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8・家族会議開幕、離席者一名
しおりを挟む「えっと、盛り上がっているところ申し訳ないんだけど。父さんも話に加わらせてもらってもいいかな?」
右手をちょこっとあげながら、トオルが言った。
『どうぞどうぞ』
「……お前は黙ってろ!」
マコトが叫ぶと、タカコがブンブンと首を縦に振った。
「まぁ、いろいろと話は聞いているんだけど。確認させてね。えっと、昨日の夜頃、マコトに突然お義母さんが憑いた。ここは、間違いない?」
『異議あり!』
「はい、お義母さん」
『憑いたのは、葬式の時!』
そんなに前から憑いていたのかよ!
「結構前からなんですね……」
『まぁね。乗っ取る方法がよく分かってなかったから、ご挨拶できなかったけど』
「ごめん……トイレ」
「母さん、大丈夫? 顔、青いけど」
「吐きそう……」
「ひとりで平気?」
「平気。ごめん、あとはよろしく」
マコトとトオルは、もうこの場にタカコが戻ってくることはないと察した。しかし、アヤコにはそうと察する力がなかったらしい。
『あら、じゃあ、戻ってくるまで世間話でもしましょうか』
なんとものん気なものだ。
「いや、私の都合で申し訳ないのですが、日中は会社へ行っているものですから、今を逃すとゆっくりお話しできそうにないので……タカコが居なくてもお話は進めましょうか」
マコトは〝こんな父さん見たことない〟と思った。家族でいるときのトオルと比べると緊張感が段違いで、リラックス感がゼロ。おそらくは、トオルの仕事モードだ。
『ふん。世間話っていうのは、大事なものなのよ?』
「存じ上げています。が、それは時間に余裕があるときにするもので、今は時間が限られていますから」
『マコちゃんは? 世間話したくない?』
「全然」
しょんぼりと口をとがらせている気配がする。
「それで、ええっと。お義母さんは、成仏できていないんですよね?」
『そうよ?』
「どうしたら成仏できるのか、ご存じですか?」
『……知らな~い』
「ちなみに、この世になにか心残りなどはありますか?」
アヤコが黙った。ついさっきまでは、トオルの目には息子に義母の幻影が重なって見えていた。しかし、それがぷつりと途切れた。トオルは再び幻影が重なる瞬間を見逃さないようにと、マコトのことを鋭い目で見つめた。マコトは何も悪いことはしていないはずであるのに、まるで叱られているかのような錯覚に陥り、ぶるる、と体を震わせた。
『トイレ』
「はい?」
トオルの眉間に深いしわが刻まれた。ようやく言葉を発したかと思えば、この会議からの逃避言葉であったことに、トオルは怒りを覚えたのだ。
『マコちゃんが、トイレに行きたそうだから』
「いや、別に」
『震えていたじゃない。トイレでしょ?』
「トイレに行く気がなくても震えることはありますけど?」
マコトは呆れて、頭をかきながら吐き捨てた。
『そうかしら? 無理しなくていいのよ?』
「うちの子は嘘をついていないと思いますよ。嘘をつくときはもっと下手くそですから」
嘘をつくのが下手って自覚はあるけれど、こうもはっきり言われるとちょっと傷つく!
「あと、我が家のトイレには先客がいますので、お貸しできません」
『あ、そうだったわ! あの子、まだトイレにこもっているの? 小さい頃もね、似たようなことがあったわよ? お腹痛いって、トイレに鍵かけて閉じこもって! あの時わたし、心配でしょうがなくて、鍵をこじ開けたのよ!』
マコトとトオルは、まるで思考を繋いだかのように全く同じことを考えた。
……なんてことしてんだよ! そんなだから、吐き気がするほどに嫌われんだよ!
「それで? 心残りというのは?」
『やだわ。トオルさんに言うの。だって、血がつながっていないし』
「ばあちゃん。今のばあちゃん、誰ともつながってないと思うよ?」
「確かに。つながりを辿れるとしたら戸籍か? 血は、なぁ。もう、流れてないもんなぁ。体、焼いちゃったし」
「だよねぇ」
『まったく! なんて失礼な!』
「すみません。さすがに失礼が過ぎました。お詫びします」
『当たり前よ!』
「お義母さん。隠し事をされていたら、仮にお義母さんの肩を持つべきだったとしても、持つことはできません。どうにかお話しいただけませんか?」
『……ただで話せっていうの?』
「……はい?」
『リエちゃんは羊羹くれたわよ?』
「リエちゃん? 羊羹?」
「ああ、ええっと、リエちゃんっていうのは保健室の先生のこと。今日、学校でばあちゃんが出てきて、それで、まぁ、いろいろあって保健室に行ったんだよ」
ゴゴゴゴゴ――。トオルの背中に、怒りの炎の翼が生えた。
「息子の学生生活を邪魔するの、止めていただけます⁉」
『ひぃっ!』
「それと、ちゃっちゃと口を割りやがれ!」
『いやーっ!』
バチン!
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