あるとれいと~絶対回避能力があるのに色々トラブルに巻き込まれちゃう男のお話~

上田るぅ

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お城奪還編

第37話 ゼニールとレドルジ

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 現ハイランド帝国領。

 旧アストリナの領地の中心には、古いながらも格式のある古城が建っている。

 領地を見下ろすよう小高い丘に建てられたその城は、今は領主ゼニールが居城に利用していた。

 十年前の戦火の影響で城下町は廃墟と化し、住人の姿は見えない。

 一方、旧アストリナ城の周囲は古い城に似つかわしくない、大理石で出来た城壁に覆われている。

 新たな城が建つ程の高額な費用がかけられたその城壁は、城主の財力を物語っていた。

 日も暮れ、辺りが暗くなり始めた時刻。

 旧アストリナ城の謁見の間には、無数のランプの炎の影が揺らめく中、二人の男の姿が見える。

 玉座に座った男が傍らに立つ男へと、言葉をかけた。

「プハァ…… まだ見つからないゼニ? もっと虱潰しに捜すゼニよ!!」

 親指程の太さの葉巻を吹かしながら、不機嫌そうに声を荒げる背の低い醜悪な容姿の男。

 その肥えた姿はハゲ上がった頭がヌメっと脂に塗れており、まるで食肉用の家畜に豪華な衣装を纏わせたような姿をしている。

「まぁまぁ、そのうち見つかるでしょう。 ゼニールさん」

「そのうちじゃ駄目ゼニ! レドルジ! 何の為にお前らに協力してやってるゼニか?」

 醜悪な容姿のゼニールを宥めるように声をかける、顔の下半分を布で覆った銀髪の男性。

 レドルジと呼ばれていたその男が、少し笑い声を交えながら言葉を続ける。

「なぁに。 すぐに見つかりますって。 今、配下にも探らせてますので」

「早くするゼニよ! ったく。 急がないと、また帝国に舞い戻されるゼニよ」

 苛つきを隠さずにブツブツと文句を言うゼニール。

 そんなゼニールを他所に、レドルジは言葉を続ける。

「ところで、ザーマス兄弟の処置はどうするんです? もう一度、機会を与えるんです?」

 レドルジの問いかけにゼニールは右手で顎を触りながら、少し思案する様子を見せていた。

(このレドルジとか言う男、確かに腕は立つゼニが…… 【烙印】を持つ者を集めて得体の知れない化け物の餌にしたり…… 一体、何が目的ゼニ?)

 そんな事を考えながらゼニールは、チラッとレドルジへ視線を送る。

(アストリナの貴族が手に入ったら、コイツ等とも縁を切った方が良さそうゼニね)

 ゼニールの視線に気付いたレドルジの目が笑顔に変わる。

「どうしたんです? 私の顔に何か?」

「何でもないゼニ。 あの兄弟はお前にやるゼニ。 せいぜいコキ使ってやると良いゼニよ」

 吐き捨てるような言葉を聞いたレドルジは「ふぅ……」と小さく溜息を吐いていた。

「私としては牢屋に入れてある、あの【烙印】の男の方が、良いんですがね」

「あれは駄目ゼニ! あれは金の鳴る木ゼニよ」

 食い気味に拒絶するゼニールの様子を見て、レドルジは小さな笑い声を上げる。

「金…… ねぇ。 まぁ良いでしょう。 それでは、あの兄弟には役に立って貰いますか」

 そんな会話をしていると、真鍮色の甲冑を着た一人の騎士が謁見の間へとやってきた。

 騎士は片膝をつき頭を下げると、大きな声で言葉を発する。

「報告します! チクリスと名乗る男がゼニール様にお目通りを願っております」

 玉座に座ったゼニールがチラッとレドルジに視線を送ると……

「さっそく来たみたいですね。 よし、ここに通せ」

「ははっ!」

 レドルジがそう言うと騎士は立ち上がり、謁見の間の入り口付近まで歩を進める。

 そして入り口の外で待つチクリスへ、騎士が声をかけた。

「許可が出た。 入れ」

「はいはい。 失礼しますよ」

 チクリスは返事をすると、下品な笑みを浮かべ揉み手をしながらゼニール達の前へとやってきた。

 そして片膝をついてゼニールの顔を見つめるチクリス。

「一体、何の用ゼニ?」

 ゼニールは少し不機嫌そうな表情をしながら問いかける。

 その様子に困惑するチクリスは、少し焦ったように話を始める。

「えっ、あっ、いや。 実は、ちょっと耳寄りな情報が御座いまして。 へへっ」

 焦りつつ苦笑いを浮かべながらチクリスは、アル達の行動を報告していく。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 ・玉鋼を大量に換金した事
 ・食料を大量に購入した事
 ・十数人分の身分証を手に入れようとしている事

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 その報告を聞いたゼニールは玉座に深く腰掛けると、思案するように目を瞑る。

(ふむ。 時期的に見ても、アストリナの貴族共に間違いないゼニね……)

 そして瞑っていた目を見開くと、ゼニールはチクリスへと言葉をかけた。

「それで? ソイツ等は何処行ったゼニ? 当然、場所も分かってるゼニね?」

 その言葉を聞いたチクリスの表情から焦りが消え、自慢げな表情に変わる。

「もちろんですとも。 どうやら連中は集落跡に身を寄せてるようで」

 チクリスは片膝を付いたまま手を揉むと、下品な笑顔で話を続ける。

「今、ウチの者が行き先を確認してるんで、おっつけ分かるかと」

「ふん。 そうゼニか。 ご苦労だったゼニね」

 報告を聞いたゼニールは不機嫌そうな表情のまま答える。

 その様子を見たチクリスは、てっきり褒美が貰えるものと思っていたのか、アテの外れたような表情に変わる。

「何ゼニ? まだ何かあるゼニか?」

 表情を変えないゼニールを見ていたレドルジが、割って入るように言葉を挟む。

「ふふ。 きっと報奨を期待しているでしょ。 そうですねぇ」

 レドルジが腕を組みながら少し思案すると、何かを思いついたようにチクリスに視線を向ける。

「そうだ。 今後、ザーマスさんの代わりに色々と取り仕切ってもらいますかね?」

「えっ? 宜しいんで? ざっ、ザーマス様は……」

 レドルジの言葉を聞いたチクリスは、少し驚いたような表情で答える。

「まぁ、貴方が気にする事では無いですよ。 それで宜しいですか?」

 そう言うとレドルジは、チラリとゼニールへと視線を向ける。

「ふん。 勝手にするゼニよ」

「だそうですよ? それでは、今後とも頼みますね?」

「はっ、はい。 こちらこそ! ありがとうございます」

 二人の言葉を聞いたチクリスは、床に額を付け平伏する。

 そして顔を上げると、そそくさと謁見の間を後にしていった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 チクリスが去った謁見の間には、不機嫌そうなゼニールと涼しい顔をしたレドルジの姿。

 ムスッとした表情を崩さないゼニールに、レドルジが声をかけた。

「それでどうします? 私に任せて貰っても、一向に構いませんが」

「そうゼニね。 貴族共を、ちゃんと無傷で連れて来れるゼニか?」

「それはもちろん。 信用頂けないのですか?」

 嫌味を言うゼニールを気にかける事も無く、レドルジは笑顔で返答する。

「ふんっ。 現に城内に入ったコソドロすら捕らえられてないゼニ」

 ゼニールは不機嫌そうにジロリと睨むが、レドルジは全く気にする素振りを見せない。

「それに! 徴税の方は、どうなってるゼニ? ワシはもっと金が必要ゼニよ」

 無反応のレドルジに怒りをぶつけるように、声を荒げるゼニール。

 そんなゼニールの様子を気にも止めずに、涼し気な口調でレドルジが答える。

「ふふふ。 まぁ、私に全てお任せ頂ければ。 きっとお役に立ってみせますよ?」

「ふんっ。 まぁ良いゼニ。 せいぜい役に立つゼニよ!」

 吐き捨てるように言い、玉座からスッと立ち上がると……

「オーーイ! 飯にするゼニ! 酒も今すぐ用意するゼニよ!」

 大声でそう叫びながら、奥の間へと向かうゼニール。

「ははっ。 只今」

 奥の間からはゼニールの声を聞いた従者達が、慌ただしく動く様子が見える。

 その様子を見ていたレドルジは「ふぅ……」と小さく溜息を吐く。

「やれやれ。 いつまで、こんな事をしなければいけないのですかね」

 少し呆れたように呟いていたが、途端に「フッ……」と笑みが溢れる。

「まぁ、ここまでは予定通りですが…… さて、どうなる事やら」

 少し笑いながらレドルジは謁見の間を後にし、地下にある牢へと足を運んでいった。
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