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第2章 クラウスと国家動乱
40 アリシアの居場所と正体
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バルツァーから情報を仕入れた後、全員の聞き取りを終え、近くの村に行っては説明して聞き取りを行い、また情報を仕入れる、を繰り返した。
日が暮れて辺りの様子が分からなくなると、クラウス達は野営を始めた。まずはテントを張ろうと荷物を出して、クラウスは気付いた。準備されたテントは2つ。
「お前達二人は同じテントなのに、何故私だけ別なんだ。私も仲間に入れろ。寂しいだろうが」
「気色悪い事言わないで下さい。将軍が一人用テントなのはいつもの事じゃないですか」
クラウスの苦情に、クリューガーが面倒臭そうに言い返す。
「それは大人数の時だろう。人数が少ない時は荷物と作業量を減らすために同じテントで良いと言ったはずだ」
「それは副将のような、地位の高い方々限定です。我々のような下っ端が将軍と同じテントに並んで雑魚寝なんて、こちらの気が休まりませんよ」
「・・・」
気が休まらないと言われては、何も言い返せない。相変わらずクリューガーは遠慮なくクラウスに物を言う。そんなところもクラウスは気に入っているので、余計に言い返せなかった。
仕方なく了承して食事をしながら明日の予定を話し合うと、クラウスは一人テントに入る。
「・・・」
一人にしてはやたら広く、なんとなく寒々しさまで感じる。
(わざわざ大きいテントにして・・・全く)
クリューガーはあんな事を言っていたが、本当のところは気を使ってくれたのだ。その分荷物が増えて大変だというのに、何日かかるか分からない調査で、少しでもクラウスが居心地良く過ごせるように。気が休まらないのも本当だろうが、クリューガーとアーレントの気遣いに笑みが漏れた。
(ま、一人テントの方が確かにやりやすいがな)
クラウスは荷物から世界地図を取り出すと床に広げた。
今日アリシアの居場所が掴めるかもしれない。場所さえ分かれば、この調査を終えた後に向かっても良い。最後に会ってからまだ2日しか経っていないのに、物凄く会いたい。もし会えたら問答無用で抱き締めてしまいそうだ。しかし嫌がられたりしないだろうか。
(ヒュフナーが、顔を真っ赤にしてたって言ってたし、大丈夫だとは思うが・・・)
思い出されるのは最後に会った日。馬車の中でクラウスが感じた事をそのまま口にしたら、アリシアは面白い程顔を赤くさせていた。動揺して反応に困り、最後は顔を覆ってしまった。
(可愛かった)
クラウスはフッと笑みを浮かべる。
実はアレクシスと共にエレオノーラの顔を見に行った時に、エレオノーラに言われたのだ。『クラウスは女避けに慣れすぎなのよ。それもあって気持ちが伝わらないんじゃない?可愛いと思ったら言えばいいの。女は何歳になっても、言われたら嬉しいものなんだから。気色悪い男から言われたら気味が悪いだけだけど、クラウスから言われたら、きっと悪い気はしないわ』と。
少し前にアリシアからも手紙で『公私を分けている』と言われた。なるほど、と自分のこれまでの挙動を見直して納得したのだ。
エレオノーラの部屋を出て王宮内を歩いている時、アレクシスから真剣な顔で『私が可愛いと言ったら気味が悪いと思うか』と聞かれたので、半目になってしまった。『俺に女心が分かると思うのか』と言ったら、半目で『そうだったな』と返された。聞いておいてその反応はないだろう。
エレオノーラに土産でも渡して喜ばせ、アレクシスを慌てさせてやろうか。そんな事を考えながら、クラウスは探索術を放った。しかし予想外な事に、なんの反応も無い。
(・・・変だな。王都から北東エリアは全て、今ので範囲に入ったはずだが・・・)
クラウスは眉を寄せ、地図を眺めながら理由を探す。
(移動したか・・・?)
もしかしたら転移術で再び長距離を飛んだ可能性はあり得る。クラウスはテントから顔を出してハンナを呼んだ。
「ハンナ、レッツェルの居る方角を向け」
方角を合わせた地図の上に立たせて指示を出す。てっきり南か南西を向くと思っていたクラウスは、ますます眉間にシワを寄せた。ハンナは変わらず北東を向いていたのだ。
(どういう事だ・・・?)
ここは既にアリオカル大陸の北東の端に近い。ここから更に北東と言うと街も村もない。あるのは戦線と脱走兵の村くらいだろう。
「・・・」
クラウスはテントを出て、今度はカミルを呼び出した。魔王暗殺の阻止で動いていた時、アリシアがギルベルトへ緊急の連絡をする為に登録しておいたブリフィタだ。
クラウスはハンナを地図上から避けさせ、カミルにも同じ命令を出す。しかし、やはり向く方角は北東だ。
理由は分からないが、ひとまずクラウスは地図に定規を置く。カミルの足元から北東へ線を引いていき、前回の線と交わった場所でクラウスは更に眉を顰めた。
「レブチア大陸・・・?」
何故レブチア大陸で線が交差したのか。地図の向きを間違えたか。今一度方位磁石で確認するが、やはり間違えてはいない。では何故か。しばし地図を凝視していたが、ハンナとカミルがこちらを見上げている姿が視界の端に入った。
「カミル、ギルベルトが居る方角を向け」
まだ地図の現在地に立っているカミルに命令を出す。すると今度は南を向く。
(・・・合ってるな)
線は引かず、定規を当ててみると、ちゃんと王都方面を向いていた。
「ハンナ、カミル、もう一度レッツェルが居る方角を向け」
今度は地図上に2羽を並べ、同時に行う。しかしやはりハンナもカミルも北東を示す。
クラウスは2羽を外に放つと、地図の前にどっかりと座った。
(離れた場所でも確実に手紙を届けられるブリフィタが、間違えてるとは考えにくいが・・・)
前回引いた線を抜きにして考えても、現在地から伸びる線の延長上には、海とレブチア大陸、その更に奥には獣人の国々があるミラディア大陸しかない。
ネックレスは反応しない。ブリフィタは2羽揃って東北東を向く。そして線が交わった地点。そこは精霊神の拠点であり、エルフの里があると聞いている。
(まさか、アリシアがエルフなんてことはないよな)
そんな馬鹿な、と笑いかけてふと止まる。
(いや、待て。エルフは耳が長く、白い肌に金髪碧眼、容姿端麗だと捕虜が言っていたな)
魔国ティナドランが囚えた戦争捕虜。好奇心から時折話を聞きに行っていたのだ。そこでエルフの話も聞いた事があった。
(アリシアの容姿は、体の色が違うだけで、もし肌が白くて金髪碧眼になったら・・・)
耳は長かったし、クラウスも今まで見たことがない程、容姿は整っていた。エルフと言われても納得できる。
アリシアがエルフなら精霊神とも繋がりがあるだろう。精霊神なら体の色素を変えることも、転移術にも納得だ。何せ神なのだから。
(そういえば・・・・・・アリシアはド田舎出身だと言ってたし、確かにレッツェル家は田舎にあった。だが・・・)
クラウスは今になって気付いた。彼女は諜報員だ。情報の取り扱いは非常に優秀であり、パーラーとしても評価が高かった。そんな彼女が本当に田舎出身だとしても、常識を知らないなんて事があるのだろうか。
アリシアはクラウスと話している時にも、知らない事が出てきて戸惑っていることがあった。本人は隠していたし、クラウスも気付いたものの、そのまま流していた。しかし魔国ティナドランで生まれ育ったのなら、当然知ってるはずの常識を知らないようだった。
そんな常識が怪しい魔人を諜報員として普通は送り出さない。しかし、もしアリシアが言っていた『あの方』がエルフだとしたら。精霊神ならば。彼らは魔国ティナドラン内を知らない。だからこそ、能力の高いアリシアを送ってきたのだろう。
(アリシアの報告書の書き方も、俺の知っているものとは違っていた)
クラウスは魔国ティナドランの政務にも携わっている。国の中心で様々な書類を見てきた。もちろん軍部の書類もだ。それでも見たことのない書式。あれは人類連合側のものなのか。
コーヒーも人類連合では紅茶と同じ程度にありふれた物だと捕虜から聞いていた。ならばコーヒーの知識も紅茶と同じくらい手に入りやすいだろう。
(ちょっと待て・・・アリシアの部屋に忍び込んた時の、あのポーズは)
人類連合の捕虜が神に祈りを捧げるポーズと同じでは無かったか。
あの時疑問に思ったものの、髪を降ろしてラフな格好をしているアリシアから目が離せなかった。触れたい衝動に駆られて近寄った挙げ句、悲鳴をあげられたのだが。
(・・・くそ。あれは本当に失敗だった)
今思い出しても恥ずかしい。29にもなった良い歳の男が、何を衝動的な行動をしているのかと。
クラウスはあの時にアリシアへの気持ちを自覚した。それまでは自分に恋愛を向けてこない安心な相手であり、彼女の淡々とした態度も新鮮なだけだった。
(そういえば・・・幽霊かと思って悲鳴をあげたと言っていたな)
あの頃は仕事中のアリシアしか知らなかったので、いつも凛として動じなさそうなアリシアが、そんな事で悲鳴をあげるなんてと思った。戦場に行けばそんなもの嫌という程見ると言うのに。理由を聞いた時は可愛いと思ってついニヤけてしまった。
(・・・いや違う。そうじゃない。今考えるべきはそこじゃない)
クラウスは額に手を当てて再び思考を戻す。
そうしてクラウスが見てきたアリシアを思い出し、考えれば考える程、次々と合致していく。
ここまで合致するならば、偶然では片付けられない。ブリフィタ達もエルフの里を示している。もう認めるしかない。
(・・・だから、姿を消したのか)
アリシアが人類連合の諜報員だったから。クラウスが魔国ティナドランの将軍だったから。
もしアリシアがクラウスの手を取ったとしても、アリシアの正体が明るみになった時、いくらギルベルトが庇おうとも、クラウスは失脚する。それに魔神エルトナが昨日のようにアリシアを問題無いと言っても、国民は納得しない。アリシアを拘束して尋問を望むだろう。
アリシアはそれを憂いた。近くにいては互いに惹かれる。だから忘れる為に帰った。
「・・・」
クラウスは額に手をつけたまま項垂れた。
(どうする・・・)
このまま諦めずに探して追い求めるか、諦めて忘れるか。
クラウスも学生時代に好きな女子くらい居た。手を繋ぐまでの清いものだが、付き合ったこともある。失恋だってしてきた。今回も同じだろう。諦めろ。これ程身の破滅に繋がる危険な恋愛はないのだから。
理性はそう訴えてくる。一方で感情は諦めたくないと胸を締め付けてきた。
これほど恋しいと思えた相手が今までにいたか。その程度の気持ちだったのか。本当に全て忘れられるのか。
クラウスはアリシアを思い浮かべる。
凛とした姿に目を奪われた。無邪気な笑顔に惹きつけられた。さりげない仕草に魅せられた。彼女との会話は心地よかった。政務に関わる小難しい話にも付いてきた。これほど楽しいと思える異性との会話も経験したことが無かった。知的な面を見せたかと思えば、可愛いの一言で真っ赤になる。そんな彼女を見て無性に抱きしめたい衝動に駆られた。手紙に書いて寄こした『惑わせないで』がどういう意味かと問い詰めたい衝動に駆られ、少しでも何か読み取れないかとアリシアをひたすらに見つめてしまった。泣き顔も綺麗だと思った。流す涙さえも、全て自分に由来するものであって欲しい。
(・・・忘れられるかよ)
こんなに執着した女は初めてだ。だから心が手に入るまで、長期戦になっても構わなかった。
誰にも見せたくない。しかしこれが俺の愛する女だと見せびらかしもしたい。その一方で彼女には他の男を見て欲しくない。そのまま他の男共の視線も気持ちも気付かず、俺の気持ちだけ知っていればいい。
はー、とクラウスは長いため息をついた。額に置いていた手を戻し、項垂れていた頭を持ち上げ、そして考える。
(アリシアを手に入れる方法は一つしかない)
戦争を終わらせれば、可能性はあるだろう。エルフの里まで迎えに行けるか分からないが、今考えたところで先の事は分からない。それなら目の前の事を一つずつクリアしていくしかない。
(幸いギルベルトはずっと終戦を考えてる。俺も終戦には賛成だ。その上俺は終戦の材料となる情報を集めている最中。・・・何かに動かされているかのようだな)
なんとも表現しがたい気分にはなるが、これで道が開けるのなら何でもいい。
(本当にアリシアがレブチア大陸にいるのか確認しながら、調査も急がないとな)
クラウスは地図を見て、線が交わっている地点を見つめた。
日が暮れて辺りの様子が分からなくなると、クラウス達は野営を始めた。まずはテントを張ろうと荷物を出して、クラウスは気付いた。準備されたテントは2つ。
「お前達二人は同じテントなのに、何故私だけ別なんだ。私も仲間に入れろ。寂しいだろうが」
「気色悪い事言わないで下さい。将軍が一人用テントなのはいつもの事じゃないですか」
クラウスの苦情に、クリューガーが面倒臭そうに言い返す。
「それは大人数の時だろう。人数が少ない時は荷物と作業量を減らすために同じテントで良いと言ったはずだ」
「それは副将のような、地位の高い方々限定です。我々のような下っ端が将軍と同じテントに並んで雑魚寝なんて、こちらの気が休まりませんよ」
「・・・」
気が休まらないと言われては、何も言い返せない。相変わらずクリューガーは遠慮なくクラウスに物を言う。そんなところもクラウスは気に入っているので、余計に言い返せなかった。
仕方なく了承して食事をしながら明日の予定を話し合うと、クラウスは一人テントに入る。
「・・・」
一人にしてはやたら広く、なんとなく寒々しさまで感じる。
(わざわざ大きいテントにして・・・全く)
クリューガーはあんな事を言っていたが、本当のところは気を使ってくれたのだ。その分荷物が増えて大変だというのに、何日かかるか分からない調査で、少しでもクラウスが居心地良く過ごせるように。気が休まらないのも本当だろうが、クリューガーとアーレントの気遣いに笑みが漏れた。
(ま、一人テントの方が確かにやりやすいがな)
クラウスは荷物から世界地図を取り出すと床に広げた。
今日アリシアの居場所が掴めるかもしれない。場所さえ分かれば、この調査を終えた後に向かっても良い。最後に会ってからまだ2日しか経っていないのに、物凄く会いたい。もし会えたら問答無用で抱き締めてしまいそうだ。しかし嫌がられたりしないだろうか。
(ヒュフナーが、顔を真っ赤にしてたって言ってたし、大丈夫だとは思うが・・・)
思い出されるのは最後に会った日。馬車の中でクラウスが感じた事をそのまま口にしたら、アリシアは面白い程顔を赤くさせていた。動揺して反応に困り、最後は顔を覆ってしまった。
(可愛かった)
クラウスはフッと笑みを浮かべる。
実はアレクシスと共にエレオノーラの顔を見に行った時に、エレオノーラに言われたのだ。『クラウスは女避けに慣れすぎなのよ。それもあって気持ちが伝わらないんじゃない?可愛いと思ったら言えばいいの。女は何歳になっても、言われたら嬉しいものなんだから。気色悪い男から言われたら気味が悪いだけだけど、クラウスから言われたら、きっと悪い気はしないわ』と。
少し前にアリシアからも手紙で『公私を分けている』と言われた。なるほど、と自分のこれまでの挙動を見直して納得したのだ。
エレオノーラの部屋を出て王宮内を歩いている時、アレクシスから真剣な顔で『私が可愛いと言ったら気味が悪いと思うか』と聞かれたので、半目になってしまった。『俺に女心が分かると思うのか』と言ったら、半目で『そうだったな』と返された。聞いておいてその反応はないだろう。
エレオノーラに土産でも渡して喜ばせ、アレクシスを慌てさせてやろうか。そんな事を考えながら、クラウスは探索術を放った。しかし予想外な事に、なんの反応も無い。
(・・・変だな。王都から北東エリアは全て、今ので範囲に入ったはずだが・・・)
クラウスは眉を寄せ、地図を眺めながら理由を探す。
(移動したか・・・?)
もしかしたら転移術で再び長距離を飛んだ可能性はあり得る。クラウスはテントから顔を出してハンナを呼んだ。
「ハンナ、レッツェルの居る方角を向け」
方角を合わせた地図の上に立たせて指示を出す。てっきり南か南西を向くと思っていたクラウスは、ますます眉間にシワを寄せた。ハンナは変わらず北東を向いていたのだ。
(どういう事だ・・・?)
ここは既にアリオカル大陸の北東の端に近い。ここから更に北東と言うと街も村もない。あるのは戦線と脱走兵の村くらいだろう。
「・・・」
クラウスはテントを出て、今度はカミルを呼び出した。魔王暗殺の阻止で動いていた時、アリシアがギルベルトへ緊急の連絡をする為に登録しておいたブリフィタだ。
クラウスはハンナを地図上から避けさせ、カミルにも同じ命令を出す。しかし、やはり向く方角は北東だ。
理由は分からないが、ひとまずクラウスは地図に定規を置く。カミルの足元から北東へ線を引いていき、前回の線と交わった場所でクラウスは更に眉を顰めた。
「レブチア大陸・・・?」
何故レブチア大陸で線が交差したのか。地図の向きを間違えたか。今一度方位磁石で確認するが、やはり間違えてはいない。では何故か。しばし地図を凝視していたが、ハンナとカミルがこちらを見上げている姿が視界の端に入った。
「カミル、ギルベルトが居る方角を向け」
まだ地図の現在地に立っているカミルに命令を出す。すると今度は南を向く。
(・・・合ってるな)
線は引かず、定規を当ててみると、ちゃんと王都方面を向いていた。
「ハンナ、カミル、もう一度レッツェルが居る方角を向け」
今度は地図上に2羽を並べ、同時に行う。しかしやはりハンナもカミルも北東を示す。
クラウスは2羽を外に放つと、地図の前にどっかりと座った。
(離れた場所でも確実に手紙を届けられるブリフィタが、間違えてるとは考えにくいが・・・)
前回引いた線を抜きにして考えても、現在地から伸びる線の延長上には、海とレブチア大陸、その更に奥には獣人の国々があるミラディア大陸しかない。
ネックレスは反応しない。ブリフィタは2羽揃って東北東を向く。そして線が交わった地点。そこは精霊神の拠点であり、エルフの里があると聞いている。
(まさか、アリシアがエルフなんてことはないよな)
そんな馬鹿な、と笑いかけてふと止まる。
(いや、待て。エルフは耳が長く、白い肌に金髪碧眼、容姿端麗だと捕虜が言っていたな)
魔国ティナドランが囚えた戦争捕虜。好奇心から時折話を聞きに行っていたのだ。そこでエルフの話も聞いた事があった。
(アリシアの容姿は、体の色が違うだけで、もし肌が白くて金髪碧眼になったら・・・)
耳は長かったし、クラウスも今まで見たことがない程、容姿は整っていた。エルフと言われても納得できる。
アリシアがエルフなら精霊神とも繋がりがあるだろう。精霊神なら体の色素を変えることも、転移術にも納得だ。何せ神なのだから。
(そういえば・・・・・・アリシアはド田舎出身だと言ってたし、確かにレッツェル家は田舎にあった。だが・・・)
クラウスは今になって気付いた。彼女は諜報員だ。情報の取り扱いは非常に優秀であり、パーラーとしても評価が高かった。そんな彼女が本当に田舎出身だとしても、常識を知らないなんて事があるのだろうか。
アリシアはクラウスと話している時にも、知らない事が出てきて戸惑っていることがあった。本人は隠していたし、クラウスも気付いたものの、そのまま流していた。しかし魔国ティナドランで生まれ育ったのなら、当然知ってるはずの常識を知らないようだった。
そんな常識が怪しい魔人を諜報員として普通は送り出さない。しかし、もしアリシアが言っていた『あの方』がエルフだとしたら。精霊神ならば。彼らは魔国ティナドラン内を知らない。だからこそ、能力の高いアリシアを送ってきたのだろう。
(アリシアの報告書の書き方も、俺の知っているものとは違っていた)
クラウスは魔国ティナドランの政務にも携わっている。国の中心で様々な書類を見てきた。もちろん軍部の書類もだ。それでも見たことのない書式。あれは人類連合側のものなのか。
コーヒーも人類連合では紅茶と同じ程度にありふれた物だと捕虜から聞いていた。ならばコーヒーの知識も紅茶と同じくらい手に入りやすいだろう。
(ちょっと待て・・・アリシアの部屋に忍び込んた時の、あのポーズは)
人類連合の捕虜が神に祈りを捧げるポーズと同じでは無かったか。
あの時疑問に思ったものの、髪を降ろしてラフな格好をしているアリシアから目が離せなかった。触れたい衝動に駆られて近寄った挙げ句、悲鳴をあげられたのだが。
(・・・くそ。あれは本当に失敗だった)
今思い出しても恥ずかしい。29にもなった良い歳の男が、何を衝動的な行動をしているのかと。
クラウスはあの時にアリシアへの気持ちを自覚した。それまでは自分に恋愛を向けてこない安心な相手であり、彼女の淡々とした態度も新鮮なだけだった。
(そういえば・・・幽霊かと思って悲鳴をあげたと言っていたな)
あの頃は仕事中のアリシアしか知らなかったので、いつも凛として動じなさそうなアリシアが、そんな事で悲鳴をあげるなんてと思った。戦場に行けばそんなもの嫌という程見ると言うのに。理由を聞いた時は可愛いと思ってついニヤけてしまった。
(・・・いや違う。そうじゃない。今考えるべきはそこじゃない)
クラウスは額に手を当てて再び思考を戻す。
そうしてクラウスが見てきたアリシアを思い出し、考えれば考える程、次々と合致していく。
ここまで合致するならば、偶然では片付けられない。ブリフィタ達もエルフの里を示している。もう認めるしかない。
(・・・だから、姿を消したのか)
アリシアが人類連合の諜報員だったから。クラウスが魔国ティナドランの将軍だったから。
もしアリシアがクラウスの手を取ったとしても、アリシアの正体が明るみになった時、いくらギルベルトが庇おうとも、クラウスは失脚する。それに魔神エルトナが昨日のようにアリシアを問題無いと言っても、国民は納得しない。アリシアを拘束して尋問を望むだろう。
アリシアはそれを憂いた。近くにいては互いに惹かれる。だから忘れる為に帰った。
「・・・」
クラウスは額に手をつけたまま項垂れた。
(どうする・・・)
このまま諦めずに探して追い求めるか、諦めて忘れるか。
クラウスも学生時代に好きな女子くらい居た。手を繋ぐまでの清いものだが、付き合ったこともある。失恋だってしてきた。今回も同じだろう。諦めろ。これ程身の破滅に繋がる危険な恋愛はないのだから。
理性はそう訴えてくる。一方で感情は諦めたくないと胸を締め付けてきた。
これほど恋しいと思えた相手が今までにいたか。その程度の気持ちだったのか。本当に全て忘れられるのか。
クラウスはアリシアを思い浮かべる。
凛とした姿に目を奪われた。無邪気な笑顔に惹きつけられた。さりげない仕草に魅せられた。彼女との会話は心地よかった。政務に関わる小難しい話にも付いてきた。これほど楽しいと思える異性との会話も経験したことが無かった。知的な面を見せたかと思えば、可愛いの一言で真っ赤になる。そんな彼女を見て無性に抱きしめたい衝動に駆られた。手紙に書いて寄こした『惑わせないで』がどういう意味かと問い詰めたい衝動に駆られ、少しでも何か読み取れないかとアリシアをひたすらに見つめてしまった。泣き顔も綺麗だと思った。流す涙さえも、全て自分に由来するものであって欲しい。
(・・・忘れられるかよ)
こんなに執着した女は初めてだ。だから心が手に入るまで、長期戦になっても構わなかった。
誰にも見せたくない。しかしこれが俺の愛する女だと見せびらかしもしたい。その一方で彼女には他の男を見て欲しくない。そのまま他の男共の視線も気持ちも気付かず、俺の気持ちだけ知っていればいい。
はー、とクラウスは長いため息をついた。額に置いていた手を戻し、項垂れていた頭を持ち上げ、そして考える。
(アリシアを手に入れる方法は一つしかない)
戦争を終わらせれば、可能性はあるだろう。エルフの里まで迎えに行けるか分からないが、今考えたところで先の事は分からない。それなら目の前の事を一つずつクリアしていくしかない。
(幸いギルベルトはずっと終戦を考えてる。俺も終戦には賛成だ。その上俺は終戦の材料となる情報を集めている最中。・・・何かに動かされているかのようだな)
なんとも表現しがたい気分にはなるが、これで道が開けるのなら何でもいい。
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