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せいがくのお医者さん
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ある日のお昼頃、歩斗から電話があった。
「新しい仲間が増えたわよ♪ 一緒に挨拶しにいこうね♪ 場所と時間は……」
歩斗は会う場所と時間を伝えたらすぐに電話を切った。
こちらの都合を一切聞いていないが、多分俺が断っても断れない展開になるだろう。
大学一年生の内は俺が所属する化学科の専門科目の講義は少ない、教養科目と呼ばれるどの学科の生徒も受ける講義を受講する事が多い。ちなみに、化学を学ぶ俺には全く必要性を感じない音楽、家庭科、言語等の文化の講義を今受講している。自分が受けている講義自体はあまり面白くないが、中には食べ物食って感想を言うだけの講義もあるらしい。
さて、俺が受ける今日の講義が全て終わって夕方5時頃、指定された施設の教室に向かった。大学内は今にも壊れそうな見た目の古い建物が多く、夜になると非常に怖く見える。そこいらの建物からマジで幽霊が出そうだ。完全に心霊スポットにしか見えない。
そんなことを思いながら教室までたどり着き、そこに歩斗と見知らぬ男がいた。おそらくあの見知らぬ男が新しい仲間だろう。見た目は自分より頭一つ二つ抜けた身長だ。190cmぐらいかな、運動部でもやっていたのか、いい体つきしている。顔はなんというかクールで寡黙といった感じか、普通に黙っていても女の子にもてそうな感じがする。
「全員揃ったみたいね。私は自己紹介したから、お二人さん同士で自己紹介してちょうだい」
「えーと、塩川です。よろしく」
「おれは馬上……、よろしく……」
「……」
「……」
もしかしてこの馬上という人、しゃべるのが苦手なのか? こういう人が相手だと俺もなにを話せばいいのか分からなくなる。
ぱっとみ馬上という男も見た目通り無口そうで、恐らくこちらが何も言わなければ何も言わないタイプだろう。気まずい空気が今流れている。そんな空気を入れ替えるために、歩斗が換気扇となった。
「ちょっと、お互い下の名前も言いなさい」
自分はあんまし下の名前を言いたくない、恥ずかしいだろ聖夢って。でも歩斗に強く言われたら言うしかない。
「……聖夢です」
「誠実だ」
「……」
「……」
またも気まずい沈黙の時間が生まれた。
「おほん! 馬上くんは私が医学部のキャンパスで勧誘してきたのよ」
歩斗が気を利かせて会話のきっかけを作った。
「えっ、医学部のキャンパスって、こことは別の場所だろ? なんつうか行きづらくなかったか?」
「そんなことないわよ。普通にしてれば私はただの学生よ。だから医学部キャンパスにいてもなんの問題もなかったわ」
女装した男子生徒がただの学生というには無理があるんじゃないのか? と俺は心の中でツッコミを入れた。
「彼を勧誘した理由は声質ね。彼はまごうことなきベースの声だわ。セーム君にやったみたいに音域も確かめたから間違いなし」
言われてみれば馬上という男の声質は低い。
そういえば身近にも極端に低い声をもった男子はいないし、彼は貴重な人材といえるかもしれない。
「声の低さ・高さは声帯の大きさで決まるんだけど、この手の話は馬上君の方が詳しいかな?」
馬上はこくりと頷いた。
「声帯の大きさは……個人個人違う……声帯が大きいほど低い声が出やすい……逆に小さいと高い声が出やすい……」
「そう、人間の身体って楽器なのよ。ソプラノリコーダーとアルトリコーダーは扱かった事があるでしょ」
「ん? ああ、アルトリコーダーはでかいから扱いずらかったな、あっ! そういう事か!」
自分は歩斗が言わんとしている事が分かった。
「そう、アルトリコーダーは大きい分低い音を出しやすい構造なのよ。ソプラノリコーダーはその逆ね。馬上君は身体が大きい分低音を出しやすい構造になっているのね」
「そうか、だから俺は……」
出かかった言葉を止めた。これは言ってはならないと思った。
「そう、セームくんは身体が小さいから高音を出しやすいのよ♪」
「皆まで言うな!」
くそ、馬鹿にされたような後の雰囲気嫌だ! 話題を変えよう!
「馬上くん、歩斗のお誘いにOKした理由を聞いてみたいな。合唱やっていたのかな?」
「……断る理由がなかったから……」
「へ?」
ちょっと今の言葉意味がわからんかったぞ。
「まあ歌うのが好きには見えなかったから、納得はいくわ」
いやいやいやいや、納得するか!? というかこの馬上には意見というものがないのか! 嫌とか好きとかそれで誘いに答えを出せよ!
「馬上くん、あなたは歌うのは得意かしら?」
「……特に努力もしてないし、下手だと思う……」
「安心なさい! ここにいるセームくんも合唱初心者よ! 私がみっちり鍛えてあげるわ!」
「鍛えるか。そういえば、歩斗って教育学部の音楽科の生徒だったりするのか?」
「そうよ! 高校でも声楽はみっちりやっているから基礎は教えられるわ」
「えっ、そうだったのか」
歩斗はある程度音楽を知っているかなと思ったが、改めて聞くとかなりやってきたのだなと改めて知った。
「……ご教授よろしく頼む……」
「あっ、そうだ馬上くんには宿題を出しておくわ。医学部のあなただからこそお願いしたいことよ!」
そういって歩斗は馬上にメモを渡した。メモを馬上は軽く見て、
「……わかった……一週間でいいか?」
「OKよ。おねがいね」
「歩斗、もしかして俺も宿題あるかな?」
「ないわね。ちなみに馬上くんに渡した宿題は医学的に声楽のレポートを書いて欲しいって内容よ。歌は体を使うし、医学的なアプローチも大事だわ。これは私達だと難しいとことだと思うわ。ところでセームくんもなにかやりたいの?」
「まあ、一応なにもやらないのは罪悪感がちょっとあるし」
「そうね、あなた達二人でソプラノとベース、私がアルトもしくはテノールをやるにしても、男性と女性各々一人ずつ欲しいわね。ということでセーム君、勧誘活動任せた!」
「勧誘!? と言われても難しそうだな……」
「じゃあ私も付き合うわ。セームくんも一緒についてきて!」
というわけで翌日より、歩斗と共に勧誘活動を行うことになった。
用件も済んで、医学部の馬上君とも別れて、歩斗といっしょの帰り道である。
「ちなみに、私は最終的に合唱団の活動で利益を得て運営していけるぐらいにはしたいと思っているの。嫌でも営業的な仕事をお願いするとは思うから、ビジネス書の一冊とか今のうちに読んでおいてね」
「……なんか思ったよりも本格的になってきて、俺ついていけるかなぁ?」
「お金を稼ぐようになったら嫌でも営業的な事やるし、今のうちに経験した方が今後のためよ。でもセーム君の場合可愛いから保険のセールスマンみたいに肉体で営業もありね」
「身体は売らないぞ!」
「そう、じゃあ」
歩斗は俺に不意打ちのキスをしてきた。
「ただでセーム君のおしりの初めてを貰えるかしら?」
明日からちょうぞ土日、怖いとは思いながらも、歩斗の色気に負けて、やつの住むマンションへと一緒に向かった。
「新しい仲間が増えたわよ♪ 一緒に挨拶しにいこうね♪ 場所と時間は……」
歩斗は会う場所と時間を伝えたらすぐに電話を切った。
こちらの都合を一切聞いていないが、多分俺が断っても断れない展開になるだろう。
大学一年生の内は俺が所属する化学科の専門科目の講義は少ない、教養科目と呼ばれるどの学科の生徒も受ける講義を受講する事が多い。ちなみに、化学を学ぶ俺には全く必要性を感じない音楽、家庭科、言語等の文化の講義を今受講している。自分が受けている講義自体はあまり面白くないが、中には食べ物食って感想を言うだけの講義もあるらしい。
さて、俺が受ける今日の講義が全て終わって夕方5時頃、指定された施設の教室に向かった。大学内は今にも壊れそうな見た目の古い建物が多く、夜になると非常に怖く見える。そこいらの建物からマジで幽霊が出そうだ。完全に心霊スポットにしか見えない。
そんなことを思いながら教室までたどり着き、そこに歩斗と見知らぬ男がいた。おそらくあの見知らぬ男が新しい仲間だろう。見た目は自分より頭一つ二つ抜けた身長だ。190cmぐらいかな、運動部でもやっていたのか、いい体つきしている。顔はなんというかクールで寡黙といった感じか、普通に黙っていても女の子にもてそうな感じがする。
「全員揃ったみたいね。私は自己紹介したから、お二人さん同士で自己紹介してちょうだい」
「えーと、塩川です。よろしく」
「おれは馬上……、よろしく……」
「……」
「……」
もしかしてこの馬上という人、しゃべるのが苦手なのか? こういう人が相手だと俺もなにを話せばいいのか分からなくなる。
ぱっとみ馬上という男も見た目通り無口そうで、恐らくこちらが何も言わなければ何も言わないタイプだろう。気まずい空気が今流れている。そんな空気を入れ替えるために、歩斗が換気扇となった。
「ちょっと、お互い下の名前も言いなさい」
自分はあんまし下の名前を言いたくない、恥ずかしいだろ聖夢って。でも歩斗に強く言われたら言うしかない。
「……聖夢です」
「誠実だ」
「……」
「……」
またも気まずい沈黙の時間が生まれた。
「おほん! 馬上くんは私が医学部のキャンパスで勧誘してきたのよ」
歩斗が気を利かせて会話のきっかけを作った。
「えっ、医学部のキャンパスって、こことは別の場所だろ? なんつうか行きづらくなかったか?」
「そんなことないわよ。普通にしてれば私はただの学生よ。だから医学部キャンパスにいてもなんの問題もなかったわ」
女装した男子生徒がただの学生というには無理があるんじゃないのか? と俺は心の中でツッコミを入れた。
「彼を勧誘した理由は声質ね。彼はまごうことなきベースの声だわ。セーム君にやったみたいに音域も確かめたから間違いなし」
言われてみれば馬上という男の声質は低い。
そういえば身近にも極端に低い声をもった男子はいないし、彼は貴重な人材といえるかもしれない。
「声の低さ・高さは声帯の大きさで決まるんだけど、この手の話は馬上君の方が詳しいかな?」
馬上はこくりと頷いた。
「声帯の大きさは……個人個人違う……声帯が大きいほど低い声が出やすい……逆に小さいと高い声が出やすい……」
「そう、人間の身体って楽器なのよ。ソプラノリコーダーとアルトリコーダーは扱かった事があるでしょ」
「ん? ああ、アルトリコーダーはでかいから扱いずらかったな、あっ! そういう事か!」
自分は歩斗が言わんとしている事が分かった。
「そう、アルトリコーダーは大きい分低い音を出しやすい構造なのよ。ソプラノリコーダーはその逆ね。馬上君は身体が大きい分低音を出しやすい構造になっているのね」
「そうか、だから俺は……」
出かかった言葉を止めた。これは言ってはならないと思った。
「そう、セームくんは身体が小さいから高音を出しやすいのよ♪」
「皆まで言うな!」
くそ、馬鹿にされたような後の雰囲気嫌だ! 話題を変えよう!
「馬上くん、歩斗のお誘いにOKした理由を聞いてみたいな。合唱やっていたのかな?」
「……断る理由がなかったから……」
「へ?」
ちょっと今の言葉意味がわからんかったぞ。
「まあ歌うのが好きには見えなかったから、納得はいくわ」
いやいやいやいや、納得するか!? というかこの馬上には意見というものがないのか! 嫌とか好きとかそれで誘いに答えを出せよ!
「馬上くん、あなたは歌うのは得意かしら?」
「……特に努力もしてないし、下手だと思う……」
「安心なさい! ここにいるセームくんも合唱初心者よ! 私がみっちり鍛えてあげるわ!」
「鍛えるか。そういえば、歩斗って教育学部の音楽科の生徒だったりするのか?」
「そうよ! 高校でも声楽はみっちりやっているから基礎は教えられるわ」
「えっ、そうだったのか」
歩斗はある程度音楽を知っているかなと思ったが、改めて聞くとかなりやってきたのだなと改めて知った。
「……ご教授よろしく頼む……」
「あっ、そうだ馬上くんには宿題を出しておくわ。医学部のあなただからこそお願いしたいことよ!」
そういって歩斗は馬上にメモを渡した。メモを馬上は軽く見て、
「……わかった……一週間でいいか?」
「OKよ。おねがいね」
「歩斗、もしかして俺も宿題あるかな?」
「ないわね。ちなみに馬上くんに渡した宿題は医学的に声楽のレポートを書いて欲しいって内容よ。歌は体を使うし、医学的なアプローチも大事だわ。これは私達だと難しいとことだと思うわ。ところでセームくんもなにかやりたいの?」
「まあ、一応なにもやらないのは罪悪感がちょっとあるし」
「そうね、あなた達二人でソプラノとベース、私がアルトもしくはテノールをやるにしても、男性と女性各々一人ずつ欲しいわね。ということでセーム君、勧誘活動任せた!」
「勧誘!? と言われても難しそうだな……」
「じゃあ私も付き合うわ。セームくんも一緒についてきて!」
というわけで翌日より、歩斗と共に勧誘活動を行うことになった。
用件も済んで、医学部の馬上君とも別れて、歩斗といっしょの帰り道である。
「ちなみに、私は最終的に合唱団の活動で利益を得て運営していけるぐらいにはしたいと思っているの。嫌でも営業的な仕事をお願いするとは思うから、ビジネス書の一冊とか今のうちに読んでおいてね」
「……なんか思ったよりも本格的になってきて、俺ついていけるかなぁ?」
「お金を稼ぐようになったら嫌でも営業的な事やるし、今のうちに経験した方が今後のためよ。でもセーム君の場合可愛いから保険のセールスマンみたいに肉体で営業もありね」
「身体は売らないぞ!」
「そう、じゃあ」
歩斗は俺に不意打ちのキスをしてきた。
「ただでセーム君のおしりの初めてを貰えるかしら?」
明日からちょうぞ土日、怖いとは思いながらも、歩斗の色気に負けて、やつの住むマンションへと一緒に向かった。
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