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最強剣士

最終確認

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 学園での訓練とノワール家の屋敷での訓練を繰り返していった三人は、パーティ訓練を翌日に控えたその日に最後の模擬戦へと挑むことになった。
 チグサ対三人という構図での模擬戦は、今のところ三人の全敗である。
 しかし、前回の模擬戦では後一歩のところまで追い詰めることができたのでなんとかして勝利を掴み取りたいところだ。

「──フラッシュ!」

 アルが正面から光により視界を奪うための光魔法を発動した。
 チグサは腕で光を遮りながら、残る二人の動きを注視する。
 リリーナがウッドロープを使っているのは今までと同じなのだが、そのタイミングが少し早まっている。
 そしてクルルはというと、リリーナと同じでウッドロープを発動していた。
 ただ、リリーナのレベル2とは違いクルルの木属性はレベル1。
 魔法発動の速度も、威力も、比べ物にならない。
 故に、最初に到達したリリーナの魔法を回避した後に難なくクルルの魔法も回避する。
 そこに迫ってきたのは、またしてもウッドロープだった。

「アルお坊ちゃまも?」

 何を企んでいるのか、チグサの思考がフル回転して三人の思惑を探ろうとする。
 アルの魔法操作は随一だが、それでもレベル1である。
 良くてレベル2相当の威力と精度になるのでリリーナと同等か、魔法操作が上手い分より高い精度で迫って来た。
 思惑に行きつく前に魔法がチグサの足元に迫って来たことでいったん思考を停止して回避に専念する。
 しかし、ここでさらなる魔法がチグサめがけて放たれていた。

「──アーススピア!」
「──フレイムダンス!」
「ここで、初めての魔法ですか!」

 リリーナのアーススピアは、地面から土の槍が突き出てくる土属性魔法。
 クルルのフレイムダンスは、メガフレイムよりも威力は落ちるが広範囲に炎を吐き出すことができる火属性魔法。
 タイミングもずれることなく、完璧な同時攻撃になっていた。

「──アクアボム!」

 さらに正面からアルの追撃が放たれる。
 水属性魔法の丸い水の玉を撃ち出すのだが、触れた対象に高圧力の水の散弾を超至近距離から放つ。
 回避したとしても、地面に触れればそこから散弾が広範囲に撃ち出されるので二段構えの攻撃魔法になっている。

「三方向からの同時攻撃。なるほど、訓練の成果が現れていますね。ですが──」

 ここでチグサは大きく跳躍。
 全ての魔法が先ほどまでチグサが立っていた場所でぶつかり合い、爆発を起こして砂煙が舞い上がる。
 目指すべき着地地点に降り立とうとしたチグサだったが、そこにはいつの間にかアルが待ち構えていた。

「いつの間に!」
「チェックメイト、ですね?」

 着地をしたチグサの目の前に広げられたアルの右手。
 そこには深紅に揺れる高火力の小さな炎が顕現していた。

「……お見事です」
「……わ、私たち、勝ったの?」
「……勝った、勝ったんですね、アル様!」
「あぁ。二人の努力のおかげだよ」
「「やったー!」」

 諸手を上げてハイタッチを交わすリリーナとクルル。
 アルは右手で顕現させていた炎を消すと、そのままチグサと握手を交わす。

「ありがとうございました、チグサさん」
「いえ、これもリリーナお嬢様とクルルお嬢様の努力の結果でございます」

 お互いに笑みを浮かべた後、アルは壁際で模擬戦を観戦していたエミリアのところへ向かう。

「お疲れさまでした、アル君」
「エミリア先生、今回は助かりました。本当にありがとうございました」
「構いませんよ。これもアル君の成績のためですもの」

 冗談混じりの言葉に、アルは苦笑いしながら握手を求める。
 その手を握り返したエミリアの表情も満足気だ。
 喜び合っていた二人もそれぞれを指導してくれた者のところに移動してきており、エミリアのところにはリリーナがやって来た。

「エ、エミリア先生! 今日まで本当にありがとうございました!」
「よく頑張りましたね、リリーナさん。これはあなたの努力の結果なのですから、胸を張ってダンジョンに挑んでくださいね」
「はい! アル様も本当にありがとうございます」
「私へのお礼は必要ありません。お礼は、パーティ訓練を無事に終えることができた時までお互いに取っておきましょう」
「はい!」

 これほど嬉しそうなリリーナは見たことがない。
 魔法操作が苦手だと自ら口にしていたので、上達できたことが相当嬉しかったのだろう。
 クルルに視線を向けてみると、あちらも興奮したようにチグサにお礼を口にしているので似たようなものだった。

「……そうだ、エミリア先生。聞いておきたいことがあるんですがいいでしょうか?」
「答えられることなら構いませんよ」

 アルが質問を口にしたタイミングでクルルとチグサもやって来た。
 同じ質問をチグサにもしようと思っていたアルは、好都合だと思いそのまま口を開く。

「俺は魔獣がどのような存在なのかを知りません。そいつがどれだけ驚異なのかも。なので、魔獣についてご教授いただければと思いまして」
「魔獣についてですか。構いませんが、一度移動いたしましょうか」
「あっ、だったら俺の部屋でも構いませんか?」
「私は構わないのですが……全員、入りますか?」

 エミリアの質問にアルは首を傾げつつも視線を周囲に向けてみる。
 すると、リリーナやクルルもとても聞きたそうな表情でアルのことを見つめていた。

「……入りませんね」
「アルお坊ちゃま。応接室をご利用されてはいかがでしょうか?」
「そうだな。話を付けてきてもらってもいいですか、チグサさん?」
「かしこまりました。少しだけ、お待ちください」

 そうしてチグサが裏庭を後にしてから数分後──ラミアンから許可が下りたことで五人はノワール家の屋敷の中へと移動した。
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