21 / 62
第一章:天上のラストルーム
第21話:ミスリルと槍
しおりを挟む
取り出されたアイテムを見てアリーナは軽く口笛を吹く。そして手に取ったのは、やはりミスリルだった。
「これまたレアな素材アイテムだね」
「そうなんですか? ミスリルって言えばゲームではよく使われる素材だと思いますけど」
「まあね。六階層以上ではたまに見かけるんだけど、一階層のボスモンスターから出たのは初めてかも」
目新しい素材ではないが、ドロップした階層が珍しいとアリーナは言う。
「それでも鍛冶師としては扱いたい素材ではあるんだよ。どうだろう、これも私に預けてくれないかな?」
「いいですけど、何を作ってくれるんですか?」
「そうだなぁ……軽鎧、かな」
「軽鎧ですか。ブリスター3がありますけどいいんですか?」
「ブリスター3の素材は軽鉄《けいてつ》なのよ。軽くて加工しやすい素材ではあるんだけど、その分強度に問題があるんだよね。五階層までなら全然問題はないんだけど、それ以上となるとより性能の高い装備が必要になる。ミスリルなら一〇階層までソロで行くにも問題ない装備が作れるわよ」
【ゴルイドの剛骨】の時も思ったことだが、素材アイテムをアルストが持っていても仕方がないのでアリーナの提案は願ったり叶ったりである。
「それじゃあお願いします」
「了解よ。こっちは出来上がり次第で連絡するから、その時にでも取りに来てね」
素材アイテムを加工してくれるアリーナに出会えたことを、アルストはとても感謝していた。
NPCと勘違いしていたことも気安く話すことができるようになったきっかけでもある。そうでなければコミュ力不足でこうして相談できるような仲にはなれなかっただろう。
ミスリルの加工をお願いした後は、フレイム・ドン・スピアに目を向けた。
「これは槍術士《スピアメイト》専用装備だね。アルスト君は槍術士になる予定とかはあるの?」
「今のところはないですね。ただレア度が5もあるのでどうしたものかと思いまして」
「そうだね。普通は一階層からこれだけの装備が出ることもないんだけどなぁ」
「そうなんですか?」
意外な言葉にアルストは疑問を口にする。
「レア度5ってのは相当高いレア度なんだよ? それが一階層のボスモンスターから出るだなんて、それこそゲームバランスが崩れちゃうわよ」
言われてみるとそうかもしれない。興味本位でアルスター3のレア度を見てみたのだが2だった。今の装備で五階層まで行けるとなれば、レア度5の装備があればどこまで行けるのかとなってしまう。
「……この武器、なんだったら私が預かっておこうか?」
「預かる、ですか?」
預けるだけなら自分のアイテムボックスに入れておくだけでもいいのではないかと思ったアルスト。その疑問は次のアリーナの言葉で解決された。
「私が代わりに売りに出してあげるってこと。ただお店に売却するよりは高値で売れるよう取り計らってあげるわよ?」
「なるほど。その売り上げ分を俺とアリーナさんで分けるってことですね」
「そういうこと。レア度5の武器なら普通に売却すると3000Gくらいかな。販売価格は安くて5000Gくらいだけど……これならそれよりも高く売れるわ」
同じレア度5でも武器に備わっている特殊効果によって価値が変わってくる。
フレイム・ドン・スピアにはダメージを与えた相手に火属性の追加ダメージを付与することができる。見た目にも深紅の穂先が美しく、容姿を重視しているプレイヤーにも人気が出そうとアリーナは判断していた。
「……この槍、格好いいな」
「そういえばエレナさんは槍術士でしたね」
エレナの呟きを聞いて思い出したアルストだったが、さすがにレア度5の装備をプレゼントする気にはなれない。
今日出会ったばかりの人であり、今後の付き合いがあるかどうかも分からないのだ。
「エレナちゃんに購入する気があるなら、二週間は表に出さずに置いておくよ?」
「ほ、本当ですか!」
「本当よ。アルスト君の儲けが一番だから値引きはあまりできないけど、フレイム・ドン・スピアなら……5700Gになるかな」
「ご、5700G!」
「これでも私の儲けを削っての価格だから、これが私にできる最大限の安い値段よ」
真剣に考えこむエレナだったが、フレイム・ドン・スピアに一目ぼれしていることもあり一先ずは置いてもらうことにした。
「お金が貯まりそうになければ、そのまま店頭に、出してください!」
「もちろんよ。貯めてまた来てくれるのを期待してるわね」
二週間という期限を設けられたフレイム・ドン・スピアを手に入れるため、エレナはぐるりとアルストに向き直る。
「……な、何でしょうか?」
「お金を貯めるためにバベルへ行きましょう!」
「えっと、イベントは?」
「イベント?」
首を傾げて聞いてきたのはアリーナだ。アルストは二人とパーティを組んだ理由と、次のイベントが終わるまでの限定的なものということを説明した。
「そういうことか。新しいイベントは毎回火曜日のお昼一二時から行われるから、明後日までは何もないよ」
今日は日曜日で、イベントの終了日だった。
イベントは毎回火曜日の一二時から開始されて日曜日の一七時までと決まっている。時折開始時間や終了時間がずれることもあるが、基本は同じ時間だ。
そうなるとイベントが始まる明後日までは時間が空いてしまうのでエレナのG稼ぎに付き合うのもいいかと考えた。
「……まあ、俺のお金も貯まるし、分かりました」
「よし! そうと決まれば早速行こう!」
「どうせなら一階層のボスにも挑戦しない?」
「アレッサも良いことを言う!」
「あっ、だったら俺は手を出しませんよ? 二人で倒してくださいね?」
「二人の装備なら全然問題ないから安心しなよ」
アリーナのお墨付きをもらった二人とともに、アルストは三度バベルへと向かった。
「これまたレアな素材アイテムだね」
「そうなんですか? ミスリルって言えばゲームではよく使われる素材だと思いますけど」
「まあね。六階層以上ではたまに見かけるんだけど、一階層のボスモンスターから出たのは初めてかも」
目新しい素材ではないが、ドロップした階層が珍しいとアリーナは言う。
「それでも鍛冶師としては扱いたい素材ではあるんだよ。どうだろう、これも私に預けてくれないかな?」
「いいですけど、何を作ってくれるんですか?」
「そうだなぁ……軽鎧、かな」
「軽鎧ですか。ブリスター3がありますけどいいんですか?」
「ブリスター3の素材は軽鉄《けいてつ》なのよ。軽くて加工しやすい素材ではあるんだけど、その分強度に問題があるんだよね。五階層までなら全然問題はないんだけど、それ以上となるとより性能の高い装備が必要になる。ミスリルなら一〇階層までソロで行くにも問題ない装備が作れるわよ」
【ゴルイドの剛骨】の時も思ったことだが、素材アイテムをアルストが持っていても仕方がないのでアリーナの提案は願ったり叶ったりである。
「それじゃあお願いします」
「了解よ。こっちは出来上がり次第で連絡するから、その時にでも取りに来てね」
素材アイテムを加工してくれるアリーナに出会えたことを、アルストはとても感謝していた。
NPCと勘違いしていたことも気安く話すことができるようになったきっかけでもある。そうでなければコミュ力不足でこうして相談できるような仲にはなれなかっただろう。
ミスリルの加工をお願いした後は、フレイム・ドン・スピアに目を向けた。
「これは槍術士《スピアメイト》専用装備だね。アルスト君は槍術士になる予定とかはあるの?」
「今のところはないですね。ただレア度が5もあるのでどうしたものかと思いまして」
「そうだね。普通は一階層からこれだけの装備が出ることもないんだけどなぁ」
「そうなんですか?」
意外な言葉にアルストは疑問を口にする。
「レア度5ってのは相当高いレア度なんだよ? それが一階層のボスモンスターから出るだなんて、それこそゲームバランスが崩れちゃうわよ」
言われてみるとそうかもしれない。興味本位でアルスター3のレア度を見てみたのだが2だった。今の装備で五階層まで行けるとなれば、レア度5の装備があればどこまで行けるのかとなってしまう。
「……この武器、なんだったら私が預かっておこうか?」
「預かる、ですか?」
預けるだけなら自分のアイテムボックスに入れておくだけでもいいのではないかと思ったアルスト。その疑問は次のアリーナの言葉で解決された。
「私が代わりに売りに出してあげるってこと。ただお店に売却するよりは高値で売れるよう取り計らってあげるわよ?」
「なるほど。その売り上げ分を俺とアリーナさんで分けるってことですね」
「そういうこと。レア度5の武器なら普通に売却すると3000Gくらいかな。販売価格は安くて5000Gくらいだけど……これならそれよりも高く売れるわ」
同じレア度5でも武器に備わっている特殊効果によって価値が変わってくる。
フレイム・ドン・スピアにはダメージを与えた相手に火属性の追加ダメージを付与することができる。見た目にも深紅の穂先が美しく、容姿を重視しているプレイヤーにも人気が出そうとアリーナは判断していた。
「……この槍、格好いいな」
「そういえばエレナさんは槍術士でしたね」
エレナの呟きを聞いて思い出したアルストだったが、さすがにレア度5の装備をプレゼントする気にはなれない。
今日出会ったばかりの人であり、今後の付き合いがあるかどうかも分からないのだ。
「エレナちゃんに購入する気があるなら、二週間は表に出さずに置いておくよ?」
「ほ、本当ですか!」
「本当よ。アルスト君の儲けが一番だから値引きはあまりできないけど、フレイム・ドン・スピアなら……5700Gになるかな」
「ご、5700G!」
「これでも私の儲けを削っての価格だから、これが私にできる最大限の安い値段よ」
真剣に考えこむエレナだったが、フレイム・ドン・スピアに一目ぼれしていることもあり一先ずは置いてもらうことにした。
「お金が貯まりそうになければ、そのまま店頭に、出してください!」
「もちろんよ。貯めてまた来てくれるのを期待してるわね」
二週間という期限を設けられたフレイム・ドン・スピアを手に入れるため、エレナはぐるりとアルストに向き直る。
「……な、何でしょうか?」
「お金を貯めるためにバベルへ行きましょう!」
「えっと、イベントは?」
「イベント?」
首を傾げて聞いてきたのはアリーナだ。アルストは二人とパーティを組んだ理由と、次のイベントが終わるまでの限定的なものということを説明した。
「そういうことか。新しいイベントは毎回火曜日のお昼一二時から行われるから、明後日までは何もないよ」
今日は日曜日で、イベントの終了日だった。
イベントは毎回火曜日の一二時から開始されて日曜日の一七時までと決まっている。時折開始時間や終了時間がずれることもあるが、基本は同じ時間だ。
そうなるとイベントが始まる明後日までは時間が空いてしまうのでエレナのG稼ぎに付き合うのもいいかと考えた。
「……まあ、俺のお金も貯まるし、分かりました」
「よし! そうと決まれば早速行こう!」
「どうせなら一階層のボスにも挑戦しない?」
「アレッサも良いことを言う!」
「あっ、だったら俺は手を出しませんよ? 二人で倒してくださいね?」
「二人の装備なら全然問題ないから安心しなよ」
アリーナのお墨付きをもらった二人とともに、アルストは三度バベルへと向かった。
10
あなたにおすすめの小説
癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。
branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位>
<カクヨム週間総合ランキング最高3位>
<小説家になろうVRゲーム日間・週間1位>
現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。
目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。
モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。
ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。
テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。
そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が――
「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!?
癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中!
本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ!
▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。
▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕!
カクヨムで先行配信してます!
俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件
夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。
周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。
結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。
ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー
びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。
理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。
今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。
ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』
計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る!
この物語はフィクションです。
※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。
【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
───────
自筆です。
アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜
きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。
遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。
作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓――
今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!?
ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。
癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる