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代表選考会

模擬戦を終えて

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 尻もちをついていたキリアンへと駆け寄り手を差し出したアル。
 その手を握り笑みを浮かべながら立ち上がったキリアン。
 二人の間にはかつて感じたことのないほどに心地よい風が吹き抜けていく。

「本当に強くなったな、アル」
「これはキリアン兄上が俺の実力を知らなかったからです。研究されてしまえば結果は変わっていたでしょう」
「それを言うならアルもだろう。僕は学園を卒業してからも魔法の練習は毎日欠かさず行っていたし、実力は上がっているんだ。それでも勝てなかったってことは、そういうことだよ」

 アルの肩をポンと叩き、キリアンは頬を掻きながらレオンたちのところへと戻っていく。
 その背中を追い掛けてアルも駆け出すと、その場にいた全員が清々しいほどの笑みで迎えてくれた。

「キリアンもアルも随分と強くなったものだな」
「本当に、親としてとても嬉しく思いますよ」
「ったく、俺を簡単に追い抜いていくんだな、アルは」
「ガルボはアンナにも追い抜かれないよう精進しないとな」
「キリアンお兄様もアルお兄様、とても格好よかったです!」

 憎まれ口が出てくる中でも笑顔が絶えることはない。
 その様子を少し離れたところで見たいたアルに声を掛けたのはチグサとエミリアだった。

「アルお坊ちゃま、素晴らしい魔法剣技でした」
「本当に、私のことまで追い越していったんじゃないかしら」
「二人とも、俺をおだてても何も出てきませんよ」

 肩を竦めながらそう口にするアルだったが、チグサもエミリアも本心だと言って頷き合っている。

「近いうちに私もアル君と模擬戦をお願いしようかしら」
「エ、エミリア先生と模擬戦ですか? でも、エミリア先生の心の属性は金属性ですよね?」

 金属性は生産向きの属性と言われており戦闘には不向きとされている。
 商家出身のクルルが心の属性ではない金属性を学びたいと思っていたのもそういった一般論が一つの要因となっていた。

「でも、アル君だって金属性を戦闘に取り入れていたでしょう? 私には私なりの戦い方があるってことよ」
「……俺の知らない金属性の使い方があるってことですか?」
「模擬戦をする機会があれば教えてあげるわ」
「……チグサさんも俺に隠している戦術とか、あるんじゃないですか?」
「当然です。奥の奥の手はそう易々と披露できませんから。それに、私の場合は旦那様を守るのが仕事ですからね」

 アルに指導していたのはあくまでもレオンの指示があったからであり、本来の仕事はレオンを護衛することである。
 仕事に支障をきたす可能性があれば奥の奥の手を披露する場はそうそうやってこないだろう。

「これは、チグサさんに勝ち越せるようになっても油断はできませんね」
「精進することが一番重要ですからね、アルお坊ちゃま」
「肝に銘じておきます」

 チグサとエミリア、一筋縄ではいかない二人を目の前にしてアルは自分がまだまだなのだと律することにした。
 そして、模擬戦と実戦は違うのだということも理解している。
 この場ではキリアンに勝てたアルだったが、全ての状況を気にすることなく戦える状況となればまた話は変わってくるだろう。

 ──自分はまだまだ未熟だ。

 そう思うことで、今の自分を明日の自分が越えてくれる、その先もまた同じようにと思えてならない。

「アル! 久しぶりに一緒にお風呂に入ろう!」
「キリアン兄上、俺はこれから学園に向かわないと──」
「なーに、時間ならまだたっぷりあるじゃないか! ガルボも入るだろう?」
「お、俺は汚れてないんだが?」
「まあまあ。男兄弟、水入らずでいいじゃないか!」

 興奮しているのかキリアンは半ば無理やりにアルとガルボを引き連れてお風呂へと向かってしまった。

「まさか、本当にキリアンにまで勝ってしまうとはな」
「トーナメント戦になるということですが、アルの対戦相手は可哀想ですね」
「アルお兄様が一番強いに決まっているんだから!」
「同年代でアルお坊ちゃまに敵う者はそうそういないでしょうね」
「というか、現れないかもしれないわよ」

 アルがいなくなった裏庭でこのような会話がされているとは露知らず、アルは男兄弟と話に花を咲かせながら汗を流したのだった。
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