天上のラストルーム ~最弱固有能力でのんびりと無双します~

渡琉兎

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第一章:天上のラストルーム

第30話:怒りの理由

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 アレッサの表情はムスッとしており、誰がどう見ても怒っているのだと分かるものだった。

「いや、早起きしたからソロプレイをしようかと思いまして」
「私達がログインしていると知ってましたよね?」
「えっと、それは、そのー」

 ここでうまく誤魔化せないのがアルストである。
 コミュ力の低さから人と話す機会が少なく、追求されると口ごもってしまう。それが追求を肯定しているのだとも知らずに。

「私達は、パーティですよね?」
「……はい」
「でしたら、声をかけてくれても良かったのではないですか?」
「……すいませんでした」

 見ず知らずの女性に怒られてしまい落ち込んでしまったアルスト。
 悪気があったわけではなく、単にソロプレイを楽しもうと思っただけなのだが、ここまで言われてしまうと自分がいけないことをしてしまったんじゃないかと誤解してしまう。

「……でもまあ、無事で何よりでした」
「……あ、ありがとう、ございます?」
「なんで疑問系なんですか?」
「えっと、怒っていたみたいなので」
「怒ってますよ?」
「っ! ほ、本当にすいませんでしたー!」

 直角に腰を曲げて謝るアルストを見て、アレッサはしばらく何も口にしなかったが――すぐに笑みが溢れてきた。

「……ふふ、冗談ですよ」
「……ほ、本当ですか?」
「はい、本当です」
「……ここに来るまでは相当怒っていたけどな」
「ちょっとエレナちゃん!」
「こいつには反省してもらう必要があるからな。隠し立てする必要はないだろう」

 自分がこき使われたからだろうか、エレナはアルストに対して冷たく当たっている。
 ただ、棘がある言い方なのだが何故だか温かみがあるようにアルストは感じていた。

「……本当に、心配させてしまいすいませんでした」

 そう、アルストのことを心配しての言葉だったからだ。
 アレッサの言葉はもちろん、エレナもアルストのことを心配していた。
 エレナはアルストのことを勝手にライバルだと思っているが、それでもパーティを組んでいる以上は仲間であり守るべき対象なのだ。

「そ、それにしても二人でよくここまで来れましたね。二階層のモンスターを相手に大変だったんじゃないですか?」
「……まあ、そうだな」
「んっ? 何かあったんですか?」

 エレナの言葉が妙に重かったので気になってしまったアルスト。
 そんな問い掛けにアレッサが答えてくれた。

「……戦ってません」
「……へっ?」
「戦わずにずっと逃げてここまでやってきました」
「……あー、それであのモンスターの群れでしたか」

 エンカウントする度に逃げていた二人をモンスターが追いかける。そんな二人とモンスターを見つけて別のモンスターが追いかける。
 その繰り返しが先ほどの状況を生み出したのだった。

「……えっと、そちらの方こそ、ご無事で何よりでした」
「本当ですよ! だから次からは一人でバベルに行くなんてしないでくださいね!」
「は、はい!」

 半泣きでアレッサに言われてしまいアルストも頷くことしかできなかった。

「それでアルストよ。二階層のボスを倒すことはできたのか?」

 何気ないエレナからの質問に、アルストとドキッとしていた。
 倒したモンスターは普通のボスモンスターであれば問題はないのだが、実際に倒しているのはレアボスモンスターだ。
 ここで倒したと言えばドロップアイテムのことを聞かれるのが自然の流れだが、素直に高レアリティのアイテムを見せてしまうと確実に追求されることになる。
 それ以前にレアボスモンスターのことを二人は知らないはずだ。何故なら攻略サイトにも載っていない情報を始めたばかりの初心者プレイヤーが知っているわけないのだから。
 ここでアルストがレアボスモンスターを倒したことがあると知られれば、どこから情報が漏れてしまうか分からなくなってしまう。
 そこでアルストは賭けに出た。ボスフロアから出てきたところを見られてないはずだと信じて。

「いや、ボスフロアの前まで行ったんだけどHPヒットポイントが減っちゃったから引き返そうと思ってたんだ」

 アルストは嘘をつくことにした。
 もし長くプレイを続けてお互いが発展職や複合職になった時にでもバラせれば笑い話にでもなると信じて。

「HP? ……アルスト、お前なんでこんなに減ってるんだ?」
「後ろから不意打ちの一撃を受けちゃって、テンパってたらこんなことに」
「それにしてはレベルも上がってませんか? レベル15になってますよ?」
「囲まれちゃいまして、結構な数のモンスターを倒しましたから」

 苦し紛れもいいところである。
 絶対に疑われる。そう思っていたアルストなのだが、意外にも二人は追求することなく頷いてくれた。

「まあ、アルストに頼り過ぎるのもいけないってことだな」
「そうですね。私達も強くなってアルストさんを助けられるようになりましょう」
「……なんか、すいません」

 素直に信じてくれた二人に謝罪を口にしたアルストだったが、当の二人は違う意味での謝罪と捉えて笑顔で頷いてくれる。

(話せる時が来たら、二人には真っ先に話して謝らなきゃなぁ)

 そんなことを考えながら、アルストは三人でアーカイブへと戻っていった。
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