バッドエンドの向こう側

白い黒猫

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愛花の世界

恥ずかしい出会い

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「ごめんなさい、かえって迷惑をかけてしまって」
 私は暑さだけではなく、恥ずかしさからも顔を赤くして佐藤周子さんに謝る。
 脳内シミュレーションでは、落ちたキーホルダーをサッと拾って、それを手渡すという感じでスマートに話しかける予定だった。
 しかし大声で声かけて走り寄った時に思いっきり転けてしまった。そのためこの年齢で膝をズル剥けるという恥ずかしい状況になってしまった。
 リクルートスーツも午前中の雨で泥だらけ。

 そして今、近くのコンビニのイートインコーナで手当してもらっていた。
「いえいえ、私が落とし物なんてしてしまったから。
 今から面接とかあるの?」
 もうストッキングもボロボロでコンビニのトイレで脱いできた。
 恥ずかしいほど擦りむいた傷を、佐藤周子さんは丁寧に優しく消毒し手当してくれている。
「いえ、終わった帰りなのでそれは大丈夫です。
 お姉さんこそ忙しいのでは?」
「大丈夫よ!」
 そういって微笑む表情はとても優しかった。なんて良い人なんだろうと私は感動する。
 身も知らない単なるドジな人にここまでしてくれるなんて……。
「でもお仕事中なのでは? この後いくお約束の場所とか……」
 オズオズと話す私に佐藤周子さんは顔を横にふる。
「今日中に一箇所書類を届ければ良いだけだから。
 それに暑くて涼しむ場所探していたところだったから丁度よかった」
 そこまで言ってからアッといってから誤魔化すように笑う。
「丁度よかったって、失礼よね。あなたも喉乾いてない? どうぞ飲んで」
 大きめの絆創膏を貼ってから、薬と一緒に買ってくれたドリンクのペットボトルを私に促す。消毒液も絆創膏もドリンクも全て佐藤周子さんの奢り。私は代金を支払うと必死に言ったのだが、キーホルダーのお礼だと言われて断られてしまった。
「あのキーホルダー、本当に大切なものだから助かったわ! もしあのまま無くしてしまっていたと考えるともう」
 そういって眉を寄せる佐藤周子さんの言葉を聞いて、一回前に拾ったのに返さなかったことを申し訳ない気持ちにもなり、私はため息をつく。
「情けないですよね。
 お姉さんみたいなカッコイイ働く女性になりたいのに、全然だめ」
 佐藤周子さんは苦笑して顔を横にふる。
「私が? そう言って貰えるのは嬉しいけど……私は平凡な社会人よ。やっていることも雑用係だし」
 切れ長でどちらかというとキツめに見える顔なのに、笑うと柔らかい顔になる。その優しい顔が素敵。
 結局恐縮して謝りまくるだけの交流で、佐藤周子さんから何か情報を得ることは出来なかったが、佐藤周子さんが本当に良い人だということだけは、よ~く分かった。
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