天上のラストルーム ~最弱固有能力でのんびりと無双します~

渡琉兎

文字の大きさ
56 / 62
第一章:天上のラストルーム

第56話:ミニマムキャット討伐⑦

しおりを挟む
 イベント最終日は日曜日である。
 火曜日の一二時から始まったイベントは、リアルでも休日となる本日が一番参加者が多い日になった。
 参加者のほとんどがログインしており、イベントが終了するまではバベル攻略に向かえないのでイベント専用マップに移動するほかない。
 結果、アルスト達のマップにも多くのプレイヤーが溢れており誰もいない場所がないのではないかと思ってしまう程だ。
 昨日までは誰もいない場所を狙って移動していた三人は、どこに向かうべきか思案していた。

「東西南北、どこもかしこもプレイヤーだらけだな」
「こ、これではミニマムキャット争いではないか!」
「私達には不利な状況ですね」

 最終日を迎えた時点で、アルスト達のレベルも上がっているものの、やはり実力不足は否めない。
 アルストが22、アレッサが18、エレナが19なのだが、どうしても初期職ということもあり発展職や複合職には及ばないのだ。
 アレッサの言う通り、アルスト達はマップに移動してから一匹もミニマムキャットを討伐できていない。
 見つけてもすぐに近くのプレイヤーがあり得ない速度で追い越していき討伐されてしまい、そしてそのまま離れてしまう。
 同じことの繰り返しで八時からログインしている三人は、一二時の更新までに合計で二四匹しか討伐できなかった。

「ラ、ランキングが下がってしまった!」
「まあ、この状況だと仕方ないですね」
「パーティランキングも10000位を切ってしまいました」

 アルストが1749位、エレナが9870位、アレッサが23085位。パーティでは11409位まで下がってしまった。

「こうなったらアルストさんとエレナちゃんだけでも上に……」
「それはやらない約束ですよね、アレッサさん」
「そうだぞアレッサ。楽しもうじゃないか!」
「……はい」

 そう口にしたはいいものの、実際に今の状況で打開策など見いだせるわけがない。楽しむにしてもミニマムキャットを討伐できなければ楽しめないのだ。
 そんな気持ちのまま時間だけが過ぎていき、気づけば一五時に差し掛かろうとしていた――その時である。

「運営から、メール?」

 それはイベントに参加している全てのプレイヤーに送られたメールだった。
 中身を確認したアルストは困惑を見せていた。

「一五時からイベントボスモンスターが登場。エンカウントした時点で専用マップに強制移動となり、見事討伐できたプレイヤーまたはパーティはミニマムキャット出現率大幅補正の特別マップにご招待。……って、なんだこりゃ?」

 アルスト達は知らなかったが、イベントの最終日には今回のようなイベントを盛り上げる企画が行われることは多くある。
 困惑顔のアルストとは異なり、他のプレイヤーは早く一五時にならないかとそわそわしていた。

「……これに賭けるしかありませんね」
「どういうことだ?」
「もしイベントボスモンスターとエンカウントできれば専用マップに強制移動と書いてあります」
「……なるほど! 強制移動できたなら他のプレイヤーと争う必要がなくなるということですね!」
「そういうことです。俺達はミニマムキャットを見つけても他のプレイヤーに横取りされてしまいます。上位を目指すなら、ボスモンスターを探す以外に道はないと思います」

 断言するアルストに対して二人も大きく頷く。

「他のプレイヤーも積極的にボスモンスターを探すはずです。それに負けないよう、俺達も走り回りましょう」

 立ち上がったアルストに続いて二人も立ち上がる。
 他のプレイヤーに目を向けると一部は目の前のミニマムキャットに気を取られて攻撃しているものの、ほとんどが一五時を待って駆け出す準備をしている。

「……二人とも、何があってもすぐについて来てくださいね?」
「アルストさん、それはどういう――」

 アレッサの言葉半ばで――メニュー画面のデジタル時計が一五時を示した。

『――グルオオオオォォッ!』

 突如として現れた数多のモンスターに、多くのプレイヤーがたじろいだ。

「な、なんだこりゃ!」
「おいおい、イベントボスモンスターが登場するだけじゃねえのかよ!」
「こんなこと、書かれてないじゃないのよ!」

 混乱に陥るプレイヤー達。
 アルスト達も動揺はしていたが、他のプレイヤーよりは早く立ち直ることができた。
 それは最後に伝えられたアルストの言葉によるところが大きい。
 先に駆け出していたアルストに追いついた二人は大声で問い掛ける。

「アルスト! こうなることが分かっていたのか!」
「分かりませんよ! ただ、何か起こるんじゃないかとは予想していました!」
「どうしてですか!」

 迫りくるモンスターの相手をしている暇はないと最低限の受けだけで切り抜けてそのまま駆けていく。
 周囲では戦闘音が鳴り響いており、大声でなければ会話が成立しなかった。

「プレイヤーにプラスの内容だけではバランスが悪いですから! だからマイナスの要素も加わると思ったんです! こんなにモンスターが現れるとは思いませんでしたけど!」

 進路を妨害する形で現れた三匹のモンスターにはアレッサがフレイルを放ち怯ませると、アルストとエレナが飛び掛かり一撃で光の粒子に変えてから再び駆け出す。

「しかし、こんな中でボスモンスターを探すとか、無理じゃないのか!」
「無理でもやらないといけないんですよ!」
「二人とも、喧嘩してる場合じゃな……あれ?」

 二人の仲裁に入ろうとしたアレッサだったが、視界の端に捉えた不思議なものに気を取られてしまい言葉が途切れてしまう。
 突然声が聞こえなくなったことに驚きエレナが慌てて振り返り、アルストも遅れて振り返った。

「アレッサ! どうした、何かあったのか?」
「いえ、その……あれはなんでしょう?」
「あれって……なんでしょうね」
「洞窟、みたいではないか?」

 アレッサの視線の先に二人も顔を向ける。
 六日間イベント専用マップに来てミニマムキャットを討伐してきたが、視線の先で見つけた洞窟は一度も目にしたことがなかった。

「きっとあれです! 急ぎましょう!」
「お、おい、アルスト!」
「エレナちゃん急いで! 他のプレイヤーに見つかったら追い越されちゃうわ!」

 幸いにも周囲に他のプレイヤーはいなかった。突如として現れたモンスターに混乱して対応に追われているのだ。
 それでも一人に見つかれば続けざまに見つかり競争の始まりである。
 今この時に洞窟へ飛び込まなければアルスト達がイベントボスモンスターとエンカウントすることは叶わないだろう。

「おい、あいつらおかしな行動をしてるぞ!」
「洞窟だ! 洞窟に向かえ!」

 離れてはいるが一番近くにいたプレイヤーに見つかってしまい声がマップ内にこだまする。
 始まってしまった競争。一気に間合いが狭まり、遅れて駆け出したアレッサとエレナはすぐに追い抜かれてしまう。
 一番近くにいたプレイヤーがアルストを追い越そうとしたその時だった。

「――アスリート!」

 走りながら脚当を変更していたアルストがアスリーライドの特殊効果を発動。
 追い越そうとしていたプレイヤーを一瞬で置き去りにすると、誰よりも早く洞窟に飛び込んだ。
 そして――アルストだけではなく、追い抜かれて最後尾にいたアレッサとエレナの姿もイベント専用マップから消えていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。 周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。 結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。

ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。 理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。 今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。 ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』 計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る! この物語はフィクションです。 ※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

処理中です...