フラれ侍 定廻り同心と首打ち人の捕り物控

sanpo

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宝さがし10

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「御用だ、御用だ! 神妙にしやがれ!」
 朱房の十手を腰から引き抜いて叫ぶ久馬。
 見渡すと境内には既に数名倒れていた。立っている連中は皆、長脇差ドスを煌かせて緩く円を描いている。その円の中心に背中合わせに大庭と安宅。ともに抜刀、青眼の構え。
 取り巻いていた一人が久馬たちを振り返ってわめいた。
「畜生、新手が来た! 巻き羽織――奉行所だぞ!」 
「くそっ、こうなったら一蓮托生だ、やってやる!」
 長脇差を揺らして突進して来た一人を抜き打ちで斬り捨てて篠田は姫の側へ。
「ご無事ですか、安宅姫?」
「勿論です。待ってて、賊はあと四人、いえ、三人――」
 今まさに浅右衛門の太刀が鞘奔さやばしって、地面に崩れ落ちる一人。
 これを見てやけになったのか大庭と対峙していた輩が突っ込んで来た。大庭は高く振りかぶって、雲耀きらめくごとく振り下ろす。
「チェストーーー」
 脳天――否、得物ドスを握ったままの相手の右手首が宙を舞った。
「ひえええ」
 最後の一人がへなへなと腰を着いたところを老親分が十手で得物を払い、チョンと喉を突く。
 姫の凛とした声がれ寺に響き渡った。
「これで、全員、成敗いたしましたっ」
「姫! 命が縮みましたよ、一体何があったのです? 大庭さん、あなたもあなただ」
 若用人は童顔の薩摩藩士に食って掛かった。
「あなたほどの剣客がついていながら何故こんなことに? 姫を危険にさらすなど言語道断――」
「大庭殿を責めないで、篠田。私がお願いしたんです。これは私のせいなのです」
 安宅姫は顛末を話した―― 

「橋に差し掛かっていきなり取り囲まれた時、鯉口を切ろうとした大庭殿を私は止めました。前に黒沼様にそれをやって山田様に叱られたでしょう? それで学んだのです。安易に剣は抜くなと。加えて、悪者の振る舞いにも大変興味を覚えました。それで私は、目で大庭殿を制して賊に大袈裟に懇願しました。
『弟に手出しはしないでください。命ばかりはお救けを』
 大庭殿は即座に悟って調子を合わせてくれました。
『兄上ー、怖いよー、助けてー』
 私たちを腰抜け兄弟侍と思った連中は大小も取り上げずにそのまま張りぼての欄干に押し込み走り出し、ここまで運ばれたのです。
 道中、賊どもの会話は筒抜けでした。私は、連中が既に多くの人を攫っていたと知りました。その人たちが廃寺の庫裏くりに囚われていることも。
『チョロイもんだぜ。今日のは特にチョロかったな、ヘッポコ侍どもめ』
『ヘヘッ、庫裏に繋いである獲物と合わせてこれで十人だ。そろそろまとめて船出と行くか』
 なんと悪辣あくらつな人攫いども! これで、もはや遠慮は要りません。境内に入り、張りぼてから引っ張り出されるや大庭殿は存分に斬りまくり、私も日頃の修練を十分に披露できました」
 花のように笑って安宅姫は締め括った。
「ご安心ください、我ら、全て小手打ち・・・・です」
 なるほど。境内の地面に落花した椿のごとく紅い手首が散っている。
 ここで数多あまたの御用提灯を揺らして南町奉行、与力以下、捕り物隊が突入して来た。
「御用だ! 御用だ!」
「悪党ども神妙にお縄になれぃ!」
「黒沼ーー、そこか! 大事はないか?」
「はっ、添島そえじま様、このとおり、中西道場門下生の活躍、そして松兵衛親分の才覚で、天下を騒がした人攫いども、全員捕縛とあいなりました!」

 この後、姫の言葉通り、庫裏に囚われていた八人が発見され、全員助け出された。
 売り物としてそれなりに丁寧に扱っていたらしく八人は食事も与えられ清潔な帷子かたびら姿だった。おびえて疲労困憊していたものの大きな怪我はなく、皆、この日の内に親元へ返すことが出来た。
 捕縛された人攫い団は総勢十一人(全員存命:その内、右手首損傷九人)の供述から樽廻船たるかいせんの空荷として積み込み、下関を経て長崎近辺で積み替えて朝鮮・中国・阿蘭陀への密輸を企てていたことが発覚した。酒樽をより早く輸送する為の樽廻船は船足が早く且つ頻繁に出港する利便性があったが近年、寄港地でこっそり積荷を抜かれて売りさばかれる事件が頻発していた。今回は更に大胆にも、船便を使っての人身売買が画策されたのである。
 また、人攫い団の構成は元芝居大道具係、元水夫、元酒問屋番頭、元駕籠舁き等々、雑多な出身ながら全員博打によって身を持ち崩した者たちであった――


 ☆人攫いは大捕物で解決。残すは向井家の宝の隠し場所のみ。浅右衛門の推察は如何に?


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