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代表選考会

閑話:ヴァリアンテ・トゥエル・フリエーラ⑤

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「──も、もももも、申し訳ございませええええんっ!」
『あなたという神は、なんということをしてくれたのですか!』

 ぐっすりと寝ている時、突然フローリアンテの声がしたかと思い目を覚ましたヴァリアンテは、反射的に謝罪の言葉を繰り返していた。

『全く、あなたのせいで地上世界から一つの都市が消えてしまうところだったのですよ!』
「……えっ?」
『気づいていなかったのですか!』
「も、申し訳ございませええええんっ!?」

 寝ている間に神力が漏れているとは露とも思っていなかったヴァリアンテは、謝りながらも首を傾げている。
 その様子も天界から見えているフローリアンテは震える声で懇々と説教していく。

『ダンジョンの時と同じことが、地上で起こったのですよ!』
「でも、ダンジョンでは魔獣が逃げていきませんでしたか?」
『強い個体はむしろ寄ってきて、神力を排除しようとするのですよ! あなた、分からなかったのですか! この、駄女神!』
「あっ! 酷いです、フローリアンテ様! 自覚はありますけど、はっきり言われると傷つきます!」
『自覚があるんかい!? だったらちゃんとしなさい!』

 ギャーギャーと喚いているが、この声は誰にも聞こえていない。
 ヴァリアンテが宿っている神像はアルの部屋に置かれており、誰もいない。
 誰かいたとしても人間には聞こえないものなので、どちらでも構わないのだが。

「……それで、本当に何が起きていたんですか?」
『……天界から、本当に追放してやろうかしら~?』
「も、申し訳ございませええええんっ!」

 これでは話が進まないと、フローリアンテは溜息をつきながら事のあらましを説明した。
 スタンピードが起こり、それが予想以上の速度で侵攻してきたこと。
 その原因が、ヴァリアンテから漏れ出ていた神力によるものだったこと。
 そして、スタンピードの大将首をアルベルトが単身で討伐したこと。

『アルベルト様がいなければ、ユージュラッドという都市は大きな被害に見舞われていたでしょう。もしかすると、本当に地図上から消えていたかもしれないのですよ?』
「……はい」
『もし、アルベルト様が不本意な死を遂げた場合、天界追放だけでは済まない可能性もあるのですから、そのつもりでいなさい!』
「……はい」
『……ヴァリアンテ、本当に分かっているのですか?』
「……はい」

 突然、素直に頷き始めたヴァリアンテを見て言い過ぎたかと思ったフローリアンテ。
 下を向いているため表情を窺うことはできないが、少しくらいは優しい言葉を掛けてもいいかと思い始めた。

『……まあ、ヴァリアンテもあなたなりに頑張っているのでしょう』
「……はい」
『その頑張りに免じて、今回は──』
「……はい」
『いえ、まだ話の途中──』
「……ふぁい」

 しかし、返事が曖昧になってきたところでフローリアンテの口が閉ざされる。

「……ふぁぁぃ」
『……駄女神ぃ、寝てんじゃねえぞおおおおコラアアアアァァッ!!』
「ふぎゃんっ!? ……ね、寝てません、よ?」
『マジで追放してやろうか、てめえこの野郎! こっちが心配して声を掛けてやったのに、話の途中で寝るとか、調子乗ってんじゃねえだろうなあ!!』
「も、申し訳ございません! 申し訳ございませんです!!」
『アルベルト様が死んだら、本当に天界へ戻ってこられないのですよ!』
「申し訳ございま……ん?」

 怒鳴られているヴァリアンテだが、ここでフローリアンテの言葉に一つの疑問を感じて首を傾げてしまう。
 その様子に再び怒声を響かせようとしたフローリアンテだったが、先に言葉を発したのはヴァリアンテの方だった。

「あの、フローリアンテ様?」
『……なんですか?』
「アルベルト様ではなく、アル様ですよ?」
『……はい?』
「だから、前世では確かにアルベルト様でしたが、今はアル・ノワール様ですから、アル様です」
『……今はそのようなことどうでも──』
「いいえ! アル様はアル様です! そこだけは、見守っている信仰神として見過ごせません!」

 先ほどまでの情けない姿から一変し、ヴァリアンテは部屋の天井を見上げながら決意に満ちた瞳ではっきりと口にする。
 何がそこまで言わせるのかフローリアンテには分からなかったが、今の姿を見ると言葉が続かなくなってしまった。

『……はぁ。そうですね、確かに今はアル様です。では、ヴァリアンテ。これからもしっかりとアル様を見守り、剣の道を究められるよう影から手助けしてあげなさい』
「分かりました! ……今度こそ、気をつけます」
『信じますよ、ヴァリアンテ・トゥエル・フローリアンテ』

 そして、フローリアンテの声は聞こえなくなった。

「……神力、マジで問題しか起こさねえな!」

 だが、全ての問題を神力に押し付けたヴァリアンテは、アルが戻ってくるまで一人でプンプンと怒っていたのだった。
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