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最強剣士

心の属性

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 エミリアが鞄から出してきたのは魔法適正を確認したときと同じ布だが、描かれている魔法陣は異なっている。

「この魔法陣は、アル君の得手不得手な属性を見極めることができるものです」
「適正を持っているのに、得手不得手があるんですか?」

 適正があるということは、その属性が使いこなせる、ということだと考えていたアルは疑問を口にする。

「人それぞれには心の属性、というものがございます。これは生まれた時からの素質のようなもので、心の属性と同じ属性は早くから使いこなせるようになるのですよ」
「心の属性と同じ属性に適正がない場合もあるんですか?」
「ありません。適正が一つしか出ない人の場合、心の属性は必ず適正の属性でしたからね。まあ、アル君の場合は全属性持ちですから関係ありませんけど」

 うふふ、と笑いながらエミリアは魔法陣の使い方を教えていく。

「前回は私が詠唱句を口にしましたが、今回はアル君にお願いしましょうか」
「お、俺がですか?」
「両手を魔法陣の上に置き、ここに書かれている詠唱句を読んでください」
「わ、分かりました」

 両手が塞がってしまったアルの目の前に、エミリアが詠唱句が書かれた紙を広げてくれた。

「……わ、我は心に問い掛けよう。心の属性が何であるかを。我は心に問い掛けよう。心の属性を知るために。我の願いを聞き届け給え」

 詠唱句を読み終わると、魔法陣から七色の淡い光が溢れ出す。
 ここまでは魔法適正を確認した時と同じ。
 次に何が起こるのかをドキドキしながら見ているアル。
 ところが、ここから何が起こるでもなくスーっと光は消えてしまう。
 何が起こったのか分からなかったアルはエミリアに視線を向けたのだが、エミリアは何度も瞬きを繰り返しながら光が消えた魔法陣を見つめていた。

「……あの、エミリア先生?」
「……」
「……せんせーい」
「はっ! ……す、すみません、少し驚いていました」
「えっと、今のは何だったんですか?」

 アルの質問にエミリアは顎に手を当てて考え込んでしまう。

「……どうやらアル君の心の属性は、七属性全てのようですね」
「へっ? そんなこともあるんですか?」
「……ありません。ですが今、目の前でその事実が覆されてしまいました」
「……それってつまり、どういうことですか?」

 何やら嫌なことが起こっているのではと思ったアルは、再度エミリアに確認を行う。

「……本来ならば心の属性は一つしか持てないはずなのですが、アル君の場合は全ての属性に反応が出たんですよ」
「魔法陣に間違いがあったとかでは?」
「それはないと思うのですが……ね、念のためにもう一度、別の布でお願いできますか?」
「分かりました」

 元の布を鞄に入れて別の布を取り出すと、すぐに机の上に広げたエミリア。
 アルは先ほどと同じように両手を置いて詠唱句を口にする。
 先ほどの魔法陣に間違いがあったなら、今回は違う結果が出るはずなのだが、アルの目からは全く同じ現象が確認された。

「……エミリア先生、何か変わってますか?」
「……いえ、全く同じ結果になりましたね」

 お互いに顔を見合わせると、こてんと首を横に倒してしまう。
 アルとしてはエミリアが分からないことを自分が分かるはずもないと思っているのでどうしようもない。
 そうなれば、先に進むことだけを考えるべきだろう。

「まあ、七属性全てが心の属性だというなら、全てをまんべんなく勉強したらいいと言うことですね」
「ま、前向きなのですね」
「俺のやることは変わりませんから」

 日中は魔法を学び、夜は剣術を学ぶ。
 魔法を学び終わらなければ剣術に重きを置くことができないのだから当然だ。
 今はまだ隠れてのものだが、それでも剣に触れることができるなら問題はない。

「うーん、そうなりますと勉強する属性が七倍になりますから相当時間をいただくことになりますがよろしいですか? まあ、アル君の場合はすぐに終わらせてしまいそうですけどね」
「あはは、そうなるように頑張ります」
「でしたら、早速始めましょうか」

 そして、アルとエミリアの魔法授業が始まった。
 全ての属性を一つずつ学ぶことで、エミリアが言った通りに時間はどうしても掛かってしまう。
 だが、こちらもエミリアの予想通りにアルはことごとく課題を終わらせていく。
 口にしたものの、実際にアルの魔法技術を目の当たりにしてしまうとさすがのエミリアでも呆れ顔である。
 予定では今日一日、一属性の魔法操作向上に充てることになるだろうと読んでいたエミリアだが、まさか七属性全てを終わらせてしまうとは思ってもいなかったのだ。

「……これでは、明日から何を教えたらいいのか」
「えっと、その、すみません」
「いえ、優秀なことは良いことですから」

 そう口にしているものの、その表情は苦笑している。
 アルはどうしてこうなったのか、少しだけヴァリアンテを恨むのだった。
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