上 下
6 / 12

◇くりかえしの一日:4◆

しおりを挟む
 当然、そのクソガキが自分からなにかを吐くことはなかった。
 ただ自分たちは正義の味方であって、悪い奴らを退治するためにきたんだと。
 そんなようなことだけ言っていた……ので、俺の出番である。

 椅子に縛りつけられて、能力を封じられた状態のそいつに近づいて、右手を頭に置くと、あからさまにいやそうな顔をされた。
「なんだよ、やっぱりおまえも同じような能力のやつなんじゃないか! 失敗した!」

 悪態をつくクソガキを無視して、俺は自分の能力を発動させる。
 普段は茶色の目が、どうやらこれをつかうときは一瞬青になるらしい。

「え」
 しかし、今度は俺が戸惑うことになった。
 こいつから読み取れるものはようするに――。

 繰り返される暴力と、薬物。
 グレーテルと呼んでいたほうの少女を人質にとられたこいつ、ヘンゼルが、自分自身とグレーテルに能力を使い、自分達をそいつらの仲間だと思いこませたこと。
 逆にそうしなけりゃあ、こいつもグレーテルも殺されるはずだったこと。
 つーかそもそも、こいつらヘンゼルとグレーテルじゃなくて、名前なんかない、捨て子で、兄妹だ。
 ヘンゼルの能力は他人の意識に干渉すること……かなり広範囲に効果がある、グレーテルの能力は植物を操ることと、毒物の生成。
 まぁ、まだこいつはマシなほうだろう、どうせウィリアムはこいつを庇うだろうし。
 だがグレーテルってほうはまずい、やってきたことによっては死罪になっちまう。

「こりゃあおまえ、時間がねーじゃねーの」
 俺が呟くと、うしろでにまにまと笑うレニの声がした。
「ふっふっふー! アズサちゃーん! 敵の本拠地が分かったらあとはもう殴りこみ、時間のあるもないもへったくれもないのよ!」
「いやおまえ、いくらなんでも危なすぎるぞ。つーか「ちゃん」つけんな!」
「こっちには透視能力のアンナさまがましますのよー! ってわけで、さっさと教えてアズサちゃーん、あたしもうここ最近のこの事件のせいでお肌がぼろぼろなの、ぶっとばさなきゃ気がすまないのー」
 うっふふーと気色悪い笑みをうかべるレニに、俺は盛大なため息を吐いた。
しおりを挟む

処理中です...