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最終章
忌名
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「咲希が…どういう、こと?」
メグミがその名を口にすると明らかに動揺して、タバタに問い返した。
「薄々あんたもさ、わかってたんじゃないの?自分が逃げた後、あの地獄のような家で、まだ幼いあの子が無事に成長できたのだろうか、って。
ホスピスに入ってから、ずっと心配していたのは、妹と…前科持ちになって年老いていただろう、母親のことだったでしょ。
(もっと家族がバラバラにならないやり方があったかもしれない)
(母は加害者だけど、妹は関係なかったのに。苦労しただろうな)
(あんな浮気者の屑父に引き取られて、あの子どんな大人になったのか)
繰り返し、繰り返しベッドで考えていたのは、そのことだったでしょ?
『安心して下さい!あなたに、異世界転生ボーナスがあります!輪廻の輪にケイトの魂を戻せば、成果報酬として運命の時まで、時間を巻き戻すことができるのよ!』
そんな趣旨の天啓を院長は受けたってさ。この世界の神様もさ、流石に余りに永くこの世界に留まらされているケイトを不憫に思って救済の手を差し伸べてきたんだと思うよ。
さあ、さあ、深く沈むようなバッドエンドじゃなくて、もうちょっとマシなハッピーエンドの為に戦ってみなよ!
いや、うちも一緒に戦うしさ。あんたの中に積年の恨み辛みも戻るけど、それもあんたの一部じゃん。飲み込んで、乗り越えようよ。うちはそのつもりだよ」
タバタがボタボタ涙を溢しながら、その思いをメグミへとぶつけた。
メグミとタバタの魂は二身に分かれただけで同じものだから、その思いは言葉以上にダイレクトに胸に届いて、メグミは胸が苦しくて、ギュッと押さえた。
胸を押さえて、自然に込み上げてくる涙を瞑った目尻から溢れ出させて、メグミはウグウグと嗚咽を飲み込もうと唇を強く噛んだ。
すると、メグミの唇を指が撫でて、目尻の涙を拭って、
「願いを我慢しなくて良い。俺のことを気にしなくて良い」
ケイトの声が頭上から降ってきて、メグミは目を開けて上目づかいで見上げた。
ケイトは優し気に目を細めて、口には微笑が浮かんでいた。
「勝手に待っていただけだ。俺は君に、メグミ、いやアイに、一言伝えたかっただけなんだ。
『俺を愛してくれてありがとう、君を愛してる』」
「ケイト、私を喚んでくれてありがとう、愛してる」
ケイトがメグミを抱き締め、その胸にメグミが強く顔を押し付けた。
ギュッとお互いを隙間無く抱き締めあった。
そして、ケイトの身が少しずつ淡い光の粒に変わっていき、キラキラと輝きながらその場から消えて無くなった。
「あ、」
メグミが自分の腕の中から確かに感じていたケイトの温もりが消えたことを知り、戸惑いがちに周りを見回すけれど、もうどこにもケイトの魔力マナを感じることが出来ないことに気付いて、
「あ゛あ゛~っ」
声を上げて泣き出した。
「あー、悲しんでるとこ悪いけどさ、ケイトは輪廻の輪に戻ったからこの空間、崩壊するんだよ」
タバタが泣いているメグミの肩をギュッと掴んで低い声でそう言った。
その瞬間、その空間の、見上げてもはっきりとは見えないほど上空に、ビシビシビシっと大きな亀裂が入ると同時に、その立っている場所も底が抜けた。
「キャー」
「うわ、」
「タバタ、どうするの?どうするのが正解?」
黙って成り行きを見ていた聖巫女たちが赤く大きな魔方陣に集まってきて、クラリスは厳しい声でタバタに問いかけた。
「時を戻すのであれば、聖女の力を全てこの魔方陣へと注いで欲しい。すれば魔方陣は消滅し、この空間は二地に分かれて二度と交わらない。そちらの世界にこちらの世界の瘴気が流れ落ちることも無い。但し、聖女の魔力は失われ召喚は二度と出来ない、後悔しないでね」
「そのようにして」
「ええ」
「当然だ」
北南西の聖巫女が即答をした。
「咲希がこの世界に来てるってどういうこと?」
メグミがタバタに強い視線を向けて問うた。
「あんたが、いやうちもだけどさ、嫌がってウザがって邪険に扱ってた咲希はね、その実、母が姉の首を絞めて殺そうとしている時に母の腕に掴まって止めて、やって来た警官を呼び入れるのに玄関を開けて姉の助けを求めて、必死で命乞いをしてたの、薄っすら記憶にあるでしょ?
『お姉ちゃん、お姉ちゃん死なないで』って泣き叫ぶ咲希の声が」
タバタの言葉に、メグミの記憶の奥から、子供の勘高い泣き声と必死に姉を呼ぶ声が聞こえた、気がした。
「ペトラは元からこの世で一番、規格外に魔力が多かったのはね、ペトラの身の奥底に、岩影に引っ付いているハエのように、じっと見つからないように隠れて、この世界まで引っ付いてきた咲希の気、異世界人の気に由るものなんだよ、ペトラ、あんたの忌名を詠んで魔力を放出して。そうして残ったのが、本来のあんたの魔力だ」
「なるほど、確かに。ずっと違和感があったこの魔力は他所の物だったのか。仮初めの力は要らない。さあ、始めるか」
ペトラがメグミとタバタを見やって、言い捨てた。
「メグミ、心は決まった?そうしたらうちち一つに戻るよ」
「咲希、邪険にした咲希が、私をずっと心配してくれていたんだなんて!もう一度、ちゃんとやり直して見せる!タバタ、私たち一つにもどるのね、でもどうやって?」
メグミが時戻りを承諾した瞬間、魔方陣が赤く強い光を帯びて、グルグルと回りだした。
「やっと決めたんだね、じゃあ、いくよ!」
『あなたと合体したい!』
タバタが大きな声で、なんか恥ずかしいことを叫んだ!
「あ、はえ?な、にを、タバタ何を言ってるの?」
メグミが目玉が飛び出すくらいに驚いて叱責して、聖巫女たちはペトラさえも、紅くなって目線を下げていた。
「え?この流れで言う呪文って、『あなたと合体したい!』以外無くない?」
タバタが渾身の呪文が効かないことに納得できない様子で首を傾げていた。
魔方陣はぐるんぐるん、速度を増して回転している。
「え?タバタ、もしや時戻しの魔法の呪文知らないの?」
メグミが嘘ですよね?っと言う信じられないものを見る目をしてタバタに尋ねた。
「うーん、女神様はあなたの思い付くままに唱えれば願いは自ずと叶うって言ってたみたいで」
おっかしいな~っと呟きながら、いい加減なことを宣った!
え!?
え!?
メグミも聖巫女たちもガン見でタバタに視線を向けるが、残念かな、タバタは自分の世界に浸っているのか誰にも目をやらなかった。
「じゃあ、もう、この流れでやるんだったら、アレじゃない?タバタ右手を高く、左手は胸で人差し指だけ出して、」
メグミが半目でタバタに目をやって、指を指しながら話し出した。
「え?そのポーズ、ま、まさか、」
今度はタバタが焦って聞くが、
「時間がないんでしょ、早く、行くわよ」
三メーターほど離れて、二人が同じようなポーズを取ると、
「「フュージョン!!!」」
さすが、同じ魂である、声も揃い、すごい勢いで左右から走り寄って、お互いの両手の人差し指がビシッと合わさると、二人の身体は七色の光に飲み込まれて、ボワンと煙の中から、黒髪黒目の細身の少女が現れたのだった。
「「「!!!」」」
一連の動きを目を皿のようにして見ていた聖女たちは言葉失って、口をポカンと開けた。
ペトラだけが、
「位置につけ、魔力を注げ、祈りを捧げよ」
大きな声で偉そうに命令すると、両手を上げ全量の魔力を自身の身体中から放出するように高めていった。
『我のムホヴァーの名を持ってして、時空の扉を開かん』
タバタメグミと聖巫女たちも全ての魔力を魔方陣へと注いだ。
次の瞬間、ガシャンという、大きなガラスが割れるような音が響き渡って、魔方陣が砕け散り、そこに居た者たちは、時空の渦の濁流にその魂を飲み込まれて、意識を失ったのだった。
☆☆☆
その後、意識を取り戻した聖巫女たちは各々の国の神殿で目覚めたのでした。
そこには、彼女たちの帰りを心配して待っている者たちが居ました。
クラリス→北方聖教会の神官たち
マルシア→サザランド王国の国王と本当の両親兄姉
アーディル→アー=ウエス帝国皇帝で夫ア=ラーイと子供たち
ペトラ→イースランド国王グスタフ
ペトラの忌名ムホヴァーはハエを本当に意味し、日本だとミシャと読まれることが多いです。画家のアルフォンス・ミシャなどが有名です。
メグミがその名を口にすると明らかに動揺して、タバタに問い返した。
「薄々あんたもさ、わかってたんじゃないの?自分が逃げた後、あの地獄のような家で、まだ幼いあの子が無事に成長できたのだろうか、って。
ホスピスに入ってから、ずっと心配していたのは、妹と…前科持ちになって年老いていただろう、母親のことだったでしょ。
(もっと家族がバラバラにならないやり方があったかもしれない)
(母は加害者だけど、妹は関係なかったのに。苦労しただろうな)
(あんな浮気者の屑父に引き取られて、あの子どんな大人になったのか)
繰り返し、繰り返しベッドで考えていたのは、そのことだったでしょ?
『安心して下さい!あなたに、異世界転生ボーナスがあります!輪廻の輪にケイトの魂を戻せば、成果報酬として運命の時まで、時間を巻き戻すことができるのよ!』
そんな趣旨の天啓を院長は受けたってさ。この世界の神様もさ、流石に余りに永くこの世界に留まらされているケイトを不憫に思って救済の手を差し伸べてきたんだと思うよ。
さあ、さあ、深く沈むようなバッドエンドじゃなくて、もうちょっとマシなハッピーエンドの為に戦ってみなよ!
いや、うちも一緒に戦うしさ。あんたの中に積年の恨み辛みも戻るけど、それもあんたの一部じゃん。飲み込んで、乗り越えようよ。うちはそのつもりだよ」
タバタがボタボタ涙を溢しながら、その思いをメグミへとぶつけた。
メグミとタバタの魂は二身に分かれただけで同じものだから、その思いは言葉以上にダイレクトに胸に届いて、メグミは胸が苦しくて、ギュッと押さえた。
胸を押さえて、自然に込み上げてくる涙を瞑った目尻から溢れ出させて、メグミはウグウグと嗚咽を飲み込もうと唇を強く噛んだ。
すると、メグミの唇を指が撫でて、目尻の涙を拭って、
「願いを我慢しなくて良い。俺のことを気にしなくて良い」
ケイトの声が頭上から降ってきて、メグミは目を開けて上目づかいで見上げた。
ケイトは優し気に目を細めて、口には微笑が浮かんでいた。
「勝手に待っていただけだ。俺は君に、メグミ、いやアイに、一言伝えたかっただけなんだ。
『俺を愛してくれてありがとう、君を愛してる』」
「ケイト、私を喚んでくれてありがとう、愛してる」
ケイトがメグミを抱き締め、その胸にメグミが強く顔を押し付けた。
ギュッとお互いを隙間無く抱き締めあった。
そして、ケイトの身が少しずつ淡い光の粒に変わっていき、キラキラと輝きながらその場から消えて無くなった。
「あ、」
メグミが自分の腕の中から確かに感じていたケイトの温もりが消えたことを知り、戸惑いがちに周りを見回すけれど、もうどこにもケイトの魔力マナを感じることが出来ないことに気付いて、
「あ゛あ゛~っ」
声を上げて泣き出した。
「あー、悲しんでるとこ悪いけどさ、ケイトは輪廻の輪に戻ったからこの空間、崩壊するんだよ」
タバタが泣いているメグミの肩をギュッと掴んで低い声でそう言った。
その瞬間、その空間の、見上げてもはっきりとは見えないほど上空に、ビシビシビシっと大きな亀裂が入ると同時に、その立っている場所も底が抜けた。
「キャー」
「うわ、」
「タバタ、どうするの?どうするのが正解?」
黙って成り行きを見ていた聖巫女たちが赤く大きな魔方陣に集まってきて、クラリスは厳しい声でタバタに問いかけた。
「時を戻すのであれば、聖女の力を全てこの魔方陣へと注いで欲しい。すれば魔方陣は消滅し、この空間は二地に分かれて二度と交わらない。そちらの世界にこちらの世界の瘴気が流れ落ちることも無い。但し、聖女の魔力は失われ召喚は二度と出来ない、後悔しないでね」
「そのようにして」
「ええ」
「当然だ」
北南西の聖巫女が即答をした。
「咲希がこの世界に来てるってどういうこと?」
メグミがタバタに強い視線を向けて問うた。
「あんたが、いやうちもだけどさ、嫌がってウザがって邪険に扱ってた咲希はね、その実、母が姉の首を絞めて殺そうとしている時に母の腕に掴まって止めて、やって来た警官を呼び入れるのに玄関を開けて姉の助けを求めて、必死で命乞いをしてたの、薄っすら記憶にあるでしょ?
『お姉ちゃん、お姉ちゃん死なないで』って泣き叫ぶ咲希の声が」
タバタの言葉に、メグミの記憶の奥から、子供の勘高い泣き声と必死に姉を呼ぶ声が聞こえた、気がした。
「ペトラは元からこの世で一番、規格外に魔力が多かったのはね、ペトラの身の奥底に、岩影に引っ付いているハエのように、じっと見つからないように隠れて、この世界まで引っ付いてきた咲希の気、異世界人の気に由るものなんだよ、ペトラ、あんたの忌名を詠んで魔力を放出して。そうして残ったのが、本来のあんたの魔力だ」
「なるほど、確かに。ずっと違和感があったこの魔力は他所の物だったのか。仮初めの力は要らない。さあ、始めるか」
ペトラがメグミとタバタを見やって、言い捨てた。
「メグミ、心は決まった?そうしたらうちち一つに戻るよ」
「咲希、邪険にした咲希が、私をずっと心配してくれていたんだなんて!もう一度、ちゃんとやり直して見せる!タバタ、私たち一つにもどるのね、でもどうやって?」
メグミが時戻りを承諾した瞬間、魔方陣が赤く強い光を帯びて、グルグルと回りだした。
「やっと決めたんだね、じゃあ、いくよ!」
『あなたと合体したい!』
タバタが大きな声で、なんか恥ずかしいことを叫んだ!
「あ、はえ?な、にを、タバタ何を言ってるの?」
メグミが目玉が飛び出すくらいに驚いて叱責して、聖巫女たちはペトラさえも、紅くなって目線を下げていた。
「え?この流れで言う呪文って、『あなたと合体したい!』以外無くない?」
タバタが渾身の呪文が効かないことに納得できない様子で首を傾げていた。
魔方陣はぐるんぐるん、速度を増して回転している。
「え?タバタ、もしや時戻しの魔法の呪文知らないの?」
メグミが嘘ですよね?っと言う信じられないものを見る目をしてタバタに尋ねた。
「うーん、女神様はあなたの思い付くままに唱えれば願いは自ずと叶うって言ってたみたいで」
おっかしいな~っと呟きながら、いい加減なことを宣った!
え!?
え!?
メグミも聖巫女たちもガン見でタバタに視線を向けるが、残念かな、タバタは自分の世界に浸っているのか誰にも目をやらなかった。
「じゃあ、もう、この流れでやるんだったら、アレじゃない?タバタ右手を高く、左手は胸で人差し指だけ出して、」
メグミが半目でタバタに目をやって、指を指しながら話し出した。
「え?そのポーズ、ま、まさか、」
今度はタバタが焦って聞くが、
「時間がないんでしょ、早く、行くわよ」
三メーターほど離れて、二人が同じようなポーズを取ると、
「「フュージョン!!!」」
さすが、同じ魂である、声も揃い、すごい勢いで左右から走り寄って、お互いの両手の人差し指がビシッと合わさると、二人の身体は七色の光に飲み込まれて、ボワンと煙の中から、黒髪黒目の細身の少女が現れたのだった。
「「「!!!」」」
一連の動きを目を皿のようにして見ていた聖女たちは言葉失って、口をポカンと開けた。
ペトラだけが、
「位置につけ、魔力を注げ、祈りを捧げよ」
大きな声で偉そうに命令すると、両手を上げ全量の魔力を自身の身体中から放出するように高めていった。
『我のムホヴァーの名を持ってして、時空の扉を開かん』
タバタメグミと聖巫女たちも全ての魔力を魔方陣へと注いだ。
次の瞬間、ガシャンという、大きなガラスが割れるような音が響き渡って、魔方陣が砕け散り、そこに居た者たちは、時空の渦の濁流にその魂を飲み込まれて、意識を失ったのだった。
☆☆☆
その後、意識を取り戻した聖巫女たちは各々の国の神殿で目覚めたのでした。
そこには、彼女たちの帰りを心配して待っている者たちが居ました。
クラリス→北方聖教会の神官たち
マルシア→サザランド王国の国王と本当の両親兄姉
アーディル→アー=ウエス帝国皇帝で夫ア=ラーイと子供たち
ペトラ→イースランド国王グスタフ
ペトラの忌名ムホヴァーはハエを本当に意味し、日本だとミシャと読まれることが多いです。画家のアルフォンス・ミシャなどが有名です。
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