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お城奪還編
第49話 狼煙
しおりを挟む「おっ、おい…… 泣くなって。 ほら、とりあえず涙拭けって……」
へたり込み泣きじゃくるアズサにアルは、少し困惑した表情で懐から手拭いを出し、それを渡す。
「うっ…… うん…… あ゛りがど……」
ゴシゴシ…… ズビビビッ……
アズサは受け取った手拭いで顔を拭うと、そのまま鼻をかんだ。
「ありがど…… 優しいオジサン」
目と鼻を真っ赤にし、落ち込んだ様子で手拭いを返すアズサに、アルは若干引いていた。
「あっ…… あぁ…… 気にするなよ…… おい! シナモン」
アルは鼻のかまれた手拭いをさり気なく地面に置くと、困惑した顔でシナモンに視線を送る。
「なっ、何なのです?」
「お前なぁ…… さすがに言い過ぎだろ! アズサに謝れよ……」
「んなっ!」
アルの発言を聞いたシナモンは、少し納得のいかない表情に変わる。
そんなシナモンにリナが、そっと耳打ちするように言葉をかける。
「お願い…… 一応…… 謝っておいて…… 何か…… 気の毒だし……」
「えっ…… リナ様が言うのなら…… 分かったのですよ」
シナモンは渋々ながらアズサに近付くと、申し訳無さそうな表情で頭を下げる。
「あの…… ごっ、ごめんなさいなのですよ。 言い過ぎたのです……」
「う゛っ… うん。 ねぇ、ボクの弓は…… 宝の持ち腐れじゃないよねぇ」
目を腫らし訴えかけるように尋ねるアズサの様子に、シナモンはかなり罪悪感を覚えていた。
「もっ、もちろんなのですよ。 あっ、貴女にピッタリなのですよ」
「だよね? だよね? うぅぅ……」
シナモンの言葉に少し安堵した表情に変わるが、アズサの目からは涙が止まらない。
その様子に引いていたシナモンはアルに近付くと、アズサに聞こえない程度の声量で耳打ちする。
「なっ、何なのです? この人は! 一体、どうなってるですか?」
「俺に言うなよ…… ってか、お前が泣かしたんだろ」
「何言うです! 泣きたいのはこっちなのですよ」
ヒソヒソと話を続ける二人の様子を見ていたアズサは、身体を震わせながら嗚咽を漏らす。
そんなアズサにレイが近付くと、腰から下げていた革製の水筒を差し出し声をかけた。
「だっ、大丈夫? アズサさん! とりあえず、落ち着いて? ねっ?」
「うん…… ありがとぉ。 キミも優しいね」
へたり込んでいるアズサは水筒を受け取ると、ゴクゴクと飲み干す。
「ふぅ……」
「おっ、落ち着いたかな?」
「うん! もぉ大丈夫! ありがとぉ。 ってアレ? ボク何してたんだっけ?」
一息入れ落ち着きを取り戻したアズサは、今の状況を理解出来ないでいた。
そんなアズサ達の様子を黙って見ていたリナが、少し大きな声を発しながら指差す。
「誰か…… 来る……」
その声を聞いたアルは、リナの指差す方向に視線を向ける。
その人影は二人居て、槍を携えた兵士の様に見えた。
(あっちが本命か…… 今度こそ上手く誤魔化さないとな……)
アルはアズサに近付くと、おもむろに地面に落ちていたアズサのマントを頭から被せる。
そしてレイやシナモンに目配せすると、真剣な表情で話し始める。
「良いか? 今度こそ本命っぽいから、上手く話を合わせろよ?」
無言で頷くレイ達とは対象的に、アズサはマントを被ったままオロオロとアルに話しかけた。
「えっ? えっ? あのっ、ボクは」
へたり込みながら困惑するアズサに手を差し伸べたアル。
アルは手を握り立ち上がったアズサのマントのホコリを手で落とし、改めてフードを深く被せる。
「良いからアズサも、ちょっと黙ってろ」
「えっ? あっ、うん…… ワカリマシタ……」
状況が把握出来ていないアズサは、アルに言われるがまま俯き押し黙っていた。
そんなアル達の元に、槍を携えた二人の兵士が近づいてくる。
そして手に持った槍の切っ先をアル達に向けると、威圧するような口調で言葉をかけてきた。
「おいっ! こっちに白い弓を持った、怪しい奴が来なかったか?」
「ギクリ」
兵士達はアル達を見回すと、改めてアルに槍の切っ先を突き付ける。
「さぁ…… 見ませんでしたけど。 何かあったんです?」
(ギクリとか口に出すなよ…… 何考えてんだアズサは……)
とぼけるような口調で話すアルに、兵士は少しムッとした表情を浮かべている。
「ふんっ。 お前には関係無い事だ。 それより……」
アルに切っ先を向ける兵士とは別に、もう一人の兵士が槍を突き付けながらアル達の周りを歩き始めた。
「この先に一体、何のようだ? 隠すと為にならんぞ?」
明らかに怪しむような口調で話す兵士に、アルはニヤけた表情で返答する。
「いやぁ、私共はゼニール様にご贔屓頂いている商人でして、はい」
「商人? その割には荷が無いようだが?」
兵士はそう言うと、突き付けていた槍の切っ先をアルの目前まで近づける。
「一体、何を売るって言うんだ? あぁ? 答えろ」
恫喝するように話す兵士に、アルは表情を崩さないままに返答した。
「いやぁ、大きな声では言えませんが…… 奴隷をね。 頼まれてまして」
「奴隷?」
アルの言葉を聞いた兵士は、フードを被るリナとアズサに視線を送る。
(不味いな…… フードを取れとか言われたら、面倒な事になるかも知れんし……)
怪しむ兵士を他所にアルは、おもむろに自らの懐に手を入れる。
「おっと、怪しい行動を起こすんじゃないぞ?」
兵士はアルの行動を見て、懐に手を入れている場所へ切っ先を突き付けた。
「いえ、怪しいだなんてそんな。 今、身分証をね」
アルは懐から身分証と銀貨の入った袋を取り出し、重ねるようにして兵士に手渡す。
「ふんっ。 小賢しい真似を。 んーー?」
兵士は銀貨の入った袋と共に身分証を受け取ると、じっくりとそれに目を通した。
(ゼニールの私兵って位だから…… 金には弱い…… よな?)
内心、少し緊張していたアルだが、兵士に悟られないように出来るだけ表情は崩さない。
そんなアルに対し、兵士は疑いの眼差しを向けながら声を荒げる。
「おいっ! 貴様、ウルスラの商人なんだな?」
「はっ、はい。 それが何か?」
「ウルスラは人身売買は禁止されてるはずだ。 一体、どういう事なんだ?」
兵士の言葉を聞いたアルは、表情こそ変えないが内心ドキドキしていた。
(やっちまったぁ…… そういやそんな事言ってたっけ……)
アルは後ろに控えるレイとシナモンへ、チラッと視線を送る。
レイは出来るだけ喋らないように、何かを我慢するように口を一文字にしている。
一方のシナモンは、ムッとした表情でアルを睨みつけていた。
(まぁ最悪、兵士二人位なら何とかなるかもだけど…… ここでの揉め事は絶対に避けたい……)
アルは今まで聞いた事や状況を頭の中で交錯させ、打開策を思案する。
「嫌だなぁ。 だから大きな声では言えないと、言ったじゃないですかぁ」
誤魔化すように右手で頭を掻きながら、ヘラヘラと笑い声をあげ話しかける。
「ふん。 まぁいい。 念の為、その奴隷ってのを改めさせてもらうぞ?」
「えっ、あっ、いや……」
兵士の言葉を聞いたアルは、少し焦ったような態度を取ってしまう。
その様子を見た兵士はアルの顔を覗き込み、懐疑的な様子を見せていた。
「何だ? 何か見られたら不味い事でもあるのか?」
「いやっ、それは構わないんですが…… 本当に宜しいので?」
アルの言葉を聞いた兵士は、怪しむような態度から疑問を浮かべた態度に変わっていく。
「どういう意味だ?」
「いやぁ、人身売買を禁止しているウルスラの商人の私に、わざわざ頼まれた訳ですよ?」
その場しのぎの適当な言葉でアルは、誤魔化すように言葉を続けていく。
「ゼニール様にとって何か訳ありの…… と思いましてね」
(これで引き下がってくれなかったら…… もうなるようになれって感じだな……)
少し諦めたような表情にも見えるアルの様子を見て、兵士は腕を組み思案している。
その様子を見たもう一人の兵士が近付くと、思案する兵士に耳打ちをする。
「おい、もしかして例の化け物の…… じゃないのか? ザーマスが食われたっていう……」
「そうだな…… 下手に関わると、俺達も危ないが……」
ヒソヒソと話を続けながらも、チラッとアル達の様子を伺う兵士達。
「しかし、もし仮にあの盗賊に関係ある奴らだったら……」
「そうは言うがな…… そうだな。 姿だけでも確認しておくか」
話がまとまった兵士達は改めてアル達に視線を送ると、手に持っていた槍の切っ先を向ける。
(駄目だったかぁ…… どうする……)
少し緊張した面持ちのアルに対し、兵士の一人が切っ先を向けたまま声をかける。
「念の為、奴隷の姿だけでも改めさせてもらう。 良いな?」
その言葉に対しアルが返答しようとした瞬間。
ヒューーーーーーー…… パァーーーーーーーン……
ゼニールの居城、アストリナ城の上空に何かが弾ける音と共に、青い小さな雲が出現した。
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