桜はまだか?

hiro75

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第三章「焼き味噌団子」

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 本日の式日寄合裁判の案件は二件。

 直に判決が下されて、これにて本日はお開きというときに、老中の阿部豊後守正武が、

『ときに飛騨守殿、南町では、お七とかいう娘を火付けの疑いで捕縛したとか?』

 と訊いてきた。

『はあ……』

 よくもまあ、そんなことまで耳に入るものだと正親は思った。

『で、その娘、まこと火付けの罪人か?』

『父親が訊いたところ、本人が頷いたということですし、火打道具も持っておりましたので。それに、前に二度ほど火付けをしそうになったとか』

『では、決まりではないか』

『はあ、されど、いまだ火を付けた理由が分かりませぬ』

『分からぬとは、どういうことじゃ?』

 正武は、四角張った顎をぐっと上に押し上げて、白髪が混じり始めた眉を顰めた。

『はあ、取り調べを続けておりますが、娘の気持ちが落ち着かないようで』

『白状はしておるのであろう?』

『大番屋に移して調べをしておりますが、だんまりを決め込んでいるようで』

『手緩い!』

 正武の甲高い声が、部屋中に響き渡る。

 部屋にいた者たちは、体をびくつかせる。

 氏平でさえ、体を震わせたほどである。

 だが、正親は眉毛一本すら動かさずに、平然と座っていた。

『締め上げてでも吐かせい!』

『しかし、まだ年歯もいかぬ娘ですので』

『飛騨守殿、火付けは大罪ですぞ。その娘、見せしめのためにも、早いとこ処断なされい!』
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