あるとれいと~絶対回避能力があるのに色々トラブルに巻き込まれちゃう男のお話~

上田るぅ

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お城奪還編

第61話 決心

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 ミシッ…… ミシッ…… ミシッ…… ミシッ……

「おいっ、一体どこに行く気だよっ」

「…………」

 無言でアルの袖を引っ張り静かに廊下を歩くリナ。

 皆が起きないようにアルは、小さな声でリナに問いかけていた。

 しかし、その返答は無く無言のまま玄関を出ると、集会場前の広場へとアルを連れ出した。

 その様子に気付いたのか自室で寝ていたレイが、ムクッと起き上がり小さく呟く。

「んーーっ? こんな時間に…… 誰だろ?」

 昨夜のアルとアズサの件もあり、思わず隣で寝るアズサに視線を送る。

「スーーーッ…… スーーーッ…… スピーーッ……」

 アズサは大きな口を開け、布団を蹴飛ばし少しだらしのない格好で寝ている。

「うーーん。 アル…… かな?」

 レイは小さくそう呟くとアズサの布団を掛け直し、ゆっくりと外へと出る。

「うーーーん。 明日も良い天気になりそぉ……」

 静かに玄関から出て上空を見上げると、そこには大きな月が輝いていた。

「んっ? あれは…… アルと…… リナちゃん…… かな?」

 レイが集会場の方へ視線を向けると、リナに袖を引っ張られたアルの姿が見える。

「なんだろ…… 覗いちゃ悪いかもだけど…… 気になる……」

 少し後ろめたさを感じつつも好奇心が勝ったレイは、忍び足でアル達を付けていった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 集会場前の広場に着いたアル達。

 この日の夜は外で食事をし、花火をしただけあって少しだけその痕跡が見える。

「おいっ、こんな所まで連れ出して何だってんだよっ」

 少し不満げな表情で話すアルを他所に、リナは無表情のまま袖を引っ張っていた。

 そして集会場の端の方に転がっている倒木に目をつけると、袖をパッと手放す。

「……座って」

「えっ? あぁ……」

 リナに促されるように倒木に腰掛けたアルの右横に、リナもちょこんと腰を掛けていた。

(そういや前もここでバレリアと話したっけ…… 何かスゲェ前に感じるなぁ……)

 アルは上空に浮かぶ月を見ると、おもむろに隣に座るリナを横目で確認する。

(この頃、色々あり過ぎたからなぁ…… まぁ仕方ないか……)

 小さく溜息を吐きながら、アルはリナに声をかける。

「んで? こんな所まで来て、どうしたんだよ」

 アルの問いかけに対しリナは、少しだけ言葉を発するのを躊躇するような様子を見せていた。

 しかしゴクッと息を飲むと、意を決したように小さく言葉を発する。

「……分からないの」

「分からない?」

 リナの言葉の真意が読み取れないアルは、オウム返しのように同じ言葉を返していた。

 そんなアルの様子を他所に、リナは小さく頷くと上空に浮かぶ月に視線を送る。

 無表情のままのリナだが、その表情は無感情では無いとアルに感じさせた。

「シナモンは…… ウルスラ商業都市の令嬢なのに…… 人身売買のせいで勘当されたって言ってた」

「…………」

 リナの言葉を聞いたアルは、どうリアクションして良いか分からずに無言のまま佇んでいる。

「あの子は…… そこまでしてでも…… 人を守りたいって気持ちがあるの……」

「そう…… だな」

 リナは上空の月を眺めたまま、表情を崩さず話を続けていく。

「アズサは…… アストリナ出身で…… その……」

 何かを思い出したのか、俯き少しだけ唇を震わせながら、続きの言葉を発せられずに居るリナ。

 アルはその様子に気付き、そっと右手でリナの頭をポンポンと撫でながら言葉をかける。

「あぁ…… そうだな……」

 リナは小さく頷くと、再び月を見上げ話を続けていく。

「レイは…… バレリア様の妹だし…… 優しいし…… 凄く助けてくれる……」

「まぁ…… 確かにな」

 アルの返答に対しリナは、小さく頷き言葉を続けていく。

「リナや、アズサ…… シナモンの事も…… 自分の事のように思ってくれてる……」

「まぁそうだよな。 俺の事もスゲェ考えてくれてるし」

 アルはウンウンと頷き、リナの言葉に相槌を打っている。

 そのアルの様子を見たリナは、少しだけ眉間にシワを寄せジッと睨むようにアルを見ていた。

「なっ…… 何すか……?」

 いつもとは少し違うリナの様子に、アルは少しだけ体を引いてリナの目を見つめる。

「おにい…… ううん…… 貴方は? 何で……?」

 リナの問いかけに対しアルが答えられずに居ると、畳み掛けるように問いかけが続く。

「貴方は…… レイに言った…… 覚悟はあるのかって…… 貴方はあるの?」

 リナの言葉を聞いたアルは少し俯くように下を見ると、そのまま押し黙っていた。

「リナも…… 皆も戦う理由があるの…… 貴方には?」

「いやっ、俺だって……」

 リナの問いかけに対し、反論するように答えたアル。

「貴方は…… 城を手に入れても、要らないって言った」

「…………」

「人は目的が無いと…… 戦えないのに……」

 そう呟くとアルの胸ぐらを少しだけ震えた手で掴み、リナは語気を強め尋ねる。

「何があるの? 貴方に。 戦う理由なんて無いでしょ? ねぇ! 答えてよっ!」

 少しだけ目に涙を浮かべ、怒りを顕にするように言葉を荒げるリナ。

「リナ……」

 出会ってからずっと無表情で感情を表に出さないリナ。

 そのリナが初めて見せた感情的な部分に、アルは少しだけ戸惑いを隠せないでいた。

「あっ…… ごめん…… なさい……」

 リナはハッと何かに気付いたように、胸ぐらを掴んでいた手を離す。

 そして体を正面に向けたリナは、改めて月を眺めながら小さく呟く。

「怖いの…… これ以上、何かを失うのが……」

 少しだけ唇を震わせながら、リナは言葉を続けていく。

「なのに…… 期待や希望を託す相手が…… 貴方で……」

 リナは言葉に詰まったように、その先を言えずに居た。

 そのリナの様子を見たアルは、少しだけ申し訳無さそうな表情で言葉をかける。

「不安…… なんだな?」

「…………うん」

 リナの正直な言葉を聞いたアルは、少しだけ苦笑いを浮かべながらリナの頭をポンポンと撫でる。

 そして小さく溜息を吐くと、言葉を選ぶように話し始めた。

「正直、最初シナモンが皆を連れてきた時は…… ゴメンだなって感じだったよ」

 アルは両手を組むとリナと同様に、上空に浮かぶ月を眺めながら話を続けていく。

「何で俺が?ってな。 だって考えても見ろよ? 俺は名前も記憶も無かったんだぞ?」

「…………」

「家も仕事も何も無い。 だからさっ。 そんな俺に何が出来るのかなって思ってたよ」

 アルはそう言うと苦笑いを浮かべたまま、リナの方へチラッと視線を送る。

「でもさっ。 出会ったばかりのリナが俺の事、お兄ちゃんって言ってくれたろ?」

「……うん」

「それにレイも。 バレリアが居なくなって一番寂しいはずなのに、皆の事ばっか考えててさ」

 そう言うとアルはリナの頭をポンポンと撫でながら、言葉を続けていく。

「アズサやシナモンもそうだな。 もちろんコレに期待してるってのも、あるんだろうけど……」

 アルはおもむろに右袖を捲り、【数字の烙印】を顕にしリナに見せつける。

 月明かりに照らされた【数字の烙印】を撫でるように触ると、アルは少しだけ笑顔に変わった。

「だけどコレも含めて俺だろ? 何かさっ。 あったんだなって思ったよ」

「……あったって?」

 疑問を浮かべた表情で尋ねるリナに対し、アルは笑顔を向けて言葉を続けていく。

「出来る事。 与えられる物がさ。 何にも無いと思ってたんだけどな」

「……お兄ちゃん」

 リナの少しだけ申し訳無さそうな表情を見たアルは、ニコッと笑顔を向けていた。

「確かに何かを失うのって怖いよな。 リナの気持ちもスゲェ分かるよ」

「…………」

「正直、さっきまで失うものなんて、これ以上何も無いと思ってたけどさ」

 アルは笑顔を浮かべたまま上空の月を眺め、小さな声で呟くように言葉を続ける。

「リナに言われて気付いたよ。 正直、今は怖い。 レイやリナ、他の皆の事も失いたくないなーってな。 やっと手に入れた俺の居場所って感じだしな」

「……そう。 だね」

 リナはアルの言葉を聞いて、少しだけはにかむような笑顔を浮かべていた。

「だから…… 守る為だな! 自分の居場所を守る為に戦う。 理由になってないかな?」

 口角を上げ白い歯を見せるアルの表情を見たリナは、ゆっくりと首を横に振る。

「うぅん…… 安心した……」

「そっか…… ごめんな、不安にさせて」

「……本当だよ」

 アルの言葉を聞いたリナは少し冗談ぽくそう言うと、スッと立ち上がりアルの袖を引っ張る。

 釣られたように立ち上がったアルの胸に、ギューーっと抱きついたリナ。

「……お兄ちゃん」

 そう小さな声で呟くと、リナはパッとアルから離れる。

 いつも通り無表情に戻ったリナは、上目遣いでアルを見つめ言葉を続ける。

「今日の事は忘れて……」

「いやっ、無理だろそれは……」

 リナの言葉を聞いて呆れた表情に変わったアルを見て、少しだけ口角を上げたリナ。

「じゃぁ…… リナは寝るから…… おやすみ」

「えっ? あっ、あぁ…… おやすみ」

 真夜中の二人だけの会話。

 それを伺っていたのは上空に浮かぶ月と、木陰に隠れていたレイだけだった。
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