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最強剣士

場所を変えて

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 目を覚ましたリリーナはとても申し訳なさそうに何度も頭を下げてきた。
 アルもクルルも気にしていないと口にしたが、クルルだけは最終的にアルのせいなのだと笑って言っていた。

「だって、あんなことされたらねぇ?」
「あんなことってなんだ?」
「それは──」
「あぁー! クルル様、言わないでください!」
「ん、どういうことだ? なぜに言わない方がいいのだ?」
「アル様も聞かないでー!」

 顔を真っ赤にして叫んでいるリリーナを見て、アルは仕方なく追及の手を止めることにした。
 そのまま三人は救護室を後にしたのだが、すでに第五魔道場には多くの生徒が集まっており、ここでの訓練はこれ以上難しい。

「どうしましょう、クルル様」
「うーん、私の知る限りだと、ここ以外の場所は分からないなぁ」

 頭を捻っている二人のために、アルは一つの提案を口にした。

「許可を頂けるかは分からないが、うちの屋敷で訓練できるか聞いてみようか?」
「でも、いいのですか?」
「ノワール家の屋敷って、相当広いよね?」
「あくまでも許可を頂けたらの話だ。無理なら別の場所を探さないといけないからな」

 それでもいいと二人は何度も頷いている。

「とりあえず……行きたくはないが一度教室に戻ってスプラウスト先生に話を通しておくか」
「そっか、勝手に学園を抜けだしたら欠席扱いになるかもしれないしね」
「あの先生、本当に大丈夫なのかしら?」

 最後のクルルの言葉にはアルもリリーナも同意のようで、大きく頷いていた。

 教室に到着すると、そこにはペリナが一人でお茶を啜っていた。

「あら、アル君たちはもういいのですか?」
「いや、ここで何をしているんですか?」
「見ての通りですが?」
「……もういいです」

 ペリナの行いを指摘する行為自体が無駄だと判断したアルは、学園の外に出る許可を得るために事情を説明した。
 何かしら必要書類にサインでもあると思っていたのだが、その許可は簡単に下りてしまった。

「というか、授業は午前中で出席扱いになっているからそのまま帰宅してもいいわよー」

 そこまで言われてしまうと、さすがに三人とも大きな溜息をついてしまう。
 だが、好都合であることに変わりはなくそのまま学園を後にした。

 ※※※※

 屋敷に戻ったアルはチグサからレオンに話を通してもらおうと思ったのだが、あいにく政務のために外出中だった。
 しかし、変わりにラミアンに声を掛けたようで許可が出された。

「……あの、どうしてこうなったのですか?」
「……それはアルに聞いてよね」
「……俺も聞きたいくらいだがな。えっと、これはどういうことですか──母上?」

 裏庭に出ているアルたち。
 その監督役としてチグサ。
 だが、そこにはなぜだか満面の笑みを浮かべたラミアンの姿もあったのだ。

「うふふ、私のことは気にしなくていいのですよ?」
「いや、ものすごく気になってしまうのですが?」
「その、奥様、今回はアルお坊ちゃまのご意見が正しいかと」

 チグサからの助言もあったが、ラミアンは笑顔をそのままに動こうとしない。

「……はぁ。アルお坊ちゃま、仕方ありませんよ」
「ですがチグサさん。魔法の訓練は周囲に影響を及ぼす可能性も──」
「だからこそ、ですよ」
「……どういうことですか?」
「うふふ、後からのお楽しみよ」

 アルたちだけが顔を見合わせて首を傾げ、チグサの合図で裏庭での訓練が開始された。
 だが、今回はアル対リリーナとクルルという関係ではなく、チグサ対三人という関係だ。

「チグサさんは俺の師匠だから問題はないよ」
「そういうことでございます」

 心配そうにしていたリリーナとクルルにそう伝えると、すぐに納得してくれた。
 その理由を聞くと──

「だって、私たちはすでにアルに負けてるからね」
「うん。納得しない理由がないですよね」

 ということで、一対三で実戦形式の訓練が開始された。

「リリーナは右から、クルルは左から回り込め!」
「「はい!」」
「アルお坊ちゃまは正面ですか」
「ふんっ!」

 アルは正面から火、水、木、土属性の魔法を同時発動させて上下左右から攻撃を仕掛ける。
 リリーナとクルルは後方に回り木属性と火属性の魔法を放つ。
 前後、上下、左右からの同時攻撃。絶対不可避の連携攻撃。

「良い攻撃です──ですが」

 チグサは僅かな攻撃のずれを見逃さなかった。
 それは後方から仕掛けられた二つの魔法のずれ。
 あえて魔法へ迫るように後方へと飛び退き、紙一重でメガフレイムを回避する。
 そして、足元に迫っていたウッドロープを瞬歩にて回避するとリリーナ、そしてクルルの肩を軽く叩いてその場を離れた。

「「あっ!」」

 回避したメガフレイムはアルの魔法と衝突して空中で爆発を起こしたが、その熱風が壁際に立っていたラミアンに吹き荒れる。

「うふふ、マジックウォール」

 光属性の魔力障壁がラミアンの前に現れ、障壁はさらに裏庭全体を包み込んだ。
 熱風はラミアンだけではなく、屋敷全体を守り抜き被害は裏庭の地面が捲れ上がるだけに収まった。

「……こ、これが、ラミアン様の、魔法」
「……レベル5の、光属性」
「……なあ、言っておくが、俺たちは負けたんだぞ?」
「「……あっ」」
「お二人の連携は、もう少し鍛錬が必要なようですね」
「うふふ、頑張りなさいね」

 チグサの言葉にラミアンがエールを送り、そして二人は大きく肩を落とした。
 アルはというと、ラミアンのマジックウォールが全く無駄のない魔力操作で発動されたことに驚愕を覚えていた。
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