40 / 62
第一章:天上のラストルーム
第40話:ログアウト
しおりを挟む
アーカイブに到着した三人はすぐにクエスト屋に向かい完了手続きを行う。
報酬額が一人あたり350Gであり、労力に見合わないとエレナが嘆いていた。
そんな中でもプラスになった部分もいくつかある。
一つ目はキングベアー討伐によるG獲得だ。
MVPはアルストだったものの、エレナやアレッサにも活躍に見合ったGが振り分けられており、その額が報酬額を遥かに上回っていた。
二つ目はレベルアップである。
アルストが17に上がったのに対して、アレッサは11、エレナは12にレベルアップしているので能力も格段に上がった。
明日のイベントがどのような内容になるかはまだ分からないが、参加に向けて良い条件が整ったといえるだろう。
「この後はどうしましょうか?」
「うーん、まだGも貯まっていないしもう一度クエストに――」
「ちょっと待ってください!」
まだまだ元気なアレッサとエレナに待ったを掛けたのはアルストだった。
「どうしたんだ?」
「……もうお昼ですよ?」
「あら、もうそんな時間なんですね」
「……それだけ?」
「それだけと言いますと?」
頭を抱えそうになったアルストだが、ここは自分の主張をしっかりと伝えなければならないと悟り口を開く。
「お昼ご飯ですよ!」
「「……あー」」
「あー、って食べないんですか!」
アルストは朝の七時起きである。朝ご飯も食パン一枚と簡単に済ませていた。
現在の時刻は一二時を回っており、アルストのお腹は空腹を訴えていた。
「お、俺は一度ログアウトするので、二人も食べてきた方がいいですよ」
「それもそうだな」
「えっと、そうですね」
「……? それじゃあ、何時に待ち合わせしましょうか?」
言葉をつまらせたアレッサに疑問を感じながらも、アルストは次のログイン時間の確認を優先させる。
「アルストに任せるぞ」
「そうですか? それじゃあ……一三時過ぎでいいですかね?」
「それで構いません」
「分かりました。それじゃあまた後で」
手を振りそう口にしたアルストは、クエスト屋の前でログアウトした。
「……エレナちゃん、どうしようか?」
「そうだなぁ……とりあえず、アーカイブをもう一度見て回ろうか」
「……そう、だね」
歩き出したエレナの背中を悲しそうに見つめながら、アレッサも歩き出す。
二人は昨日の夜と同じように、ただし今回は夜ではなく真昼間の雑踏の中へと姿を消していった。
※※※※
覚醒した矢吹はベッドの上からしばらく動くことができなかった。
何も体調が悪いわけではない。お腹が空きすぎてということでもない。
何故アルストというキャラクターに謎の特殊能力が備わっていたのか。そもそも特殊能力はアルストにしか存在していないのだろうか。
単純に固有能力が最弱だから補正のために備わっていた可能性もある。その場合だと一つの職業にしか補正がない固有能力にも特殊能力はありそうなものだ。
アルストの特殊能力は破格だ。一つの職業補正にも、効果はさておき何かしら特殊能力が備わっていてもいいのではないかと思うが、攻略サイトではそのような記述を見たことはない。
「……攻略サイトか」
矢吹は自分の足でマッピングをして、攻略しようと考えていた。
説明書を読んで疑問に感じたことは攻略サイトで確認をしたものの、現在公開されている情報全てに目を通すつもりはなかったのだが。
「そんなこと言ってられないか」
覚醒してから五分が経ち、矢吹はようやく体を起こしてベッドから台所に移動する。
その手にはタブレット端末が握られており、食事をしながら攻略サイトを確認するつもりだ。
お湯を沸かしながら戸棚を開け、昨日とは味違いのカップ麺を取り出す。
自炊もしなければと思いつつ、どうしても楽な方向に進んでしまうのは矢吹の悪いところだ。
アレッサにログアウトをしたくない理由を聞かなかったのもその性格が起因している。
ただ今回は自分が関わっている案件になるのでどうしても調べずにはいられなかった。
お湯が沸き、カップ麺に注いで蓋をするとテーブルに移動する。
湯で時間を待っている間にタブレット端末から天上のラストルーム攻略サイトを開いた。
「ワード検索っと……うーん、やっぱり該当なしか」
矢吹は『特殊能力』というワードがページ内に存在しているかを検索してみたのだが該当は出てこない。
ワードに引っかかりそうな固有能力や職業ページでも同じことを繰り返したのだが、それでも『特殊能力』というワードが該当することはなかった。
「……おっと、三分経ったか」
攻略サイトのページ数は多い。
まだまだ確認できていないページの方が多いのだが、まずは腹ごしらえが大事だと判断した矢吹はタブレットをテーブルに置いて食事を始める。
ある程度お腹が満たされたところで、行儀は悪いが食事を続けながらタブレット端末を操作することにした。
時間は有限である。今の時刻は一二時三〇分であり、二人との待ち合わせ時間が迫っていたのだ。
右手で箸を扱い、左手でタブレット端末を操作する。
スープがはねないよう注意しながらワード検索を繰り返していく。
「……んぐ、出てこない」
麺を飲み込みながらアーカイブ情報のページや装備のページ、果てには階層の攻略ページにまで手を伸ばしていく。
「……そりゃないよな」
時間が過ぎるのは早いもので、気づけば一三時まで残り五分に迫っていた。
カップ麺はすでに食べきっている。湯を捨てて空箱を洗ってからゴミ箱に捨てる。
タブレット端末を片手に部屋に戻り机の置いてからベッドに横になる。
HSを装着して起動した矢吹は、再びアルストになって天上のラストルームへログインした。
報酬額が一人あたり350Gであり、労力に見合わないとエレナが嘆いていた。
そんな中でもプラスになった部分もいくつかある。
一つ目はキングベアー討伐によるG獲得だ。
MVPはアルストだったものの、エレナやアレッサにも活躍に見合ったGが振り分けられており、その額が報酬額を遥かに上回っていた。
二つ目はレベルアップである。
アルストが17に上がったのに対して、アレッサは11、エレナは12にレベルアップしているので能力も格段に上がった。
明日のイベントがどのような内容になるかはまだ分からないが、参加に向けて良い条件が整ったといえるだろう。
「この後はどうしましょうか?」
「うーん、まだGも貯まっていないしもう一度クエストに――」
「ちょっと待ってください!」
まだまだ元気なアレッサとエレナに待ったを掛けたのはアルストだった。
「どうしたんだ?」
「……もうお昼ですよ?」
「あら、もうそんな時間なんですね」
「……それだけ?」
「それだけと言いますと?」
頭を抱えそうになったアルストだが、ここは自分の主張をしっかりと伝えなければならないと悟り口を開く。
「お昼ご飯ですよ!」
「「……あー」」
「あー、って食べないんですか!」
アルストは朝の七時起きである。朝ご飯も食パン一枚と簡単に済ませていた。
現在の時刻は一二時を回っており、アルストのお腹は空腹を訴えていた。
「お、俺は一度ログアウトするので、二人も食べてきた方がいいですよ」
「それもそうだな」
「えっと、そうですね」
「……? それじゃあ、何時に待ち合わせしましょうか?」
言葉をつまらせたアレッサに疑問を感じながらも、アルストは次のログイン時間の確認を優先させる。
「アルストに任せるぞ」
「そうですか? それじゃあ……一三時過ぎでいいですかね?」
「それで構いません」
「分かりました。それじゃあまた後で」
手を振りそう口にしたアルストは、クエスト屋の前でログアウトした。
「……エレナちゃん、どうしようか?」
「そうだなぁ……とりあえず、アーカイブをもう一度見て回ろうか」
「……そう、だね」
歩き出したエレナの背中を悲しそうに見つめながら、アレッサも歩き出す。
二人は昨日の夜と同じように、ただし今回は夜ではなく真昼間の雑踏の中へと姿を消していった。
※※※※
覚醒した矢吹はベッドの上からしばらく動くことができなかった。
何も体調が悪いわけではない。お腹が空きすぎてということでもない。
何故アルストというキャラクターに謎の特殊能力が備わっていたのか。そもそも特殊能力はアルストにしか存在していないのだろうか。
単純に固有能力が最弱だから補正のために備わっていた可能性もある。その場合だと一つの職業にしか補正がない固有能力にも特殊能力はありそうなものだ。
アルストの特殊能力は破格だ。一つの職業補正にも、効果はさておき何かしら特殊能力が備わっていてもいいのではないかと思うが、攻略サイトではそのような記述を見たことはない。
「……攻略サイトか」
矢吹は自分の足でマッピングをして、攻略しようと考えていた。
説明書を読んで疑問に感じたことは攻略サイトで確認をしたものの、現在公開されている情報全てに目を通すつもりはなかったのだが。
「そんなこと言ってられないか」
覚醒してから五分が経ち、矢吹はようやく体を起こしてベッドから台所に移動する。
その手にはタブレット端末が握られており、食事をしながら攻略サイトを確認するつもりだ。
お湯を沸かしながら戸棚を開け、昨日とは味違いのカップ麺を取り出す。
自炊もしなければと思いつつ、どうしても楽な方向に進んでしまうのは矢吹の悪いところだ。
アレッサにログアウトをしたくない理由を聞かなかったのもその性格が起因している。
ただ今回は自分が関わっている案件になるのでどうしても調べずにはいられなかった。
お湯が沸き、カップ麺に注いで蓋をするとテーブルに移動する。
湯で時間を待っている間にタブレット端末から天上のラストルーム攻略サイトを開いた。
「ワード検索っと……うーん、やっぱり該当なしか」
矢吹は『特殊能力』というワードがページ内に存在しているかを検索してみたのだが該当は出てこない。
ワードに引っかかりそうな固有能力や職業ページでも同じことを繰り返したのだが、それでも『特殊能力』というワードが該当することはなかった。
「……おっと、三分経ったか」
攻略サイトのページ数は多い。
まだまだ確認できていないページの方が多いのだが、まずは腹ごしらえが大事だと判断した矢吹はタブレットをテーブルに置いて食事を始める。
ある程度お腹が満たされたところで、行儀は悪いが食事を続けながらタブレット端末を操作することにした。
時間は有限である。今の時刻は一二時三〇分であり、二人との待ち合わせ時間が迫っていたのだ。
右手で箸を扱い、左手でタブレット端末を操作する。
スープがはねないよう注意しながらワード検索を繰り返していく。
「……んぐ、出てこない」
麺を飲み込みながらアーカイブ情報のページや装備のページ、果てには階層の攻略ページにまで手を伸ばしていく。
「……そりゃないよな」
時間が過ぎるのは早いもので、気づけば一三時まで残り五分に迫っていた。
カップ麺はすでに食べきっている。湯を捨てて空箱を洗ってからゴミ箱に捨てる。
タブレット端末を片手に部屋に戻り机の置いてからベッドに横になる。
HSを装着して起動した矢吹は、再びアルストになって天上のラストルームへログインした。
10
あなたにおすすめの小説
癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。
branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位>
<カクヨム週間総合ランキング最高3位>
<小説家になろうVRゲーム日間・週間1位>
現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。
目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。
モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。
ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。
テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。
そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が――
「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!?
癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中!
本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ!
▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。
▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕!
カクヨムで先行配信してます!
俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件
夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。
周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。
結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。
ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー
びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。
理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。
今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。
ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』
計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る!
この物語はフィクションです。
※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。
【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
───────
自筆です。
アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜
きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。
遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。
作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓――
今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!?
ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。
癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!
【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
────────
自筆です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる