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第二章 『神の印』
第二章3 いや、魔王軍幹部ってなに
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それは一瞬のことだった。
脳に直接伝わってくる不快感に、レイは突如襲われた。
「この魔力量っ」
レイを深い眠りから覚醒させたのは、膨大な魔力を持つ者の存在。
スキル『恐怖耐性』を持っていながらも、この威圧感にレイは恐怖心を覚えた。
ベルガレートととの対決の時は、スキル『魔力感知』を持っていなかったため、ベルガレートがどれほどの魔力量か測れなかった。だが今は違う。
「近くに別の気配がある。魔力量からして……リィラだ」
レイはそれに気付くなり、すぐに宿を出て大きな魔力を感じる場所へと走った。
人は誰も歩いていない。そんな街を、いくつものスキルを使って、風のように駆けた。
スキル『瞬間身体強化』で強制的に身体能力を上げ、『気配遮断』で存在をバレないようにした。
「今日来たばかりの街にモンスター襲来って、どう考えてもおかしいだろっ」
愚痴を吐きながらも、たどり着いたのは廃墟のような場所。街の外れ、スラム街のような場所だ。
暗く冷え切った場所を、リィラの気配を頼りに進む。
『倉庫』から出したベルガレートの剣を、左手に構える。
「人間め、そんなんで隠れたつもりか」
背後からの声にレイは振り向き、左手に力を込めた。
「誰だお前! リィラをどこへやった!」
飛んできたのは炎の球体。
その炎の球体は剣に当たると、溶けるように消滅した。剣スキル『魔力遮断』によるものだ。
だが消滅と同時に広がった黒い煙に視界が塞がる。
一気に間合いを詰めてきた強大な魔力の持ち主に、レイは『瞬間身体強化』を使い、横へ回避した。
フードの下から見える黒く赤い禍々しい角。白髪混じりの黒髪が赤い片目を隠している。
「あれを避けるか人間」
圧倒的な魔力量に不信感を抱きつつ、追撃を繰り返す敵に防戦一方のレイ。
「魔力を扱える子供……貴様、ベルガレートと契約したのか」
「してるわけねぇだろ。あいつは俺が殺した」
「なっ……ベルガレートがこんな子供ごときに」
攻撃がピタリと止んだ。
「僕は魔王軍幹部、アジリスタ。君には素質がある。魔王軍にきたまえ。もちろ――」
「断るね」
アジリスタの言葉を遮り、レイが断るとアジリスタは不敵な笑みを浮かべた。
「あぁ。ここに来てよかったと、僕は心底感じているよ。君みたいな人間を魔王様に渡せば、僕は次期魔王になれるっ!」
「人の話聞いてんのか、こいつ」
なるほどな、とレイは確信した。
おそらく魔王になるためには何か魔王様へ貢献しないといけないんだ。そのため、アジリスタは一人で人間の街を訪れ、破壊しようと目論んでいたみたいだ。
スキル『気配遮断』を使っていたせいで、魔力の存在はバレている。
となると、本気を出して困ることはない。
「残念だが、俺は魔王のところにはいかないし、街の人たちを殺させるわけにもいかない」
「そうかそうか。じゃあ僕と取引しよう」
「取引?」
「あぁ。この子と君を交換だ。別に君を持って帰らなくても、この子を持って帰れば多少の成果はできる。どうする、あとは君が選ぶだけだ」
岩の影にアジリスタは手を伸ばす。手は影にいたリィラの首元をがっちり掴んでいた。
その手を上にあげると、アジリスタはこちらに向き直した。
「っ――」
「安心したまえ。これで死ぬことはないさ。でも、ちょっとでも力を加えれば簡単に折れる。無駄な抵抗を見せたら……」
瞬間身体強化を使っても、アジリスタまで距離は最低でも一秒はかかる。
――これは詰んだ。
レイは、スローライフを諦めることにした。
剣を収納すると、魔力をすべて不可視化した。
だがその時、
「禁忌――デルタ執行」
聞き覚えのある声に、レイはすぐさま声主を探した。
「ハーヴェイさんっ!?」
道の真ん中で杖を立てていたのは紛れもなく――ハーヴェイ・ランドールだった。
「レイくん遅くなってすまないね」
アジリスタはハーヴェイの魔法によって、拘束状態にあった。
身動き一つ取れないほど、頑丈な鎖に四肢を繋がれている。
「君にはいろいろと聞きたいことがあったんだ、アジリスタ」
「貴様は七大聖騎士のハーヴェイ・ランドール……強欲の騎士か」
ハーヴェイはゆっくりとアジリスタに近寄ると、短剣をアジリスタの首元へ押し付けた。
「こいつの身柄は私が引き取ろう。レイくん、一瞬だけリィラを頼む」
ハーヴェイからゆっくりとリィラを受け取る。
「もういい……今日は帰るさ……」
アジリスタは俯きながら、無表情でそう呟いた。
その瞬間、アジリスタの背中から大きな黒い翼が生えた。翼は鎖ごとアジリスタを包み込むと、パッと消失した。
「逃がしてしまったか。とりあえずレイくんとリィラが無事でよかった。宿まで送ろう」
レイはハーヴェイと一緒に宿まで向かった。リィラはレイの背中で眠っている。
「さっきのはスキルですか……?」
「そうだ」
「でもハーヴェイさんは」
スキル『身体霧化』を持っているはず。
「これはランドール家に伝わるスキルでね」
「そうなんですか」
宿に着くまでの間、ハーヴェイはスキルのことと、魔王軍幹部のアジリスタというやつについて話してくれた。
ハーヴェイが持っているスキルを二つ持っているそうだ。『身体霧化』と『守り手』というスキル。
この街に結界を張っていて、敵意や殺意に反応してそのスキルは発動するという。
『聖騎士の加護』の一つらしい。
さっき戦ったアジリスタっていうやつは魔王軍の幹部で、幹部同士で次期魔王を争っているため、人間側に攻めてくるという。
姫という人物に護衛が日替わりでついているのも、そのためだという。
「ありがとうございました」
「街に来た日から災難だったね。明日はゆっくり休むといい」
宿の前で、再びハーヴェイと別れた。
背中にはリィラも一緒だ。
アレクには私から伝えておくから、今日のところはリィラ宿で寝させてやってくれないか、とハーヴェイに言われ、レイはそれに承諾した。
宿代を出してくれたのはリィラだ。それに断る理由もない。
その実、ハーヴェイからもう一つ、スキル『守り手』のことを聞かされた。
敵意や殺意で発動する。つまりは、ハーヴェイ自身、他者のそうおった感情を読み取れるという。
「結構便利なスキルだよな」
ベッドにリィラを寝かせると、レイは部屋の床に寝そべった。
ひんやりと冷たい床に、どこか懐かしさを覚えた。
今朝は冷えるらしい。念のため、スキル『対寒耐性』を発動しておく。
おやすみ、と小さく呟き、再びレイは深い眠りについた。
脳に直接伝わってくる不快感に、レイは突如襲われた。
「この魔力量っ」
レイを深い眠りから覚醒させたのは、膨大な魔力を持つ者の存在。
スキル『恐怖耐性』を持っていながらも、この威圧感にレイは恐怖心を覚えた。
ベルガレートととの対決の時は、スキル『魔力感知』を持っていなかったため、ベルガレートがどれほどの魔力量か測れなかった。だが今は違う。
「近くに別の気配がある。魔力量からして……リィラだ」
レイはそれに気付くなり、すぐに宿を出て大きな魔力を感じる場所へと走った。
人は誰も歩いていない。そんな街を、いくつものスキルを使って、風のように駆けた。
スキル『瞬間身体強化』で強制的に身体能力を上げ、『気配遮断』で存在をバレないようにした。
「今日来たばかりの街にモンスター襲来って、どう考えてもおかしいだろっ」
愚痴を吐きながらも、たどり着いたのは廃墟のような場所。街の外れ、スラム街のような場所だ。
暗く冷え切った場所を、リィラの気配を頼りに進む。
『倉庫』から出したベルガレートの剣を、左手に構える。
「人間め、そんなんで隠れたつもりか」
背後からの声にレイは振り向き、左手に力を込めた。
「誰だお前! リィラをどこへやった!」
飛んできたのは炎の球体。
その炎の球体は剣に当たると、溶けるように消滅した。剣スキル『魔力遮断』によるものだ。
だが消滅と同時に広がった黒い煙に視界が塞がる。
一気に間合いを詰めてきた強大な魔力の持ち主に、レイは『瞬間身体強化』を使い、横へ回避した。
フードの下から見える黒く赤い禍々しい角。白髪混じりの黒髪が赤い片目を隠している。
「あれを避けるか人間」
圧倒的な魔力量に不信感を抱きつつ、追撃を繰り返す敵に防戦一方のレイ。
「魔力を扱える子供……貴様、ベルガレートと契約したのか」
「してるわけねぇだろ。あいつは俺が殺した」
「なっ……ベルガレートがこんな子供ごときに」
攻撃がピタリと止んだ。
「僕は魔王軍幹部、アジリスタ。君には素質がある。魔王軍にきたまえ。もちろ――」
「断るね」
アジリスタの言葉を遮り、レイが断るとアジリスタは不敵な笑みを浮かべた。
「あぁ。ここに来てよかったと、僕は心底感じているよ。君みたいな人間を魔王様に渡せば、僕は次期魔王になれるっ!」
「人の話聞いてんのか、こいつ」
なるほどな、とレイは確信した。
おそらく魔王になるためには何か魔王様へ貢献しないといけないんだ。そのため、アジリスタは一人で人間の街を訪れ、破壊しようと目論んでいたみたいだ。
スキル『気配遮断』を使っていたせいで、魔力の存在はバレている。
となると、本気を出して困ることはない。
「残念だが、俺は魔王のところにはいかないし、街の人たちを殺させるわけにもいかない」
「そうかそうか。じゃあ僕と取引しよう」
「取引?」
「あぁ。この子と君を交換だ。別に君を持って帰らなくても、この子を持って帰れば多少の成果はできる。どうする、あとは君が選ぶだけだ」
岩の影にアジリスタは手を伸ばす。手は影にいたリィラの首元をがっちり掴んでいた。
その手を上にあげると、アジリスタはこちらに向き直した。
「っ――」
「安心したまえ。これで死ぬことはないさ。でも、ちょっとでも力を加えれば簡単に折れる。無駄な抵抗を見せたら……」
瞬間身体強化を使っても、アジリスタまで距離は最低でも一秒はかかる。
――これは詰んだ。
レイは、スローライフを諦めることにした。
剣を収納すると、魔力をすべて不可視化した。
だがその時、
「禁忌――デルタ執行」
聞き覚えのある声に、レイはすぐさま声主を探した。
「ハーヴェイさんっ!?」
道の真ん中で杖を立てていたのは紛れもなく――ハーヴェイ・ランドールだった。
「レイくん遅くなってすまないね」
アジリスタはハーヴェイの魔法によって、拘束状態にあった。
身動き一つ取れないほど、頑丈な鎖に四肢を繋がれている。
「君にはいろいろと聞きたいことがあったんだ、アジリスタ」
「貴様は七大聖騎士のハーヴェイ・ランドール……強欲の騎士か」
ハーヴェイはゆっくりとアジリスタに近寄ると、短剣をアジリスタの首元へ押し付けた。
「こいつの身柄は私が引き取ろう。レイくん、一瞬だけリィラを頼む」
ハーヴェイからゆっくりとリィラを受け取る。
「もういい……今日は帰るさ……」
アジリスタは俯きながら、無表情でそう呟いた。
その瞬間、アジリスタの背中から大きな黒い翼が生えた。翼は鎖ごとアジリスタを包み込むと、パッと消失した。
「逃がしてしまったか。とりあえずレイくんとリィラが無事でよかった。宿まで送ろう」
レイはハーヴェイと一緒に宿まで向かった。リィラはレイの背中で眠っている。
「さっきのはスキルですか……?」
「そうだ」
「でもハーヴェイさんは」
スキル『身体霧化』を持っているはず。
「これはランドール家に伝わるスキルでね」
「そうなんですか」
宿に着くまでの間、ハーヴェイはスキルのことと、魔王軍幹部のアジリスタというやつについて話してくれた。
ハーヴェイが持っているスキルを二つ持っているそうだ。『身体霧化』と『守り手』というスキル。
この街に結界を張っていて、敵意や殺意に反応してそのスキルは発動するという。
『聖騎士の加護』の一つらしい。
さっき戦ったアジリスタっていうやつは魔王軍の幹部で、幹部同士で次期魔王を争っているため、人間側に攻めてくるという。
姫という人物に護衛が日替わりでついているのも、そのためだという。
「ありがとうございました」
「街に来た日から災難だったね。明日はゆっくり休むといい」
宿の前で、再びハーヴェイと別れた。
背中にはリィラも一緒だ。
アレクには私から伝えておくから、今日のところはリィラ宿で寝させてやってくれないか、とハーヴェイに言われ、レイはそれに承諾した。
宿代を出してくれたのはリィラだ。それに断る理由もない。
その実、ハーヴェイからもう一つ、スキル『守り手』のことを聞かされた。
敵意や殺意で発動する。つまりは、ハーヴェイ自身、他者のそうおった感情を読み取れるという。
「結構便利なスキルだよな」
ベッドにリィラを寝かせると、レイは部屋の床に寝そべった。
ひんやりと冷たい床に、どこか懐かしさを覚えた。
今朝は冷えるらしい。念のため、スキル『対寒耐性』を発動しておく。
おやすみ、と小さく呟き、再びレイは深い眠りについた。
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