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夏合宿
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波の音と遠くから聞こえるサークル仲間たちのはしゃぐ声を聞きながら景色を眺めていると、行き道に須田が言っていた非日常感というものがなんだかしっくりくる気がした
「お天気、良くてよかったですね」
彰人の横で本を読んでいる河野に声をかけると視線を上げてこちらを見てくれた
「そうだね、去年は雨が初日降っちゃったから晴れてよかった」
「雨だったんですか?」
「1日だけね、でも宿で結局ゲーム大会始まってそれはそれで楽しかったよ」
去年のことを思い出しているのか少しだけ口元に笑みを浮かべながら話す河野は穏やかで沢井とはまた違う憧れが募った
「あの……嫌だったら答えなくて大丈夫なんですけど……Subで嫌になったことありますか?」
夏の空気にはそぐわない話題にも、河野はあまり表情を変えずに頷いた
「沢山あるよ、酷いSubDropを経験したこともあるしね」
「えっ……」
福部という絶対的なパートナーがずっと側にいたと聞いていたため、SubDropの経験があると聞いて思わず驚きの声が出た
「ふふっ、福部がいるのにって思った?」
「あ……ごめんなさい……」
「どうして謝るの?みんなきっとそう思うから」
聞かないほうがよかったかなと思い思わず謝ると河野は緩々と首を振った
「福部とはダイナミクスがわかった時からパートナーになってもらっていたんだけどね、信頼するパートナー以外のDomに酷く扱われたことがあってDropしたんだ」
静かにそう話し始めた河野は過去にあったことを思いの外詳しく教えてくれた
「福部と引き離されて辱められて、壊れた僕を見た時の福部の表情は覚えてないけれど、その場にいた全員が自ら命を絶ちそうになる程強いDefenceだったらしい」
普段穏やかな福部からは想像のできないその言葉に驚いて言葉が出てこなかった
「そこから専門の医療機関で1年ほどCareを受けて復学してからは、今みたいにお互いべったり」
河野はそこまで話すと、脇に置いていたペットボトルから水を何口か飲み下した
「過去にあったことは変えられないし、そう簡単に恐怖心も嫌悪感も拭えないから……僕はね無理して克服する必要はないと思ってる」
何かを見透かすような瞳をじっと見返すと、河野は緩く微笑んでくれた
「ただね、嫌な記憶は上書きして仕舞えば思い出すことが減るよ」
「DomにCommandを使われるのも、体に触れられるのも全部嫌な記憶に繋がることは間違いないんだけど、俺は福部にしてもらうとねすごく幸せ」
そこまで言い切ると、普段はあまり見せないような楽しそうな笑顔をみせて、視線の先でビーチバレーを楽しむ福部の方に歩いて行った
河野が言った嫌な記憶の上書き、きっとできるのは須田しかいない
いつかあの悪夢を見なくなればいいと願いつつ、ずっと隠していた過去を話そうと小さく決意をした
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