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第二章
01:魔界の王都は治安が良い
しおりを挟む第二章でございます。再びミラ視点でお送り致します。
十話程ありますが、どうかお付き合いくださいませ♪
※毎回二話ずつ投稿いたしますので、ご注意くださいませ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「なぁルキよ。俺のいる時くらいは自重しようって気はねぇの?」
ウンザリといった顔で苔色の髪をガシガシとかき上げるバアル・ゼブル様。現在序列第二位の魔界人だ。
言いたい事は分かるよ。
何せルキフェル様は、執務室にやって来たゼブル様の前で、私を膝抱っこしたままお茶してるのだから。
「気にするな。ミラは私の傍にいてくれると宣言したのだから我慢する必要はなくなった」
「いや気になるだろうが」
顔を顰めるゼブル様に対して、しれっと茶を飲むルキフェル様。
この前ルキフェル様に一生お側にいます発言をかまして以来、彼の行動が非常に甘くなった。
とにかく私に構い倒し、ところ構わず触れてくる。
嬉しいのだけれど、流石に人前では恥ずかしいと前世の私が悶える。
それでも今までの事を思うと嬉しさの方が勝ち、私はルキフェル様の行動に委ねている状態だ。
「もしかしてミラの記憶が戻ったのか?」
茶菓子を雑にお茶で流し込んだゼブル様が尋ねる。
「まだだ。多少片鱗があったが無理に戻す事はない。別に記憶が戻ろうが戻るまいが変わらない」
私が答える前にルキフェル様が答え、私の頬をするりと撫で付けた。
それに答えるように私がその手に頬を擦り付けると、生温い視線をこちらに向けるゼブル様。
記憶がないことを知っているということは、ゼブル様も以前の私と会っていたのかな。
「ゼブル様は以前の私を知っているのですか?」
「んん~?そりゃな。お前はずっとルキにくっついてたし、その前は魔界に行く度に挨拶交わすくらいは知っていたぞ」
ん?
魔界に行く度に挨拶?
訳が分からず首を捻ると、ルキフェル様は考えなくて良いと言って頭にキスをくれた。
「なんだよ。ルキの天使時代の事すら話してねーのかよ」
呆れた顔で笑うゼブル様の言葉に、この前自分が呟いた熾天使様発言を思い出した。
もしかして、いやもしかしなくてもルキフェル様って堕天した?しかも最高位の熾天使から魔界人になったの?
前世でも有名な堕天使の名前だなぁなんて思っていたけど、まさか本当に堕天使だったなんて思わなかった!
色々尋ねると、ルキフェル様は熾天使から魔界人になり、その名前は先代サタンから授かったという。
…やっぱりか!先代よ、安直すぎるでしょ!
ん、て事はまさかゼブル様もって事はないよね?
「もしかしてゼブル様も先代様からお名前を授かったのですか?」
「おぅ!俺も熾天使だったからな!最初何つったかなー?なんとかゼブブとか名付けられそうになって却下したらこの名前をもらったぞ?」
ベルゼブブ!
私は仰け反りぶっ倒れそうになる自分を奮い立たせた。
前身の名前に変えただけじゃん!先代ー!絶対ノリで名付けたでしょ?
しかもこんな好戦的で魔界人らしい人が元熾天使って、どびっくりだわ。
ゼブル様は苔色の髪色にしなやかな小麦色の筋肉を持ち、整ったお顔をされてはいるが性格が少々荒い。
私のイメージする熾天使とは真逆なんだけど。しかも魔界人らしい巨大な飛膜を持ってるし。天使の羽をどこへやった?
お二人が元熾天使だという事実に過呼吸を起こしそうになりながらも、私は彼らが楽しそうに天使時代の話をしているのを傍で聞いていた。
「ところで何故、魔界人になったのですか?」
単なる好奇心で尋ねた質問に、二人とも一瞬固まる。
だけどすぐにルキフェル様が私を抱き締め、答えてくれた。
「楽しそうだったからだ」
そう言って私に軽くキスをした。
◆
ルキフェル様が甘くなったとは言え四六時中べったり一緒にいる訳でもなく、程良く単独行動も出来る状態の私達。
今日は休日なので街へ買い物に来ていた。
先代サタンが築き上げた王都の街並みは洗練されていて清潔だ。
馬車が走る中央道と歩道がきちんと分かれていて、秩序が保たれた道は安全かつ快適。当然、馬糞も人工スライムによって処理されている。
私は先代の偉業に改めて感動しながら馴染みのパン屋で出来立てクロワッサンを買い、行儀悪く食べながら大通りをプラプラと堪能していた。
暗黙の了解で王都内での戦闘はタブーとされており、小さないざこざはあるものの実に平和で治安もまぁまぁ良い。
少々近道のために路地に入り込んだとて、昼間なら滅多にトラブルはない。
「見つけた!」
「なっ!」
突然、腕を掴まれた私は、路地に連れ込まれてしまった。
今、治安が良いって言ったか?あれは嘘だ。
私は慌てて身構えるも相手の力が強く、戦闘力5のゴミな私はあっさり捕らわれた。
なになに何?ゴミだけど私、魔王の側近よ?
そんな私に手を出す無謀な勇者がいる訳……
いたわ。
見上げるとそこには、見たことのある赤毛の若い男。
「まさかここで出会えると思わなかったよ、ミラちゃん」
そう言ってほんのり頬を赤く染める男は本物の勇者、アレックスだった。
「は?ちょ、アンタ何でここに居るの?どうやって来たの?」
まさかの勇者が魔界に乗り込んで来ていた。
ストーリー通りならミラが魔界門に繋いでやって来る勇者御一行のはずなのに、どうやって渡って来たの?
「ん?『魔界門の鈴』っていうアイテムを入手してやって来たんだよ」
魔界門の鈴。
亜空間魔法を持たないものが鈴を鳴らして魔界門に繋いでもらうためのアイテムだ。
人間界のように門のない場所から帰還するのに使用する。
うぬぬぬっ誰よっ!そんな貴重なアイテム横流しした奴は!鈴は入界管理局が管理しているはずなのに!
所詮は魔界人。
自由な彼らはその辺りはとても緩く、紛失した所で新しく作って帳簿を合わせるのが当たり前だ。
しかも門番は勇者達をなんの疑いもなく魔界へ招き入れて報告もせずスルーしていた訳だ。
……誰が担当か知らないけど、しっかりと報告しておくからね!
魔界人の緩さに苛つきながらも、目の前の勇者をどう躱そうか逡巡する。
「まさか本気で魔王様を退治しに来たって訳?」
「何言ってんだよ。俺達は国の期待を受けてここまでやって来たんだ。それに…」
勇者アレックスはキリと精悍な眼差しで私を見つめて続ける。
「ミラちゃんを救いたい…」
……………要らねー。
何故かアレックスの頭では私が魔王に洗脳されていると勘違いをしているらしく、魔王を倒した暁には私を国に連れて帰ると宣った。
面倒なのでアレックスの精神に干渉してさっさとこの場を立ち去ろう。
そう考え魔法を繰り出すと、バチン!と何かに弾かれる。
「え、なに?」
唖然としていると、アレックスは笑みを浮かべて私を抱き締めた。
「無駄だよミラちゃん。ソフィーが俺に精神干渉させない護りを施してくれてるんだ。彼女の聖魔法は悪魔には破れないよ?」
ぬぅぅ!下位魔界人のクソ雑魚なめくじには聖なる力に太刀打ち出来ぬと?
全くその通りだわ!さすが勇者のパーティーだわっハイスペックな聖女ですこと!天使の加護も厚すぎて祈っただけで消滅しそうよ!
悔しくて歯噛みしながら己の無力さを呪う。
こうなれば魔王討伐の幻覚を見せることも難しいな。どうやってコイツら追い払おうかしら。
そう考えていると、アレックスは私の顎を掬って目を合わせる。
「なぁミラちゃん。君は魔王に騙されてるんだよ。俺と一緒に来いよ」
私を見つめる勇者の目が真っ直ぐすぎてシンドイ。きっと純粋に魔王は悪だと教えられ、国のために遥々やって来たんだろうと思うと何だかもどかしい。
「言っておくけど私は洗脳もされてなければ、魔王様にぞんざいに扱われてもいないわよ?」
「そんな事分からないだろう?ミラちゃんは知らないと思うけどさ、洗脳ってのはされてる側は気付かないんだよ」
いやアレックスよ。憐憫な目を向けるんじゃない。
そんな可哀想な子じゃないし。顔が近いし。
アレックスの私を抱きしめる力が強まると、いきなり唇を塞がれた。
うむっ!
湿った唇が合わさり、慌てて拒否をしようとすると舌が私の口の中に侵入して絡め取られる。
拘束された体はびくともせず、私は一旦抵抗を諦めた。
不本意だけど下手に抵抗するより隙を見せて逃げる方が早いと判断した。
しばらく私との口付けを堪能したアレックスはやっと唇を離し、蕩けた目を向け私に愛を囁く。
「なぁミラちゃん。今からでも遅くはない。俺と一緒に行かないか?」
「そうね。あ、ちょっと待って?服に何か引っ掛かってるわ」
そう言うと彼は腕を開き私を解放したその瞬間、私は空間を歪めた。
「え!ミラちゃん?何だよこれ?」
「何って、アンタが近寄れないように空間を歪ませただけよ?そもそも私がルキフェル様を裏切る訳ないって言ったじゃない。じゃあね!」
「は⁉︎ちょっと待っ…」
焦るアレックスを尻目に、私は転移魔法でその場を去った。
あはは!勇者チョロ♪
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