7 / 12
◇ヘンゼルとグレーテル◆
しおりを挟む
この世にはわるいひとがいっぱいいるのよ!
このあいだ、わたしたちにへんな薬をふりかけてきた黒髪のあのひとだってそうよ。
あのひとを殺しそこねてから、ヘンゼルが帰ってこないもの。
きっとあのひとたちが殺したんだわ。
わるいひとよ、わるいひとよ、わるいひとよ、わるいひとよ。
ユルセナイワ、ユルセナイワ、ユルセナイワ、ユルセナイワ?
だってそうでしょ、わたしたちがなにもわるくないなら、ワルイノハアノヒトタチノホウヨ!
そう、だからきっとね、こんどこそちゃんとやっつけるのよ。
わるいひとは、セイギノミカタに、せいばいされなきゃいけないんだからね!
だからわたし、きちんとコロスからね! マッテテねヘンゼル!
……。
そこは港のはずれにある倉庫で、俺はひしひしと嫌な予感を感じていた。
いやさ、海がぶくぶくいってるのはなんだ?
あきらかにそこになんかあるよな?
……とか、思ってたらやっぱ、海の中からざばざば音をたててばかでかい海藻がでてきやがった。
「うぉお……植物ってか、それ植物か?」
俺があっけにとられていると、横でレニがいやいやそうに言った。
「うわっ、最悪! 生臭くなるじゃない!」
「そっちか!」
生臭いとかそういう問題じゃあねーだろ! とつっこんだところで意味はない。
とにかくまずはこの海藻をなんとかしないと。
「っていうわけでこのぬるぬるしてて臭そうなやつはアズサに任せるから!」
「はぁ? 一人でつっこむ気かレニ!」
「あたしはへーき、まっかせてーっ!」
ぱっと消えてしまったレニの姿。
「いや! おまえの心配じゃねーよ? ガキのほう?」
俺の叫び声だけがむなしく響く閑散とした港。
レニはなにかと加減ってものを知らない。
最悪ガキの腕か足が二、三本はバキッといくんじゃねーかと、俺は気が気でなかった。
とにかく急いでそこの海藻ぶっとばして追いつかなければ。
……。
…………。
薄い紫色の長い髪に紫の瞳を持つ少女、グレーテルの居る倉庫のなかは植物で埋もれていた。
「かならず殺さなきゃ、そうすればヘンゼルも帰ってくるのよ、そうよ、そうに決まってるわ」
死んでいると思いながら、彼女は帰ってくるはずだと矛盾したことを呟く。
「誰がよ」
「きゃぁっ」
突然背後にあらわれて、グレーテルの腕を掴んだ女に驚いて悲鳴をあげる。
「な、なにをするのよっ! はなして! はなしてよっ! さわらないで! ワルモノ!」
「いーからおとなしくしてなさいっての! アンタ死罪になりたいわけ?」
しかしグレーテルはレニに抵抗して叫ぶ。
「いやっ! いやいやいやいやいやっ! 助けてみんな!」
そのとたん、どかんと音がして倉庫内の植物が異常化しはじめる。
「あーっもう! やっぱこーなんのね! しようのないやつ! アズサに準備してもらっといてせーかいだったわ!」
グレーテルから離れると、レニはナイフにアズサお手製の除草剤を塗って植物たちに切りかかっていく。
このあいだのより改良した、とアズサは言っていたが、おっしゃるとおりで、つぎつぎに植物たちが異音をたてて枯れていく。
「い、いたいっ! いたいいたいたい! やめて! やめてよっ!」
「やめてほしいんならあんたがこれを自分で止めなさいよ!」
「ダメよ! あなたたちを殺してヘンゼルを返してもらうんだから!」
「殺さなくても! あんたがおとなしくしてりゃあ会わせてやるっての?」
ぴたっと植物の動きが止まった。
「え、ほんとう?」
「本当よ、これは嘘じゃないからおとなしく――」
銃声が響いた。
グレーテルの頬を掠めた銃弾は壁にあたり、レニは倉庫の奥から出てきた黒服の男たちに唾を吐き捨てんばかりに表情をゆがめた。
そのなかのリーダー格らしき男が口を開く。
「よぶんなことをしてもらっては困るなぁ、コレは質のいい道具でねえ、できればもう一人も返してもらえたいんだが?」
「……あたしにそんなオモチャが通用するとでも?」
「きみには通用しないかもしれないが、彼女にはどうかな?」
「――ごめんなさいレニ」
銃口をつきつけられたのはアンナで、レニは舌打ちをした。
「オーケー、そっちの要求はなにかしら」
このあいだ、わたしたちにへんな薬をふりかけてきた黒髪のあのひとだってそうよ。
あのひとを殺しそこねてから、ヘンゼルが帰ってこないもの。
きっとあのひとたちが殺したんだわ。
わるいひとよ、わるいひとよ、わるいひとよ、わるいひとよ。
ユルセナイワ、ユルセナイワ、ユルセナイワ、ユルセナイワ?
だってそうでしょ、わたしたちがなにもわるくないなら、ワルイノハアノヒトタチノホウヨ!
そう、だからきっとね、こんどこそちゃんとやっつけるのよ。
わるいひとは、セイギノミカタに、せいばいされなきゃいけないんだからね!
だからわたし、きちんとコロスからね! マッテテねヘンゼル!
……。
そこは港のはずれにある倉庫で、俺はひしひしと嫌な予感を感じていた。
いやさ、海がぶくぶくいってるのはなんだ?
あきらかにそこになんかあるよな?
……とか、思ってたらやっぱ、海の中からざばざば音をたててばかでかい海藻がでてきやがった。
「うぉお……植物ってか、それ植物か?」
俺があっけにとられていると、横でレニがいやいやそうに言った。
「うわっ、最悪! 生臭くなるじゃない!」
「そっちか!」
生臭いとかそういう問題じゃあねーだろ! とつっこんだところで意味はない。
とにかくまずはこの海藻をなんとかしないと。
「っていうわけでこのぬるぬるしてて臭そうなやつはアズサに任せるから!」
「はぁ? 一人でつっこむ気かレニ!」
「あたしはへーき、まっかせてーっ!」
ぱっと消えてしまったレニの姿。
「いや! おまえの心配じゃねーよ? ガキのほう?」
俺の叫び声だけがむなしく響く閑散とした港。
レニはなにかと加減ってものを知らない。
最悪ガキの腕か足が二、三本はバキッといくんじゃねーかと、俺は気が気でなかった。
とにかく急いでそこの海藻ぶっとばして追いつかなければ。
……。
…………。
薄い紫色の長い髪に紫の瞳を持つ少女、グレーテルの居る倉庫のなかは植物で埋もれていた。
「かならず殺さなきゃ、そうすればヘンゼルも帰ってくるのよ、そうよ、そうに決まってるわ」
死んでいると思いながら、彼女は帰ってくるはずだと矛盾したことを呟く。
「誰がよ」
「きゃぁっ」
突然背後にあらわれて、グレーテルの腕を掴んだ女に驚いて悲鳴をあげる。
「な、なにをするのよっ! はなして! はなしてよっ! さわらないで! ワルモノ!」
「いーからおとなしくしてなさいっての! アンタ死罪になりたいわけ?」
しかしグレーテルはレニに抵抗して叫ぶ。
「いやっ! いやいやいやいやいやっ! 助けてみんな!」
そのとたん、どかんと音がして倉庫内の植物が異常化しはじめる。
「あーっもう! やっぱこーなんのね! しようのないやつ! アズサに準備してもらっといてせーかいだったわ!」
グレーテルから離れると、レニはナイフにアズサお手製の除草剤を塗って植物たちに切りかかっていく。
このあいだのより改良した、とアズサは言っていたが、おっしゃるとおりで、つぎつぎに植物たちが異音をたてて枯れていく。
「い、いたいっ! いたいいたいたい! やめて! やめてよっ!」
「やめてほしいんならあんたがこれを自分で止めなさいよ!」
「ダメよ! あなたたちを殺してヘンゼルを返してもらうんだから!」
「殺さなくても! あんたがおとなしくしてりゃあ会わせてやるっての?」
ぴたっと植物の動きが止まった。
「え、ほんとう?」
「本当よ、これは嘘じゃないからおとなしく――」
銃声が響いた。
グレーテルの頬を掠めた銃弾は壁にあたり、レニは倉庫の奥から出てきた黒服の男たちに唾を吐き捨てんばかりに表情をゆがめた。
そのなかのリーダー格らしき男が口を開く。
「よぶんなことをしてもらっては困るなぁ、コレは質のいい道具でねえ、できればもう一人も返してもらえたいんだが?」
「……あたしにそんなオモチャが通用するとでも?」
「きみには通用しないかもしれないが、彼女にはどうかな?」
「――ごめんなさいレニ」
銃口をつきつけられたのはアンナで、レニは舌打ちをした。
「オーケー、そっちの要求はなにかしら」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる