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エピソード1 タバタの半生
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タバタは聖教国の西の帝国との国境に近い村の修道院の門前に生後間もなく捨てられていた。
髪の色は真夏の太陽みたいなオレンジ色で、薄い緑の瞳は蜜柑の若芽のよう。
そこの修道女たちに育てられ、親は知らずとも心優しい修道女たちに大切にされた幼少期であった。
転機があったのは、聖教会の掟どおり七つで魔力測定を行った所微力ながら聖魔力を持ち、光属性であることがわかった時であった。
大陸広しと言えど、魔力を持つものは数千人に一人で、更に光属性の者は国に一人いるかどうかと言われる程稀少であった。
魔力を持つ者の多くは王族か貴族の血筋と言われているが、寧ろ魔力を持つが故に王候貴族となったとも言える。
その血筋に魔力を持たない者が増えれば、それは義務の履行が出来ないので、爵位返上になることもある。
魔力のあるものは、来るべく聖女召喚の儀に必要な魔力を各国の聖教会に奉納する義務があるのだから。
奉納するには、魔石と言われる魔物や瘴気溜まりの土地から採れる汚れた石を聖教会で除染してもらいそれに込めて納めるのだ。
一族に魔力を持たない者が増えれば、奉納することが出来ない。
魔力の高いものは優遇されるし、種の保存に躍起になるのも仕方ないことであった。
その中で更に稀少なのが、光属性の者である。
光属性の者しか聖女の器にはなれないのだ。
聖女召喚の儀の後、その者は聖教国の高位神職者の家系に嫁ぐか、聖教国を取り巻く各国の王族に順番に嫁ぐことになっていた。
但し嫁いだとして、次代へとその属性が引き継がれるかは、正直時の運のようなもの。
だから出自がどうであれ光属性が認められれば、聖教会と各国は争うようにその者を保護し、己の威信にかけて千年に一度のその時に備えるのだった。
そんな稀少な光属性の孤児が見つかったなど、教会としては嬉しい誤算である。
タバタは、辺境の修道院から聖教会の本部へと移され、聖女の器になるべく教育を受けることになったのだ。
それは教会にとっては、また各国にとっても、この世界にとっても素晴らしいニュースだった。
ただ一人、タバタを除いて。
タバタは、教会本部に引き取られた時から清貧を強いられることになった。
朝はまだ暗い頃から5千メートルの山々に積もる雪の雪溶け水を引き込んだ聖池での沐浴に始まり、教会の奥で一人祈り、教義の勉強として聖女の手記を気が遠くなるほどの量を読まされ、自分は聖女の器であることが誇りなのだと刷り込まされた。
それ以外に聖魔力を魔石に詰めたり、聖魔力を使った高位貴族や王族の治療をしたり、教会の権威を高めるために小さな村を巡業したりと休む間もない日々を送った。
聖女の器として清貧であることが求められ、夏でも冬でも服は木綿の神官服に素足に草履であるし、食事は神職であるからとパンと少しの野菜屑の入った薄い塩味のスープ、それと聖池から酌んだ水である。
ちなみに、浸かる場所と飲み水を酌む場所は別にされている、当然である。
元より修道院で育ってきたタバタは決して贅沢はしてきていないのだが、それでも辺境の修道院では修道女が作った手作りのクッキーや蒸かしいもなどのおやつも食べられたし、パンだってスープだって温かくて旨かった。
清貧を叩き込む側の神官たちが、夜隠れてエールやワインを飲みながら骨付き肉をしゃぶっているのを、寒くて空腹が辛くて眠れなかったタバタが、そっと部屋から抜け出して向かった食堂で見た時には、沸き上がる怒りを抑えるのが大変だった。
まあそれからは、夜中に厨房に忍び込んでは、少々肉や芋を拝借したところで心は痛まなくなったし、空腹も無くなった。
神官たちだって、隠しごとなのだから、誰彼に言うことも出来ず、あやふやなまま流されていった。
これ以降タバタは神官なぞ信用に値しないと思うに至り、どうせ聖女召喚までの短い命なのだから適当に過ごそうと、沐浴は洗顔くらいに、祈りの時は居眠りをして時間を有効活用するようになった。
聖女の手記を読むのだけは真面目にしていたが、それは歴代どの聖女も、
『食事があわない』『天丼が食べたい』『ピザを食べたい』なんて食べ物の話が多くあったからだった。
聖女召喚の初めは、実体のまま召喚していたそうで、生活環境全般があわなくて、心神喪失したり、病気にかかったりして直ぐに亡くなってしまったとあった。
聖女さまは身体が弱くてこの世界に合わなかったとかで、魂だけを呼ぶようになった、とか。
亡くなった人の魂を私の中に入れるのなら、私の魂はどうなるのだろう。
タバタはその問いの答えを探して、手記をどれもこれも何回も読んだけれど、器の気持ちやその後については何も残っていなかった。
きっと聖女さまが入ったら、私は無くなって消えちゃうんだろうな、そう思って望んだ聖女召喚の儀であったが、聖女改めメグ様は、
ータバタ、気を強く持ちなさい。何事も気持ちからよ!この身体はあなたの物なのだから、タバタ、あなたが聖女になったのよ。聖女の聖魔力の使い方もあなたが読んでいた手記の記憶から私、理解しちゃったのよ。だから、あなた、それを使いなさいな。嫌な目にあった教会の言うこと聞くことなんて無いのよ。
まず何したい?誰に仕返ししたい?
そう聞いてきた。
え?聖教会の教えの通りに、瘴気を祓って世界を浄化するんじゃないの?
ーしないわよ。なんでしなきゃならないのよ。タバタがしたいなら良いけど、無理すること無いんじゃない?大体自分達でなんとかしないで、異世界の人にや・っ・て・も・ら・お・う・なんて他責思考が過ぎない?タバタも別に大切にしてもらった訳じゃ無いんだし、嫌ならやらなきゃ良いのよ。
メグ様、確かメグ様の世界だと魔法は無かったと手記にあったのですが、魔法使えるのですか?
ーええ、魔法は無かったけど、魔法を扱った物語は溢れていたもの、きっと使えるわ。タバタも学んでいたし、その記憶を辿ったから使えるわよ。手記の通りなら、聖女の魔力はこの大陸中の魔法使い全員の魔力の千倍なんでしょ?無敵じゃない。言いなりになんかならないわ。どうしても手伝いが必要と言うなら、デ・ィ・ー・ル・は、しても良いけどね。
凄い、凄いですメグ様。かつての聖女さまたちと全然違うんですね。
ー私は以前の聖女と年も違うし。タバタは16でしょ?今までの聖女も16歳の子の魂を入れていたみたいだけどなんの手違いか、私、20も上だしね。言いなりになんかならないよ、タバタもならなくて良いからね。
タバタが読んだ手記の聖女たちはみな15、16の少女だった。器の少女も10代の乙女と決まっている。あれかな、私が真面目に沐浴や祈りを捧げなかったからかな?夜中に肉や芋、時々ワインなんかも盗み食いしてたからかな?
ーああ、こんな暮らしばか臭いって思って、色々サボってた結果が私の召喚だったんなら、タバタ良かったじゃない。あなたの人生を取り戻そう!
目覚めた瞬間、結界魔法を展開した新生タバタは、風魔法を使って大陸中に宣言した。
「私は聖タバタ。聖教会を脱会します」
※※※
明日からは朝7時に毎朝更新していきます。
髪の色は真夏の太陽みたいなオレンジ色で、薄い緑の瞳は蜜柑の若芽のよう。
そこの修道女たちに育てられ、親は知らずとも心優しい修道女たちに大切にされた幼少期であった。
転機があったのは、聖教会の掟どおり七つで魔力測定を行った所微力ながら聖魔力を持ち、光属性であることがわかった時であった。
大陸広しと言えど、魔力を持つものは数千人に一人で、更に光属性の者は国に一人いるかどうかと言われる程稀少であった。
魔力を持つ者の多くは王族か貴族の血筋と言われているが、寧ろ魔力を持つが故に王候貴族となったとも言える。
その血筋に魔力を持たない者が増えれば、それは義務の履行が出来ないので、爵位返上になることもある。
魔力のあるものは、来るべく聖女召喚の儀に必要な魔力を各国の聖教会に奉納する義務があるのだから。
奉納するには、魔石と言われる魔物や瘴気溜まりの土地から採れる汚れた石を聖教会で除染してもらいそれに込めて納めるのだ。
一族に魔力を持たない者が増えれば、奉納することが出来ない。
魔力の高いものは優遇されるし、種の保存に躍起になるのも仕方ないことであった。
その中で更に稀少なのが、光属性の者である。
光属性の者しか聖女の器にはなれないのだ。
聖女召喚の儀の後、その者は聖教国の高位神職者の家系に嫁ぐか、聖教国を取り巻く各国の王族に順番に嫁ぐことになっていた。
但し嫁いだとして、次代へとその属性が引き継がれるかは、正直時の運のようなもの。
だから出自がどうであれ光属性が認められれば、聖教会と各国は争うようにその者を保護し、己の威信にかけて千年に一度のその時に備えるのだった。
そんな稀少な光属性の孤児が見つかったなど、教会としては嬉しい誤算である。
タバタは、辺境の修道院から聖教会の本部へと移され、聖女の器になるべく教育を受けることになったのだ。
それは教会にとっては、また各国にとっても、この世界にとっても素晴らしいニュースだった。
ただ一人、タバタを除いて。
タバタは、教会本部に引き取られた時から清貧を強いられることになった。
朝はまだ暗い頃から5千メートルの山々に積もる雪の雪溶け水を引き込んだ聖池での沐浴に始まり、教会の奥で一人祈り、教義の勉強として聖女の手記を気が遠くなるほどの量を読まされ、自分は聖女の器であることが誇りなのだと刷り込まされた。
それ以外に聖魔力を魔石に詰めたり、聖魔力を使った高位貴族や王族の治療をしたり、教会の権威を高めるために小さな村を巡業したりと休む間もない日々を送った。
聖女の器として清貧であることが求められ、夏でも冬でも服は木綿の神官服に素足に草履であるし、食事は神職であるからとパンと少しの野菜屑の入った薄い塩味のスープ、それと聖池から酌んだ水である。
ちなみに、浸かる場所と飲み水を酌む場所は別にされている、当然である。
元より修道院で育ってきたタバタは決して贅沢はしてきていないのだが、それでも辺境の修道院では修道女が作った手作りのクッキーや蒸かしいもなどのおやつも食べられたし、パンだってスープだって温かくて旨かった。
清貧を叩き込む側の神官たちが、夜隠れてエールやワインを飲みながら骨付き肉をしゃぶっているのを、寒くて空腹が辛くて眠れなかったタバタが、そっと部屋から抜け出して向かった食堂で見た時には、沸き上がる怒りを抑えるのが大変だった。
まあそれからは、夜中に厨房に忍び込んでは、少々肉や芋を拝借したところで心は痛まなくなったし、空腹も無くなった。
神官たちだって、隠しごとなのだから、誰彼に言うことも出来ず、あやふやなまま流されていった。
これ以降タバタは神官なぞ信用に値しないと思うに至り、どうせ聖女召喚までの短い命なのだから適当に過ごそうと、沐浴は洗顔くらいに、祈りの時は居眠りをして時間を有効活用するようになった。
聖女の手記を読むのだけは真面目にしていたが、それは歴代どの聖女も、
『食事があわない』『天丼が食べたい』『ピザを食べたい』なんて食べ物の話が多くあったからだった。
聖女召喚の初めは、実体のまま召喚していたそうで、生活環境全般があわなくて、心神喪失したり、病気にかかったりして直ぐに亡くなってしまったとあった。
聖女さまは身体が弱くてこの世界に合わなかったとかで、魂だけを呼ぶようになった、とか。
亡くなった人の魂を私の中に入れるのなら、私の魂はどうなるのだろう。
タバタはその問いの答えを探して、手記をどれもこれも何回も読んだけれど、器の気持ちやその後については何も残っていなかった。
きっと聖女さまが入ったら、私は無くなって消えちゃうんだろうな、そう思って望んだ聖女召喚の儀であったが、聖女改めメグ様は、
ータバタ、気を強く持ちなさい。何事も気持ちからよ!この身体はあなたの物なのだから、タバタ、あなたが聖女になったのよ。聖女の聖魔力の使い方もあなたが読んでいた手記の記憶から私、理解しちゃったのよ。だから、あなた、それを使いなさいな。嫌な目にあった教会の言うこと聞くことなんて無いのよ。
まず何したい?誰に仕返ししたい?
そう聞いてきた。
え?聖教会の教えの通りに、瘴気を祓って世界を浄化するんじゃないの?
ーしないわよ。なんでしなきゃならないのよ。タバタがしたいなら良いけど、無理すること無いんじゃない?大体自分達でなんとかしないで、異世界の人にや・っ・て・も・ら・お・う・なんて他責思考が過ぎない?タバタも別に大切にしてもらった訳じゃ無いんだし、嫌ならやらなきゃ良いのよ。
メグ様、確かメグ様の世界だと魔法は無かったと手記にあったのですが、魔法使えるのですか?
ーええ、魔法は無かったけど、魔法を扱った物語は溢れていたもの、きっと使えるわ。タバタも学んでいたし、その記憶を辿ったから使えるわよ。手記の通りなら、聖女の魔力はこの大陸中の魔法使い全員の魔力の千倍なんでしょ?無敵じゃない。言いなりになんかならないわ。どうしても手伝いが必要と言うなら、デ・ィ・ー・ル・は、しても良いけどね。
凄い、凄いですメグ様。かつての聖女さまたちと全然違うんですね。
ー私は以前の聖女と年も違うし。タバタは16でしょ?今までの聖女も16歳の子の魂を入れていたみたいだけどなんの手違いか、私、20も上だしね。言いなりになんかならないよ、タバタもならなくて良いからね。
タバタが読んだ手記の聖女たちはみな15、16の少女だった。器の少女も10代の乙女と決まっている。あれかな、私が真面目に沐浴や祈りを捧げなかったからかな?夜中に肉や芋、時々ワインなんかも盗み食いしてたからかな?
ーああ、こんな暮らしばか臭いって思って、色々サボってた結果が私の召喚だったんなら、タバタ良かったじゃない。あなたの人生を取り戻そう!
目覚めた瞬間、結界魔法を展開した新生タバタは、風魔法を使って大陸中に宣言した。
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※※※
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