突然能力に目覚めた男の730日

こうめい

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5章 なんでもできる男のどうすることもできない過去

-5060日目~灰と彩~

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火火野「おはよーっす。」
田中「おうー。」
佐藤「おっすー。昨日のゲーセン熱かったな!」
火火野「まぁ、負けちまったがな。この辺もまだまだ強い奴いるんだな。」
田中「まぁ、俺は勝ったがなw」
火火野「相性だろー。運が良かっただけだろ。今日はどうするよ?」
佐藤「すまん-。俺は彼女対応。」
田中「俺はバイト。」
火火野「んだよーつまんねーな。ま、一人で行っとくかな。」

みたいな会話が日課の大学4年の冬。
就職活動も終わり、卒業研究と遊ぶことくらいしかやることの無い時期になっていた。

火火野「もう数か月後には社会人かよ…」
田中「だなー。実感湧かねー。」
佐藤「まぁ、大学生活満喫したから、いいんじゃね?」
火火野「満喫してんのはお前だけだろ!俺らは結局…彼女できんままだったぞ!!」
田中「そうだーそうだー。」
佐藤「彼女の友達紹介しただろ?」
火火野「…まぁ、な。ちょっと…な。」
田中「…だったな。ちょっと…な。」
佐藤「おい!…ま、ちょっと人選が…な。」
火火野「性格はきっと凄い良いんだと思うんだけどな。」
田中「…ゴメンなさい。無理でしたw」
佐藤「まぁ、良い娘には皆彼氏いるもんな。」
火火野&田中「そうなんだよなー。」

という感じの、なんの変哲もない日々。
このまま、大学を卒業し、そのまま就職すると思っていた。

その時。

扉が開いて普通に入ってきた一人の”少女”と眼があった。

ゾクッと何かが走ったのを覚えている。

火火野「…なぁ。あんな娘いたっけ?」
佐藤「ん?あぁ、薄井か?いたよ。でもあんまり一緒の授業を受けてたイメージは無いなぁ。」
田中「俺もあんまり見たときないな。」
火火野「ふーん。薄井さんか。」

その授業中、何となく彼女を目で追っている自分が居た。
2段下の席に座っている。

同い年?留年とかあるから、正確には分からないが、少なくとも同年代なハズなのに、どことなく、年齢不相応な幼さを感じる。

ふとした瞬間に、外を見る”少女”。

その灰色の瞳に、透き通るような空の青が映りこむ。

…俺は、もう恋をしていた。

キーンコーンカーンコーン

田中「ーーんっ!終わったー。んじゃ、俺バイトだから帰るぜー。じゃなー」
佐藤「俺も、例の件で!んちゃ!」
火火野「あぁ。じゃな。」
田中&佐藤「…?」

俺は、その薄井さんに向かって階段を降りていた。

火火野「あのー。」
薄井「えっ?」

いきなり話しかけてしまい、俺もビックリしていた。

火火野「あー、えー。」
薄井「…何もないなら行きますけど。」
火火野「あ、次の授業あるの?」
薄井「あの、初対面ですけど。」
火火野「あっ。ごめんごめん。俺、火火野 晃太。4年間同じクラスだったんだけど?」
薄井「そうなんですね。では。」

足早に立ち去る薄井。

火火野「あ。」
田中&佐藤「ハッハッハー。」

田中と佐藤が一部始終を見ていた。

田中「見事に振られたな。」
佐藤「まぁ、端から見ている分には面白かったわ。」
火火野「まだ、アプローチすらできてねーから、振られてねーよ!」
田中「お前だけ、彼女いない組から離脱するなんて、お母さん許しません!!w」
火火野「お前に産んでもらった記憶ねーよw」

と、いう感じで、俺と薄井の初対面はあまり良いものではなかった。

その日の内に、クラスの名簿から名前を調べた。

薄井 命(ウスイ ミコト)

火火野「ミコトかー。いい名前だなぁ…」

そこから、同じ授業を探しては、隣や出来るだけ近くに座るようにして、一言、二言会話する事…約1か月!
端から見ればストーカーだろう。

薄井は1か月の間に、数日休むことがあったくらいで、特に変わった様子もなく、授業に来ている時はアプローチを続けていた。

佐藤「お前もこりんなぁ。やめとけ、やめとけ。あの子、友達すら作らないらしいぞ。」
火火野「そうなのか。まぁ、関係ないさ。完全に拒否されるまで俺はアタックする!」
田中「いや、もう完全拒否されてんだろw」
火火野「そういや、まだ来てないな…休みかな。」

授業が始まる直前に、薄井が来た。
いつも座っている席付近に来ることなく、扉の近くに座る。

こっちをチラッと見た。

田中「ブフッ!完全に避けられてるじゃないかw」
火火野「お黙りなさい!完全にNOと言われるまでは!!」

キーンコーンカーンコーン

授業が終わり、いつも通り足早に立ち去る薄井を俺を追いかける。

教室を出て、校舎を出たところで、追いつく。

火火野「薄井さ…」
薄井「いい加減諦めてください。」
火火野「…」
薄井「何でこんなに付きまとうんですか…」

俺は、この最後通告に正直に答えた。

火火野「君の眼に映った空の青が綺麗だったんだよ。」

薄井は、俺の顔を見る。

薄井「プッ、嘘でしょ?たったそれだけ?」
火火野「…きっかけはそれだけ。」
薄井「アッハッハ…生まれて初めて追っかけられて、その理由が…ね。あー面白w…まぁ、いいか。」
火火野「?」
薄井「付き合おうよ。」
火火野「は?」
薄井「この状況で、キョトンとされると、ものすごい恥ずかしいんですけど?」
火火野「いいの?」
薄井「うん!」
火火野「ぃやったぁあ!!」

俺は、そこに居る全員が振り返るであろうほどの声で喜んだ。
本当に初めての彼女をゲットし、初めての恋が実ったんだから。

そこからは、本当に幸せな日々だった。
本当にこんな日々が続いて、穏やかに年を重ねていくと思っていた。
ずっと二人で。

薄井「そういえば、誕生日っていつなの?」
火火野「えっ、あーそういや、もうすぐだったなぁ。12月2日だよ。」
薄井「あとちょっとじゃん。なんか欲しいものとかあるの?」
火火野「うーーん…これといってないなぁ。」
薄井「何それwまぁ、仕方ないから何か考えといてあげるよ。」
火火野「お願いしまっす。」

この日は、紅葉を見に山へドライブに来ていた。
古い中古車。とりあえず走れば良いと思って買った愛車だ。
この3年近く、十分に役目を果たしてくれていた。

紅葉狩りの名所の駐車場で、真っ赤な夕日と、深紅に染まった山。

命の眼に、紅が反射する。

火火野「綺麗だな。」
薄井「私に言ってるの。ハズイでしょw」
火火野「あー、間違いなんだけど、間違いじゃないw」
薄井「何それ。」

見つめ合って、何とも言えない時間が流れ。
そうするのが当たり前かのような、接吻をする。

どれだけの時間がたっただろう。
唇同士が離れて、薄井の顔は、紅葉よりも色づいていた。

薄井「顔、真っ赤だよ?」
火火野「俺もかよ!」
薄井「それだけ赤かったら、自分でも分かるでしょw」

薄井は、少し遠い目で夕日を見つめて。

薄井「そうね。空も真っ赤で綺麗な夕日。紅に色づいた木々も綺麗。この世界はこんなに彩られていた。それに気づかせてくれた。そして今…」

俺を見つめる命。

薄井「こんなに幸せ。」

その透き通った氷のような透明な笑顔に、俺は、顔から本当に火が出ているんじゃないかと思う程に照れていた。

火火野「これからずっと、必ずずっと、こんな日々が続くんだ。本当にずっと。楽しみだろ?」
薄井「うん!」


本当にそう思っていたんだ。
この時は本当に。

そして、ついに”その日”を迎える。
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