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第二章 『神の印』
第二章4 ユルシリアの過去
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数時間前にあれほど激しい戦いをしたのにぐっすり眠れてしまった。
魔力を使ったせいか、疲労していたみたいだ。
それにしても、
「柔らかいベッドだなぁ、むにゃむにゃ……」
あれ、そういえば俺ベッドで寝てないよな……。
でもこの手の感触。めっちゃ柔らかいんだが。
「って! むにゃむにゃじゃねーよ! これは、俗に言う――おっ」
「どうしたんです、か」
つい口走りそうになった。朝からひやひやするなぁ、まったく。
起きたのか、目を擦るリィラ。
俺の手は依然、リィラの胸に触れている。なんでリィラが隣で寝てんだよ!
離れろ、離れろ。俺の手離れろ!
ダメだリィラ、俺の手は離れたくなっ――
「変態っ!」
完全に身が覚めたみたいだ。
寝起きから約一分後、俺は頬に強烈なビンタを喰らった。
「さっきすみませんっ! それに夜、助けてくれたんですよね……」
「あれは僕が悪かったんです」
厳密に言えば、俺の右手だ。
嘘です。俺です。ごめんなさい。
「助けたって言っても、追い返してくれたのはハーヴェイさんですし、僕は何もしてないです」
俺だけじゃ、正直きつかったからな。
「それでも……やっぱ何かお礼を」
「じゃあ昨日の宿代ってことでどうです?」
「レイさんがそれでいいなら……」
「決まりですね」
俺たちは今、朝食を食べに昨日訪れた店へと来ていた。
朝は昨日来た時より人は少なく、老人が多い。
「昨日何かあったか覚えてるんですか?」
「いえ。毎日決まった時間に街を散歩するんですが、その時に襲われて。途中から記憶が」
物騒だな。歩いてたら襲われるって、日本でもあるけどさ。
通り魔? 的な感じ。
「あの、どういう人が私を襲ったんですか?」
「魔王軍っていう、魔族らしい」
そういえば魔族は魔獣と似たようなものって、ハーヴェイさんが言ってたな。
人間の形をした、知性を持った魔獣とかなんとか。
「こんなところにいたのね、レイ・アキシノ!」
店の中に入ってきては、大声で俺の名前を呼ぶのはピンクのドレスに身を包んだ少女。
歳は俺と同じくらいか。身長は目線的同じだ。
「えっと……」
最初はだれか分からなかったが、少女の後ろから現れた人物に確信した。
「ユルシリア・ノア・サルトーガ……」
俺を迷宮に落とした騎士で、七大聖騎士の一人。そして今一番会いたくない人物だ。
「君は……」
俺の顔を見て思い出したのか、腰にぶら下げている剣の鞘に手を添えた。
「ユル、やめて。お店の人にも迷惑が掛かるわ」
大声を出しておいて、よくそれを言えるな。
「自己紹介が遅れたわね、私はリウラ・トゥーリエ。こっちは、ってお互い知っているみたいね」
おそらくこの子が姫と呼ばれる存在だろう。
目の前の席に座ると、リィラには目もくれずに言った。
「昨日アレクから聞いたの。魔力を持った子供がいるって。ちょっと質問していいかしら」
「どうぞ」
「端的に聞くわ。あなた、魔力隠し持ってるよね。スキルか魔法か知らないけど」
ここは誤魔化すしかないよな……それしかないよな。
「いいえ、持ってま――」
「せん、とかいう嘘ついても私のスキルで真実かどうか分かるからね」
え。それ反則。チートスキルじゃん! 違う異世界だと、その役目機械がやってたじゃん! いやラノベの話だけどさ。
「持ってます……」
「やはり君はここで排除しないといけない……」
再び鞘に手を構えるが、それも姫様によって止められる。
「そんなことしたらハーヴェイさんのスキルで拘束されるのはユルの方だわ」
殺意や敵意、味方同士でも発動するのか?
姫様はそれにもし、と言葉を続けた。
「本当に魔精霊と契約しているのなら、とっくにハーヴェイさんの監獄行きよ」
「それは……」
少し黙り込むと、ユルシリアは九十度に腰曲げ言った。
「すまなかった……。僕は君を勘違いで迷宮に……」
迷宮に行くことで得たものもたくさんあるしな。
結果オーライってやつだ。
「でも僕は正直なところ、君をまだ信じられない」
「この人は私を魔族から助けてくれました……」
姫様が来てからずっと静かにしていたリィラが、ここぞというときに口を挟んだ。
だがそれも一瞬のこと。
「ユル。私とレイを二人にしてくれないかしら」
「姫、それでは……」
「私はレイを信じてるわ。ハーヴェイさんだってそう言ってたわ」
ハーヴェイさんにも俺が魔力を持ってること知られてるのか……。
「分かりました……」
ユルシリアは一人で店を出た。
「リィラさんも出てくれる?」
「わ、わかりました」
俺の言葉で、ユルシリアにつづいてリィラもお店を出た。
「なんで僕といきなり二人に?」
「ユルのこと。ユル自身分かってるの。君が魔精霊と契約していないことは」
でも、と姫様は俯き続けた。
「心のどこかでその事実を否定しているんだと思うの」
どういうことだ?
「つまり! ユルをあまり責めないで上げてほしいってこと!」
俺が怪訝な表情を浮かべていると、姫様は呆れたようにそう言った。
「別に責める気はないですよ」
「よかったわ」
「でも」
ほっと安堵した姫様に、俺は質問をぶつけた。
「なんでそんなに姫様はユルシリアのことを?」
「私がユルと会ったのはユルが八歳の時よ。彼は魔精霊が襲った村の唯一の生き残りだったの」
嘘だろ? そんなの聞いたことが……というか、ユルシリアって貴族じゃないのか?
「エゼルガルドの騎士が助けに行った時には、黒雨によって村人はユル以外全員死んでいたの」
黒雨って三大厄災の一つか。確か、ハーヴェイさんが言ってたよな。
「元々はユルと同い年だった男の子がいたらしいの。その子がユルの剣術に軽い嫉妬を覚えて、魔精霊と契約したらしいの。それで暴走して」
「だからあの時、僕を見て……」
ユルシリアは俺以上に過酷な人生送ってたんだな。
俺を迷宮に落とした時流した涙はそう意味だったのか……。
「駆け付けた騎士によってユルは保護された。それで今に至るってわけ」
勘違いするのも無理ない気がしてきた。
魔力を持った八歳の子供に村を滅ぼされた、か。
「レイ、お会計頼んだわよ」
「え? いや、僕お金持ってないんですけど……」
魔力を使ったせいか、疲労していたみたいだ。
それにしても、
「柔らかいベッドだなぁ、むにゃむにゃ……」
あれ、そういえば俺ベッドで寝てないよな……。
でもこの手の感触。めっちゃ柔らかいんだが。
「って! むにゃむにゃじゃねーよ! これは、俗に言う――おっ」
「どうしたんです、か」
つい口走りそうになった。朝からひやひやするなぁ、まったく。
起きたのか、目を擦るリィラ。
俺の手は依然、リィラの胸に触れている。なんでリィラが隣で寝てんだよ!
離れろ、離れろ。俺の手離れろ!
ダメだリィラ、俺の手は離れたくなっ――
「変態っ!」
完全に身が覚めたみたいだ。
寝起きから約一分後、俺は頬に強烈なビンタを喰らった。
「さっきすみませんっ! それに夜、助けてくれたんですよね……」
「あれは僕が悪かったんです」
厳密に言えば、俺の右手だ。
嘘です。俺です。ごめんなさい。
「助けたって言っても、追い返してくれたのはハーヴェイさんですし、僕は何もしてないです」
俺だけじゃ、正直きつかったからな。
「それでも……やっぱ何かお礼を」
「じゃあ昨日の宿代ってことでどうです?」
「レイさんがそれでいいなら……」
「決まりですね」
俺たちは今、朝食を食べに昨日訪れた店へと来ていた。
朝は昨日来た時より人は少なく、老人が多い。
「昨日何かあったか覚えてるんですか?」
「いえ。毎日決まった時間に街を散歩するんですが、その時に襲われて。途中から記憶が」
物騒だな。歩いてたら襲われるって、日本でもあるけどさ。
通り魔? 的な感じ。
「あの、どういう人が私を襲ったんですか?」
「魔王軍っていう、魔族らしい」
そういえば魔族は魔獣と似たようなものって、ハーヴェイさんが言ってたな。
人間の形をした、知性を持った魔獣とかなんとか。
「こんなところにいたのね、レイ・アキシノ!」
店の中に入ってきては、大声で俺の名前を呼ぶのはピンクのドレスに身を包んだ少女。
歳は俺と同じくらいか。身長は目線的同じだ。
「えっと……」
最初はだれか分からなかったが、少女の後ろから現れた人物に確信した。
「ユルシリア・ノア・サルトーガ……」
俺を迷宮に落とした騎士で、七大聖騎士の一人。そして今一番会いたくない人物だ。
「君は……」
俺の顔を見て思い出したのか、腰にぶら下げている剣の鞘に手を添えた。
「ユル、やめて。お店の人にも迷惑が掛かるわ」
大声を出しておいて、よくそれを言えるな。
「自己紹介が遅れたわね、私はリウラ・トゥーリエ。こっちは、ってお互い知っているみたいね」
おそらくこの子が姫と呼ばれる存在だろう。
目の前の席に座ると、リィラには目もくれずに言った。
「昨日アレクから聞いたの。魔力を持った子供がいるって。ちょっと質問していいかしら」
「どうぞ」
「端的に聞くわ。あなた、魔力隠し持ってるよね。スキルか魔法か知らないけど」
ここは誤魔化すしかないよな……それしかないよな。
「いいえ、持ってま――」
「せん、とかいう嘘ついても私のスキルで真実かどうか分かるからね」
え。それ反則。チートスキルじゃん! 違う異世界だと、その役目機械がやってたじゃん! いやラノベの話だけどさ。
「持ってます……」
「やはり君はここで排除しないといけない……」
再び鞘に手を構えるが、それも姫様によって止められる。
「そんなことしたらハーヴェイさんのスキルで拘束されるのはユルの方だわ」
殺意や敵意、味方同士でも発動するのか?
姫様はそれにもし、と言葉を続けた。
「本当に魔精霊と契約しているのなら、とっくにハーヴェイさんの監獄行きよ」
「それは……」
少し黙り込むと、ユルシリアは九十度に腰曲げ言った。
「すまなかった……。僕は君を勘違いで迷宮に……」
迷宮に行くことで得たものもたくさんあるしな。
結果オーライってやつだ。
「でも僕は正直なところ、君をまだ信じられない」
「この人は私を魔族から助けてくれました……」
姫様が来てからずっと静かにしていたリィラが、ここぞというときに口を挟んだ。
だがそれも一瞬のこと。
「ユル。私とレイを二人にしてくれないかしら」
「姫、それでは……」
「私はレイを信じてるわ。ハーヴェイさんだってそう言ってたわ」
ハーヴェイさんにも俺が魔力を持ってること知られてるのか……。
「分かりました……」
ユルシリアは一人で店を出た。
「リィラさんも出てくれる?」
「わ、わかりました」
俺の言葉で、ユルシリアにつづいてリィラもお店を出た。
「なんで僕といきなり二人に?」
「ユルのこと。ユル自身分かってるの。君が魔精霊と契約していないことは」
でも、と姫様は俯き続けた。
「心のどこかでその事実を否定しているんだと思うの」
どういうことだ?
「つまり! ユルをあまり責めないで上げてほしいってこと!」
俺が怪訝な表情を浮かべていると、姫様は呆れたようにそう言った。
「別に責める気はないですよ」
「よかったわ」
「でも」
ほっと安堵した姫様に、俺は質問をぶつけた。
「なんでそんなに姫様はユルシリアのことを?」
「私がユルと会ったのはユルが八歳の時よ。彼は魔精霊が襲った村の唯一の生き残りだったの」
嘘だろ? そんなの聞いたことが……というか、ユルシリアって貴族じゃないのか?
「エゼルガルドの騎士が助けに行った時には、黒雨によって村人はユル以外全員死んでいたの」
黒雨って三大厄災の一つか。確か、ハーヴェイさんが言ってたよな。
「元々はユルと同い年だった男の子がいたらしいの。その子がユルの剣術に軽い嫉妬を覚えて、魔精霊と契約したらしいの。それで暴走して」
「だからあの時、僕を見て……」
ユルシリアは俺以上に過酷な人生送ってたんだな。
俺を迷宮に落とした時流した涙はそう意味だったのか……。
「駆け付けた騎士によってユルは保護された。それで今に至るってわけ」
勘違いするのも無理ない気がしてきた。
魔力を持った八歳の子供に村を滅ぼされた、か。
「レイ、お会計頼んだわよ」
「え? いや、僕お金持ってないんですけど……」
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