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第一章:天上のラストルーム
第6話:装備購入
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アーカイブには多くの武具店が並んでいる。
初心者向け、中級者向け、上級者向け、トップランカー向けなど様々だ。
アルストは当然ながら初心者向けの武具店に足を踏み入れると、そこにはゲームの世界でしか見たことのない様々な武具が店内のいたるところに並んでいた。
「おぉぉ、これは凄いな! でも……むむむ、どれもこれも高いな!」
どうやらアルストが貯めてきたGは全然少なかったようだ。
アルストの手持ちは1150Gで、1000Gは初回特典で最初から持っていたので、貯めたGは150Gである。
そう考えると少ないのかもしれないが、剣一つを取ってみても700Gもするのは予想外だ。
現状、全身の装備を変更するには全く足りなかった。
「いらっしゃい! あら、最近にしては珍しいわね。新しいプレイヤーさんかしら?」
声を掛けてきたのは当然ながら店の主人なのだが、アルストは首を傾げてしまう。
「えっと、NPCじゃないんですか?」
「NPC? 違う違う、私もれっきとしたプレイヤーだよ! ここは私の店なんだ」
「えっ? プレイヤーがお店をやってるんですか?」
この情報は攻略サイトでは見たことがなかった。
となると、他の店も全てプレイヤーが営んでいるかと考えてしまう。
「私は鍛冶師に固有能力が出たからね。たまーにバベルにも上るけど、メインは武具を作って販売するってのもやってるわね」
「他のお店も、プレイヤーがやってるんですか?」
「いや、NPCが経営している店ももちろんあるけど……あぁ、なるほど。あんた、手持ちが少ないんだね?」
「あー……はい」
「それでさっきは高いな! って声を大にして言っていたのか!」
「……す、すいません。てっきりNPCがやっていると思って声に出ちゃいました」
「あはは! いいんだよ。確かに初心者からしたら少し高めに設定しているからね」
快活に笑う女性店主は、手を差し出しながら自己紹介をしてくれた。
「私の名前はアリーナよ」
「俺はアルストといいます」
「それでだアルスト君。いくらくらい持っているんだい?」
「……へっ?」
突然手持ちを聞いてきたアリーナに、アルストは若干警戒の視線を向ける。
「おっと失礼。実はね、ここに出している作品はちょっと高めで質も良い品なんだ。アルスト君の手持ちを聞けたら、私が見繕えると思ったんだよね。君、剣術士だろう?」
「そういうことですか。まあ、初期装備がこれなんでバレバレですよね」
苦笑しながらも、アルストは自身の手持ちをアリーナに告げた。
「うーん、1150Gかぁ。確かにNPCがやっている店なら足りるだろうけど、あまりオススメはしてないんだよね」
「そうなんですか?」
「発売当初はやってる店がNPCのところしかなかったから仕方ないんだけど、今となっては私みたいにプレイヤーがやってる店も増えてきて、性能もそっちの方が良いからね。今では、だーれもNPCの店には立ち寄らないよ」
「そ、そんなこと攻略サイトには載っていませんでした」
「まあ、今では当然のことになってるからね。新規ユーザーも減ってきている中で、攻略組もわざわざ書く必要ないって思ったんじゃないかな」
誰もが当然と思っていることを知らなったアルストは、ただただ唖然とするしかなかった。
たまたま立ち寄った店がここではなくNPCの店だったなら、そこで一式を揃えた後に外に出て再び誹謗中傷にあっていただろう。
「アリーナさん! このお店なら、このGで一式揃えられますか?」
「少し質は落ちるけど、それでもいいかな? それでもNPCの店よりは上位の装備だと断言はできるけどね」
「お願いします!」
天上のラストルームでは――現実世界でもそうだが――頼れる人がいないのだ。今この好機を見逃してしまっては今後のゲーム生活に支障をきたす恐れもあった。
「それじゃあ、ちょっとこっちに来てくれる?」
「はい」
アリーナは正面に飾られている商品から離れて、奥で乱雑に並べられている商品のところへ移動した。
先ほど手に取った剣よりは見た目の派手さはないものの、質実剛健といえばいいのだろうか、シンプルな見た目ではあるが性能は良さそうに見える。
「うーん、剣はこれなんてどうかな? 銘はアルスター3。私が打ってるアルスターシリーズで、世代的には三世代古いタイプなんだけど初心者が持つなら問題ないと思うわ」
刀身は八〇センチ、直剣で華美な装飾は一切ないのだが、性能を見ると初心者の剣の三倍以上の装備補正があるようだ。
「こっちは軽鎧なんだけど、鎧のシリーズでブリスター3。同じく三世代前の軽鎧よ。それと腕当と脚当、シリーズものではないけどこっちも付けられるかな」
こちらも初心者の鎧と比べて三倍以上の装備補正があり、腕当と脚当に関しては初期装備には入っていなかったのでありがたかった。
「こ、これでおいくらなんですか?」
三世代前とはいえ、これだけの武具なのだから相当のGがかかることは目に見えている。1150Gにはまとまると思うが、全額取られてしまっては何かあった時に対処できなくなるので困ってしまうのだ。
「この四点セットで――1000Gでどうかしら!」
「……お、お願いします!」
「毎度あり!」
まさか初回特典のGで足りるとは思っていなかったアルストは、即決でアリーナの提案を受けることにした。
「で、でも、本当にいいんですか? 俺からしたらだいぶ助かりますけど……」
「これも古くなっちゃってどうしようか悩んでたところなのよ。処分するにも時間と労力がかかるし、それなら安くなっても売れてくれた方が私も楽だし、こいつらも使ってもらえた方が嬉しいだろうしさ」
職人の矜持なのだろうか。
アリーナは自身が打った武具を誰かに使ってもらいたいと思っていたのだが、新規プレイヤーが頭打ちになりつつある今、古い武具はどうしても売れなくなってしまう。
そこに現れた初心者丸出しのアルストに、アリーナも古くなった武具を使ってもらいたいと願った。
お互いの利害が一致した結果なのだ。
「……ありがとうございます。また何か入用ができたら伺ってもいいですか?」
「いつでも来なよ。私でよかったら色々とアドバイスしてやるからさ!」
最後にはフレンド登録までしてくれたアリーナと握手を交わしたアルストは、装備を変更してから笑顔で店を後にしたのだった。
初心者向け、中級者向け、上級者向け、トップランカー向けなど様々だ。
アルストは当然ながら初心者向けの武具店に足を踏み入れると、そこにはゲームの世界でしか見たことのない様々な武具が店内のいたるところに並んでいた。
「おぉぉ、これは凄いな! でも……むむむ、どれもこれも高いな!」
どうやらアルストが貯めてきたGは全然少なかったようだ。
アルストの手持ちは1150Gで、1000Gは初回特典で最初から持っていたので、貯めたGは150Gである。
そう考えると少ないのかもしれないが、剣一つを取ってみても700Gもするのは予想外だ。
現状、全身の装備を変更するには全く足りなかった。
「いらっしゃい! あら、最近にしては珍しいわね。新しいプレイヤーさんかしら?」
声を掛けてきたのは当然ながら店の主人なのだが、アルストは首を傾げてしまう。
「えっと、NPCじゃないんですか?」
「NPC? 違う違う、私もれっきとしたプレイヤーだよ! ここは私の店なんだ」
「えっ? プレイヤーがお店をやってるんですか?」
この情報は攻略サイトでは見たことがなかった。
となると、他の店も全てプレイヤーが営んでいるかと考えてしまう。
「私は鍛冶師に固有能力が出たからね。たまーにバベルにも上るけど、メインは武具を作って販売するってのもやってるわね」
「他のお店も、プレイヤーがやってるんですか?」
「いや、NPCが経営している店ももちろんあるけど……あぁ、なるほど。あんた、手持ちが少ないんだね?」
「あー……はい」
「それでさっきは高いな! って声を大にして言っていたのか!」
「……す、すいません。てっきりNPCがやっていると思って声に出ちゃいました」
「あはは! いいんだよ。確かに初心者からしたら少し高めに設定しているからね」
快活に笑う女性店主は、手を差し出しながら自己紹介をしてくれた。
「私の名前はアリーナよ」
「俺はアルストといいます」
「それでだアルスト君。いくらくらい持っているんだい?」
「……へっ?」
突然手持ちを聞いてきたアリーナに、アルストは若干警戒の視線を向ける。
「おっと失礼。実はね、ここに出している作品はちょっと高めで質も良い品なんだ。アルスト君の手持ちを聞けたら、私が見繕えると思ったんだよね。君、剣術士だろう?」
「そういうことですか。まあ、初期装備がこれなんでバレバレですよね」
苦笑しながらも、アルストは自身の手持ちをアリーナに告げた。
「うーん、1150Gかぁ。確かにNPCがやっている店なら足りるだろうけど、あまりオススメはしてないんだよね」
「そうなんですか?」
「発売当初はやってる店がNPCのところしかなかったから仕方ないんだけど、今となっては私みたいにプレイヤーがやってる店も増えてきて、性能もそっちの方が良いからね。今では、だーれもNPCの店には立ち寄らないよ」
「そ、そんなこと攻略サイトには載っていませんでした」
「まあ、今では当然のことになってるからね。新規ユーザーも減ってきている中で、攻略組もわざわざ書く必要ないって思ったんじゃないかな」
誰もが当然と思っていることを知らなったアルストは、ただただ唖然とするしかなかった。
たまたま立ち寄った店がここではなくNPCの店だったなら、そこで一式を揃えた後に外に出て再び誹謗中傷にあっていただろう。
「アリーナさん! このお店なら、このGで一式揃えられますか?」
「少し質は落ちるけど、それでもいいかな? それでもNPCの店よりは上位の装備だと断言はできるけどね」
「お願いします!」
天上のラストルームでは――現実世界でもそうだが――頼れる人がいないのだ。今この好機を見逃してしまっては今後のゲーム生活に支障をきたす恐れもあった。
「それじゃあ、ちょっとこっちに来てくれる?」
「はい」
アリーナは正面に飾られている商品から離れて、奥で乱雑に並べられている商品のところへ移動した。
先ほど手に取った剣よりは見た目の派手さはないものの、質実剛健といえばいいのだろうか、シンプルな見た目ではあるが性能は良さそうに見える。
「うーん、剣はこれなんてどうかな? 銘はアルスター3。私が打ってるアルスターシリーズで、世代的には三世代古いタイプなんだけど初心者が持つなら問題ないと思うわ」
刀身は八〇センチ、直剣で華美な装飾は一切ないのだが、性能を見ると初心者の剣の三倍以上の装備補正があるようだ。
「こっちは軽鎧なんだけど、鎧のシリーズでブリスター3。同じく三世代前の軽鎧よ。それと腕当と脚当、シリーズものではないけどこっちも付けられるかな」
こちらも初心者の鎧と比べて三倍以上の装備補正があり、腕当と脚当に関しては初期装備には入っていなかったのでありがたかった。
「こ、これでおいくらなんですか?」
三世代前とはいえ、これだけの武具なのだから相当のGがかかることは目に見えている。1150Gにはまとまると思うが、全額取られてしまっては何かあった時に対処できなくなるので困ってしまうのだ。
「この四点セットで――1000Gでどうかしら!」
「……お、お願いします!」
「毎度あり!」
まさか初回特典のGで足りるとは思っていなかったアルストは、即決でアリーナの提案を受けることにした。
「で、でも、本当にいいんですか? 俺からしたらだいぶ助かりますけど……」
「これも古くなっちゃってどうしようか悩んでたところなのよ。処分するにも時間と労力がかかるし、それなら安くなっても売れてくれた方が私も楽だし、こいつらも使ってもらえた方が嬉しいだろうしさ」
職人の矜持なのだろうか。
アリーナは自身が打った武具を誰かに使ってもらいたいと思っていたのだが、新規プレイヤーが頭打ちになりつつある今、古い武具はどうしても売れなくなってしまう。
そこに現れた初心者丸出しのアルストに、アリーナも古くなった武具を使ってもらいたいと願った。
お互いの利害が一致した結果なのだ。
「……ありがとうございます。また何か入用ができたら伺ってもいいですか?」
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