精霊たちの献身

梅乃屋

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本編

06:六色の精霊たち

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 ミリナが突撃して来た夜はレオナルド殿下の訪問はなかった。
 大方またミリナがレオナルド殿下に泣きついたのだろう。

 でもその夜はそれどころじゃなかった。

 何しろこのフワフワ揺蕩う精霊達の可愛さといったら♡

 彼らはあまり会話が上手ではなく、言うなれば五歳児くらいの子と喋っている感覚だった。

 ミリナの事を聞くと、話しかけられたから近付いたと。
 精霊は自分達の存在が分かる彼女に嬉しくなって、色々と願いを叶えてあげたらしい。
 そして珍しい魂を持つ私にも興味が湧いたので、ここにいると。黒髪の子が教えてくれた。

『おまえもなにかネガイはあるか?』

 黒髪の子が私に問いかけた。

「願いかぁ……何だろうな」
 とりあえず死亡ルート回避が目標だったからな。

『ミリナはレオとナカヨシになることだったぞ』
『闇の子がじょうずにマホウかけたから、ナカヨシになった』
 黄色いぽっちゃり精霊がのんびりした様子で黒髪の子を褒める。

『と、とうぜんだ!』
 照れながら胸を張る、黒髪の子。
 は?
 魔法と?
 この異世界、実は魔法というのは身近ではないが、特定の人間のみ使える。例えば王族とか、魔術師の家系とか僅かな一握りの人間だけだ。

「ちょ、ちょっと待って?魔法?で、闇の子というのは黒髪のあなたのこと?」

『そうだ。おれは闇の子。こっちは光の子』

 黒髪のシュッとした子が闇属性で、こっちのぽっちゃりさんが光属性だと。
 そして闇の子がレオナルド殿下に魔法をかけて惚れさせたと、そういうこと?

 小説の恋愛劇はこの子達の魔法で成り立ったって訳?
 うわぁぁぁ。何それ?
 つまり二人の恋愛はこの黒髪の子の魔法のせいって事になるじゃん?紆余曲折やじれじれ、イチャコラを毎回ときめいて読んでいたのに!
 ………何だか解せぬ。真実って残酷だわ。

 しかもこのぽっちゃりの子が光属性って……なんか思っていた光の精霊と遠い気がする。
 自分のイメージと少々違うが、ぷくぷくほっぺが可愛いのでいいや。

『あーー!なんかおいしそうなモノ食べてるー!』

 いきなり飛び込んできた別の精霊。いま扉すり抜けたよね?
 真っ赤なツンツン頭の精霊だ。察するに火の子だろうが、彼らには壁など障害にはならないのだろう。

 彼に続きワラワラと他の色の子もクッキーに群がって来たので、私はストックのクッキーを全て差し出した。
 たんとお食べ♡

 ムシャムシャと頬張る彼らを見るだけでお腹いっぱいになりそうだ。
 おばあちゃんがご飯を食べる孫を嬉しそうに愛でる気持ちが少しだけ分かった。

 どうやらこの子達の色はそれぞれの属性になっているらしい。

 赤色は火、水色は水。緑は風で、茶色は大地。

 ふふふ。戦隊モノが出来そうだわ♪

 “弱きを助け、悪事を裁く!精霊戦隊、エレメンジャー!!(シャキーン!)”
 脳内でそれっぽいBGMでポージングする精霊達を想像して、萌えた。…愛い♡


「ねぇねぇ、みんなそれぞれ名前は何?」
 そう尋ねると、首を傾げてキョトンとする。

『ナマエって?』
『人間がよぶやつだよ』
『アタシたちにはないわ』

 赤、緑、水色の順で応えてくれた。

 どうやら彼らに固有名詞はない。
 例えば火の子はこの部屋以外にもたくさん居て姿形は違うが、赤色は全員火の子らしい。

 成程、個であり全ってやつだな。
 精霊は自然そのもので、情報は常に共有されているらしい。というか、火は全て火の子なのだろう。

 でもそれだと呼びにくいな。
「私はエヴァよ。火の子は赤いから“レッド”ね」

 そう言うと火の子はブルリと体を震わせ、ぶわりと炎を纏った。

『れっど……?』

 あれ?怒った?もしかして名前とか固有名詞で呼んだらいけない法則とかあったのかしら?

 すると、レッドは勝ち誇ったように部屋を飛び回り、危うく火の粉で本が燃えそうになったのを慌てて止めた。

『オレはれっど!お前はエヴァ!』
 ツンツン赤髪レッドは小さな体で胸を張り、自慢げにその名を叫んだ。良かった、喜んでいるらしい。

 すると他の子達も名前をクレと言うので、それぞれ色の名前を与えると部屋中を飛び回り大騒ぎした。

 そこで問題が発生した。
 大地の子だ。
 私としては是非とも戦隊モノのポージングをしてもらいたいが、茶色は通常無い色だ。
 ぶりっ子担当ピンクが必要不可欠だというのに。

 これは悩む。
 エレメンジャーたるものエレメンピンクは外せない。

 見ると大地の子はクリクリお目目の可愛らしい女の子の姿をしている。
 試しに服の色をピンクに変えられないか聞いてみた。

『色……?かえれるよぉ?なにいろがいいの?』
 うは!軽いな!

「ぜ、是非とも大地の子にはピンク色でお願いしたいの」

 そう言うと彼女はふわりと光を纏わせ、可愛らしいピンク色のローブと髪色に変身した。
 何てファンタジー!

 これで全員揃った!自己紹介ポージングを仕込んでやろう。

『エレメンれっど!(キリっ)』『エレメンぶるぅ!(ツン)』『エレメンぐりん(眼鏡クイっ)』『エレメンいえろ(無)』『エレメンぴんく♡』『エレメンぶらっく……(フッ)』

 六人揃ってー?

『『『精霊戦隊、えれめんじゃー!』』』

 パチパチパチパチ!
 ブラボー!ブーラボー!
 仕込んだ戦隊ポーズが決まり、私は感無量で拍手した。スタンディングオベーションだ!
 素晴らしい!こんな可愛らしい子達が私のふざけたお遊びに付き合ってくれるなんて!
 名前のアクセントが多少違うのは愛嬌だ。それすらも愛い。

 因みにエレメンレッドがリーダーね。

 ブルーはツンデレ女子、グリーンは眼鏡を掛けさせインテリ系に。イエローはもうありのままでぽっちゃりさんで、ピンクは勿論ブリブリのあざと可愛い女の子。
 何よりもブラックが中二病で萌える。

 幼い子の中二病って何でこんなに可愛いのだろう。
 今度とっておきのセリフを吹き込んでやろう。


 なんて遊んでいると、いつの間にか夜は更けていった。


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