囚われの公爵と自由を求める花~マザコン公爵は改心して妻を溺愛する~

無月公主

文字の大きさ
35 / 56

35.発明に潜む危険

しおりを挟む
1週間後、クレノースはようやく見事に復活を果たした。体力はまだ完全に戻り切っていないが、彼の瞳には以前のような強さが戻っていた。



「クレノ、ほんとに大丈夫?」サクレティアは心配そうに彼を見つめながら尋ねた。



クレノースは微笑みながら、ゆっくりと頷いた。「ええ、サクレティア様。おかげさまで……もう問題ありません。」



彼の笑顔は優雅で、崇拝の気持ちがにじんでいたが、サクレティアはどこか不安そうに彼を見つめていた。クレノースはそんな彼女の気持ちを察して、手をそっと彼女の頬を撫でた。



「本当に、大丈夫です。あなたのおかげで……。あなたが看病してくださったからこそ、こうして元気になれました。」



サクレティアはその言葉に安堵したが、同時に内心で何かがざわめいた。《本当に、これで良かったのかしら……》と、自分でも気づかないうちに愛情が芽生えているのを感じながら、サクレティアはそっと微笑んだ。



「なら、いいんだけど……無理はしないでね、クレノ。」



クレノースは優雅に頭を下げ、彼女の心配に感謝の気持ちを込めて微笑んだ。「もちろん、サクレティア様の言う通りにいたします。」



執務に集中しながらも、サクレティアは時折視線を上げ、ソファーに座ってキースをあやしているクレノースを見つめた。その姿は、以前の狂気じみた崇拝者ではなく、穏やかな父親そのものだった。彼女の心の中に、やっと平和が戻ってきたという安心感が広がっていく。



ふと、クレノースが控えめな声で話しかけてきた。「そういえば、僕が床に伏せている間に、あなたは点滴と冷却シートなるものを発明されたそうですね。」



サクレティアは一瞬驚いたものの、すぐに肩をすくめて答えた。「えぇ、まぁね。必要だったから。」



クレノースは優しく微笑みながら、キースを見つめ続けた。「サクレティア様は本当に素晴らしい。これから、また貴族や研究員、医師たちがあなたの発明を求めて殺到してくることでしょう。」



サクレティアはその言葉に少し苦笑し、「うーん、それは困るわね。私はただ、必要なものを作っただけなのに。」と返す。





クレノースはサクレティアの言葉に少し眉をひそめながら、慎重な口調で言葉を続けた。「確かに、あなたの発明は素晴らしい。だけど、その一方で、問題も出てくるかもしれません。新しい技術が広まることで、必ずしも良い結果だけがもたらされるわけではありませんから。」



サクレティアはクレノースの言葉に耳を傾けつつ、少し首をかしげた。「どういうこと?」



クレノースは静かにキースをあやしながら、深く考えるように視線を遠くに向けた。「例えば、点滴の技術が広まれば、それを悪用する者も出てくるかもしれません。医学が進むことで、治療に対する依存が増えたり、弱者を支配するために使われる可能性もある。新しい技術がもたらすのは、必ずしも幸福だけではないんです。力を持つ者がそれをどう扱うかによって、脅威にもなり得る。」



サクレティアはその言葉にハッとし、少し考え込んだ。確かに、技術が広まることの影響は計り知れない。彼女自身の知識が、この世界にどう影響を与えるかについて深く考えたことがなかった。



「たしかに、私はそれをあまり考えていなかったわ。」サクレティアは静かに答えた。「でも、必要な人を助けるために作ったものだし、それが悪用されるかもしれないなんて……」



クレノースは優しく微笑みながら、サクレティアに言葉を返した。「あなたの優しさは、いつも人を救おうとしている。でも、それと同時に、その力を守るために慎重に考え、使い方を管理しなければなりません。僕は、そんなあなたを守るためにも、この技術の危険性についても考えておくべきだと思うんです。」



サクレティアはその言葉に頷き、「そうね。私は作るだけで終わらせず、これからはもっと責任を持たなければいけないわね。」と答えた。





クレノースは少し姿勢を正し、穏やかでありながらも鋭い目つきで、慎重に言葉を選びながらサクレティアに向き直った。



「まず、新しい発明品がどのように使われるかをきちんと監視する仕組みが必要です。君の発明がどれだけ役立つものであっても、管理と教育を疎かにすれば、悪用されるリスクが高まる。」



サクレティアはクレノースの言葉に驚きつつも、真剣に聞いていた。「具体的にはどういう対策を考えているの?」



クレノースはその問いに微笑みつつ、指を軽く顎にあてながら考えをまとめるように話し始めた。「まず第一に、発明品の使用を許可制にすることです。どの機関や個人が使用できるかを厳しく制限し、許可を得た者だけが扱えるようにする。これには、医師や研究者など、適切な知識と倫理観を持った者たちが必要です。」



サクレティアはその意見に頷きながら、「許可制にすれば、確かに乱用を防げるわね。でも、その許可をどう管理するの?」



クレノースはすぐに答えた。「それは僕が取り仕切ります。君の発明に関しては、僕たち公爵家が責任を持って管理し、王国全体に広める際には、王宮の医療機関と協力する。つまり、発明品の取扱者は厳格な審査と教育を受ける必要があります。そして、その教育を受けた者だけが使用できる証明書を発行し、悪用されないように徹底的に監視します。」



クレノースはさらに続けた。「第二に、発明が広まる前に、いかに安全に使うかを徹底的に検証することです。点滴や冷却シートのようなものでも、どのように使用するのが最も安全で効果的かを研究し、しっかりと基準を設ける必要があります。すべての医師が正しい知識を持っているとは限りませんからね。」



サクレティアは目を細めながら、彼の慎重な提案に感心していた。「なるほど。確かに、何も考えずに広めるより、その方が安全ね。でも、そんなに細かいところまで考えてくれてたなんて……ありがとう、クレノ。」



クレノースは微笑み、「僕は、あなたが作り出したものが、この世界にとってどれだけ重要かを知っています。だからこそ、それを正しく扱うための対策を立てることも、僕の責任です。」と言った。



そして最後に、クレノースは少し姿勢を崩しながら優雅に付け加えた。「それともう一つ、発明の取り扱いに関しての契約を作成します。使用者はその契約に署名し、発明品をどう扱うかについての厳しい規則を守ることを誓います。これに違反すれば、厳しい罰則が課される仕組みを整えます。」



サクレティアは彼の完璧な提案に感心しながら、「クレノ…凄い。」と、彼の手を軽く握った。



クレノースは微笑みながら、「僕がいつも言っているように、あなたの安全と、発明が正しい形で役立つことが、僕にとって何よりも大切なんです。」と優しく語りかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com
恋愛
 完結しました。 説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。  気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。  原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。  えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!  腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!  私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!  眼鏡は顔の一部です! ※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。 基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。 途中まで恋愛タグは迷子です。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

処理中です...