10 / 40
宝さがし10
しおりを挟む「御用だ、御用だ! 神妙にしやがれ!」
朱房の十手を腰から引き抜いて叫ぶ久馬。
見渡すと境内には既に数名倒れていた。立っている連中は皆、長脇差を煌かせて緩く円を描いている。その円の中心に背中合わせに大庭と安宅。ともに抜刀、青眼の構え。
取り巻いていた一人が久馬たちを振り返って喚いた。
「畜生、新手が来た! 巻き羽織――奉行所だぞ!」
「くそっ、こうなったら一蓮托生だ、やってやる!」
長脇差を揺らして突進して来た一人を抜き打ちで斬り捨てて篠田は姫の側へ。
「ご無事ですか、安宅姫?」
「勿論です。待ってて、賊はあと四人、いえ、三人――」
今まさに浅右衛門の太刀が鞘奔って、地面に崩れ落ちる一人。
これを見てやけになったのか大庭と対峙していた輩が突っ込んで来た。大庭は高く振りかぶって、雲耀くごとく振り下ろす。
「チェストーーー」
脳天――否、得物を握ったままの相手の右手首が宙を舞った。
「ひえええ」
最後の一人がへなへなと腰を着いたところを老親分が十手で得物を払い、チョンと喉を突く。
姫の凛とした声が破れ寺に響き渡った。
「これで、全員、成敗いたしましたっ」
「姫! 命が縮みましたよ、一体何があったのです? 大庭さん、あなたもあなただ」
若用人は童顔の薩摩藩士に食って掛かった。
「あなたほどの剣客がついていながら何故こんなことに? 姫を危険にさらすなど言語道断――」
「大庭殿を責めないで、篠田。私がお願いしたんです。これは私のせいなのです」
安宅姫は顛末を話した――
「橋に差し掛かっていきなり取り囲まれた時、鯉口を切ろうとした大庭殿を私は止めました。前に黒沼様にそれをやって山田様に叱られたでしょう? それで学んだのです。安易に剣は抜くなと。加えて、悪者の振る舞いにも大変興味を覚えました。それで私は、目で大庭殿を制して賊に大袈裟に懇願しました。
『弟に手出しはしないでください。命ばかりはお救けを』
大庭殿は即座に悟って調子を合わせてくれました。
『兄上ー、怖いよー、助けてー』
私たちを腰抜け兄弟侍と思った連中は大小も取り上げずにそのまま張りぼての欄干に押し込み走り出し、ここまで運ばれたのです。
道中、賊どもの会話は筒抜けでした。私は、連中が既に多くの人を攫っていたと知りました。その人たちが廃寺の庫裏に囚われていることも。
『チョロイもんだぜ。今日のは特にチョロかったな、ヘッポコ侍どもめ』
『ヘヘッ、庫裏に繋いである獲物と合わせてこれで十人だ。そろそろまとめて船出と行くか』
なんと悪辣な人攫いども! これで、もはや遠慮は要りません。境内に入り、張りぼてから引っ張り出されるや大庭殿は存分に斬りまくり、私も日頃の修練を十分に披露できました」
花のように笑って安宅姫は締め括った。
「ご安心ください、我ら、全て小手打ちです」
なるほど。境内の地面に落花した椿のごとく紅い手首が散っている。
ここで数多の御用提灯を揺らして南町奉行、与力以下、捕り物隊が突入して来た。
「御用だ! 御用だ!」
「悪党ども神妙にお縄になれぃ!」
「黒沼ーー、そこか! 大事はないか?」
「はっ、添島様、このとおり、中西道場門下生の活躍、そして松兵衛親分の才覚で、天下を騒がした人攫いども、全員捕縛とあいなりました!」
この後、姫の言葉通り、庫裏に囚われていた八人が発見され、全員助け出された。
売り物としてそれなりに丁寧に扱っていたらしく八人は食事も与えられ清潔な帷子姿だった。怯えて疲労困憊していたものの大きな怪我はなく、皆、この日の内に親元へ返すことが出来た。
捕縛された人攫い団は総勢十一人(全員存命:その内、右手首損傷九人)の供述から樽廻船の空荷として積み込み、下関を経て長崎近辺で積み替えて朝鮮・中国・阿蘭陀への密輸を企てていたことが発覚した。酒樽をより早く輸送する為の樽廻船は船足が早く且つ頻繁に出港する利便性があったが近年、寄港地でこっそり積荷を抜かれて売りさばかれる事件が頻発していた。今回は更に大胆にも、船便を使っての人身売買が画策されたのである。
また、人攫い団の構成は元芝居大道具係、元水夫、元酒問屋番頭、元駕籠舁き等々、雑多な出身ながら全員博打によって身を持ち崩した者たちであった――
☆人攫いは大捕物で解決。残すは向井家の宝の隠し場所のみ。浅右衛門の推察は如何に?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。