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第1章・始まりの森

閑話・我が名はボルドー

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父と母には、距離を置かれて育った。
一族の皆にも敬遠された。

子供が母親に聞いているのを見た事があった。

「ねぇ、何で、みんなと毛色が違うの?」

母親は飛び上がり叱りつけた。

「シ!!静かにしなさい! !その事は、聞いちゃいけません。」

一族からは、存在を無視され
親には、名前すら付けてもらえなかった。

そんなある日
突然、胸騒ぎがした。
胸の奥底から湧き上がってくる。
何だろうか?とても、やな感じがする。

しばらくして、一族の住む場に
神の使者が訪れた。

「カーム様がお前を呼んでいる。」

カーム、それは、我々一族の使える風の神の名だ
何故、俺に用があるのだろうか?
使者について、神界へ向かうと
風の神カームではなく
一人の神が待っていた。
主神イレ様、この世界イレベリアの絶対たる存在
そんな彼女が俺に言った。

『あなたに行って欲しい所があります』

何故だ?
とにかく、行ってみればわかると言う。
胸のざわめきの元凶もわかるだろうと

地上に転移して辺りを見渡すが
すぐにある方向に意識が向いた
神に言われた方向だ
何かがあるっと直感がそう告げている。

言われた場所に近づくにつれて胸の高まりが強くなる。
早く着きたいと思い更に足を早める
ひらけた場所の中央が淡い光に包まれている
光の中に横たわっていた。
光に包まれていて、よく見えないが関係なかった。
ヒトだ!人が中に居る。
一目見ただけで目を離せなくなる。
視界がボヤける。
なんだ?涙だ。涙が滲んでくる。
ああ、この人に逢うために自分は生まれて来たのだと実感した。
生きていると分かったら、更に涙が溢れてくる。

一向に光が治まる気配がない。
ある程度で、回復が終わるはずだ
何故だ?
そうだ鑑定だ
この方を鑑定して見ればいい話だった

「鑑定」

・・・。
反応しない⁉︎
まさかな…。
もう一度だ。

「鑑定」

・・不可・・

⁉︎不可⁉︎
不可って何だ⁉︎
しかも、直ぐに消えたぞ!!

いや、いや
鑑定出来ない訳がないハズだ
地上に来る前に、神に与えられた加護と鑑定を含めたスキルは高いんだ。

その後も何度も、試したがやはり鑑定出来なかった。

「ど、どういう事なんだ?」

分からない。
そうこうしていると、突然

『聞こえますか?私は、主神のイレです。神界からあなたに直接呼びかけています。』

これは、神託だ!
念話による神託だった。

『はい。聞こえています。』
『問題なく聞こえているようで、何よりです。この神託は、あなたの疑問に思っている今の事態に対する事を伝えるために使用しています。』

ならば、っと疑問を問うてみる。

『分かりました。イレ様私の鑑定が出来なかったのですが、どうしてでしょうか?鑑定のスキルに問題があるのでしょいか?』
『いいえ、あなたの鑑定は正常に機能しています。』

え?正常に機能していると?
ならば、なぜ鑑定出来ないんだ?

『鑑定出来ないのは、なぜですか?』
『それは、その…なんと言うか…』

うん?しどろもどろしてる?
主神であるイレ様がある筈がないんだが?

『どう言う事ですか?教えて下さい。』
『実は…』

中々、話をしようとしなかったが
しばらくして、観念したのか
詳細を語り始めた。
それは、驚愕。
驚愕の一言に尽きる内容モノだった。
そして、オレは激昂した。

貴方達は神々何をしているんですか!!』
『怒らないで下さい。私達もまさか、こんな事になるとは思ってなかったんです。』

主神であるイレに、吠える理由…

いにしえの戦火によって、神々が禁じた事象コトワリ
それは、の行使…
異世界の住人を無理矢理こちらの世界イレベリアへと呼び出す異世界の住人にしてみれば

まさに悪魔の所業…
何故ならば、のだから

『しかし、禁じたものを行使することに気付かないとは、貴方達はそれでも神ですか?』

呆れて、もう神に威厳なんてあったものではない。
それでも、主神は弁解をする

『私達もまさか、私達の目を欺く程の妨害魔法を使ってまでするとは思えず、こんな事に』

念話の向こうで、オロオロとしているのが分かるが
気にしない。
すでに、目の前で光の膜に包まれたている
このヒトの事しか
自分は、考えられないのだから
鑑定が出来なくても、症状怪我の具合ならば分かる
何故ならば、治療しているはずなのに
鼻に血の匂いが届いてくる
これは、明らかに、状態だ

『とにかく、治療しているのでしょう?それなのに何故、状態が好転しないんです?』
『私にも、分かりません…こんな事は

神に分からない事態⁉︎
マズい!!それは明らかに、マズい!!
神に分からないならば
自分には、どうにも出来る訳がない。

『そんな…ならば、自分はどうすればいいんですか?どうか、この方を助けて下さい。』

何度も何度も、俺は頭を下げ続けた。
両方の目から、涙が流れ落ちるが気にしない。
そんな事は、今どうでもいいんだ!

『分かっています。なんとしても、この事態を抑え込みます。私を始め、神界に居る全ての神の力を注ぎます。』

神界の全ての神々が力を注ぐ。
かつて、そんな事があっただろうか?
世界創世の時に一度だけ、起きただけではないか?

『そして、状態が好転したら、あなたは、直ぐにこの方と契約するのです!!』

契約⁉︎
契約だけで、状態が良くなるのだろうか?

『契約するだけで、大丈夫なんでしょうか?』
『恐らく、あなたにしか出来ません。魂を繋ぎ合せて、この方とあなたを繋げて、状態を留めるのです。』

魂を繋ぐ
それは、失敗すれば、俺はこの方と一緒に死ぬ

『この契約は、あなたの命がかかっています。もちろん拒否してもいいのですよ?』

契約を拒否すること出来る…
しかし、その場合は、この方は死ぬ
俺に選択の余地などなかった。

『いいえ。私は、この方と契約します。例え、この命が尽きようとも構いません。この方が生きていてくれるだけでいいのです。』
『…分かりました。その覚悟しかと受け止めました。この時より、あなたに守護獣の称号を与えます。』

守護獣の称号…
それは、神々の使いであり、主人となる方を生涯にわたって守護する事を使命とするモノの称号
命懸けで、使命を果たす事を意味する

『分かりました。ありがたく頂戴致します。』

そうして、神託は終わった。

しばらくして、光の膜か消えて
待ちに待った方が現れた。
俺は、使命を全うする為に
その方に歩み寄り、話しかけた

そして、その時が来た。

「ボルドー、ボルドーだ。君の名前はボルドーだよ」

主人からの名を頂いた。

この時、俺はやっと名前を得た
誇らしい。

俺の名は、この時から、ボルドーだ

契約守護獣のボルドー
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