【完結】記憶喪失になった伯爵夫人の離婚

有栖多于佳

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可哀想なあなた

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その湖は小さくて、でも涌き出る水は北の山の雪解け水でとても冷たく澄んでいた。
小さな湖の周りをグルッと歩く。
足首が長く固定されていた弊害で、動きが良くないので、少し引きずるような歩き方になってしまったがそんなことは問題ではない。

エレノアは、別荘の反対側の湖畔にそびえ立つ大きな木の下に座り、冷たい水に手を浸けていた。

ここの所ぼんやりしてしまうのには、理由があって、先週末には息子のロバートが結婚していた。
そろそろ爵位を継いで、ロバート・キンバリー伯爵となる頃だ。

あの顔も知らぬ夫は、20年、いや学生時代から数えれば30年を経て、やっと最愛と結婚することが出来るのだ。良かった、のだろうか。
遅きに失したかもしれない。

可哀想なことをした、愛人の彼女は子を持つことはもう出来ないかもしれない。

もっと早く、手を離してあげれば良かったのだけれど。

幼いながらも、自分の置かれている立場を理解していたが故に、騒ぎを起こして、殊更自分に有利な条件を飲ませてしまった。

なんなら、ロバートを産んですぐに離縁してしまっても良かったのだ、まだ前伯爵夫妻が存命だったのだから。
まあ直ぐにマーガレットを孕んでしまったから、その後であっても。

その後は頃合いを見て離縁を申し入れられるように、避妊薬を飲むようになって、彼も契約通りに水木と外泊をするようになって。

あの頃別れてあげられたら、彼は最愛の子を抱けたかもしれないのに。

契約に従っているだけだと、頭では解っていた。
彼に水曜に外泊するのは契約に有るから貴方の権利だと告げたのは私自身だった。

契約書を作った時は、まだまだ子供で、恋に憧れていて誰かの最愛になりたい、最愛の居る人のお飾りなんて絶対に嫌だと思っていたから、アイリーンに言われるまま、態と不仲になるような事柄を入れてそれを理由にして早々に離婚をするはずだったのに。


貴方、演技が上手すぎなのよ。
私のこと愛しているフリが上手くて、お子様で貴方しか知らない私は貴方に夢中になってしまったじゃない。
子供たちも大きくなって、もう少ししたら、もうすぐ、あともう少し。

可哀想な貴方。

田舎の大領地だけだったら、貴方の思った通り領地と爵位を返上して平民になれたのに。
運悪く、運良くかしら、金山が見つかってしまって。
貴方の描いていた未来は、国の介入によって、もしくはハワード家の介入によって、ねじ曲げられて。

貴方の最愛、優秀な平民の彼女だって、女官として王宮で働くはずだったのに。
貴方は平民になっても優秀だったから文官になって、彼女と一緒に共働きでも幸せな家庭を築けたでしょうに。

彼女は登用見送りになり、貴方は領主の道を押し付けられ、いいえ違うわね、領主の道とハワード家の楔を、楔足る私を押し付けられてしまって。
その上、愛情の要求までされて、それをし続けなければ、折角復興を遂げた領地を取られてしまうのだもの、寝る間を惜しんで、私の機嫌を取り続けて、取り続けさせられて。

当初の思惑よりもずっと長く長く、私に囚われてしまって。

可哀想な貴方、どうかお幸せに。
なんて、私に言われたく無いわよね。

結局、領地もハワードの血を引くロバートに取られてしまって、たくさんの金まで巻き上げられて。
さすが商人貴族の娘、業突張りね。
今、王国の社交界じゃ離婚長者って呼ばれているかしら。
きっと、ハワードが手を廻して貴方の評価を下げて、ロバートが継いだキンバリー家と私の評判は落とさないように動いているんでしょうね。
貴方だけが、バカをみたのに。

20年近くも、バカなお子様に夢を見させてきたのにね。

可哀想な貴方。

ごめんなさい、貴方には一生顔向け出来ないわね。
貴方のことを本当に忘れられたら良いのに。
でもそれは逃げなのよね、この苦しい気持ちは私の罪。
貴方を長く苦しめてしまった私の罪。


ここの所、同じことばかりを考えてぼんやりしているから、テラーが心配しているわ。
普通なフリをしてなきゃね、貴方がしていたみたいに。








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