あるとれいと~絶対回避能力があるのに色々トラブルに巻き込まれちゃう男のお話~

上田るぅ

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お城奪還編

第62話 ルクレティア

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 アストリナ貴族の引き渡しまで、残り五日となった日の正午前。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 この日は珍しくアルも早めに起床し、皆と共に朝食をとっていた。

 そして朝食後は各々が忙しく動き回る中、居間でくつろいでいたアル。

 それより少し遅れて起きてきたボサボサ頭のアズサが、寝ぼけ眼のまま居間へとやってきた。

「おはよぉぉ…… ふぁぁ…… 眠っ……」

 そんなアズサの様子を見ていたシナモンが、少しだけ呆れた表情で声をかける。

「アズサ様…… もうすぐお昼なのですよ……」

 いそいそと居間で片付けをしていたシナモンに声をかけられ、アズサは笑顔でシナモンに抱きつく。

「んーーーっ。 シナモっちゃんは働き者だねぇ。 えらいえらい」

「んなっ!」

 寝ぼけてるのか突然抱きついたアズサに、シナモンは顔を赤らめ少し照れた様子を見せていた。

 そんな二人を生暖かい目で見ていたアルは、少し溜息交じりにアズサに声をかける。

「アズサ…… ディンゴのオッサンが来たら、頼むから愛想よくしてくれよ……」

「ほぇっ? 何で?」

 疑問を浮かべた表情で聞き返すアズサとは対象的に、シナモンは少し顔をしかめていた。

「愛想良くする必要なんて無いのですよ。 全く……」

 ディンゴの事が余程苦手なのか、シナモンはアズサに抱きつかれたまま呟いていた。

(アズサにあれこれ言っても意味無さそうだしなぁ…… 何か少し申し訳無いけど……)

 少し思案するアルを他所に、アズサは少しだけ苦笑いを浮かべながらアルに言葉をかける。

「いやぁ、あのオジサン無精髭生えてるし。 あぁいう暑苦しい人、ボク苦手なんだよねぇ」

 その言葉を聞いたアルは少し思案を重ねながら、思いついたようにアズサへ声をかける。

「あのオッサンには色々頼みたい事あるからさ。 まぁ…… 城を手に入れる為と思って……」

 その言葉を聞いたアズサはパッとシナモンを離すと、テーブルに座るアルの近くにグッと身を寄せる。

 そして目が覚めたようにパッと目を見開くと、真剣な表情で

「うんうん! お城の為ならボク、何でもするよ! 仲良くしたら良いんだよねっ?」

「あっ、あぁ…… まぁ…… そうだけど……」

 少し後ろめたさを感じたアルは、アズサの後ろに佇むシナモンをチラッと見る。

「やれやれなのです……」

 少しだけ呆れつつも城を手に入れるという目的の為か、深く追求しようとはしていない様子だった。

 ガラガラガラッ…… ドタンッ……

 アル達がそんな会話をしている時、玄関の戸が開く音がする。

「旦那ぁぁ! 居やすかい? 上がっても良いですかい?」

「はぁーーい! えっ!? ディンゴ…… さん!?」

 前日までの粗野な風貌が一変し、髪型や髭が綺麗に整えられた小綺麗な姿のディンゴ。

 レイは豹変したディンゴの姿を目の当たりにし、思考が停止する。

「お邪魔しやすぜっ」

 レイにそう告げ白い歯を見せたディンゴは、颯爽と居間へとやってきた。

 その姿を見たアズサやシナモンは、驚いた様子を見せている。

 一方のアルはめげない鋼の意志を持つディンゴに対し、呆れたように声をかけた。

「おっ…… おはよっ、オッサン……」

「へい旦那。 んじゃあっしも失礼して」

 ディンゴはアズサと向かい合うように座り、ニコッと笑顔を向ける。

 その笑顔に少し背筋がゾゾッとしたアズサだが、精一杯の笑顔をディンゴに向けていた。

「とっ…… とりあえず皆、集めて貰えるか?」

「わっ、分かったのですよ」

 呆気にとられていたシナモンに対し、アルが声をかけ皆を居間に集合させた。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 皆が集まったのを確認したアルは、それぞれの顔を見回す。

 そしてゆっくりと今後の作戦について、説明していく。

「んじゃ…… 今日やって欲しい事なんだけど…… まずアズサ、それにリナ」

「うんっ!」

「…………」

 名を呼ばれたアズサはやる気に満ち溢れた表情に変わるが、リナは無表情のままだった。

「昨日と同様にゼニールの私兵を襲ってくれ。 ただし、今度は救援を呼ばれる前に逃げる事」

「ほぇ? 何で?」

 疑問を浮かべるアズサを他所に、アルは真剣な表情のまま話を続けていく。

「良いから良いから。 んでオッサンは村に戻って、これを高札に貼り付けて欲しいんだけど」

 アルは懐から布を出し、テーブルの上に広げる。

【極悪非道のゼニールに天の裁きを! 集え戦士達よ!】

 その布を見たディンゴは眉間にシワを寄せ、不機嫌そうな表情に変わる。

「ちょっと旦那。 こんなの張り出したら、村への締め付けが……」

 ディンゴの言葉を無視するように、アルは言葉を続けていく。

「んで、噂を流して欲しいんだよね。 出来れば近隣の村とか町があれば、そこにも届くようにね」

「噂……? ですかい?」

「あぁ。 シグニア国の残党が多数、アストリナ領に侵入しているってね」

 その言葉を聞いたディンゴの表情から、少しだけ不機嫌さが消えていく。

「つまりアレですかい? シグニアの残党が高札を貼り、私兵を襲ってるって事に?」

「そーゆう事! 出来るだけ国境の警備を厚くして、城から兵士を出したいからな」

 そう言うとアルは、レイとシナモンの方へと視線を向ける。

「んで、レイとシナモンは…… コレを準備してほしいんだけど」

 アルは再度、懐に手を入れると一枚の小さな布を取り出してレイに手渡す。

 そこには様々な種類の品名が記載されていた。

 レイはそれをシナモンに見せると、シナモンが少しだけ不安そうな表情に変わる。

「これは…… ちょっと難しいかも知れないのです…… この辺にあるか分からないのですよ」

「マジ? それはちょっと…… 困るんだけど……」

 シナモンの言葉を聞いたアルは、少しだけ落胆したような表情に変わる。

「ちょっと嬢ちゃん。 あっしにそれ、見せてくれるかぃ?」

「へっ? わっ、分かったのですよっ」

 急にディンゴに声をかけられたシナモンは、少しだけ驚いた表情で布を手渡した。

 ディンゴは受け取った布に目を通すと、眉を少し上げ得意げにアルに声をかける。

「これなら…… 三日もありゃ、手に入れれると思いやすぜ?」

「マジ? でも…… 三日かぁ……」

(信号弾の材料だから…… 出来るだけ早く手に入れておきたい所だけど…… うぅん……)

 不満そうに思案するアルを見たアズサ。

 先程のアルの言葉を思い出したのか、苦笑いを浮かべながらディンゴに視線を送る。

「あのぉ、何とか今日手に入れてほしいなぁ…… それが無いとボク、困るんだよねぇ……」

 右手で頭を掻きながら小声で「えへへぇ」と笑うアズサに、ディンゴはハッとした表情に変わる。

「わかりやしたぜお嬢さん。 あっしに任せておいてくだせぃ! よしっ! こうしちゃ居られねぇ」

 ディンゴはスッと立ち上がると、居間の入り口へと歩き出す。

 そして居間の戸の前で立ち止まると、首だけを皆に向けて静かに言葉を発する。

「それじゃ、また後で! あばよっ」

 左手の中指と人差し指をくっつけキザっぽくそれを振ると、颯爽と村へと向かっていく。

 ディンゴのその姿を見た皆は唖然とし、十数秒の間、居間は沈黙が支配していた。

「……本当にあの人に任せて大丈夫なのです?」

 沈黙を打ち破るように、不満げな表情のシナモンが小さく呟く。

「まぁ…… 一応バレリアの知り合いなんだし、大丈夫じゃないのか?」

 アルの言葉を聞いたリナやレイは、小さく頷きながらシナモンへ視線を送る。

「アルさんはお城を取った後の事も、ちゃんと考えてるですよね?」

「んっ? あぁ、一応オッサンが周辺国に口利きをって話だけど」

「……なのですか」

 アルの言葉を聞いたシナモンは、不安そうな表情に変わり俯いていた。

「何だよ。 何か心配事でもあるのか?」

「アルさんは…… 記憶が無いから、分からないかも知れないのですが……」

 そう言うとシナモンは、表情を変えないまま皆の顔を見回していく。

「というか…… 誰も知ってる人、居ないのです…… ハァ……」

 シナモンの勿体ぶるような態度に、アルも同じく小さく溜息を吐いて言葉をかける。

「何だよ…… 言いたい事があるなら言えっての」

「わっ、分かってるのですよ」

 不満げな表情を浮かべるアルに対し、シナモンも同様に少し不満そうに話を続けていく。

「帝国には七人の将軍が居るのですが、その中に一人だけ、女性の将軍が居るのですよ」

「それがどうかしたのか? 一応バレリアも過去はそうだったって、お前が言ってたじゃん」

 アルの問いかけに小さく頷いたシナモンは、眉間にシワを寄せ思い出すように話を続ける。

「私も話に聞いただけなのですが、その方は武功も無く、軍も持たず、戦も出来ないらしいのですよ」

 シナモンの話を聞いたアズサは、疑問を浮かべた表情でシナモンに言葉をかける。

「うぅん、よく分かんないけどさっ! 戦えない将軍なら心配する必要無いんじゃないのぉ?」

 アズサの言葉を聞いたレイも「うんうん」と小さく頷いていた。

「なのですが…… でも、その方は帝国軍第二位なのですよ?」

(戦えもせず武功も無いのに、偉い立場か…… まぁ下衆な考えするなら、皇帝の妾って線も……)

 シナモンの言葉を聞いたアルは、少し思案するような様子を見せている。

(まぁでも…… コイツ等みたいに何かしらの能力があるって考えるのが普通かな?)

 そして改めてシナモンを含め、皆の顔を見回したアルは考えがまとまったように問いかける。

「その将軍ってのも、【烙印】があるのか?」

 アルの問いかけに対し、シナモンは気不味そうに首を横に振る。

「それは分からないのですが…… でも、その方の通り名だけは知ってるのですよ」

「通り名?」

 聞き返すように尋ねるアルの言葉に、小さく頷いたシナモンはゆっくりと口を開く。

「帝国軍第二位、全見のルクレティア」
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