落月後宮溺愛譚~救国の兎、皇帝陛下の寵妃となる~

あかね真凛

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15 あたたかな食卓

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「食事は摂っているのか」
「え?」

 突然、問われて固まる。
 宇辰様は言葉足らずだったことに気づいたのか、あー、と咳払いしてから続けた。
 
「そなたを抱き上げた時、あまりの軽さに本物の兎かと思ったくらいだ。食の細さを誇る妃は多いが、正直言うと、何が誇らしいのかわからん。だから遠慮せず食べるように」
「は、はあ。心がけます」

 そう言われても、私のところまで来る食事は、高位のお方が口にするものと同じではない。
 切れっ端の野菜が浮かんでいるものがほとんどだ。
 水菓子なんて、口にしないまま何ケ月経っただろう。

「月鈴?」
「あっ、いえ、失礼しました。お心遣い、有難く」
 
 貧相な食卓を思い出してげんなりしたところに、宇辰様の麗しいご尊顔を拝して目がくらむ。
 この夜空のような瞳でお腹が膨れたら、どんなに素晴らしいだろう……


「こ、これは」

 泉から帰るなり、食欲を誘う香りが待っていた。
 豪勢な食卓が部屋いっぱいに設えられて、先ほどと違った意味で目がくらむ。

「どうした、眺めていても腹は膨れんぞ」
 
 目の前に並べられた皿の数々をぼかんと眺めていると、宇辰様が椅子を引いた。
 座るように促されていると気づいて血の気が引く。
 
 恐れ多くも皇帝陛下に椅子を引かせるなんて!

「あ、ああ、あの」
「早く座れ。そなたのために用意させたのだ」

 これ以上、突っ立っているのは悪手でしかない。

「し、失礼します」

 浅く腰かけて、もう一度食卓を見渡す。
 ほかほかと湯気を立てる鍋や、野菜の和え物が盛られた大皿。
 彩り豊かな果実からしたたる蜜は、籠をとろりと輝かせている。

「さ、どれからにする? よそってやろうか」

 取り皿を手にした宇辰様は何故か楽しそうだ。

「じ、自分で取ります!」

 慌てて箸を手に取った。

 どうやら護り兎は皇帝陛下と離れることは許されないらしい。
 自室に戻ることもままならず、なし崩し的に宇辰様の元で過ごす羽目になった。
 入り用なものは揃えてくださるし、どうしても私物でないと駄目なものは、翠花が自室から運んできてくれた。
 
「突然環境が変わって、翠花も面食らったわよね」
「いいえ、ぜんっぜん!」

 心配して尋ねてみたものの、太陽よりも明るい笑顔で否定されて言葉を失った。

「あたし、夢だったんです! 月鈴様が報われて押しも押されもせぬ寵姫になることが! だからもう嬉しくって嬉しくって……ご実家で怯えながら暮らしていた月鈴様のあんなお姿、もう拝見せずに済むと思うと力が湧いてきます。ああ、陛下と睦まじくされてる今のお姿をこの目に焼き付けて空に写したい! あの御方達も空を眺めて、地団駄踏んで悔しがると良いんだわ!」

 そこらの舞台役者も顔負けな声の張り上げようで、きゅっと指を組んで語りだす翠花。

「ちょ、ちょっと、声が大きいわよ! 陛下に聞かれたら」
「ほう、月鈴はそのように酷い扱いを受けておったのか。差し障りなければ聞かせてはくれぬか、翠花よ」
「陛下!?」
「呼び方が戻っているぞ」

 神出鬼没な陛……宇辰様に目を丸くしている間に、宇辰様と翠花の間で何らかの意思疎通が成ったらしい。
 
「わっかりましたあ! 陛下の仰せですもの、遠慮なく!」
「うむ、良い返事だ」
「ありがとうございます! 構いませんよね、月鈴様。まずですね──」
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