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お城奪還編
第21話 文字の法則
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「ねぇ!起きて! 起きてってば!!」
掛け布団を抱き枕のように抱きしめながら、ダラシない顔で眠るアル。
その様子を見かねたレイは、少し雑にアルの身体をユサユサと揺らしていた。
「んっ? もぉ朝か……?」
そのままの姿勢で、薄っすらと目を開けながらムニャムニャと答えるアル。
僅かに開いたその目には、呆れ果てた表情で正座するレイの姿が映っていた。
「はぁ…… もうすぐお昼なんだけど……」
レイはため息交じりにそう告げると、スッと立ち上がり部屋を後にする。
「……。 めっちゃ呆れてたな。 ……起きるか……」
気不味そうな表情で、アルはゆっくりと身体を起こす。
少し慌てて寝間着から部屋着に着替えると、ゆっくりとレイの居る居間へと向かった。
部屋の主であるワンの居ない部屋を居室にして、既に三日目。
する事も無く、ただダラダラと過ごしていたが、さすがに少し罪悪感を感じていた。
「……おはよーございます」
レイのご機嫌を伺うように、居間の扉からそっと中を覗き込むアル。
そんなアルの予想に反して、レイは少しご機嫌な様子を見せていた。
「おはよ! とりあえず、こっち座って」
(めっちゃ笑顔だな…… 何か怖いんだけど……)
レイの笑顔を見て少しだけ嫌な予感がしたが、言われるままにレイの向かいへと腰掛けた。
ドン…… ドサ…… バサバサ……
テーブルを挟んで向かい側に居るレイは、その姿が見えなくなる程、様々な書物を積み上げる。
「えーっと…… 何すか?」
うず高く積まれた書物を眺めながら、アルはレイへと問いかける。
するとレイは、積まれた書物の山の横から、ヒョコッと顔を出しアルに笑顔を見せた。
「そろそろアルには、字覚えてもらおうと思ってさ」
にこやかな表情だが、どこか棘のある雰囲気のレイはアルへと圧力をかけていた。
「えーーっと……」
「アルが記憶無いのは、私も可哀想だなって思うよ?」
「うん」
「でも、いつまでもダラダラするのは、駄目だと思うなぁ」
「はい」
「それに私一人での外出は禁止だからさ。 今後一緒に【烙印】持ちを探すとなると……」
レイはテーブルをバンっと叩きながら、ズズイっとアルの方へと身を乗り出す。
「アルには字を覚えて貰う必要があるよね?」
その勢いで、テーブルの上の書物は音を立てながら崩れていく。
「という訳だからさ! 頑張って早く字を覚えてね?」
「……はい」
そう言いニコッと笑うレイに対し、アルは気圧されるように静かに返答していた。
「それにさぁ、ワンちゃんもお姉ちゃんも普段ぜーーんぜん、本とか読まなくてさ」
レイは少し不満そうな表情で顔を膨らませ、言葉を続けていく。
「だから誰かと面白い本のお話とかしたいなぁって、ずーーっと思ってたんだよね」
「……そっすか」
アルはレイの機嫌を損ねないように極力、話を合わせていく。
「なのでアルには、私のオススメの本を読んで感想文を書いてもらうね」
「感想文って…… そんな子供みたいな……」
ニコッと微笑みかけるレイに対し、アルは少し嫌そうな表情で返答する。
「すっごい面白い本があってさ! 最後に主人公が人々の前で演説する所なんて」
「おいっ!」
「んっ? なになに?」
余程好きな本なのかレイは、気付かない内に一人で内容を話そうとしていた。
その様子にアルは小さく溜息を吐くと、呆れた表情で言葉をかける。
「まだ読んでないのに、ネタバレしようとするなよ……」
「あっ、ごめんごめん! つい嬉しくなっちゃってさ! えへへ」
気不味そうに苦笑いを浮かべ、頭を掻くレイ。
そして誤魔化すように小さく咳払いをし、改めて真剣な表情に変わり言葉をかける。
「という訳で、今日からアルの予定は、ぜーーんぶ私が決めるから! そのつもりで居てね?」
そう言うと、アルにニコッと笑顔を向けた。
アルは、その勢いに圧倒されつつも何とか拒否しようと模索する。
「えっと…… あのですね、レイさ」
「い い よ ね?」
「……はぃ」
レイの圧力に屈服したアルは、渋々ながら提案を受け入れる事になってしまう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「えーっと、アルのこれからの予定だけど……」
レイは壁に大きめの布を貼ると、それを指差すようにアルに説明を始めた。
貼られた布には、円形で表した一日のスケジュール表のような物が描かれている。
「この通りにしてもらうね!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
・午前中 字の勉強 読み書き練習
・昼食 三十分程度
・午後 畑仕事、製鉄作業、などなど
・夕食 三十分程度
・就寝まで 字の勉強 読書
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
アルにはまだ字は理解出来ていないが、レイは補足するように説明をしていた。
図形を見る限り、就寝から起床までの時間が極端に短く感じられる。
「あのぉ…… レイさん? ちょっとハード過ぎませんかねぇ……」
「そぉ?」
アルが見る限り、あまり休憩時間を考慮されていないスケジュールは正直受け入れ難い。
その為、何とか緩和してもらおうとアルは色々と思案していた。
そんな様子を見ていたレイは、アルへ妥協案を提示する。
「じゃぁさ! 字をパッと覚えたら、勉強の時間は無くしてもいいよ?」
「マジ?」
「うんうん! マジマジ」
レイの言葉を聞いたアルは、色めき立ち途端にやる気がみなぎるような気がした。
(まじかよ。 実質、午後の仕事以外休みって事だろ? これは、やるしかないだろ)
レイの提案を受け入れたアルは、テーブルの上の書物を抱えるように持つと、
「仕事は明日からにするからさ? 今日はもう勉強に時間使って良いだろ?」
「んっ? まぁ良いけど。 随分、やる気だね」
「当たり前だろ! んじゃ、俺は部屋戻るな」
廊下にいくつかの書物を落としつつも、アルは足早に部屋へと戻っていく。
その様子をポカーンとした表情で見つめるレイ。
「まぁ…… やる気が出たなら、良いのかな?」
レイは少し不思議に思いつつも、自室へ戻っていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
アルが部屋に籠もって三時間が経過する。
机に向かっていたアルは、書物を投げ出し大の字になって寝転がっていた。
「全く分からん。 話せるから楽だと思ってたけど…… ナメてた……」
それもそのはず。
勉強用の書物は、アルが理解している文字と対比するようには書かれていない。
自分が話し認識している言葉が、どの文字かを判断する材料が、そもそも存在しない。
「うーーん。 そもそも俺が読める本って……」
大の字になりながら、部屋を見回すと一冊の本が目に入ってきた。
「これか! 爺さんが残した……」
アルは慌てて飛び起きると、食い入るようにワンの著書を読み始める。
「えーーーっと。 何か文字を覚える為の……」
目次を頼りに、パラパラとページをめくっていく。
すると見慣れた文字の中に、見慣れない文字が書かれた箇所を発見した。
「これか?」
そこには、アルが認識する文字は、一切書かれてはいない。
代わりに、この世界の文字が規則正しく並んで書かれていた。
「これって…… あいうえお表っぽいよな?」
アルはその表を確認しつつ、レイから受け取った書物の文字を解読し始める。
『これはウマですか? いいえ、それはしゃもじです』
「どういう状況だよ……」
『このみせでいちばんのしょうひんはなんですか? すまいるです』
「他に何かあるだろ……」
『あそこにいるのはおとうさんですか? いいえ、あれはネギです』
「頭おかしいだろ、これ作った奴…… でも…… ははっ……」
表を見比べながらではあるが、文字が理解出来た事に少し感動するアル。
アルはブツブツと呟きながら、自分でも表を作ったり等の勉強を開始していった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
勉強に励むアルの部屋へ、静かに近付くレイの姿があった。
忍び足で近付くレイはアルの部屋の戸を少しだけ開け、隙間からアルを眺める。
「うんうん。 ちゃんとやってるみたい。 えらいえらい」
小声で呟くと、静かに戸を閉め台所の方へと向かって行った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
字の勉強を続けるアルは、この世界の言葉の法則に気付き始める。
「これってやっぱ。 ひらがなとカタカナで構成されてるよなぁ」
レイに貰った書物を漁ると、一枚の付箋がついた本を見つけたアル。
そこには【おすすめ! 絶対読む事】と記載されていた。
「これがさっき言ってた本か。 えーーっと…… トル…… ア物語…… って読むのかな? ってか、レイの文字も何とか読めそうだな……」
レイおすすめの本を解読しながら読み進め、色々と思案する。
「英単語や漢字っぽいのもあるけど…… 基本的に俺が知ってる言葉と、殆ど一緒だな」
文字の形状こそまるで違うが、アルの知っている言葉に当てはめていく事は可能そうだ。
「ふぅ…… 何とかすぐ覚えられそうだな。 まぁ話せるんだから当然か」
言葉を覚える目処がつき、アルは少し気が抜ける感覚がしていた。
ハッと気付き辺りを見回すと、日も少し傾き部屋の中も薄暗い。
アルは明かりを点ける為に、ランプに手をのばす。
すると、アルの部屋へとドタドタと近付く足音が聞こえてくる。
足音はアルの部屋の前で止まると
ガラガラ…… バタンっ!!
「アルーー? そろそろご飯にしよっ? 出来たよーー」
勢いよく戸を開けたレイが、にこやかにアルヘと声をかける。
その言葉を聞いたアルは内心、不安に思う事があった。
(ご飯……。 ご飯ねぇ。 はぁ…… ご飯)
「あぁ。 今行く…… よっと……」
アルはゆっくりと立ち上がると、レイへと視線を送る。
「勉強の調子はどう? 出来た? おすすめの本、読んでみた?」
「えっ? あぁ。 まぁ余裕だな。 本はまだ途中だけど……」
「へぇぇ。 まさか、言葉思い出したとか?」
「いや。 そういうのじゃないけど。 何とかなりそうかな」
アルの言葉を聞いて、レイは小声で「へぇ」と関心した様子を見せていた。
「とりあえず…… 飯だろ?」
「うんうん。 行こ行こ」
レイはアルの袖を引っ張るように、居間へとトタトタ歩を進める。
居間へと着くとテーブルの上には、お椀に入った雑炊のような物が置いてあった。
「さっ! 早く食べよ!」
レイはお椀の置いてある、自分の定位置へと座る。
その姿を見たアルは、少し不満げな表情で声をかけた。
「なぁ…… レイさん?」
「んっ? なになにーー?」
アルの不満そうな顔を見て、少しキョトンとした表情で返答するレイ。
「今って…… 旅してる訳じゃないよな?」
「当たり前じゃん! 家にいるのに。 何言ってるの?」
そう答えたレイの表情は、先程と同じ少しキョトンとした表情。
「この雑炊みたいなのって…… 最初に出会った時に、天幕で食った奴だよな?」
「えっ? そうだけど……」
「これって、携帯食…… みたいな奴だよな?」
「うん。 そうですけど……」
アルに追求され、レイの表情は少し曇り始めた。
「バレリア達が出てって三日目だけど…… 毎食、コレだよな」
「は…… はい……」
レイは少し気不味そうに、アルの視線から目を反らす。
「レイって実は…… 料理苦手だろ」
「は…… はい……」
完全にうつむくレイを見て、アルは「はぁ……」と溜息を吐く。
そして台所へと向かうと、置いてある葉物野菜や肉片を手際良く刻んでいく。
それらと置いてある調味料を鍋に入れ、味見をしつつ即席の野菜炒めのような物を作った。
手際良く調理するアルの後ろ姿を見て、レイは関心したように「おぉぉぉ」と呟いていた。
「たまには野菜食わないと駄目だろ」
「うん!」
出来上がった炒め物を器に適当に盛り、居間のテーブルの上に無造作に置くアル。
レイは置かれた炒め物に箸を伸ばし、パクっと頬張ると
「んーーーー! 美味しいじゃん」
「だろ?」
満足そうなレイを見て、少し勝ち誇ったような表情になるアル。
「うん! じゃ明日からアルが料理担当って事で! よろしくねっ?」
「…………」
「それよりお姉ちゃん達、今頃なにしてるんだろうなぁ」
レイの悪びれる事の無い態度に、アルは呆れ果てていた。
掛け布団を抱き枕のように抱きしめながら、ダラシない顔で眠るアル。
その様子を見かねたレイは、少し雑にアルの身体をユサユサと揺らしていた。
「んっ? もぉ朝か……?」
そのままの姿勢で、薄っすらと目を開けながらムニャムニャと答えるアル。
僅かに開いたその目には、呆れ果てた表情で正座するレイの姿が映っていた。
「はぁ…… もうすぐお昼なんだけど……」
レイはため息交じりにそう告げると、スッと立ち上がり部屋を後にする。
「……。 めっちゃ呆れてたな。 ……起きるか……」
気不味そうな表情で、アルはゆっくりと身体を起こす。
少し慌てて寝間着から部屋着に着替えると、ゆっくりとレイの居る居間へと向かった。
部屋の主であるワンの居ない部屋を居室にして、既に三日目。
する事も無く、ただダラダラと過ごしていたが、さすがに少し罪悪感を感じていた。
「……おはよーございます」
レイのご機嫌を伺うように、居間の扉からそっと中を覗き込むアル。
そんなアルの予想に反して、レイは少しご機嫌な様子を見せていた。
「おはよ! とりあえず、こっち座って」
(めっちゃ笑顔だな…… 何か怖いんだけど……)
レイの笑顔を見て少しだけ嫌な予感がしたが、言われるままにレイの向かいへと腰掛けた。
ドン…… ドサ…… バサバサ……
テーブルを挟んで向かい側に居るレイは、その姿が見えなくなる程、様々な書物を積み上げる。
「えーっと…… 何すか?」
うず高く積まれた書物を眺めながら、アルはレイへと問いかける。
するとレイは、積まれた書物の山の横から、ヒョコッと顔を出しアルに笑顔を見せた。
「そろそろアルには、字覚えてもらおうと思ってさ」
にこやかな表情だが、どこか棘のある雰囲気のレイはアルへと圧力をかけていた。
「えーーっと……」
「アルが記憶無いのは、私も可哀想だなって思うよ?」
「うん」
「でも、いつまでもダラダラするのは、駄目だと思うなぁ」
「はい」
「それに私一人での外出は禁止だからさ。 今後一緒に【烙印】持ちを探すとなると……」
レイはテーブルをバンっと叩きながら、ズズイっとアルの方へと身を乗り出す。
「アルには字を覚えて貰う必要があるよね?」
その勢いで、テーブルの上の書物は音を立てながら崩れていく。
「という訳だからさ! 頑張って早く字を覚えてね?」
「……はい」
そう言いニコッと笑うレイに対し、アルは気圧されるように静かに返答していた。
「それにさぁ、ワンちゃんもお姉ちゃんも普段ぜーーんぜん、本とか読まなくてさ」
レイは少し不満そうな表情で顔を膨らませ、言葉を続けていく。
「だから誰かと面白い本のお話とかしたいなぁって、ずーーっと思ってたんだよね」
「……そっすか」
アルはレイの機嫌を損ねないように極力、話を合わせていく。
「なのでアルには、私のオススメの本を読んで感想文を書いてもらうね」
「感想文って…… そんな子供みたいな……」
ニコッと微笑みかけるレイに対し、アルは少し嫌そうな表情で返答する。
「すっごい面白い本があってさ! 最後に主人公が人々の前で演説する所なんて」
「おいっ!」
「んっ? なになに?」
余程好きな本なのかレイは、気付かない内に一人で内容を話そうとしていた。
その様子にアルは小さく溜息を吐くと、呆れた表情で言葉をかける。
「まだ読んでないのに、ネタバレしようとするなよ……」
「あっ、ごめんごめん! つい嬉しくなっちゃってさ! えへへ」
気不味そうに苦笑いを浮かべ、頭を掻くレイ。
そして誤魔化すように小さく咳払いをし、改めて真剣な表情に変わり言葉をかける。
「という訳で、今日からアルの予定は、ぜーーんぶ私が決めるから! そのつもりで居てね?」
そう言うと、アルにニコッと笑顔を向けた。
アルは、その勢いに圧倒されつつも何とか拒否しようと模索する。
「えっと…… あのですね、レイさ」
「い い よ ね?」
「……はぃ」
レイの圧力に屈服したアルは、渋々ながら提案を受け入れる事になってしまう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「えーっと、アルのこれからの予定だけど……」
レイは壁に大きめの布を貼ると、それを指差すようにアルに説明を始めた。
貼られた布には、円形で表した一日のスケジュール表のような物が描かれている。
「この通りにしてもらうね!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
・午前中 字の勉強 読み書き練習
・昼食 三十分程度
・午後 畑仕事、製鉄作業、などなど
・夕食 三十分程度
・就寝まで 字の勉強 読書
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
アルにはまだ字は理解出来ていないが、レイは補足するように説明をしていた。
図形を見る限り、就寝から起床までの時間が極端に短く感じられる。
「あのぉ…… レイさん? ちょっとハード過ぎませんかねぇ……」
「そぉ?」
アルが見る限り、あまり休憩時間を考慮されていないスケジュールは正直受け入れ難い。
その為、何とか緩和してもらおうとアルは色々と思案していた。
そんな様子を見ていたレイは、アルへ妥協案を提示する。
「じゃぁさ! 字をパッと覚えたら、勉強の時間は無くしてもいいよ?」
「マジ?」
「うんうん! マジマジ」
レイの言葉を聞いたアルは、色めき立ち途端にやる気がみなぎるような気がした。
(まじかよ。 実質、午後の仕事以外休みって事だろ? これは、やるしかないだろ)
レイの提案を受け入れたアルは、テーブルの上の書物を抱えるように持つと、
「仕事は明日からにするからさ? 今日はもう勉強に時間使って良いだろ?」
「んっ? まぁ良いけど。 随分、やる気だね」
「当たり前だろ! んじゃ、俺は部屋戻るな」
廊下にいくつかの書物を落としつつも、アルは足早に部屋へと戻っていく。
その様子をポカーンとした表情で見つめるレイ。
「まぁ…… やる気が出たなら、良いのかな?」
レイは少し不思議に思いつつも、自室へ戻っていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
アルが部屋に籠もって三時間が経過する。
机に向かっていたアルは、書物を投げ出し大の字になって寝転がっていた。
「全く分からん。 話せるから楽だと思ってたけど…… ナメてた……」
それもそのはず。
勉強用の書物は、アルが理解している文字と対比するようには書かれていない。
自分が話し認識している言葉が、どの文字かを判断する材料が、そもそも存在しない。
「うーーん。 そもそも俺が読める本って……」
大の字になりながら、部屋を見回すと一冊の本が目に入ってきた。
「これか! 爺さんが残した……」
アルは慌てて飛び起きると、食い入るようにワンの著書を読み始める。
「えーーーっと。 何か文字を覚える為の……」
目次を頼りに、パラパラとページをめくっていく。
すると見慣れた文字の中に、見慣れない文字が書かれた箇所を発見した。
「これか?」
そこには、アルが認識する文字は、一切書かれてはいない。
代わりに、この世界の文字が規則正しく並んで書かれていた。
「これって…… あいうえお表っぽいよな?」
アルはその表を確認しつつ、レイから受け取った書物の文字を解読し始める。
『これはウマですか? いいえ、それはしゃもじです』
「どういう状況だよ……」
『このみせでいちばんのしょうひんはなんですか? すまいるです』
「他に何かあるだろ……」
『あそこにいるのはおとうさんですか? いいえ、あれはネギです』
「頭おかしいだろ、これ作った奴…… でも…… ははっ……」
表を見比べながらではあるが、文字が理解出来た事に少し感動するアル。
アルはブツブツと呟きながら、自分でも表を作ったり等の勉強を開始していった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
勉強に励むアルの部屋へ、静かに近付くレイの姿があった。
忍び足で近付くレイはアルの部屋の戸を少しだけ開け、隙間からアルを眺める。
「うんうん。 ちゃんとやってるみたい。 えらいえらい」
小声で呟くと、静かに戸を閉め台所の方へと向かって行った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
字の勉強を続けるアルは、この世界の言葉の法則に気付き始める。
「これってやっぱ。 ひらがなとカタカナで構成されてるよなぁ」
レイに貰った書物を漁ると、一枚の付箋がついた本を見つけたアル。
そこには【おすすめ! 絶対読む事】と記載されていた。
「これがさっき言ってた本か。 えーーっと…… トル…… ア物語…… って読むのかな? ってか、レイの文字も何とか読めそうだな……」
レイおすすめの本を解読しながら読み進め、色々と思案する。
「英単語や漢字っぽいのもあるけど…… 基本的に俺が知ってる言葉と、殆ど一緒だな」
文字の形状こそまるで違うが、アルの知っている言葉に当てはめていく事は可能そうだ。
「ふぅ…… 何とかすぐ覚えられそうだな。 まぁ話せるんだから当然か」
言葉を覚える目処がつき、アルは少し気が抜ける感覚がしていた。
ハッと気付き辺りを見回すと、日も少し傾き部屋の中も薄暗い。
アルは明かりを点ける為に、ランプに手をのばす。
すると、アルの部屋へとドタドタと近付く足音が聞こえてくる。
足音はアルの部屋の前で止まると
ガラガラ…… バタンっ!!
「アルーー? そろそろご飯にしよっ? 出来たよーー」
勢いよく戸を開けたレイが、にこやかにアルヘと声をかける。
その言葉を聞いたアルは内心、不安に思う事があった。
(ご飯……。 ご飯ねぇ。 はぁ…… ご飯)
「あぁ。 今行く…… よっと……」
アルはゆっくりと立ち上がると、レイへと視線を送る。
「勉強の調子はどう? 出来た? おすすめの本、読んでみた?」
「えっ? あぁ。 まぁ余裕だな。 本はまだ途中だけど……」
「へぇぇ。 まさか、言葉思い出したとか?」
「いや。 そういうのじゃないけど。 何とかなりそうかな」
アルの言葉を聞いて、レイは小声で「へぇ」と関心した様子を見せていた。
「とりあえず…… 飯だろ?」
「うんうん。 行こ行こ」
レイはアルの袖を引っ張るように、居間へとトタトタ歩を進める。
居間へと着くとテーブルの上には、お椀に入った雑炊のような物が置いてあった。
「さっ! 早く食べよ!」
レイはお椀の置いてある、自分の定位置へと座る。
その姿を見たアルは、少し不満げな表情で声をかけた。
「なぁ…… レイさん?」
「んっ? なになにーー?」
アルの不満そうな顔を見て、少しキョトンとした表情で返答するレイ。
「今って…… 旅してる訳じゃないよな?」
「当たり前じゃん! 家にいるのに。 何言ってるの?」
そう答えたレイの表情は、先程と同じ少しキョトンとした表情。
「この雑炊みたいなのって…… 最初に出会った時に、天幕で食った奴だよな?」
「えっ? そうだけど……」
「これって、携帯食…… みたいな奴だよな?」
「うん。 そうですけど……」
アルに追求され、レイの表情は少し曇り始めた。
「バレリア達が出てって三日目だけど…… 毎食、コレだよな」
「は…… はい……」
レイは少し気不味そうに、アルの視線から目を反らす。
「レイって実は…… 料理苦手だろ」
「は…… はい……」
完全にうつむくレイを見て、アルは「はぁ……」と溜息を吐く。
そして台所へと向かうと、置いてある葉物野菜や肉片を手際良く刻んでいく。
それらと置いてある調味料を鍋に入れ、味見をしつつ即席の野菜炒めのような物を作った。
手際良く調理するアルの後ろ姿を見て、レイは関心したように「おぉぉぉ」と呟いていた。
「たまには野菜食わないと駄目だろ」
「うん!」
出来上がった炒め物を器に適当に盛り、居間のテーブルの上に無造作に置くアル。
レイは置かれた炒め物に箸を伸ばし、パクっと頬張ると
「んーーーー! 美味しいじゃん」
「だろ?」
満足そうなレイを見て、少し勝ち誇ったような表情になるアル。
「うん! じゃ明日からアルが料理担当って事で! よろしくねっ?」
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眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
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※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
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