15 / 17
15 あたたかな食卓
しおりを挟む
「食事は摂っているのか」
「え?」
突然、問われて固まる。
宇辰様は言葉足らずだったことに気づいたのか、あー、と咳払いしてから続けた。
「そなたを抱き上げた時、あまりの軽さに本物の兎かと思ったくらいだ。食の細さを誇る妃は多いが、正直言うと、何が誇らしいのかわからん。だから遠慮せず食べるように」
「は、はあ。心がけます」
そう言われても、私のところまで来る食事は、高位のお方が口にするものと同じではない。
切れっ端の野菜が浮かんでいるものがほとんどだ。
水菓子なんて、口にしないまま何ケ月経っただろう。
「月鈴?」
「あっ、いえ、失礼しました。お心遣い、有難く」
貧相な食卓を思い出してげんなりしたところに、宇辰様の麗しいご尊顔を拝して目がくらむ。
この夜空のような瞳でお腹が膨れたら、どんなに素晴らしいだろう……
「こ、これは」
泉から帰るなり、食欲を誘う香りが待っていた。
豪勢な食卓が部屋いっぱいに設えられて、先ほどと違った意味で目がくらむ。
「どうした、眺めていても腹は膨れんぞ」
目の前に並べられた皿の数々をぼかんと眺めていると、宇辰様が椅子を引いた。
座るように促されていると気づいて血の気が引く。
恐れ多くも皇帝陛下に椅子を引かせるなんて!
「あ、ああ、あの」
「早く座れ。そなたのために用意させたのだ」
これ以上、突っ立っているのは悪手でしかない。
「し、失礼します」
浅く腰かけて、もう一度食卓を見渡す。
ほかほかと湯気を立てる鍋や、野菜の和え物が盛られた大皿。
彩り豊かな果実からしたたる蜜は、籠をとろりと輝かせている。
「さ、どれからにする? よそってやろうか」
取り皿を手にした宇辰様は何故か楽しそうだ。
「じ、自分で取ります!」
慌てて箸を手に取った。
どうやら護り兎は皇帝陛下と離れることは許されないらしい。
自室に戻ることもままならず、なし崩し的に宇辰様の元で過ごす羽目になった。
入り用なものは揃えてくださるし、どうしても私物でないと駄目なものは、翠花が自室から運んできてくれた。
「突然環境が変わって、翠花も面食らったわよね」
「いいえ、ぜんっぜん!」
心配して尋ねてみたものの、太陽よりも明るい笑顔で否定されて言葉を失った。
「あたし、夢だったんです! 月鈴様が報われて押しも押されもせぬ寵姫になることが! だからもう嬉しくって嬉しくって……ご実家で怯えながら暮らしていた月鈴様のあんなお姿、もう拝見せずに済むと思うと力が湧いてきます。ああ、陛下と睦まじくされてる今のお姿をこの目に焼き付けて空に写したい! あの御方達も空を眺めて、地団駄踏んで悔しがると良いんだわ!」
そこらの舞台役者も顔負けな声の張り上げようで、きゅっと指を組んで語りだす翠花。
「ちょ、ちょっと、声が大きいわよ! 陛下に聞かれたら」
「ほう、月鈴はそのように酷い扱いを受けておったのか。差し障りなければ聞かせてはくれぬか、翠花よ」
「陛下!?」
「呼び方が戻っているぞ」
神出鬼没な陛……宇辰様に目を丸くしている間に、宇辰様と翠花の間で何らかの意思疎通が成ったらしい。
「わっかりましたあ! 陛下の仰せですもの、遠慮なく!」
「うむ、良い返事だ」
「ありがとうございます! 構いませんよね、月鈴様。まずですね──」
「え?」
突然、問われて固まる。
宇辰様は言葉足らずだったことに気づいたのか、あー、と咳払いしてから続けた。
「そなたを抱き上げた時、あまりの軽さに本物の兎かと思ったくらいだ。食の細さを誇る妃は多いが、正直言うと、何が誇らしいのかわからん。だから遠慮せず食べるように」
「は、はあ。心がけます」
そう言われても、私のところまで来る食事は、高位のお方が口にするものと同じではない。
切れっ端の野菜が浮かんでいるものがほとんどだ。
水菓子なんて、口にしないまま何ケ月経っただろう。
「月鈴?」
「あっ、いえ、失礼しました。お心遣い、有難く」
貧相な食卓を思い出してげんなりしたところに、宇辰様の麗しいご尊顔を拝して目がくらむ。
この夜空のような瞳でお腹が膨れたら、どんなに素晴らしいだろう……
「こ、これは」
泉から帰るなり、食欲を誘う香りが待っていた。
豪勢な食卓が部屋いっぱいに設えられて、先ほどと違った意味で目がくらむ。
「どうした、眺めていても腹は膨れんぞ」
目の前に並べられた皿の数々をぼかんと眺めていると、宇辰様が椅子を引いた。
座るように促されていると気づいて血の気が引く。
恐れ多くも皇帝陛下に椅子を引かせるなんて!
「あ、ああ、あの」
「早く座れ。そなたのために用意させたのだ」
これ以上、突っ立っているのは悪手でしかない。
「し、失礼します」
浅く腰かけて、もう一度食卓を見渡す。
ほかほかと湯気を立てる鍋や、野菜の和え物が盛られた大皿。
彩り豊かな果実からしたたる蜜は、籠をとろりと輝かせている。
「さ、どれからにする? よそってやろうか」
取り皿を手にした宇辰様は何故か楽しそうだ。
「じ、自分で取ります!」
慌てて箸を手に取った。
どうやら護り兎は皇帝陛下と離れることは許されないらしい。
自室に戻ることもままならず、なし崩し的に宇辰様の元で過ごす羽目になった。
入り用なものは揃えてくださるし、どうしても私物でないと駄目なものは、翠花が自室から運んできてくれた。
「突然環境が変わって、翠花も面食らったわよね」
「いいえ、ぜんっぜん!」
心配して尋ねてみたものの、太陽よりも明るい笑顔で否定されて言葉を失った。
「あたし、夢だったんです! 月鈴様が報われて押しも押されもせぬ寵姫になることが! だからもう嬉しくって嬉しくって……ご実家で怯えながら暮らしていた月鈴様のあんなお姿、もう拝見せずに済むと思うと力が湧いてきます。ああ、陛下と睦まじくされてる今のお姿をこの目に焼き付けて空に写したい! あの御方達も空を眺めて、地団駄踏んで悔しがると良いんだわ!」
そこらの舞台役者も顔負けな声の張り上げようで、きゅっと指を組んで語りだす翠花。
「ちょ、ちょっと、声が大きいわよ! 陛下に聞かれたら」
「ほう、月鈴はそのように酷い扱いを受けておったのか。差し障りなければ聞かせてはくれぬか、翠花よ」
「陛下!?」
「呼び方が戻っているぞ」
神出鬼没な陛……宇辰様に目を丸くしている間に、宇辰様と翠花の間で何らかの意思疎通が成ったらしい。
「わっかりましたあ! 陛下の仰せですもの、遠慮なく!」
「うむ、良い返事だ」
「ありがとうございます! 構いませんよね、月鈴様。まずですね──」
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる