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42.王家の血

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 数日後、カーティスとレイチェルは王城の一室にいた。
 国王夫妻、グリフィンとケイティの姿もあり、六人が揃っている。

「グリフィン、怪我の具合はどうだ?」

 カーティスは穏やかな声で、椅子に座っているグリフィンに問いかけた。

「は、はい……まだ少し痛みますが、大丈夫です。叔父上には、大変なご迷惑を……申し訳……ございません……」

 恐縮しきった様子で、グリフィンは頭を下げる。

「気にするな。お前だけのせいではない。本当に悪いのは……」

 カーティスはそこで言葉を切り、国王に視線を移す。
 国王は苦虫を噛み潰したような顔で、ため息をつく。

「……そなたは崩壊した結界を立て直し、国を守った英雄だ。もはや誰もが、国王にふさわしいのはそなた以外におらんと思っているだろう。グリフィンは廃嫡とし、私も退位するしかあるまい」

 国王の言葉に、グリフィンはびくりと肩を震わせた。

「お、叔父上が国王となることに異論はございません。ですが……儀式の時、どうして僕では駄目だったのですか? 叔父上ほどではないとはいえ、僕だって高貴な王家の血筋です。儀式を成功させる可能性も、あったのではないのですか?」

 グリフィンは悲痛な面持ちで問いかける。
 そんな彼に、カーティスは少し困ったような顔をした。そして、何かを思案しながら口を開きかけるが、国王がそれを遮って答える。

「無理だ。なぜなら、お前は私の子ではないからだ」

 国王の言葉に、その場にいた全員が息をのんだ。

「え……?」

 グリフィンは驚きの声を上げると、目を見開いて国王を見つめる。彼は顔面蒼白になりながら、震える声で問いかけた。

「そ……そんな……そんなことって……」

「嘘ではないぞ。なあ、王妃」

 国王に話を振られ、王妃は顔面を蒼白にして震える。

「そ、そんな……知って……知っていたのですか……!?」

「ああ、知っていたとも。本当の父親が誰かもな」

 国王はそう言うと、暗い笑みを浮かべる。
 王妃は両手で口元を覆い、涙目で国王とグリフィンを交互に見つめた。

「だから、レイチェル嬢をグリフィンに娶らせようと必死だったのだろう? 四大公爵家の直系の血があれば、ごまかせたかもしれんからな」

 国王の言葉に、王妃は言葉を詰まらせる。図星だったようだ。

「そ、そんな……本当に、僕は……父上の子じゃ……ない……」

 グリフィンはそう言うと、椅子から立ち上がり、ふらふらと後ずさる。その顔は血の気を失い、死人のように真っ白になっていた。

「……それならば、誰の子だというのですか……!? 僕の父は……誰なのですか……!?」

「お前の父親は、かつてこの王城で働いていた平民の騎士だ。愚かにも王太子妃に懸想し、子まで孕ませた大馬鹿者だ。しかし、私は妻を愛していた。だから、妻から生まれた子は、我が子とすることにしたのだ」

「な、なんだそれ……そんなの……」

 グリフィンは呆然と呟く。彼の目尻には涙が浮かんでいた。

「僕には……僕の体には、王家の血は一滴も流れていないというのか……!?」

 グリフィンの悲痛な叫びに、その場にいた全員が黙り込んだ。

「嘘だと言ってください! 何かの間違いですよね? 父上! 母上!」

 グリフィンは必死に訴えかけるが、国王夫妻は答えない。彼は力なくうなだれた。
 そのまま、ぶつぶつと何かを呟く。

「はは……僕は高貴な血でも何でもない卑しい存在でありながら、今まで王族として生きてきたというのか……!?」

 グリフィンはそう言うと、自嘲的な笑い声を上げる。

「グリフィン……」

 痛ましそうに、カーティスはグリフィンを見つめる。

「叔父上……いえ、そのような呼び方などおこがましい。僕のような者……この場にいるだけで不敬だ……」

 グリフィンは虚ろな表情で、カーティスに視線を向ける。その目は焦点が合っておらず、今にも倒れそうだった。

「僕は……生きていていい人間じゃない……今すぐに消えてしまいたい……」

 グリフィンの目から涙が一筋流れる。彼はそれを拭うこともせず、ふらふらと窓際に向かって歩いて行く。
 そしてそのまま窓に手をかけると、飛び降りようとした。
 しかしその時、ケイティが慌てて駆け寄ってきて、彼の腕を掴む。

「駄目です! そんなこと……させないから!」

「放せ! 僕はもう生きている意味がないんだ! 生きる価値なんてないんだよ!」

 グリフィンは錯乱したように叫ぶ。ケイティは必死で彼を引き止めた。

「いいえ、駄目です! そんなことは絶対にさせません! 私の……私の愛した人が、みっともなく死ぬのをただ黙って見ているなんて、絶対に嫌!」

 ケイティは叫ぶと、グリフィンを抱きしめる。そして、彼の胸に顔を埋めた。

「お願い……生きてよ……私のために生きてよ! あなたが死んだら、私も死にます! それでもいいの!?」

 ケイティの悲痛な叫びに、グリフィンは言葉を失った。彼は呆然としたまま、ケイティを見つめている。

「お願い……だから……」

 ケイティはそう言うと、涙を流しながらグリフィンを見つめた。

「愛してる……たとえ王家の血を引いていなくても、私はあなたを愛しています」

 ケイティの言葉に、グリフィンの瞳が揺らぐ。彼はしばらく呆然としていたが、やがて嗚咽を上げ始めた。

「うっ……ううっ……」

 グリフィンは肩を震わせ、泣き始める。そんな彼を、ケイティは優しく抱きしめた。
 二人の姿を眺めながら、レイチェルは驚愕に目を見開く。
 これまで二人の間にある真実の愛とやらは、薄っぺらいものだと思っていた。
 少なくとも、ケイティはグリフィンの地位を利用しているだけだろうと考えていた。

 しかし、それは間違いだったようだ。
 ケイティのグリフィンへの愛は本物だった。
 彼女は本気で、心の底からグリフィンを愛しているのだ。

「カーティスさま……二人に……」

 レイチェルはカーティスに、二人に寛大な処置をしてほしいと訴えようとする。
 しかし、それを遮るように国王の声が響いた。

「まったく……この程度で死を選ぼうとするなど、情けない。やはり下賤な血は下賤だな」
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