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第一章:天上のラストルーム
第56話:ミニマムキャット討伐⑦
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イベント最終日は日曜日である。
火曜日の一二時から始まったイベントは、リアルでも休日となる本日が一番参加者が多い日になった。
参加者のほとんどがログインしており、イベントが終了するまではバベル攻略に向かえないのでイベント専用マップに移動するほかない。
結果、アルスト達のマップにも多くのプレイヤーが溢れており誰もいない場所がないのではないかと思ってしまう程だ。
昨日までは誰もいない場所を狙って移動していた三人は、どこに向かうべきか思案していた。
「東西南北、どこもかしこもプレイヤーだらけだな」
「こ、これではミニマムキャット争いではないか!」
「私達には不利な状況ですね」
最終日を迎えた時点で、アルスト達のレベルも上がっているものの、やはり実力不足は否めない。
アルストが22、アレッサが18、エレナが19なのだが、どうしても初期職ということもあり発展職や複合職には及ばないのだ。
アレッサの言う通り、アルスト達はマップに移動してから一匹もミニマムキャットを討伐できていない。
見つけてもすぐに近くのプレイヤーがあり得ない速度で追い越していき討伐されてしまい、そしてそのまま離れてしまう。
同じことの繰り返しで八時からログインしている三人は、一二時の更新までに合計で二四匹しか討伐できなかった。
「ラ、ランキングが下がってしまった!」
「まあ、この状況だと仕方ないですね」
「パーティランキングも10000位を切ってしまいました」
アルストが1749位、エレナが9870位、アレッサが23085位。パーティでは11409位まで下がってしまった。
「こうなったらアルストさんとエレナちゃんだけでも上に……」
「それはやらない約束ですよね、アレッサさん」
「そうだぞアレッサ。楽しもうじゃないか!」
「……はい」
そう口にしたはいいものの、実際に今の状況で打開策など見いだせるわけがない。楽しむにしてもミニマムキャットを討伐できなければ楽しめないのだ。
そんな気持ちのまま時間だけが過ぎていき、気づけば一五時に差し掛かろうとしていた――その時である。
「運営から、メール?」
それはイベントに参加している全てのプレイヤーに送られたメールだった。
中身を確認したアルストは困惑を見せていた。
「一五時からイベントボスモンスターが登場。エンカウントした時点で専用マップに強制移動となり、見事討伐できたプレイヤーまたはパーティはミニマムキャット出現率大幅補正の特別マップにご招待。……って、なんだこりゃ?」
アルスト達は知らなかったが、イベントの最終日には今回のようなイベントを盛り上げる企画が行われることは多くある。
困惑顔のアルストとは異なり、他のプレイヤーは早く一五時にならないかとそわそわしていた。
「……これに賭けるしかありませんね」
「どういうことだ?」
「もしイベントボスモンスターとエンカウントできれば専用マップに強制移動と書いてあります」
「……なるほど! 強制移動できたなら他のプレイヤーと争う必要がなくなるということですね!」
「そういうことです。俺達はミニマムキャットを見つけても他のプレイヤーに横取りされてしまいます。上位を目指すなら、ボスモンスターを探す以外に道はないと思います」
断言するアルストに対して二人も大きく頷く。
「他のプレイヤーも積極的にボスモンスターを探すはずです。それに負けないよう、俺達も走り回りましょう」
立ち上がったアルストに続いて二人も立ち上がる。
他のプレイヤーに目を向けると一部は目の前のミニマムキャットに気を取られて攻撃しているものの、ほとんどが一五時を待って駆け出す準備をしている。
「……二人とも、何があってもすぐについて来てくださいね?」
「アルストさん、それはどういう――」
アレッサの言葉半ばで――メニュー画面のデジタル時計が一五時を示した。
『――グルオオオオォォッ!』
突如として現れた数多のモンスターに、多くのプレイヤーがたじろいだ。
「な、なんだこりゃ!」
「おいおい、イベントボスモンスターが登場するだけじゃねえのかよ!」
「こんなこと、書かれてないじゃないのよ!」
混乱に陥るプレイヤー達。
アルスト達も動揺はしていたが、他のプレイヤーよりは早く立ち直ることができた。
それは最後に伝えられたアルストの言葉によるところが大きい。
先に駆け出していたアルストに追いついた二人は大声で問い掛ける。
「アルスト! こうなることが分かっていたのか!」
「分かりませんよ! ただ、何か起こるんじゃないかとは予想していました!」
「どうしてですか!」
迫りくるモンスターの相手をしている暇はないと最低限の受けだけで切り抜けてそのまま駆けていく。
周囲では戦闘音が鳴り響いており、大声でなければ会話が成立しなかった。
「プレイヤーにプラスの内容だけではバランスが悪いですから! だからマイナスの要素も加わると思ったんです! こんなにモンスターが現れるとは思いませんでしたけど!」
進路を妨害する形で現れた三匹のモンスターにはアレッサがフレイルを放ち怯ませると、アルストとエレナが飛び掛かり一撃で光の粒子に変えてから再び駆け出す。
「しかし、こんな中でボスモンスターを探すとか、無理じゃないのか!」
「無理でもやらないといけないんですよ!」
「二人とも、喧嘩してる場合じゃな……あれ?」
二人の仲裁に入ろうとしたアレッサだったが、視界の端に捉えた不思議なものに気を取られてしまい言葉が途切れてしまう。
突然声が聞こえなくなったことに驚きエレナが慌てて振り返り、アルストも遅れて振り返った。
「アレッサ! どうした、何かあったのか?」
「いえ、その……あれはなんでしょう?」
「あれって……なんでしょうね」
「洞窟、みたいではないか?」
アレッサの視線の先に二人も顔を向ける。
六日間イベント専用マップに来てミニマムキャットを討伐してきたが、視線の先で見つけた洞窟は一度も目にしたことがなかった。
「きっとあれです! 急ぎましょう!」
「お、おい、アルスト!」
「エレナちゃん急いで! 他のプレイヤーに見つかったら追い越されちゃうわ!」
幸いにも周囲に他のプレイヤーはいなかった。突如として現れたモンスターに混乱して対応に追われているのだ。
それでも一人に見つかれば続けざまに見つかり競争の始まりである。
今この時に洞窟へ飛び込まなければアルスト達がイベントボスモンスターとエンカウントすることは叶わないだろう。
「おい、あいつらおかしな行動をしてるぞ!」
「洞窟だ! 洞窟に向かえ!」
離れてはいるが一番近くにいたプレイヤーに見つかってしまい声がマップ内にこだまする。
始まってしまった競争。一気に間合いが狭まり、遅れて駆け出したアレッサとエレナはすぐに追い抜かれてしまう。
一番近くにいたプレイヤーがアルストを追い越そうとしたその時だった。
「――アスリート!」
走りながら脚当を変更していたアルストがアスリーライドの特殊効果を発動。
追い越そうとしていたプレイヤーを一瞬で置き去りにすると、誰よりも早く洞窟に飛び込んだ。
そして――アルストだけではなく、追い抜かれて最後尾にいたアレッサとエレナの姿もイベント専用マップから消えていた。
火曜日の一二時から始まったイベントは、リアルでも休日となる本日が一番参加者が多い日になった。
参加者のほとんどがログインしており、イベントが終了するまではバベル攻略に向かえないのでイベント専用マップに移動するほかない。
結果、アルスト達のマップにも多くのプレイヤーが溢れており誰もいない場所がないのではないかと思ってしまう程だ。
昨日までは誰もいない場所を狙って移動していた三人は、どこに向かうべきか思案していた。
「東西南北、どこもかしこもプレイヤーだらけだな」
「こ、これではミニマムキャット争いではないか!」
「私達には不利な状況ですね」
最終日を迎えた時点で、アルスト達のレベルも上がっているものの、やはり実力不足は否めない。
アルストが22、アレッサが18、エレナが19なのだが、どうしても初期職ということもあり発展職や複合職には及ばないのだ。
アレッサの言う通り、アルスト達はマップに移動してから一匹もミニマムキャットを討伐できていない。
見つけてもすぐに近くのプレイヤーがあり得ない速度で追い越していき討伐されてしまい、そしてそのまま離れてしまう。
同じことの繰り返しで八時からログインしている三人は、一二時の更新までに合計で二四匹しか討伐できなかった。
「ラ、ランキングが下がってしまった!」
「まあ、この状況だと仕方ないですね」
「パーティランキングも10000位を切ってしまいました」
アルストが1749位、エレナが9870位、アレッサが23085位。パーティでは11409位まで下がってしまった。
「こうなったらアルストさんとエレナちゃんだけでも上に……」
「それはやらない約束ですよね、アレッサさん」
「そうだぞアレッサ。楽しもうじゃないか!」
「……はい」
そう口にしたはいいものの、実際に今の状況で打開策など見いだせるわけがない。楽しむにしてもミニマムキャットを討伐できなければ楽しめないのだ。
そんな気持ちのまま時間だけが過ぎていき、気づけば一五時に差し掛かろうとしていた――その時である。
「運営から、メール?」
それはイベントに参加している全てのプレイヤーに送られたメールだった。
中身を確認したアルストは困惑を見せていた。
「一五時からイベントボスモンスターが登場。エンカウントした時点で専用マップに強制移動となり、見事討伐できたプレイヤーまたはパーティはミニマムキャット出現率大幅補正の特別マップにご招待。……って、なんだこりゃ?」
アルスト達は知らなかったが、イベントの最終日には今回のようなイベントを盛り上げる企画が行われることは多くある。
困惑顔のアルストとは異なり、他のプレイヤーは早く一五時にならないかとそわそわしていた。
「……これに賭けるしかありませんね」
「どういうことだ?」
「もしイベントボスモンスターとエンカウントできれば専用マップに強制移動と書いてあります」
「……なるほど! 強制移動できたなら他のプレイヤーと争う必要がなくなるということですね!」
「そういうことです。俺達はミニマムキャットを見つけても他のプレイヤーに横取りされてしまいます。上位を目指すなら、ボスモンスターを探す以外に道はないと思います」
断言するアルストに対して二人も大きく頷く。
「他のプレイヤーも積極的にボスモンスターを探すはずです。それに負けないよう、俺達も走り回りましょう」
立ち上がったアルストに続いて二人も立ち上がる。
他のプレイヤーに目を向けると一部は目の前のミニマムキャットに気を取られて攻撃しているものの、ほとんどが一五時を待って駆け出す準備をしている。
「……二人とも、何があってもすぐについて来てくださいね?」
「アルストさん、それはどういう――」
アレッサの言葉半ばで――メニュー画面のデジタル時計が一五時を示した。
『――グルオオオオォォッ!』
突如として現れた数多のモンスターに、多くのプレイヤーがたじろいだ。
「な、なんだこりゃ!」
「おいおい、イベントボスモンスターが登場するだけじゃねえのかよ!」
「こんなこと、書かれてないじゃないのよ!」
混乱に陥るプレイヤー達。
アルスト達も動揺はしていたが、他のプレイヤーよりは早く立ち直ることができた。
それは最後に伝えられたアルストの言葉によるところが大きい。
先に駆け出していたアルストに追いついた二人は大声で問い掛ける。
「アルスト! こうなることが分かっていたのか!」
「分かりませんよ! ただ、何か起こるんじゃないかとは予想していました!」
「どうしてですか!」
迫りくるモンスターの相手をしている暇はないと最低限の受けだけで切り抜けてそのまま駆けていく。
周囲では戦闘音が鳴り響いており、大声でなければ会話が成立しなかった。
「プレイヤーにプラスの内容だけではバランスが悪いですから! だからマイナスの要素も加わると思ったんです! こんなにモンスターが現れるとは思いませんでしたけど!」
進路を妨害する形で現れた三匹のモンスターにはアレッサがフレイルを放ち怯ませると、アルストとエレナが飛び掛かり一撃で光の粒子に変えてから再び駆け出す。
「しかし、こんな中でボスモンスターを探すとか、無理じゃないのか!」
「無理でもやらないといけないんですよ!」
「二人とも、喧嘩してる場合じゃな……あれ?」
二人の仲裁に入ろうとしたアレッサだったが、視界の端に捉えた不思議なものに気を取られてしまい言葉が途切れてしまう。
突然声が聞こえなくなったことに驚きエレナが慌てて振り返り、アルストも遅れて振り返った。
「アレッサ! どうした、何かあったのか?」
「いえ、その……あれはなんでしょう?」
「あれって……なんでしょうね」
「洞窟、みたいではないか?」
アレッサの視線の先に二人も顔を向ける。
六日間イベント専用マップに来てミニマムキャットを討伐してきたが、視線の先で見つけた洞窟は一度も目にしたことがなかった。
「きっとあれです! 急ぎましょう!」
「お、おい、アルスト!」
「エレナちゃん急いで! 他のプレイヤーに見つかったら追い越されちゃうわ!」
幸いにも周囲に他のプレイヤーはいなかった。突如として現れたモンスターに混乱して対応に追われているのだ。
それでも一人に見つかれば続けざまに見つかり競争の始まりである。
今この時に洞窟へ飛び込まなければアルスト達がイベントボスモンスターとエンカウントすることは叶わないだろう。
「おい、あいつらおかしな行動をしてるぞ!」
「洞窟だ! 洞窟に向かえ!」
離れてはいるが一番近くにいたプレイヤーに見つかってしまい声がマップ内にこだまする。
始まってしまった競争。一気に間合いが狭まり、遅れて駆け出したアレッサとエレナはすぐに追い抜かれてしまう。
一番近くにいたプレイヤーがアルストを追い越そうとしたその時だった。
「――アスリート!」
走りながら脚当を変更していたアルストがアスリーライドの特殊効果を発動。
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