に育てられました。そんな僕が、本当に良い父親になれるのか……不安で仕方ないんです。それに……僕の体は、母親によって……汚されています……。こんな体で、父親を名乗っていいのか……」

クレノースは視線を下げ、声がかすれていた。彼の肩には、母親との過去が重くのしかかり、父親としての自分に対する不安が強く表れていた。彼の自信のなさが、サクレティアの胸に痛みを伴って響いた。

サクレティアは静かにタオルを置き、彼の前に膝をついて真剣な瞳で彼を見上げた。

「クレノ……あなたはちゃんと良い父親になれる。キースは、あなたを信じているし、私も信じてる。過去がどうであれ、あなたが今どうするかが大事なのよ。」

クレノースはサクレティアの言葉を聞くと、再び目に涙があふれ出した。彼は静かに、だが止められない涙を流しながら、「サクレティア様……」と声を震わせた。

サクレティアはそんな彼の姿に苦笑しながら、「もう、クレノは本当に泣き虫さんね」と言い、優しく微笑んだ。

彼女はそのまま彼の手をそっと握りながら続けた。「それにね、クレノ……過去の自分が許せないのは、クレノ自身なのよ。私はクレノの過去を、もう許しているわ。それに、あの家から私を救い出してくれたのはクレノなんだもの。私に、自由も与えてくれた。私のほうこそ、クレノース様って崇めないといけないくらいよ。」

サクレティアの柔らかな微笑みと励ましに、クレノースはさらに涙を流し、感謝の念が込み上げてきた。その感情が、彼の中で何かを和らげているのを感じつつも、彼はサクレティアに感謝の言葉を返すことができず、ただ彼女を見つめることしかできなかった。

「ありがとう……ございます…サクレティア様……」

彼の声は涙に滲んでいたが、その瞳には少しの希望が浮かんでいた。サクレティアはそんな彼を見て、再び優しく微笑んだ。
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