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11.村上さんと保健室
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「あっ!」
ある日、体育の授業の途中、村上さんが盛大に転んだ。中学生になってからは見ることがなくなった、漫画とかアニメみたいな転び方だったから、みんなの反応は三拍くらい遅れていた。
「ユイ、大丈夫?」
真っ先に村上さんのもとへかけていったのはミサコだった。
「いったぁ……」
「うわ、めっちゃ血が出てんじゃん。マイコ! ユイのこと、保健室まで連れて行ってあげて」
「うん。……って、え?」
「え、ミサコが連れてってよぉ」
「え、あたし、この後シュート決める予定があるからムリ」
村上さんが気まずそうな目で私を見た。たぶん、私も似たような目をしていたんじゃないかと、私は思う。
「い、痛い?」
「まぁ、うん」
ミサコがいるところでなら、彼女と話をしたことがある。
でも、ミサコがいるから話をしたのであって、ミサコがいない時に話したことはないし、話そうとしたこともなかった。
二人っきりになると会話のネタがない。
沈黙は底なし沼のようで、そこから脱出する術を見つけることが私にはできない。
でも、保健室に着けばベイルアウトできるといっていい。だから、もう少しの辛抱だ。彼女を井田先生に任せたら、用なしの私はゴールを守りに戻るんだ。
「先生ー、怪我したー」
村上さんがふてくされたように叫んだ。
「え? 大丈夫? どんな感じ?」
「血ぃ出てるぅ」
「あら。じゃあ、まずは洗おうか」
「そ、それじゃあ、私はこれにて……」
「え? 行っちゃうの? せっかくサボれるのに?」
「……へ?」
「あなたはあんまり保健室に来ないわよね? お名前は?」
ベイルアウトは阻止された。授業は教師によって、体育から雑談に変わる。
「きゃ、喜屋武マイコです」
「ああ、噂のマイコね!」
「う、噂の?」
「知らないの? ミサコの宿題をバカ真面目にこなす、メイクしたほうが絶対にかわいいのにすっぴんを貫くミサコのお気に入りって噂になってるわよ?」
「え、私、そんな風に言われてるんですか? む、村上さんは知ってた?」
「知ってるもなにも……。ミサコ、めっちゃうるさいよ? マイコはぜったいメイクしたほうがいい。中学卒業するまでに、絶対校則を破らせるって」
そんなことを言われたことは、何度もある。けれど、それをほかの人にも力強く宣言していたとは知らなかった。
「はーい。絆創膏をバシッと貼ったら傷の手当はおしまいね。じゃあ、これから心の休憩タイムに入りまーす」
「って、ただのサボりですけどぉ」
「物は言いようよ。はい、座って、座って。何も出ないけど」
みんなは今、いったい何をしているだろう。私たちが戻ってこなくても、気にしないのだろうか。
椅子に腰かけだらりとくつろぐ二人を見ながら記憶を探る。誰かが怪我をすることは、時々ある。その時、保健室へ行ってすぐに戻ってくる人もいるけれど、チャイムが鳴っても戻ってこなかった人もいたことを思い出す。
なるほど、戻ってこなかったのは怪我の程度や具合が悪いからではなく、こんなことが起きていたからなのか、と、私は気づく。
「ねぇ。先生、すっごく興味あるんだけどさ。ミサコの猛攻を受けても頑なにすっぴんを貫くのって、どうして?」
先生が、私の目を見て問うてきた。
たぶん、この二人には話していいと思う。私の直感がそう言っている。
けれど、心の準備ができていない。
私にはまだ、あの問題を解決できるほどの覚悟がない。
「校則、もそうですけど、やっぱりまだ早いのかな? って」
「ねぇ。噂のマイコは、社会に出たらメイクをするっていうの、どう思ってる?」
ある日、体育の授業の途中、村上さんが盛大に転んだ。中学生になってからは見ることがなくなった、漫画とかアニメみたいな転び方だったから、みんなの反応は三拍くらい遅れていた。
「ユイ、大丈夫?」
真っ先に村上さんのもとへかけていったのはミサコだった。
「いったぁ……」
「うわ、めっちゃ血が出てんじゃん。マイコ! ユイのこと、保健室まで連れて行ってあげて」
「うん。……って、え?」
「え、ミサコが連れてってよぉ」
「え、あたし、この後シュート決める予定があるからムリ」
村上さんが気まずそうな目で私を見た。たぶん、私も似たような目をしていたんじゃないかと、私は思う。
「い、痛い?」
「まぁ、うん」
ミサコがいるところでなら、彼女と話をしたことがある。
でも、ミサコがいるから話をしたのであって、ミサコがいない時に話したことはないし、話そうとしたこともなかった。
二人っきりになると会話のネタがない。
沈黙は底なし沼のようで、そこから脱出する術を見つけることが私にはできない。
でも、保健室に着けばベイルアウトできるといっていい。だから、もう少しの辛抱だ。彼女を井田先生に任せたら、用なしの私はゴールを守りに戻るんだ。
「先生ー、怪我したー」
村上さんがふてくされたように叫んだ。
「え? 大丈夫? どんな感じ?」
「血ぃ出てるぅ」
「あら。じゃあ、まずは洗おうか」
「そ、それじゃあ、私はこれにて……」
「え? 行っちゃうの? せっかくサボれるのに?」
「……へ?」
「あなたはあんまり保健室に来ないわよね? お名前は?」
ベイルアウトは阻止された。授業は教師によって、体育から雑談に変わる。
「きゃ、喜屋武マイコです」
「ああ、噂のマイコね!」
「う、噂の?」
「知らないの? ミサコの宿題をバカ真面目にこなす、メイクしたほうが絶対にかわいいのにすっぴんを貫くミサコのお気に入りって噂になってるわよ?」
「え、私、そんな風に言われてるんですか? む、村上さんは知ってた?」
「知ってるもなにも……。ミサコ、めっちゃうるさいよ? マイコはぜったいメイクしたほうがいい。中学卒業するまでに、絶対校則を破らせるって」
そんなことを言われたことは、何度もある。けれど、それをほかの人にも力強く宣言していたとは知らなかった。
「はーい。絆創膏をバシッと貼ったら傷の手当はおしまいね。じゃあ、これから心の休憩タイムに入りまーす」
「って、ただのサボりですけどぉ」
「物は言いようよ。はい、座って、座って。何も出ないけど」
みんなは今、いったい何をしているだろう。私たちが戻ってこなくても、気にしないのだろうか。
椅子に腰かけだらりとくつろぐ二人を見ながら記憶を探る。誰かが怪我をすることは、時々ある。その時、保健室へ行ってすぐに戻ってくる人もいるけれど、チャイムが鳴っても戻ってこなかった人もいたことを思い出す。
なるほど、戻ってこなかったのは怪我の程度や具合が悪いからではなく、こんなことが起きていたからなのか、と、私は気づく。
「ねぇ。先生、すっごく興味あるんだけどさ。ミサコの猛攻を受けても頑なにすっぴんを貫くのって、どうして?」
先生が、私の目を見て問うてきた。
たぶん、この二人には話していいと思う。私の直感がそう言っている。
けれど、心の準備ができていない。
私にはまだ、あの問題を解決できるほどの覚悟がない。
「校則、もそうですけど、やっぱりまだ早いのかな? って」
「ねぇ。噂のマイコは、社会に出たらメイクをするっていうの、どう思ってる?」
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