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愛知県名古屋市西区の喫茶店にてハンバーグとプリンにマスターの優しさを添えて
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当時の俺は名古屋の設計事務所にいた。
この会社にはうんざりしていた。一つ目の理由としてサービス残業だ。まあこれは俺が仕事人として未熟だったし、会社も小さいからそんな金はないだろうから許容できていた。二つ目の理由は社長のパワハラである。いきなり頭を叩き付けたり、暴言や嫌味は日常茶飯事。さらに歳だからもうろくして、指示した内容の通りにやったら怒られた事もあった。本人曰く「職人肌だから俺は厳しい」と言ったが、ある時「俺のストレス解消に役立っているわ」と馬鹿笑いをしていた。あれが本音なんだと思い、会社を辞めようと思った。会社を辞める時には俺に対し、二週間で出て行けと言われた。後々に法律違反であるとは分かったが、俺はこの糞ジジイと決別できるならそれでもいいと思った。
むしゃくしゃした思いを晴らせないかと思い、名古屋の街を自転車で探索した。名古屋は名古屋走りなるものがあり、ただ歩いているだけで自転車にひかれそうになる、どん! と鈍い音が聞こえたと思ったら車が衝突していた、自転車同士が衝突した場面にでくわす、運転している車からクラクションや怒鳴り声が聞こえる等……。
とにかく自転車の運転には細心の注意を払っていた!!
とまあ名古屋をディスりまくっているが、個人的に名古屋も捨てたともんでないと思ったお店がある。
それは名古屋の賑やかなところから離れた静かなところにあった。俺はそこまでかなりの距離を自転車で漕いできた。ぱっと見は街中にある古い喫茶店である。
ぎぃ
昭和からある喫茶店といった感じで、決して綺麗とは言えないが安心感がある。肩をはらずに洋食を食えそうだ。
「もっと食べに来てもいいんだよ!」
「俺の金がなくなっちゃうよ! そんなに余裕ないんだから!」
マスターとなじみのお客さんが気さくなお話をしているみたいだ。そうそう、こういう空気が俺は好きなんだ。チェーン店だと店員の行儀が良すぎてかえって疲れるんだ。
さて、腹も早く飯をくれと催促しているから飯を食おう。
ん~、前情報ではここはプリンが美味しいという情報があった。プリンは確定だ。あとはそうだな、自転車で遠くまで漕いでここまで来たんだ、一番高いものを食べよう!
「すいません! 手作りハンバーグライスとプリン! お願いします!」
「はい、かしこまりました」
ふむ、昼時でお客がいるのもあるが、親父さんが狭い厨房で一人でやっている事もあり、結構時間がかかっているようだ。よし、いつもの精神がすさむ日常を忘れ、ゆっくりとした時間を過ごす! そんな気持ちでいよう。
さて、この見せに来たのは、かつて魔裟斗選手に互角以上の勝負をしたファイターの親父さんがやっていると聞いたからだ。他には、チェ・ホンマンが生涯初の負けを喫したマイティーモーも来たことがある。まあ要は俺がK-1好きだから行ってみようと思ったのだ。もしかしたら選手にも会えるかもしれないと期待をこめていた。俺のこんな気持ちが分かるのは格闘技マニアぐらいなもんだろう。
店内を見ると、密かに格闘技のポスターが貼ってある。格闘技を感じさせるものはこれだけだ。あのマスターの息子さんは結構な功績を残していてトロフィーやらベルトやら貰っていそうだが、お店に置かないところを見るとシャイなのかな? それとも親父さんがお店の雰囲気に合わないと置かないと決めたのかな?
「はい、おまちどおさまです」
おっ、美味しいニオイがぷんぷんするぞぉ!
〇特製ハンバーグライス〇
マスターが長年作り続けてきたこだわりの一品! 肉肉しい食感のハンバーグがたまらない! ごはんと名古屋らしい赤だしの味噌汁もついている!
「いただきます」
まずは胃をお味噌汁で落ち着けよう。これが俺の飯の流儀だ。
ずずっ
ふむ、東北生まれの俺にとっては赤だしの味噌汁は、とても癖がある。だが、この癖が俺は知らない世界を味わっているんだなと実感させる。
さて、メインのハンバーグはと。ハシで切り分けてぱくりと。
ぎゅわっ
んんっ! なかなか肉の食感がするハンバーグだ! 近頃は柔らかくて肉汁のたっぷり出るタイプが多いが、こういう肉の塊を食っているって感じが欲しかったんだよ! ソースもなんだろうな、レトロ感があって、昔懐かしい味だ! でも俺は平成生まれである。
そしてハンバーグを食べながらのごはん、これがたまらん! ハンバーグのソースをちょいとごはんにかけてぱくり。これこれ! ソースつきのメニューと来たら、ごはんにかけるのが定番でしょう!
あっ、いつのまにかほとんど食っちまった! よし、プリンといこう!
〇プリン〇
同じくマスターが長年作り続けてきた味。ザ・プリンス・オブ・プリン!
ふむ、見た目が完全に整った感じじゃなくて、手作り感あふれるな。ぱくりと。
ん~~、これはいい。なんだろうな、今のプリンは現代っ子向けの甘さだとしたらこいつは昭和の子供が喜びそうな味だ。この味で喜べる俺はおっさんかな? でもそれでいい、食べて幸せになれるのだからな。ちょっと芳ばしい感じの甘さが今風のプリンとはまたちがっていいな。
さて、そろそろご馳走様といこうか。最初に払うお金を用意してからレジに行ってと……。
「あ゛っ!」
財布に大きな金がなく小銭だけ! 俺が食った金額を支払えない! お金をおろしていなかったんだなぁ! どうしようか! 食い逃げと言われたらどうする!
少々俺は動けずにいた。よし、正直に言おうと思っても行けずに、長い時間お店にいた気がした。やがて、お客が俺一人になった。もう行かないとまずいな……行こう!
「すいません、財布にお金が入っていなかったもので、今すぐに近くのコンビニでおろしてきますのでどうか!」
「お客さんご近所ですよね? また食べに来るでしょ? なら大丈夫ですよ!」
えっ! めちゃくちゃこのマスターさんいい人だ!! 初対面の得体の知れない俺に対してこの優しさだよ! これは息子さんもいいファイターになるわけだわ。
「じゃあせめてこれだけでも保証に!」
俺は自分の会社の名刺を渡した。
「ああ、大丈夫、結構ですよ」
マスターは俺の名刺を突っ返した。もうこれはマスターに感謝しても感謝し切れない! 夜も食べに行こう! そう決めて俺は、お金をコンビニでおろし夕方当たりまで店の付近で暇を潰した。
ちゃりりん
夕方にお店に来てみたら、お客は俺一人。マスターの他にママさんもいた。マスターはにっこりと笑顔をくれた。
この日の夕食は、人の優しさに不慣れな俺が久方ぶりに優しさにふれたからだろうか? 混乱して、何を食べたのかを思い出せなかった。思いだせるのはハンバーグとプリンは頼まなかったこと、昼食の分と合わせて払ったことぐらいだ。
でも一つだけ言える。この名古屋は記憶から消し去りたい事もあったが、あの親父さんの優しさ、俺は死ぬまで記憶にとどめておくだろう。
この会社にはうんざりしていた。一つ目の理由としてサービス残業だ。まあこれは俺が仕事人として未熟だったし、会社も小さいからそんな金はないだろうから許容できていた。二つ目の理由は社長のパワハラである。いきなり頭を叩き付けたり、暴言や嫌味は日常茶飯事。さらに歳だからもうろくして、指示した内容の通りにやったら怒られた事もあった。本人曰く「職人肌だから俺は厳しい」と言ったが、ある時「俺のストレス解消に役立っているわ」と馬鹿笑いをしていた。あれが本音なんだと思い、会社を辞めようと思った。会社を辞める時には俺に対し、二週間で出て行けと言われた。後々に法律違反であるとは分かったが、俺はこの糞ジジイと決別できるならそれでもいいと思った。
むしゃくしゃした思いを晴らせないかと思い、名古屋の街を自転車で探索した。名古屋は名古屋走りなるものがあり、ただ歩いているだけで自転車にひかれそうになる、どん! と鈍い音が聞こえたと思ったら車が衝突していた、自転車同士が衝突した場面にでくわす、運転している車からクラクションや怒鳴り声が聞こえる等……。
とにかく自転車の運転には細心の注意を払っていた!!
とまあ名古屋をディスりまくっているが、個人的に名古屋も捨てたともんでないと思ったお店がある。
それは名古屋の賑やかなところから離れた静かなところにあった。俺はそこまでかなりの距離を自転車で漕いできた。ぱっと見は街中にある古い喫茶店である。
ぎぃ
昭和からある喫茶店といった感じで、決して綺麗とは言えないが安心感がある。肩をはらずに洋食を食えそうだ。
「もっと食べに来てもいいんだよ!」
「俺の金がなくなっちゃうよ! そんなに余裕ないんだから!」
マスターとなじみのお客さんが気さくなお話をしているみたいだ。そうそう、こういう空気が俺は好きなんだ。チェーン店だと店員の行儀が良すぎてかえって疲れるんだ。
さて、腹も早く飯をくれと催促しているから飯を食おう。
ん~、前情報ではここはプリンが美味しいという情報があった。プリンは確定だ。あとはそうだな、自転車で遠くまで漕いでここまで来たんだ、一番高いものを食べよう!
「すいません! 手作りハンバーグライスとプリン! お願いします!」
「はい、かしこまりました」
ふむ、昼時でお客がいるのもあるが、親父さんが狭い厨房で一人でやっている事もあり、結構時間がかかっているようだ。よし、いつもの精神がすさむ日常を忘れ、ゆっくりとした時間を過ごす! そんな気持ちでいよう。
さて、この見せに来たのは、かつて魔裟斗選手に互角以上の勝負をしたファイターの親父さんがやっていると聞いたからだ。他には、チェ・ホンマンが生涯初の負けを喫したマイティーモーも来たことがある。まあ要は俺がK-1好きだから行ってみようと思ったのだ。もしかしたら選手にも会えるかもしれないと期待をこめていた。俺のこんな気持ちが分かるのは格闘技マニアぐらいなもんだろう。
店内を見ると、密かに格闘技のポスターが貼ってある。格闘技を感じさせるものはこれだけだ。あのマスターの息子さんは結構な功績を残していてトロフィーやらベルトやら貰っていそうだが、お店に置かないところを見るとシャイなのかな? それとも親父さんがお店の雰囲気に合わないと置かないと決めたのかな?
「はい、おまちどおさまです」
おっ、美味しいニオイがぷんぷんするぞぉ!
〇特製ハンバーグライス〇
マスターが長年作り続けてきたこだわりの一品! 肉肉しい食感のハンバーグがたまらない! ごはんと名古屋らしい赤だしの味噌汁もついている!
「いただきます」
まずは胃をお味噌汁で落ち着けよう。これが俺の飯の流儀だ。
ずずっ
ふむ、東北生まれの俺にとっては赤だしの味噌汁は、とても癖がある。だが、この癖が俺は知らない世界を味わっているんだなと実感させる。
さて、メインのハンバーグはと。ハシで切り分けてぱくりと。
ぎゅわっ
んんっ! なかなか肉の食感がするハンバーグだ! 近頃は柔らかくて肉汁のたっぷり出るタイプが多いが、こういう肉の塊を食っているって感じが欲しかったんだよ! ソースもなんだろうな、レトロ感があって、昔懐かしい味だ! でも俺は平成生まれである。
そしてハンバーグを食べながらのごはん、これがたまらん! ハンバーグのソースをちょいとごはんにかけてぱくり。これこれ! ソースつきのメニューと来たら、ごはんにかけるのが定番でしょう!
あっ、いつのまにかほとんど食っちまった! よし、プリンといこう!
〇プリン〇
同じくマスターが長年作り続けてきた味。ザ・プリンス・オブ・プリン!
ふむ、見た目が完全に整った感じじゃなくて、手作り感あふれるな。ぱくりと。
ん~~、これはいい。なんだろうな、今のプリンは現代っ子向けの甘さだとしたらこいつは昭和の子供が喜びそうな味だ。この味で喜べる俺はおっさんかな? でもそれでいい、食べて幸せになれるのだからな。ちょっと芳ばしい感じの甘さが今風のプリンとはまたちがっていいな。
さて、そろそろご馳走様といこうか。最初に払うお金を用意してからレジに行ってと……。
「あ゛っ!」
財布に大きな金がなく小銭だけ! 俺が食った金額を支払えない! お金をおろしていなかったんだなぁ! どうしようか! 食い逃げと言われたらどうする!
少々俺は動けずにいた。よし、正直に言おうと思っても行けずに、長い時間お店にいた気がした。やがて、お客が俺一人になった。もう行かないとまずいな……行こう!
「すいません、財布にお金が入っていなかったもので、今すぐに近くのコンビニでおろしてきますのでどうか!」
「お客さんご近所ですよね? また食べに来るでしょ? なら大丈夫ですよ!」
えっ! めちゃくちゃこのマスターさんいい人だ!! 初対面の得体の知れない俺に対してこの優しさだよ! これは息子さんもいいファイターになるわけだわ。
「じゃあせめてこれだけでも保証に!」
俺は自分の会社の名刺を渡した。
「ああ、大丈夫、結構ですよ」
マスターは俺の名刺を突っ返した。もうこれはマスターに感謝しても感謝し切れない! 夜も食べに行こう! そう決めて俺は、お金をコンビニでおろし夕方当たりまで店の付近で暇を潰した。
ちゃりりん
夕方にお店に来てみたら、お客は俺一人。マスターの他にママさんもいた。マスターはにっこりと笑顔をくれた。
この日の夕食は、人の優しさに不慣れな俺が久方ぶりに優しさにふれたからだろうか? 混乱して、何を食べたのかを思い出せなかった。思いだせるのはハンバーグとプリンは頼まなかったこと、昼食の分と合わせて払ったことぐらいだ。
でも一つだけ言える。この名古屋は記憶から消し去りたい事もあったが、あの親父さんの優しさ、俺は死ぬまで記憶にとどめておくだろう。
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