マリーゴールド

Auguste

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第42幕 自己陶酔型の狂数学者

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俺はいつも通り、駅の喫煙所で一服してから会社へ向かった。
本当は体調不良を理由に休みたいぐらいなんだが……。




ビルの前に着いたが、パトカーが停まっている。
何かあったんだろうか?
今までの事件が頭をよぎる。
胸騒ぎがした。

エレベーターに乗って4階に上がる間、ただの偶然だと自分に言い聞かす。
きっと他の階だ、自分のところとは無関係だと……。


嫌な予感は的中してしまった。
会社の扉は開いていた。
だが、内側から黄色いテープで通行止めされてる。
覗いてみると、いるのは警察だけで社員は誰もいない。
警察2人がコピー機の近くで何か調べている。
俺はテープを潜り、恐る恐る近づいた。



コピー機近くまで着くと
「スカンク………。」
想像を絶するものだった。
スカンクは全裸だった。
腹から腸が出て、それを首に巻いてる。
いや、巻いてるというより絞められてるみたいだ。
そしてコピー機に顔面を挟んで、顔を印刷されてたみたいだ。
それに身体の傷跡………計算式に見えるが。

もう耐えられない!

「君!何故入ってきているんだ!」
「テープで通行止めされていただろう?」
俺に気づいた警察に注意される。

「す、すみま……」
やばい。
俺は口を塞ぎながら急いでトイレへ向かう。

「ゲェェーーーー」
あまり固形物は取ってないからほぼ水だ。
トイレに豪快に吐いた。

トイレを出ると警察の1人が待っていた。
「勝手に入ってはダメだろう?」
「大丈夫か?」

「はい……なんとか。」

「また猟奇殺人事件だ。勘弁してもらいたいね。」
それは俺も同じだ。
しかも職場で…。
また俺が不仲だった人が殺されて。

エレベーターから誰か降りてきた。
「あっ小山警部補。お疲れ様です。」
小山だ……。

「おつかれさん。」
小山が挨拶しながら俺のところへ来て
「小田さん。あなたにちーーとばかし聞きたいことがあるんで、少しいいですか?」
「今、他の社員の方々は上の階で大鷲が話を聞いてるんで。」
最悪だ。
俺を守ってくれそうな人が不在で小山と2人きりなんて……。

俺らは応接室に行き、取り調べを受けた。
「今回の犠牲者は草尾晃香。」
「この会社の係長で社長の甥みたいですね。」
知ってるよ…。
それでデカい顔して部長も好き放題されてたんだから…。

「これはまた酷い…!。」
「一度殴って気絶させてますな。」
「そして腹を裂いて小腸を取り出しそれで絞殺。」
「コピー機に挟まれて顔面を紙が無くなるまで印刷されてた。」
「こんな感じです。」
また写真を見せてきた。
さっき吐いたばかりなのに……。

俺は目を背ける。

「死亡推定時刻は7月23日の23時頃。」
「この時小田さんは何をしてましたか~?」
嫌な流れだ…。

「家で映画を見てました。」

「ずっと?」

「はい。」

「毎回家にいることが多いですな~。」
「お暇なんですか?」
俺がどう過ごそうと自由だろ…。

「そうですね。特にすることもないので。」

「寂しいですね~。」
このクソオヤジ……。

「草尾さんにはよく嫌味を言われてたんですって?」
「他の社員からお話は聞いてるんですが…。」

「ま、まあ少しだけ……。」

「少し?明らかなパワハラレベルだったと聞いたんですがね~。」
「しかも以前の取り調べの後に、草尾さんを突き飛ばしたとか?」
あいつら……。
今まで見て見ぬふりしてたくせに、こんなときになって言うなんて……。
都合が良すぎる…。
だが何も弁解できない。
事実だからだ。

「私が犯人だと思われて少し揉めてしまって……。」

「なるほど。まぁ草尾さんの気持ちはわからなくもないですが……。」
この野郎……。
一度殴り飛ばしてやりたいぐらいだ。

「ちなみに小田さんは計算好きだったりします?」
スカンクに刻まれていた計算式のことを聞いているんだろう。

「いや……別に。」
数学は好きでも嫌いでもない。
学生時代は文系であまり縁もない。
昔パズルが好きだった程度だ。

「この無数の計算式。」
「計算するのは簡単ですが……。」
「これが何を意味するかわかります?」
「クイズ王小田さん。」
おちょくりやがってこのオヤジ。
しかもまた写真見せてきて……。

ん…?

「これって全部計算すると23になる…。」

「ピンポーーーーーン。」
「流石クイズ王、小田選手!」
殴りたい…。

「そう、全部23になるんですよ。この計算式も色々調べると面白いものが解りましてね…。」
死体の切り傷のどこが面白いんだ…。

「実は計算式だけではなく、年号も掘られてたんですよ。」

「年号?」

「はい。例えば……2012/12/23。」
「これが何の日かわかります?」

「………………。」
10年前?
その時何かあったか?

少し考えたが
「わかりません。」
と答えた。

「おやおや~。クイズ王でもわかりませんか?」

「…………。」
もう馬鹿馬鹿しくなってきた。

「少し騒ぎになったんですけどね~。」
「これはマヤ暦最後の日付です。」
少しだけ聞き覚えがある。 

「確か……人類が滅亡するかもしれないって話ですよね?」

「そうです。」
「まぁ正確には21日から23日のいづれかなんですけどね~。」
わざわざ23を記した年号にしたのか?

「この計算式も何かおかしいと思いませんか?」

見たくないが、写真の計算式を見る。
これは……。
「…………。」
「もしかして……。」
プラスマイナスを抜くと日付になってる?

「ピンポーーン!」
「調子を取り戻してきましたね!小田選手。」
毎度のことだが嫌になってくる。
大鷲と交代してほしい。


「色々と調べてみました。」
「例えばこの1+9+1+2+4+1+5を日付にすると、1912年4月15日でタイタニック号の沈没です。」
「あと2+0+0+1+9+11を日付にすると、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ。」
「1+9+4-5+8+6は1945年8月6日広島への原爆投下………。」
「他にも沢山ありますが、23に関係するのは悲惨な事件等が多いんですな…。」
犯人は何を考えてるんだ?
多くの人が命を失った出来事を計算式にして、死体に刻むなんて……。
許されることではない。
怒りが込み上げてくる。

「他におもしろいことがわかりましてね。」
殺人事件の何が面白いんだ。

「草尾さんの手には定規と電卓が持たれてました。」
「電卓は2と3、定規は2cmと3cmの部分が血の付いた草尾さんの指で塗り潰されてました。」
「あと何故か7の部分にはバツ印が付いてましたね。」
今までの流れだと2と3はわかるが、何故7も……?

「それとこれ。」
小山から渡された紙……。
またあの物語だ……。



自己陶酔型の狂数学者

私は大発見をした。
1つの数字が様々な事柄に結びつくことがわかったのだ。
君に出会えて私は嬉しい。
君の計算式を私の体に掘っておこう。
顔に君のことも掘って。
後世に残せるように私の顔を印刷しておこう。
私の顔と君は多くの人々の目に焼き付くことだろう。


気づいたら君はいなくなっていた。
自分とは違う幸運の数字を探しに行くと手紙を残して。
必ず見つけださなければ。
そんな奴より君のほうが重要なのだ。
幸運の数字なんてあてにならない。

どこへ行ってしまったのか。
助手を連れて私は必死に探し回った。

いつの間にか寒いところに来てしまった。
マフラーが無いから助手に代わりのものを巻いてもらう。

やっと見つけた。
奴といる。

しかし、もう限界だ……。
もう私はここまでのようだ……。
さむいさむい氷の中で……。



「この物語にある通り、草尾さんの顔には大きく23と彫られてました。」
「これは印刷された紙の1番上に置いてあったんですよ。」
「何か心当たりやわかったことはあります?」

「いや……。」
「よくわからないです。」  
毎度のことだが……。

「この寒いところっていうのが意味がわからなくて……。」

「あー。実は社内がクーラーでかなり冷え切っていたんですよ。」
「寒いところで力尽きてしまったと見立てられていると思うんですがね。」

「なるほど……。」
この23にどんな意味があるんだ?

それに幸運な数字って?

「…………」
定規や電卓で2と3が塗りつぶされ、7にはバツマーク………。
もしかして……。

「何かわかりましたか?」

「幸運な数字って7のことを示しているのかなと思いまして……。」
「定規や電卓にバツ印が付いてますし……。」

「そう!流石小田さん。」
「よくお気づきで。」
まるで俺が犯人だからわかったみたいな言い方だ。
言わなきゃよかった。
会社で殺されていて評判悪かったんだから、他にも怪しいやつがいるだろう?

「あの………ちなみに第一発見者って。」
多分あの人だと思うんだが……。

「日東さんですよ。いつも朝早くに来られてるみたいですね。」
「鍵も持ってますし。」
そう……。
鍵を持っていて、出勤時に鍵を開けてるのは日東部長だ。

「日東さんが怪しいと言いたいんですかな?」
「大鷲から聞いてますよ。」
言ってくれたのか。
助かる。

「まあその線でも調べてみますよ。」
「一応ね。」
こいつほんとに腹立つな。

「まあ何かわかりましたら大鷲にでも連絡してください。」 
「あとこんな状態なので会社はしばらくお休みにすると、先程社長さんが仰ってましたよ。」
社長も甥が殺されてるからな。
それどころじゃないだろう。

「わかりました。」
「失礼致します。」
俺は立ち上がり会社を出た。
小山はそのまま応接室室で資料を見ながら、何か考えている様子だった。
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