天上のラストルーム ~最弱固有能力でのんびりと無双します~

渡琉兎

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第一章:天上のラストルーム

第45話:秘境

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 入口はボスフロアに入って左側の壁、二階層に続く階段へ繋がる通路の近くに隠されていた。
 遠目から見ただけでは絶対に分からないようにカモフラージュされており、壁に手を付きながらでないと発見はできないだろう。
 入口が常時あるのか、イベント受注中にしか現れないのかは定かではないが、秘境に辿り着ければその答えも見つかるかもしれない。
 三人は顔を見合わせて大きく頷くと、入口へと入っていった。

 中の通路は薄暗く視界は悪い。
 暗闇を予想していたアルストだったが、微かな光源が存在していた。

「壁に付いてるこれが光ってるみたいですね」
「これは、苔か何かでしょうか」
光苔ひかりごけといったところか」

 足下に近い壁には光苔が大量に付いており、それが微かな光源となり進むべき道を照らしてくれている。
 この先にあるのが本当に秘境なのか一抹の不安はあるものの、道がここしかないので進むしかない。
 三人はそれぞれに武器を手にしたまま、薄暗い通路を進んでいく。

 五分ほど歩いただろうか、長く続いた何も変わらない風景の変化に気づいたのはアレッサだった。

「……あれ? アルストさん、先の方を見てください!」
「あれは……ひ、光ですね!」
「おぉ! ついに外に出られるのか!」
「エレナさん、落ち着いてください! まだ秘境に到着するのか分かりませんから、臨戦態勢のままでお願いします」

 アルストが注意を促して慎重に光が見えた通路の先へと進んでいく。
 曲がり角までやって来た三人は顔だけを出して光の方へ目を向ける。
 そして確信を得た――ここが秘境なのだと。

「……な、なんだ、あれは?」
「……ものすごく、綺麗ですね」
「……は、早く行こう!」
「あっ! ちょっとエレナさん!」

 駆け出したエレナを追い掛けてアルストとアレッサも駆け出す。
 何が起こるか分からないというのは継続中なので警戒してほしかったのだが、アルストの心配は杞憂だった。

 目の前に広がるは緑豊かな大自然。
 空からは木漏れ日が射し込み暖かくも涼やかでとても居心地が良い。
 アーカイブにいる時には聞いたことのなかった鳥のさえずりまで聞こえてくる。
 ここは何処なのか、本当に天上のラストルームの中なのか。そんな錯覚を覚えてしまいそうなほどにリアルな大自然だった。

「……ここは、いったい?」

 何のために創られた場所なのか、そんなことを考えていると森の奥から一匹の何かが姿を現した。
 何か、と呼称したのには訳がある。
 仮に何かがモンスターならば頭上に名前とHPヒットポイントが表示されるのだがそれがない。
 そして、単純に森に暮らす獣と捉えるにはあまりにも見た目が異なっていた。
 体毛は漆黒。瞳は四つ。額からは雄々しい角が一本、枝分かれしながら生えている。
 大地を踏みしめる四肢はアルストが対峙したダーランダーよりも太く逞しい。
 この何かを見れば、やはりここは天上のラストルームの世界なのだと勝手に安堵していた。

『……クエストクリアおめでとう』
「喋った!」

 突然喋りだした何かにエレナが驚きの声を上げるのとともに後退り。
 代わりにアルストがアルスター3を握りながら前に出る。

「あなたは、何なんですか?」
『我はこの秘境の主、名はルシフル』
「……ルシフル」
『改めて言おう。クエストクリアおめでとう。そして、ありがとう』

 ルシフルは賛辞を送ると、四肢を折り曲げて頭を下げるような仕草を見せた。

「あの、クエストクリアが何故ルシフルのお礼につながるんですか?」

 当然の疑問にルシフルは顔を上げて答える。

『後光神アシュラは、秘境を訪れようとする異界の人間を排除していた。我はそれを望まぬ』
「異界の人間? それは俺達のことですか?」
『その通りだ』

 これは天上のラストルームにおける設定の何かなのだろうとアルストは理解した。
 ルシフルにとってこの世界に暮らすNPCは普通の人間、プレイヤーは異界の人間なのだと。

「……もしかして、あのクエストはルシフルが?」

 まさか、という表情でアルストを見ている二人だったが、ルシフルは表情を緩めて小さく頷いた。

『これで我は異界の人間にこれを託すことができる』

 そう言って差し出されたのは三つの卵だった。
 一つは金色、一つは緑色、一つは赤色をしている。
 三つの卵は突然浮かび上がると、三人に向かって飛んでいく。
 金色の卵はアルストに。
 緑色の卵はアレッサに。
 赤色の卵はエレナに。
 手を差し出して卵を受け取ると光の粒子となり消えてしまう。直後に電子音が聞こえてきた。

『イベントアイテム【神獣しんじゅうの卵】を獲得しました。アイテムボックスをご確認下さい』

 三人が顔を見合わせていると、ルシフルが再び口を開く。

『その卵は異界の人間を助けるであろう。大事に持っておくのだぞ』
「あの、ルシフル。これはいったい――」
『どうやら時間がきたようだ』
「えっ?」

 ゆっくりと立ち上がったルシフルは、慈愛に満ちた四つ目で三人を見つめる。

『機会があれば、また会いたいものだな』
「待ってください、まだ聞きたいことが――」
『さらばだ、異界の人間達よ』

 そう口にしたルシフルは背を向けて歩き出してしまう。一度もアルスト達を振り返ることなく、その姿を森の中に消してしまった。
 直後には美しい風景がグニャリと歪みを見せたかと思えば、一瞬でアシュラと戦っていたボスフロアへと移動していた。
 入口があった壁に手を付いてみたが、そこは普通の壁に戻っている。
 何が起こったのか何一つとして理解できないまま、レアクエストは完了を迎えたのだった。
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